〈後悔は、ない。〉
昨日アドリアナに教えてもらった道を思い出しながら、書庫に向かった。
方向音痴だったはずなのに、異様に記憶力が良くなってる気がする。
記憶力だけじゃないか、なんだっけ、空間認識能力?
それも高くなってるのかな。
あ、そうだ。
一日眠ったらすぐに慣れてしまったが、少し視線も高かった。
脳も含め、これって私の体じゃないっぽいね、声とか字とかに色が全然見えないし。
記憶はあるから、ちょっと考えれば字に関しては解るし、声も考えれば解ると思う。
じゃあ、私の元の体は、弥扇 神夜は死んじゃったのかな。
そうなのかな?
…後悔はあんまりないや。
だからこそ、王様に専念できるよね。
目を見開いて少し高い目線でドアを開けると、中には椅子に座って本を読むリンさんが居た。
…そういえば、リンさんにも命字があるのかな。
聞くのは失礼だよね。
命を教えるってよく解らないけど、感覚的には分かった気がする。
「こんにちは…。
入ってもいいですか?」
本を読んでいるリンさんに、私は控えめに聞いた。
リンさんは驚く様子もなくクスッと笑って、本を閉じた。
「もちろんですよ。
この国は、貴女の国なのですから。」
許可は必要なかったみたい。
また本を読み出したリンさんに、私は苦笑いをして、書庫のなかに入った。
昨日はしっかりとは見れていなかったけど、本当に色んな本がある。
ザッと見たが、一階の大半は魔法に関する本のようだ。
それも十分気になるが、今探しているのは魔法に関する本じゃない。
二階に上がってみると、私の知りたかった本があった。
音楽、美術、小説、そして、世界地図。
だけど、歴史の本だけはなかったので、とりあえず世界地図を見た。
まるで、作り物のようだ。
丸い円のような陸の真ん中に、ぽっかりと島があった。
国は七つ。
その国には、それぞれ一つずつ王がいる。
私は、この中の一つの国を納めてる。
(全っ然、実感わかないけど。)
この国の名前は聞いていなかったな…。
嫉妬が国とか言ってた…、けど、そんな国書いてない。
あ、違う。書いてある。
嫉妬が称号を持つ国、日凪国。
日を凪ぐ国?
まるで日本の敵だね。
島国か。日本と似てる。
同じく島国で、すぐ近く。
色欲が称号を持つ国、海船商国
その下の、島より少し大きい陸。
暴食が称号を持つ国、術漠軍国
その右側の大陸、南大陸。
強欲が称号を持つ国、大神農王国
同じく南大陸。
怠惰が称号を持つ国、自安部国
その上の北大陸。
傲慢が称号を持つ国、正義主連邦国
同じく北大陸。
憤怒が称号を持つ国、美飾帝国
真ん中の島については、明記なし。
世界地図と言うだけあって、書いてあるのは本当に、それぞれの国の地図だけ。
どのページを見てもすべて地図。
お陰で、この国が世界で二番目に小さい事も分かった。
ちなみに一番は色欲が国、海船商。
ずば抜けて小さい。
この国の半分くらいだ。
逆に一番大きいのは…強欲が国か、傲慢が国かな?
「大きさも大事だけど…
それより、歴史とか文化とか…」
本棚はとても高く私の3倍はあるだろう。
私の記憶が途切れる寸前に見た図書館のような所には遠く及ばないが…。
だが、この中に文化や歴史の本があるはずだ。
でも、30分しか時間ないし、そろそろ戻らなきゃ。
…そもそも、どこへ行ったら良いんだろう。
………どうしよう。
「おい、お前………」
「ひぃっ!?」
ここに居ないはずの声が聞こえたものだから、驚いて思いっきり本棚に頭をぶつけてしまった。
声がか細いもんだから、もしかして、幽霊。
ガタッ
…ガタ?
何の音かと上を見上げた瞬間、本が落ちるのが見えたと同時に、声の主が私に覆い被さった。
「った…」
「だ…大丈夫ですか!?
すいません!私の所為で!」
状況が一瞬掴めなかったが、この人が私を庇ってくれたようだ。
下を見ると、分厚そうな本が五、六冊落ちている。
「ほんっとうに、ごめんなさい!
え、えっと…冷やしますか!?」
打撲を受けた場合って、たぶん冷やした方が良いよね。
こ、氷…とか!
どこ行ったらあるんだろう…!!!
「大したことはない。」
太樹に思いっきり睨まれてしまった。
身長も、髪の色も瞳の色も違うから、赤の他人なのだろうが。
その顔と声は間違いなく太樹だ。
(ああああああ、どうしよう!
めちゃくちゃ怒ってる…!)
めっちゃ、恐い。睨まれてる。
目をそらして、手でガードしたい。
手は何とか我慢できたが、目はどうしてもそらしてしまった。
それでも、ずっと睨んでる気がするよ!
「タイキ。顔。」
「あ、すまん。」
いつの間にか上がっていたリンさんが、太樹をタイキと呼んで言った。
すると、やっとこさタイキから解放された。
睨みもなくなった。
「すいません…」
私は、リンさんに本を落としてしまったことや、騒いでしまったこと、もろもろ含めて謝った。
「いえ、良いんです。
貴女が困ってる姿も見れましたし。」
(…リン…さん……?)
なんか、凛ちゃんと同じ顔と声でそう言われると怖さ倍増だよ。
できれば、すぐに助けて欲しかったなぁ…。
「…で、こいつは?」
タイキは私を指差しながらメイに向かって言った。
指差されるのは不愉快だけど、さっき助けてもらったし。
「新王陛下」
「ふーん…。こいつがかぁ。
てめぇ!うろちょろすんじゃねぇ!!」
何故か解らないけど、突然怒られた。
ああ、やっぱり、怖い。恐い。
太樹はあんまり怖くないのに…。
屈強な体の青年に怒鳴られたら、そりゃ怖いに決まってるでしょう?!
「ごめんなさいぃぃい」
「え、あ、いや。」
私は頭をガードして謝った。
人間、頭は真っ先に守るものだと思う。
そして、勝手に猫背のような状態になる。
たぶんお腹を守るため。
「新王陛下、大丈夫ですよ。
殴ったりしませんから」
リンさんの言葉に、私はすぐにでもシャキッとしようとしたが、中々それは出来ず、そろそろと元に戻った。
「ほら、タイキ。ごめんなさい、は?」
「え!?
……………悪かった。
怒った訳じゃなくてな、焦ったんだ。
また、王が居なくなったのかって、さ。」
タイキは頭を下げたり、頬を掻いたりして言った。
王様がいなくなるのって、そんなに不安なんだ。
頭に血が昇ってしまうほどに。
私がジッとタイキを見ていると、タイキは太樹と同じ笑みを浮かべて私の頭を豪快に撫でた。
そうだね。
こういう人の為に王になるんなら、幸せだね。




