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◆第二話『突然の暴露』

1.


 目が覚めると、見慣れた天井が目に入った。僕は自室のベッドで横になっていたようだった。

 全部夢だったのか……?


「あら、やっと目を覚ましたのね」


 なんて甘い考えは、リリスの声で書き消された。


「もう夜の七時よ。三時間も寝てたの。昼寝にしては長すぎね」


 なんだか最初は色々なことが起こりすぎたせいで考える余裕もなかったけど、冷静になって考えると……。


「ああ……やっぱり僕一人でSFばっか読んでるから頭おかしくなっちゃったのかー……」

「失礼な話ね、人間の分際で。私が幻だとでもいうわけ?さっきの戦いで消えない傷でも残して欲しかったのかしら?」

「恐いこと言う奴だな。お前本当は天使じゃなくて悪魔なんじゃないか?」

「あら、面白い冗談言うのね。もっと怖いこと教えてあげましょうか?」

「…………」


 リリスは笑みを浮かべていたが、明らかに口元が引きつっていた。正直ちょっと怖い。天使っていうのはこういうものなのだろうか?


「分かった、分かったよ。もう言わないから。でもどうやってここまで運んできたんだ?」

「どうやってって、あなたを抱えて窓から」

「なるほど、窓からか。……って窓から!?」

「そう。インターホン押そうかと思ってたんだけど、私の姿、魔法使いとその候補くらいにしか見えないから、ややこしいことになるかと思って」

「いやいやいや、窓から入るのもどうかと思うよ僕は!?」

「とにかく、それが最善だったのよ。いきなり気絶する章が悪いんだから」

「はいはい僕のせいですかそうですか」


 僕は大きく溜め息をついた。口には出さなかったが、やたらエゴの強い天使だと思った。口論になるのも面倒なので、一応は認めてやった。

 一般には神聖化し過ぎてて分からないのかもしれないが、案外天使なんてものはこんなもんなのかもしれない。


「で、章、大切な話があるの」

「な、なんだよ……」


 いきなり顔を近付けてきたらビックリするじゃないか。僕は少し頬が紅潮したのを感じた。

 改めて見てみると、見てくれはいい。

 黒と緋色のキリッとした宝石のような目に、透き通るような銀色の髪。きちんと手入れされている長髪は一つの川のようで、若干ナルシシズムを感じるけど、それが逆に魅力的になっている。季節外れのノースリーブが気になるが、これはこれで悪くない。


