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08魔女は怒ってもいいよね


「んふふ、馬鹿な奴。アネッサの邪魔をするからニャ。お前らもこうなりたくなかったら、とっととおウチに帰るニャ」


 その語尾はなんだ!

 耳は飾りか?ウサ耳の存在を自ら否定するのか!


「何やってんだ?スドウ」


 私は自分の気持ちを抑えるため、無意識に左手でエアーツッコミをしていた。


「帰らないなら魂をもらってもいいって事かニャ?」


 猫耳、もといウサ耳魔女アネッサは、何も無い場所から自分の得物を取り出すと、こちらに突きつけた。

 杖ならぬバットを。

 魔女の定義とは一体何だったのか。


「おい、俺を抜かして話を進めるなよ」


 魔女のインパクトで彼の存在を忘れそうになっていた。ハインラッドの声が響くと、黒い球体の上下に裂け目が走る。

 切り裂かれた球体は瞬時に水に戻り、辺りに飛散した。同時に中から無傷のハインラッドが飛び出し着地する。手には小さなナイフが握られていた。


 ウサ耳魔女を見て、彼は意外そうな顔をした。


「獣人属の魔属か、てっきり人間かと思っていたんだがな」


 私は彼が持っているナイフに注目した。


「ハインラッドさん、もしかしてそれは」


「ああ、D・Bソードだ」


 やはりそうだ。魔法を切り裂いたナイフは、伝説のD・Bソード。いや、この場合はD・Bナイフだ。

 彼のマントの下にナイフの束が見えたのには驚いた。どれだけ作ったんだこの人。


「人間なんかと一緒にするんじゃないニャ!それよりお前、何で生きてるニャ」


「あの程度の魔法が俺に効くかよ。俺の魂はお前なんかには扱える程安くないぜ」


 スピカさんの治癒魔法と同じく、彼には魔法が効きにくいらしい。ウサ耳の態度からすると、先程の魔法は命を奪う程のものだったようだ。池に近付かなくて本当に良かった。


「なら、これでどうニャ!」


 アネッサは、持っていたバットを勢い良く地面に突き刺した。幼い見た目からは想像できない怪力で地面には大きな亀裂が走る。

 この世界の少女は皆怪力を標準装備しているのだろうか。


「ストーン・ボックス」


 魔法により亀裂からいくつもの石柱が飛び出した。私の身長よりも明らかに大きい柱は、亀裂に沿ってどんどんこちらに迫ってくる。狙うのはハインラッドだけにして欲しいが、そう甘くはないようだ。


「ライシャさん、お願いします!」


「おう」


 すかさず私は自分のボディーガードの後ろに隠れる。こういうのは一般人に何とか出来るものではないので、プロにお任せだ。


「ふん」


 ライシャさんが奴のように地面に拳を振り下ろした。


 ドグシャッ!という衝撃音と共に派手に地面が割れ、押し寄せた石柱を前方に吹き飛ばした。

 魔法を放ったアネッサは、分厚い石柱を何本も自分の前に出現させる事により、土砂と砕かれた石の直撃を免れた。


「ふう、危ねえ危ねえ」


 いつの間にか向こうにいたハインラッドが、私と一緒にライシャさんの後ろに隠れていた。


「魔法の効かない人が、どうしてこちらに来るんですか」


「物理系までは無理だ」


「じゃあ持っているD・Bソードを使えばいいじゃないですか」


「俺は剣士じゃない。無理だ」


 肝心なところで役に立たない男だ。クロノ君のありがたみが良く分かる。


「それで、これからどうします」


 アネッサは懲りずに石柱の魔法を連発している。勿論ライシャさんの手によってことごとく破壊されていく。


 魔法面では詠唱がいらない分、向こうの方が断然有利だ。今はライシャさんのおかげで攻撃は防がれているものの、広範囲の魔法を使われればいくら彼女でも防ぎきれないだろう。


 かといってライシャさんを攻撃に回せば、飛べない我々は間違いなく石の下敷きだ。そもそもこの状況で、彼女に生け捕りという繊細な作業ができるとは思えない。魔女の体は石人形のように砕かれ、スプラッターな光景が広がるのが目に見えている。


