fragment6
始まりの街《マリ・ハジ》の外れ レールポート
善は急げとか訳の分からんことを言い出したルカは、早速一つ目のクエストを、受注したその日に攻略する気満々だった。そして目的の《ベリルの森》へ向かうべく、一番近い街である東大陸の南端、《ラムダ》へ向かうことになった。
アルテニアは一度行った街ならば、蒸気列車という名のファスト・トラベルが用意されており、行先を指定するだけで一瞬で行くことが出来る。
ルカは道中の景色を楽しみたいとほざき《トラベルモード》―実際に列車に乗ってのんびりと列車旅を楽しむやつだ―で行くことをを強固に主張するも、きっぱり却下する。何が悲しくてガキと旅行なんぞしなきゃなンねェんだ。
目的地の《ラムダ》は建物が全て白いことが特徴の港町で、中央にだだっ広い広場があり、そこに大きな噴水がある。いわゆるデートスポット的な場所だ。浮かれたプレイヤーがそこかしこに確認できて鬱陶しいことこの上ない。加えてラムダから行けるダンジョンやフィールドも、特に稼ぎ場はないため俺はまず立ち寄る事のない場所だ。
さらに言えば、目的地の《ベリルの森》には、どうしても行きたくない理由があるのだが。
駅に降り立ってまず感じたのは、肌にべたつく潮風の匂い。
俺が普段拠点にしている城塞都市《エル・ザス》の洗練された雰囲気とはまた異なる、どこか荒々しい空気を感じた。その感覚の出どころの一つは、恐らくはNPCのショップだろう。
船着場から街までの道のあちこちに出店があるのだが、そこで呼び込みをしているキャラクターがどれもうるさいことこの上ない。こんなガヤまで作り込むなよ、と思ったりもしたが、これもリアリティの演出のための一つなのだろう。確かにいかにもイメージ上の港町といった感じはよく出ている。一瞬これがゲームだということを忘れていたほどだ。特に匂いの再現度なんかは現実と全くそん色ないと言って良いだろう。
あちこちに屋台が出ている、名物の海鮮焼きそばの何とも香ばしい香りや、潮の匂い、どこか磯臭い感じは、ウミネコの鳴き声と共にここが港町であると五感にモロに訴えかけて来る。
武器屋やアイテム屋、合成屋などでいい出物がないか一通りルカと冷かしてから、俺は二人パーティーというのも心許ない、つうか俺一人でガキの面倒を見るのがいい加減しんどくなってきたので、丁度ラムダに居たというアゲハにメッセージを送り、噴水広場で合流した。
広場では、丁度時間になったのか、大きな水柱が上がっており、見る者を楽しませていた。だが、俺はそんなエンターテイメントを楽しむ気にはなれなかった。
あんな事があった後で、気まずい。俺はアゲハがこちらにかけて来るのに気づいてから、何と声を掛けるか、今更ながら考えた。
本当はメッセージを送るのも迷ったのだが、他に声を掛けられる知り合いもいなかったのだ。それに……。
開口一番、アゲハはあまりにも普通に挨拶してきたものだから、拍子抜けしてしまう。
「初めまして、私は《アゲハ》と言います」
「ボクはルカだよ。……よろしくお願いします」
そう言って、二人はプロフカードを交換し合っていた。
「っておい、ルカ。てめェ、敬語使えんじゃねェか。俺には舐めた態度ばっかなのになァ!」
殴りかかるも、やはり華麗にスルーして、ルカは何やら耳元で囁く。
「だって、あのお姉ちゃん、お兄ちゃんをようしゃなく氷漬けにしたでしょ。ボク、寒いのはにがてなんだよ」
「何言ってやがる。あれはちょっと油断しただけで、いつもなら俺があんなトロくせェ魔法喰らう訳……」
「お二人で何を話してるんですか?」
「ううん! 別に何でもないよ……です!」
「ルカ君、そう畏まらないで、ヱイタさんに話すみたいにしてください」
「え?! そ、そう……ですか。あ、ううん……そうなの?」
「はい! その方が私は嬉しいですから」
「じゃあ、ボク……アゲハさんのこと、お姉ちゃんって……呼んでも良い?」
恐る恐るといった様子で、ルカが尋ねる。
するとアゲハはふるふると小刻みに震えて俯いた。
「き、き……き」
「お、おい……アゲハ?」
「聞きましたか、ヱイタさん? 私、お姉ちゃんです!」
「あァ? ……まあ、どう見てもルカよりは歳喰ってッし、順当だろ」
「もう、そういう事じゃありません。私、カワイイ弟が欲しいなって、ちょっと思ってたことがありまして。……夢が叶っちゃいました!」
「えっと……じゃあ、呼んでも良いの?」
「はい! ルカくん、これからよろしくお願いします!」
何でも良いが、とりあえずまとまったらしい。
謎のガキとヒーラー女に刀使い。ヘンテコな組み合わせだと自分でも思うが、これでパーティーとしては一応形にはなった。
問題はガキの獲物だ。
プロフカードには自己紹介欄に《鎌使い》とあったが、俺と役割モロかぶりじゃねェか。まあ鎌使いってこたァATKとDEFもそれなりだろう。せいぜい壁役として、先頭に立ってもらうとしよう。そうすればこの先戦闘でも俺の抜刀術スキル《瞬葬》を狙えるチャンスも増える。俺の刀スキルは、基本相手の攻撃に合わせるカウンター型が多いから、この選択はありだ。
最初はガキとパーティー組むなんてやってられねェと思ったが、これは意外に拾いものかもしれない。俺はルカがアゲハに目的地を説明している間、そんなことを思っていた。