「何黙ってるのよ……私に見とれるのもいい加減にしなさい」

「…………」


 これで性格が良ければ天使としても女の子としても完璧なんだが。


「別に見とれてたわけじゃない。変な顔だと思っただけだ」

「へえ、そうなの」


 リリスは笑顔で応じた。意外と淡白な反応だ。


「で、大切な話っていうのは、章の命に関わる問題なんだけど」

「な、なんだと!?すぐに話せ」

「話して欲しい?」


 リリスは一切の屈託が無い、一種の清々しさを感じさせるほどの笑みを浮かべていた。嫌な予感がする。


「あ……当たり前だろ」

「ふーん。じゃあ……」

「?」

「二度と私のことを悪魔なんて呼ばないことね」

「わ、分かったよ」

「それと」

「謝罪。出来れば土下座」

「ど、土下座!?」

「冗談よ」


 冗談でも言うな。


「はいはい、すいませんでした」

「誠意が足りない。もう一度」

「すみませんでした」

「気持ちがこもってない。もう一度」

「誠に申し訳ありませんでした」

「よし、合格」


 うんうん、とリリスは嬉しそうに頷いた。

 面倒なことになりそうだから謝ってやったが、これも悪くないなという気分になってしまった。


「さて、本題ね」


 やっとか……。


「章、あなたは魔法使いになったって自覚はあるかしら?」

「なんだよ急に。そんなのあるわけないだろ。さっきなったばっかりなんだから」

「あなたに自覚が無くても、あなたの魔術回路は仮契約によって開かれたわ」

「魔法が使えるようになったってことか。それで?」

「さっきあなたが気絶したのは何故だと思う?」

「なんでだろうな。あまりに突拍子もないことが起こりすぎて疲れてたんじゃないか?」

「あなた、身体は弱いの?」

「いや、特別弱くはないけど……確かによっほどなことがないと気絶なんかしないよな」

「あなたが気絶したのは、あなたの魔力が急激に減少したからよ」


 魔力……?ゲームじゃあるまいし。


「魔力というのは分かりやすく言うと、生命力のこと。それをあなたは削って魔法を使ったのよ」

「おいちょっと待て、そんなこと聞いてないぞ!?」

「言う暇なんて無かったわよ」

「まぁ確かにそうかもしれないけど……」

「続けるわよ」


 リリスは強引に話を進めた。


「魔力は寝ることによって少しは回復する。でも、それだけでは限界がある。魔力が無くなれば、どうなると思う?」

「魔力が生命力だってさっき言ったよな?その理論だと……まさか」

「そう。死んでしまう」


 え?

 こいつは今何て言った?

 死んでしまう……?

 有り得ないよな。あり得ない。

 あり得ないあり得ないあり得ない。

 なんでこんなことに巻き込まれてしまったのだ。命をかけた戦いなんて真っ平だ。

 僕は普通の人生を送れれば良かったのだ。何処にでもあるような日常。それこそが望みだった。

 それが、たった一冊の本に触れただけでこんなことになるなんて。

 なんて僕は不幸なんだ。


「そう絶望することはないわよ」

「簡単に言ってくれるな!他人事だと思って!あ、そうだ!魔力を使わなければいいんだ。そうすれば問題なんて……」

「さっきみたいなモンスターにまた襲われたら?」

「!? またさっきみたいなモンスターに襲われるっていうのか?」

「ええ。モンスターは魔法使いの魔力を求めて、いつ何処であろうとあなたに襲いかかってくるわよ」


 絶望しかなかった。

 もしさっきみたいに一匹倒す度に気絶していたら?

 そんなの身体がもたない。

 戦わなくても死、戦っても死。

 どうすれば、いいんだ。


 …………。


 いや、でも、こいつは何故わざわざ僕にこんな話を?

 魔法使いとして僕を戦わせることが目的のようだし、何故そんな不利益な話を持ち出す?

 天使だから、なのか? 良心からか?


 …………。


 いや。

 こいつは賢い。

 きっと、何かがある。

 僕はそう結論付けた。


「で、どうすればいいんだよ、僕は」

「何の話?」

「とぼけるな。どうすれば魔力の問題を切り抜けられるかって、そういう話をしてるんだよ。何かあるんじゃないのか、策が」

「へえ。これは予想外。驚いたわ」


 リリスの表情は微笑のまま特に変わった様子は無かったが、どうやら驚いたということらしい。


「って言うのは嘘。見込み通りね」


 どっちだよややこしい。


「やはりあなたを私のパートナーにして正解だったわ。その年齢にしては頭が回るわね」

「そういうのはいいから。早く対策を教えろ」

「いいわよ。次の段階は本契約。明日からその準備をしてもらうわ」

「準備って何をすればいいんだ?」

「まずは、買い物ね」

「買い物……?」


 本契約をするにあたって、何故買い物?


「明日になれば分かるから。じゃあ今日の話はこれでおしまい。寝るまでに頭を整理することね」

「……もしかして気を使ってるのか?」

「別に。それじゃあね」


 リリスは窓を開けた。


「おい、どこ行くんだよ」

「ちょっと街の様子を見てくるわ。まだこっちに来てから慣れてないの」


 そう言い残すと、リリスは飛び去っていった。


「なんなんだよ、もう!」


 つくづく勝手な奴だ。僕は窓を閉めながら思った。

 本契約の為の、買い物?

 本契約って一体何するつもりなんだよ……。


2.


 この時の僕は、知る由も無かった。

 自分の無知に。

 騒動は、戦いは、長い長い物語に、発展していく。

 第三話は5/15(金)18時半頃に更新予定です。

 分量的には第二話と同程度です。契約前夜の話となります。

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