「大丈夫だ、策はある」


 また妙に自信たっぷりのハインラッドは、鞄から先程使用した酒瓶を取り出した。中身はほとんど残っていない。


「傭兵の姉ちゃん、もう少し時間を稼いでくれ」


 ハインラッドは瓶を地面に叩きつけ粉々に砕いた。彼が呪文を唱えると、ガラスの破片を核にした小さな人魂もどきが次々と生まれていく。


 今気付いたのだが、彼はかなり小さな声で呪文を唱えている。

 こんな至近距離にいても、ぼそぼそと呟くような音しか聞こえないのだ。


 良く考えてみれば大声で呪文を唱える方がおかしい。敵に今から攻撃するのを伝えているようなものだし、相手が魔法使いならどんな魔法を使うのかもばれてしまう。


「なあ、あいつの腕でも千切るか?魔法止まるかも」

「やめて下さい」


 そんな恐ろしい光景、見たくありません。


「じゃあ口を」

「いいですから!ライシャさんは攻撃を防いでくれるだけで」


 こちらを振り返りながら話をするとは、うちの傭兵様は随分余裕だ。一方ウサ耳は疲れこそ見せないものの、大分苛立っているようだ。

 無理もあるまい。いくら魔法をぶっ放しても、素手であしらってしまう人間がいるのだ。しかも自分の方を見ずに、仲間と話をする余裕まであるのだから。


「むぅ、アネッサを馬鹿にするとはいい度胸ニャ。でもこれならどうニャ!」


 アネッサは、魔法の光を纏うバットを振り上げた。辺りに散乱した石柱の欠片が白い砂になり、魔女の元へと引き寄せられていく。

 嫌な予感がする。まさかあの大量の砂を使って、巨大な石人形を作るのではないだろうか。


「お前たちニャんか、まとめて踏み潰してやるニャ」


 ズバリ的中だった。どうしてこう悪い勘ばかり当たってしまうのだろう。


 魔法をかけられた砂は空中に浮かびどんどん集まっていく。形作られたシルエットはクロノ君やスピカさんが相手にしていた物よりもずっと大きい。

 いくらライシャさんでも、こんな大物を相手にするのは大変なのではないか。


「てや」


 と思ったのは一瞬で、すぐに考えを改める事になった。

 攻撃の手が緩んだ隙を見逃す彼女ではない。我々に向けられた怒涛の攻撃が止むのと同時に、地面を蹴り一足飛びで作りかけの石人形へ殴りかかる。


 一撃目で構成中の石を粉砕。


 二撃目は手のひらを大きく開き、引き裂くような形で粉になった欠片を吹っ飛ばした。


 尋常ではない力で欠片は彼方へ消え、あるいは地面に深く捻じ込まれ、もう二度と石人形を作るには使えないだろう。

 あまりの出来事に、さすがの魔女も唖然としたまま動けずにいる。


 棒立ちのアネッサの足元に、いつの間にかキラキラ光るガラスの欠片が集まっていた。恐らくハインラッドが先程のドサクサに紛れ、人魂もどきに運ばせたのだろう。ガラスは歪んだ円を作り、魔女を囲んでいる。


「ロスト・サークル」


 ハインラッドが呪文を完成し、地面を叩いた。手元には円から伸びたガラスの欠片が一直線に続いている。

 魔力を受けた欠片は円へと辿り着き、光に縁取られた黒い魔法陣を形成した。


「しまったニャ!」


 慌てて飛び退こうとしたアネッサだが、気付くのが遅かった。既にハインラッドは次の魔法を準備していた。


「アイアン・ボックス」


 彼が使った魔法は、大型石人形にスピカさんが使用したのと同じもの。こちらは手のひらサイズで細い鎖が数本飛び出し、魔女の足に絡みついた。鎖は地面の魔法陣に刺さり、彼女を縫い付ける事に成功した。


「どんな魔法を使ったんですか?」


 魔女の攻撃が完全に止んだのを確認し、私は立ち上がったハインラッドに近付いた。


「相手の力を封じるものだ」


 穴開き手袋に付いたガラス片を払いながら、彼は魔女の元へと向かった。魔女の力を封じたという事は、クロノ君達に任せた巨大石人形の活動も止まるだろう。後で連絡をして合流しよう。


 ひとまず、危険は去ったようで安心した。



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