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Altennia Onlineーアルテニア・オンラインー  作者: 淡井ハナ
Episode1 ―Build the Guild―
5/21

fragment5

 翌日、午後5時。

 俺は《マリ・ハジ》という街を訪れていた。

 ここに来るのは随分久し振りになる。

 初めてゲームにログインしたプレイヤーは皆この街からスタートするのだが、初めてこの街の光景を見た時、その光景に圧倒されたものだ。


 ゼンマイ、噴き出す蒸気、張り巡らされたおかしなパイプ類。計器のようなもの。それに中央の時計塔を見た時に感じた漠然とした不安感を思い出す。


「本当にこのクソ広い世界でお前を見つけられンのかって、ビビってたっけな……」


 俺は一度も迷うことなくガンガン歩き、指定された通り、酒場のカウンターについてルカを待った。

 

 西部劇にでも出てきそうな、今時あり得ない木の扉に、並んでいる明らかに未成年お断りの樽的なオブジェクトにビンの類。

 

 そこはまさに異空間だった。

 何かトランプ的なゲームをしながら葉巻を吹かしてるオッサン二人に、カウンターで腕を上下に振ってシャカシャカやっているマスター。そして静かにカウンターに座って本を読む大人っぽい女の客。

 

 最初は何も頼まないつもりだったが、マスターの無言の筋肉的な圧力に負け、俺は一番安い《スピリタス》を注文した。


――くそ、NPCのクセに無駄に迫力あるじゃねェか。


 だが、もちろん俺が注文したのは酒じゃない。そもそもこのゲームにアルコールは実装されていない筈だ。

 スピリタスは、琥珀色の見た目だが、現実のいちごのような味だった。飲むと一時的にATKをアップさせる効果があり、万一の場合に備える意味合いもあって、このドリンクを選んだのだ。


「つうかあいつ、来ねェ……」


 周りのアダルティな雰囲気もあって落ち着かない。俺はトントンと木製のカウンターを指で叩いては柱時計を確かめる。やっぱりもう5時じゃねェか。

 グラスから伸びる影が少し角度を変えたと思った頃


「お待たせ、お兄ちゃん!」

「うわッ! なんだ!?」

「アハ、驚いてくれた?」


 目の前に現れた玉緑色の……瞳、ってまたかよ!


「普通に現れやがれ!」

「それじゃあダメだよ。ボクは人を驚かせることを使命にしているんだから」

「ちっ……」


 これ以上続けても、こいつのペースにはまってしまう。俺は殴りたい衝動を抑えつつ、切り出した。


「それで、わざわざ来てやったんだ。お前の知る手掛かりとやらをさっさと教えろ」


 メニュー表を真剣に見つめるルカに問う。ルカは散々悩んだ末にドリンクを注文し終え、ようやく口を開いた。


「……ある場所に、あの天使が現れることがあるらしいんだ」

「ある場所? 俺が襲われた場所には何度行っても二度とアイツは現れなかった。お前はアイツの居場所を知ってるってのか?」

「あくまで可能性の話だけどね。それでも、闇雲にこの広い世界を探すよりはよっぽど良いでしょ?」


 確かに、それが本当ならその場所でヤツが現れるのを待っている方が会える確率は上がる。


「で、その場所ってのはどこだ?」

「おっと。タダで教えられるのはここまでだよ」

「何?」


 俺はその言葉に、無意識に刀に手を伸ばしてしまったのか、鍔鳴りが響く。そ

の音に耳ざとく反応したのか、ルカはあっけらかんと言う。


「ここでボクをやっつけることは出来ないよ。言うまでもなく、街でPK行為は出来ないからさ。それに、《決闘》に応じてあげることも構わないけど、お兄ちゃんじゃあボクに勝てないんだよ」

「何だと? 誰が誰に勝てねェだァ?」


 俺はメニュー画面を呼び出し、決闘システムの項目を選択しようと画面を指でなぞりスクロールする。だが、


「ボクは決闘するために、お兄ちゃんをここに呼んだんじゃないんだけどなぁ」

「じゃあ何だ? 仲良く茶でも飲むためか?」


 俺はマグカップの中身を一気に飲み干すと、それをカウンターに叩き付けて威嚇する。周りの客が何事か、とこちらの様子をチラチラと伺う気配を感じるが構やしねェ。このふざけたガキをブン殴って情報を聞き出してやる。

