fragment3
「はあッ!」
ヒヨコ型モンスターの突進攻撃をギリギリで避け、隙だらけの敵に俺は片手剣技のスキルを発動させる。
始動の合図に剣がダーク・バイオレットに発光し、俺の体はシステムの補助によって最適化された動作を滑らかに取っていく。発動させたのは片手剣技《ファルクス》。即ち重さの乗った剣で相手を貫く片手剣の初期スキルだ。
俺の剣はクリーンヒットし、そのままHPを狩りつくしてモンスターは消滅した。
「相変わらず、強いですね~」
「……別に、強くねェよ。こんなんじゃ、まだ届かねェ」
戦闘勝利のファンファーレが響くのもそこそこに、俺はまた走り出した。
それからも何度かモンスターに襲われるも、全て切り倒し、俺はとうとう目的の洞窟の前まで来た。
「ここが……」
「うわあ、すごい大きな入口ですね!」
辿りついた洞窟は、来るものを拒絶するような在り様だった。いや、あるいは俺の心がそう思わせているだけかもしれない。
巨大な岩が隆起したようなそびえたつ山に、そこだけぽっかりと空いた巨大な入口は、まるで入る者を悉く喰らい尽くす魔物のように思えた。
ここは最近ゲーム内のあちこちに発見される謎のスポット、《リーベルシャフト》と呼ばれる場所の一つだった。何故そう呼ばれているかというと、リーベルシャフトには共通して内部のどこかに謎のアルファベットが刻まれている。それがそう読めるから、ということらしい。
リーベルシャフトには荘厳な教会や劇場、用途不明の建物に、天にも届きそうな巨塔など、公式マップに存在しない場所だが、今や観光名所として、プレイヤー達でにぎわっている。
ここは《水晶洞・アルム・ウェイン》という場所だが、御多分に漏れず、観光気分のプレイヤー達でごった返していた。
「…………」
だが、俺はここに遊びにきた訳じゃない。俺はシステムメニューを呼び出し、アイテムメニューからユニークウェポン《影打・御神渡》を選択し、装備を切り替える。
「俺を守ってくれよ……」
次にステータスをチェックする。
プレイヤー名:ヱイタ
レベル:27
HP:1847
MP:1410
TP:2173
STR:168
DEF:131
DEX:120
VIT:171
INT:47
MND:73
AGI:229
WIL:153
俺はAGIに極振りしているため、当然ながら他のパラメータは近接物理タイプとしては少々頼りない。それに魔法スキルに至っては絶望的だった。
「まあ、今更行っても始まらない……か」
次はスキルの再確認だ。俺はメニューからスキルの項目を選択した。
《Xレイ》、《ドッジロール》、《隠者の歩法》、《挑発》、《縮地》と様々なスキルが並ぶ中、俺はウィンドウを指でスクロールさせて、ある一つのスキルを表示させた。
《明鏡止水》刀専用 アクティブスキル
《瞬葬》の発動タイミングを伸ばす。但し使用中は常にTPが減る。
「発動タイミングを伸ばす……」
俺の初期装備はβテストでは最も不評だったらしい、刀。
不評の理由は刀自体の耐久値の低さに加え、派生スキルの種類の少なさや汎用性の低さにある。通常の片手剣や槍などの武器は、他の武器を装備した時も使用できる共通スキルを多数習得できるが、刀に関しては専用スキルが多いのだ。
開発者が何を思ってこんな仕様にしたのかは知りようもないが、現実の刀の人気に比べ、このゲームでは最も不人気な武器の一つだ。
だが、刀専用スキルでも特に異質なスキルの一つ、《瞬葬》。
これはいわゆる抜刀術のことで、相手が攻撃動作に移るその一瞬に発動することで即死効果を得る一撃必殺技。だが、タイミングがあまりにもシビアすぎて、βテストでは成功させたものは誰も居ないと言う鬼難度仕様。
「だが、アイツを殺れるとしたら、こんくらいの奇策でもねェと無理だ」
スキルを確かめながら、我知らずそんなことを呟いていた。
「ヱイタさん、準備は出来ましたか?」
「ああ。……俺が準備してる間、ずっと待ってたのか?」
「はい! 私は今日はしばらく時間があるので、しっかり準備してください。私にはヱイタさんの目的は分かりませんが、後悔はしないようにしてください」
アゲハはにこりとほほ笑んで言った。
俺の目的にこいつは無関係だ。巻き込んで良い筈がない。本当ならここで帰れと言いたいところだが、アゲハは意外に頑固なところがある。きっとそんなことを言えば意地でも理由を聞くだろうし、絶対に帰らないだろう。
なら――。
俺はクイックストレージ(初期装備のコンパクトケース、アイテム格納数1)に一つのアイテムを入れた。そしてアゲハに見えないようにアイテムが格納されていることをしっかりと確認し、大丈夫なことを確かめると、もう一度それをストレージに戻す。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
STR:攻撃力、DEF:防御力、DEX:器用さ、VIT:体力、INT:魔法力
MND:精神力、AGI:移動力、WIL:意志力 となっています。
STRは近接攻撃力と盾防御力、DEFは物理ダメージに影響します。
DEXは弓攻撃力と盾防御の成功率、受け太刀成功率やアイテム装備数やクリエイト関係の成功率に影響します。
VITは最大HPや連続行動、疲労などに関係してきます。
残りもおいおい設定解説を入れたいと思います。