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Altennia Onlineーアルテニア・オンラインー  作者: 淡井ハナ
Episode1 ―Build the Guild―
2/21

fragment2

 少し勾配のある山道を抜けたところで、俺は足を止めて休息を取ることにした。

ゲームなのに休息が必要なところが実にもどかしいが、このアルテニアというゲーム、無理な連続プレイの防止のため、プレイヤーの疲労感などはインタラプトせずそのまま感じられるように設計されている。つまり無理な行軍は出来ないのだった。


 もともと俺はVIT(体力)に自信がある方ではなかったが、それでも頑張って一気に山を登ろうと思ったのだが、やはり無理だったようだ。

丁度目の前にスチームパイプで出来た山小屋のような設備を見つけたので、俺は中に入り、腰を落ちつけた。


「もう、待ってくれても良いじゃないですか」


 と、少し遅れて肩で息をしているアゲハも入ってくる。

 ふわりとした短めの鳶色の髪に長く伸びた二束の髪飾り。そして金色の大きな瞳。全体的に清潔感を感じさせる白を基調とした服装に、身に纏ったエメラルドのストールがアクセントとなっていて、どこか弱々しい印象を受ける女子。


 アゲハはスチームパイプ製の椅子をぱっぱっと手で払うと、よっこいしょ、と俺の向かいに腰かけた。


 そんな彼女を見ながら、俺は何故こいつとパーティーを組んだのか、改めて思い返していた。


 俺にはやらなければならない事がある。はっきり言ってその目的にアゲハという存在は邪魔ですらあるが、なんせアゲハは光魔法を多く習得している。


 このゲームはジョブ制ではなく、装備によって使用可能スキルが変わってくる。

そしてスキルには相性があり、タイプ別にダメージ補正がかかるのだ。近距離→遠距離→光魔法→虚数魔法→近距離と言った具合で、近距離物理スキルを多く持つモンスターやプレイヤーは遠距離物理タイプに強いが虚数魔法使いに弱い、と言った具合だ。


 俺はバリバリの近距離物理特化タイプ。つまり虚数魔法使いとは相性最悪。それを補うのが光魔法使いの存在だ。要するにこのゲームではソロプレイは効率が悪いということだ。

 ましてアゲハは回復魔法に支援魔法(バフ)を使えるから、パーティーを組むと非常に戦闘の効率が良い。

 出会った当初から何故かやたら強引にパーティーを組まされ、なんだかんだここまで来たが、この組み合わせはゲームを進める上で悪くない選択肢と言えるだろう。


「もっとも、いちいちウルせェのが厄介なんだよなァ……」

「え、何か言いましたか?」


 アゲハはストールを揺らせてきょとんと首を傾げた。


「それよりヱイタさん! 私、サンドイッチ作って来たんです! 此処でゴハンにしませんか?」


 何もない空中からバスケットを取り出し、笑顔でアゲハが問う。


「あァ? 別にいらねェよ。別に食事なんて必要ねェだろうが、アルテニア(ここ)じゃよォ」

「まあまあ、そう言わずに!」


 そう言ってにこにこしながら、無理やり俺の口にサンドイッチを突っ込んできた。


――で、でけェよ!


 コンビニとかで売ってるものよりサイズがあり、しかもボリューミーなそれは、クラブハウスサンドイッチだった。


 アルテニアでは食事をすることは可能だし、実際に味も食感も再現されているが、これまたプレイヤーの安全性の観点から空腹感は満たせない。つまりあくまでも食事行為は嗜好品を楽しむ行為であり、必要性はない。ガチプレイヤーなんかだと、食事は時間の無駄と切り捨て、全く摂らない者もいる。


 かくいう俺もその類で、ましてや料理のスキルなんかは1ポイントも上げてない訳だが……。何故か無駄に料理スキルの高いアゲハはよりにもよってバカでかいモンを作ってきた。

それを無理やり口に突っ込まれたもんだから、しゃべりたくてもしゃべれない。


 ようやくなんとかサンドイッチを飲み込んだ俺は、若干むせながら抗議する。


「いきなり何すンだよ! 殺す気か!?」

「すみません……。お口に合いませんでしたか?」


 しゅんと肩を落として申し訳なさそうにする。


「……いや、まずくはねェけど」


 言われてみれば、しゃきしゃきの瑞々しいレタスの食感と厚切りベーコンの肉々しさが楽しく、マスタードが効いたマヨネーズとマッチしていて、どちらかと言うと美味かった……気がする。


「……もう一個もらう」


 バスケットからもう一つ取り出し、俺はそのままかぶりついた。……やっぱり、悔しいが、美味い。


「……あ」

「な、何だよ?」

「えへへ、何でもありません。――あ、お飲み物もありますよ」


 何故か上機嫌になったアゲハは、また空中からペットボトルを取り出し、俺に寄こす。それはキンキンに冷えた、俺の好きなジュースだった。


――コーラとか、分かってんじゃん!


 現実の習慣なのか、丁度飲み物が欲しいと思っていたところなので、俺はありがたくコーラを呷った。


「はァ、食ったな」


 バスケットが空になり、アゲハがそれをしまうのを確認しながら、俺は椅子にもたれかかり天井を見やった。


 小屋の天井はゼンマイやら謎の計器類がびっしりと埋め込まれており、確かスチームパンクという感じの雰囲気全開だった。


 この始まりの東大陸《パルギア》はこのようなパイプやら蒸気機関のようなものがあちこち見受けられる。どうやらそういう世界観らしく、良くは知らんが歴史的な設定もあった筈だ。アゲハにそんな話題を振ると、また長くなりそうだからやめておくが。


 そんなどうでもいい事を考えていると、アゲハが何気ない調子で聞いてきた。


「ヱイタさんって、アルテニアで、何を目標にしているんですか?」

「あァ、目標?」

「ほら、あるじゃないですか。例えば、四大陸に存在する魔法を全て習得して回るとか、指定ナンバーの宝物を全部集めるとか」

「ああ、そういうやつか……」


 確かに以前そんなようなことを聞いた気がする。このゲームには無数のグランドクエストが存在する、と。だが、


「俺はあるモンスターを探してる。俺はそいつに会わなきゃなんねェ」

「モンスターの討伐ですか。……意外です。私、てっきりヱイタさんは闘技島の四タイトル制覇とかを目指しているのかなって思ってました」

「あァ、何でだよ?」

「だって、ヱイタさん、レベル上げに熱心というか、戦闘を極めるぞって感じかと思って」

「…………」


 そうだ。俺は強くならなきゃいけない。


「俺には遊んでる暇はねェ。何としてもアイツをブッ倒さなきゃなんねェんだ!」

もう十分休んだ。


 俺はがたっと勢いよく立ちあがると、アゲハの支度を待たずに小屋を後にした。


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