〈かぐや姫〉
橙、緋、藍、翠、蒼、黄、紫。
世界は色に溢れている。
怒ったときは鋭く赤黒い。悲しいときは鉛のように重い青。穏やかなときは細く流れる緑。
人の気持ちは見たくもないのに“視えて”しまうもの。そういうものなのに、人は嘘をつく。その本心が見えるたび、私は傷つき、失望する。
だから人は嫌い。ずっと一人で居たい。私を嫌いだって思うなら関わらなければ良いのに。
嫌いな人と関わって何の利益があるの?
そう、私は目の前の人に聞きたくて堪りません。
「ねぇ、かぐや姫ってば~」
ああ、その声。何とも形容し難い、醜い声。ねっとりどろどろした黒に近い紫。
聞きたいことは解ってる。言わなくていい。だからそれ以上、その声を出さないで。
「何でそんな髪伸ばしてるの?」
ああ、だと思った。よくも飽きないよね。
あなたに質問されたのは初めてだけど。
「別に。」
あなたは答えが欲しいんじゃなく、私を馬鹿にしたいだけ。
本当は無視したいくらいだ。でも、もっとその声を出されたら困るから、返すしかない。
一言なのは、ささやかな抵抗?みたいなもの。
「ふーん。変よ。そんなに伸ばして。
切ったら?」
ささやかな抵抗は、思いのほか気に障ったらしい。紫が赤に近くなった。ちょっと失敗。
正直、邪魔と思うこともあるけど、見ず知らずの人に言われる筋合いはない。
なのでバーカバーカ!と、言いたいのを抑えて…。
「考えとく。」
暗に言うのは好きじゃないけど、ハッキリ言ったら怒るだろうし…。
「あんた転校生って言うのに、ちょっと生意気じゃない?」
うっ…、ちょっと吹き出しそうになった。どこぞの女王様ですか?どの立場から生意気って言ってるのか…。
うーん、ちょっと面白い。
「あなた、何様?」
と、言いたいのをぐっと我慢して、ここはそうかな?とでも誤魔化しておこう。
「は、はぁ!?」
イタっ。黄色く鋭い声が飛んできた。急に大きい声を出さないで欲しい。刺さる。
そんなに驚くこと言ったかな?聞き間違えた、のかな…?
もう一回言っておこう。
「初対面の人に、そんなこと言われる筋合いないけど」
と言いたいのを今一度、ぐっと我慢して、善処するよ、とでも言っておこう。
「なっ、そっちが変だから悪いんでしょ!」
変だから悪いって若干変な日本語。
…ん?あー。本音と建前が入れ替わってた。
…うーん。気にしない。言ってしまったからには、全部言ってしまおう!
「変って何が?」
解ってるけどね、髪の事でしょ?
「その髪のことよ!」
ほらやっぱり。私たち気が合うかもよ?
「髪がどうかした?」
敢えて、もう一度聞き返す。
「その無駄に長い髪が悪いって言ってるのよ!」
った…!怒りがピークに達したようで、赤いものに刺されてしまった。
多分本人も、自分が何を言ってるか解ってない。
「何が悪いの?」
それでも私は態度を変えずに続ける。
「何がって…。とにかく変だって言ってるのよ!」
ほら、後に引くに引けなくなってる。
ちょっと大人になって、ここは引こう。私は本が読みたい。
「ああ、そう。」
「そ、そうよ…。
ああっ、もう!話になんない!」
そう言い残して、別の子の元へ行った。
特段興味もないので、さっきまで読んでいた本を改めて開き
読もうとした…が、また誰かに邪魔をされる。
今度は同じクラスの人。
「すごいね~。さすが、かぐや姫。求婚に来た貴族を言い負かした?」
後ろからした声に見ると、相手は席に座っていた。
純粋な黄色の声。馬鹿にしてない、本当にただの好奇心。
「言い負かした…」
あと求婚……?ああ、なるほど。竹取物語のこと。
この人は構えなくて良さそう…。相手を落としいれようとかは一ミリも考えてない。
あわよくば仲良くして欲しいけど…。
「私、小柳 芽李!」
「あ…。私は、弥扇 神夜」
小柳さん…。黄色に近いオレンジって感じ。きっとみんなに人気なんだろうな。
褐色の人は必ず言っていいほど人気者。
「知ってるよ!」
「え…」
「そりゃ、有名人だから!」
「ああ…そっか……」
悪意がない人にまで知れ渡ってしまってるのって…、さすがに傷付く。
「でも…神夜“姫”じゃないよ…?」