 だがルカはまるで怯んだ様子もなく言う。


「ボクは《ギルド》を作りたいんだ。そのお手伝いをしてほしくて、お兄ちゃんを呼んだんだよ」

「……は?」


 一瞬何を言われたのか分からず、素で返してしまう。


「だから、ボクのギルド作りを手伝ってって言ったの。それが“じょーほー”を教える“こーかんじょーけん”なの」

「……ギルドって、あのギルドか? 何で俺が、ンな面倒なことを?」

「嫌なら教えないだけだもんね♪」

「ぐッ……」


 確かにクソガキの言う通り、ゲーム上で例えこいつを攻撃しまくっても意味はない。痛みも無ければ最悪キルされたってアイテムをランダムにロストするだけなのだ。

 こいつがよっぽどのレアアイテムでも持ち歩いてるってんでもなけりゃァ、脅したって無駄だろう。それよりはこいつのご機嫌を取って気前よく情報を教えてもらうほうがよほど早い。のだが……。


「ガキのご機嫌取り……? この俺が……?」


 やってらんねえ。第一俺は急いでいるんだ。こんなガキのあやふやな情報に踊らされて、遊びに付き合っているほど暇じゃねェ。だがもしこいつの情報が本当なのだとしたら……


「あァあああああああァアア!!」

「すごい“くのう”っぷりだね♪」


 クスクスと笑いながら、ルカはマグカップの氷をもてあそぶ。


「くそ! 分かったよ! お前の言う条件、飲んでやるよァ!」

「本当?! やったあ!」

「ただし、もし嘘吐きやがったら、そン時はマジでぶっ殺死!」

「うん、約束するよ!」


 そう言ってルカは右手の薬指を立てて、ずいっと前に突き出した。

「……何の真似だ?」

「ほら、約束するときは、こうやって指切りでしょ?」

「……何で俺がンなこっ恥ずかしいことやんなきゃ……」

「しないの……?」


 何故か笑顔で問うルカ。何だよ。やんなきゃ教えねェってことかよ?


「くそ! やってやるよ!」


 俺がそう言って小指を絡めてやると、ルカは満面の笑みで歌いだした。


「ゆ~びき~りげ~んま~ん、う~そつ~いた~ら♪」

「絶対ェPK1000回してやるからなァ!」

「ゆ~び切った! ……約束だよ!」


 何がそんなに嬉しいのか、ルカは最後まで嬉しそうに腕をブンブン振って歌い終えた。

くそ、本当に教える気あんのかよ。そしてその情報はガセじゃねェだろうな!


「それで、手伝いって言っても、一体何やりゃァ良いんだ? そもそもギルドってどうやって作んだよ?」

「え、ギルドの作り方も知らないの? そっか、お兄ちゃんお友達少なそうだし、ギルドに入ってるわけないか」

「うるせェよ! さっさと話しやがれ!」


 頭をはたこうとしたが、するりとかわされる。くそ、こいつ!


「ギルドを立ち上げるにはね、指定された3つのランダムクエストをこなす必要があるんだ。そしてそのクエストはソロじゃあ達成困難なものがほとんどなんだよ。まあギルドを立ち上げるってんだから、ギルドメンバーになる人達と一緒にこーりゃくしなさいってことなんだろうね」

「すげェ面倒そうな話だな。聞くだけで頭が痛くなる」

「そんな嫌そうにしないでよ。今お兄ちゃん、ちょっと人に見せられない顔してるよ」


 何が可笑しいのか、やっぱりルカはヘラヘラしながら言う。そんなに面白い顔してねえ筈だが。


「つうか、それで俺をここに呼び出したのか。……お前、ガキのクセに意外と手回し良いじゃねェか。何かムカつくな」


 そう。酒場はクエストの受注場所を兼ねているのだ。つまりこのごついNPCマスターから、現在受注可能なクエストを請け負うのだが、ギルド結成クエストなんてなかったはずだが。


「おじさん。ボク達、ギルドを作りたいんだけど、どうしたら良いかな?」

「ギルドか。……貴様にその覚悟があるのか?」

「うん。それで、どうしたら良いの?」


 それからも二言三言マスターと淀みなく会話を続けるルカ。どうでも良いが、客相手に貴様って……。現実なら絶対ェ潰れるな、この店。


「――以上三つのクエストをこなせば認めてやろう。貴様に出来ればの話だがな」

「うん、分かったよ。ありがとう、おじさん!」


 しまった。余計な事を考えていたせいで、肝心のクエスト内容を聞いてなかった。


「……という訳だから、お兄ちゃん。まずは一番簡単そうなやつからにしよう」

「あ、ああそうだな。それがゲームにおける定石というやつだ」


 聞いてなかったと今更言うのも格好がつかない。俺はさも全て分かってる風な顔を作り、頷いて見せる。


「じゃあ目的地は《ベリルの森》だね」

「…………え?」


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