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07こんなの魔女じゃない!


「スドウ、あれじゃないのか?」


 ハインラッドを担いで走っていたライシャさんが、振り返らずに言った。彼女の視線の先には高さ30メートル程の巨大な樹木があった。木は焼け焦げたかのように真っ黒で、一枚も葉が無い。根元には同じように漆黒の水を湛えた池が広がっている。


 池の周りの地面だけに草が無く、土が剥き出しになっていた。夜の闇の手伝いもあり一層不気味な雰囲気だ。ご丁寧にカラスまで鳴いている。


 木の頂上付近には建物のような物が見える。あれが魔女の住まいだろうか。

 だとすればかなり落ちぶれている。外壁はボロボロだし、骨組みも曲がっている。屋根は無く、大きな布が風にはためいているだけで、小屋とも呼べない代物だ。


「こんな所に人が住んでいますかね」


 私としてはあまり近付きなくないので、様子を探るのは二人に任せた。背中から降ろされ、ようやく自由になったハインラッドは魔法陣の刻まれた手をかざし、魔力を探っているようだ。


 ライシャさんは黒い池の水をすくい、あろう事かそれを舐めた。


「何だこりゃ」


 むしろあなたの行動の意図が意味不明です。よくもまあ、何が入っているかも分からない不気味な液体を口にできるものだ。

 あれですか、傭兵なので毒とか飲んでも平気ってやつなんですか。そんなアピールは今いりませんから。


「出てくる気配はないな。かと言ってあそこに乗り込むのも一苦労だな」


 木にはハシゴのような物は見当たらない。魔女の住まいだからか、魔法を使わなければ普通の人間は近付けないだろう。側にいる傭兵様の跳躍力なら可能かもしれない。


「あそこにはいないんじゃないか」


 当の傭兵様はそう言って上を見た。確かにあんな所で待ち伏せしているとは考えにくい。見晴らしはいいだろうが、あの小屋はどう見ても人が住めそうにない。今にも崩れてきそうだ。


「だがここが魔力の発生源なのは間違いない。きっとどこかに隠れているはずだ」


 隠れるといっても、木の上にいるのであればライシャさんが見落とすはずが無い。離れた場所の見えない敵でさえ発見し、気配が無い石人形にも即座に反応した。

 彼女の索敵から逃げるのは、伝説の勇者とて不可能かもしれない。


「とりあえず引っこ抜いてみるか?」


「やめてくれ、魔女が落ちて死んだら困る」


 魔女の討伐だけなら手っ取り早いが、今回は生け捕りを目的としている。


「じゃあ燃やすか」

「同じだろうが!」


 条件反射でツッコミを入れるハインラッド。勇気のある人だ、私にはとても真似出来ない。

 反論されたライシャさんは、そんなんで死ぬか?と首を傾げていた。


「まあ燃やすのは論外だが、燻り出すって考えは悪くないな」


 ハインラッドは一歩前へ出た。何かいい手でも思いついたのだろう。


「あんたはちょっと下がってた方がいい。服を汚したくなければな」


 何をする気か分からないが、とりあえず彼の言葉に従い、距離を取る。

 ハインラッドが確認すると、黒い木を指差した。


「マイト」


 ズガン、と大きな音を立てて樹木の根の近くが爆発した。振動により幹や枝が大きく揺れている。土と一緒に巻き上げられた小石が、ばらばらと重力に従い落ちてきた。


「マイト」


 続けざまに魔法を放つ。またもや大きな音を立てて振動する大木。今度は上部にある家の細かな欠片が降り注ぐ。音の割に威力は小さいらしく、ボロ屋が倒壊する程ではなかった。

 魔法が直撃した木も、表面が多少削られた程度だ。


 三発目を撃つとハインラッドは、様子を見るために一度動作を停止した。

 黒い池には大きな波紋が発生している。


「反応は無しか」


「大丈夫なんですか?そんなに魔法を連発して」


 先程魔力の温存を主張していた人とは思えない行動だ。


「ああ、こいつはガキでも使える簡単な魔法なんだ。ほとんど威力が無いし呪文の詠唱も必要ない。多少強化はしてあるがな」


 なるほど、音と振動で魔女をおびき出そうというわけだ。しかし魔女が出てくる気配は一向に無い。辺りも静寂を保ったままだ。ライシャさんが言うように、本当はここにいないのではないか。


 だとしたら魔力の反応だけを残し、姿を見せない目的は。

 

 罠?


“シャドウ・ボウル”


 私の予感はどうやら的中したようだ。地面から突然女の声がしたかと思うと、黒い池の水が勢いよく噴き出し、一番近くにいたハインラッドの周りを取り囲んだ。

 黒い水はあっという間にドーム状になり、彼の姿をすっぽり覆い隠してしまった。


 全ての水が吸い出された池のくぼみには、小さな黒い家が建っていた。


 これこそが魔女の住処だ。その証拠に屋根の上に小さな人影が見える。魔女と思われる人影は、屋根の上から一足飛びでこちらに飛び出した。


 魔女、と思われるそいつが近付くと、ハインラッドを閉じ込めた黒い塊はふわりと宙に浮いた。姿も声も隠れてしまったため、中の様子を知る事はできない。


 ところで、私が魔女と言い切らないのには理由がある。

 魔女といえば帽子・黒い服・箒の三点セットをまず思い浮かべるだろう。


 現れた人物は子供のような容姿で魔女っ娘といった感じだ。


 大きなボタンの付いた黒い服。OK、条件を満たしている。

 背中のリュックにはきちんと箒も括り付けられている。自力で跳ねてきたので使われる事は無かったが、立派な魔女アイテムだ。


 帽子も被っている。魔女が帽子を被るのは当然なのだ。しかし、一つだけ腑に落ちない事がある。


 どうして野球帽なんだ!

 帽子の上からウサ耳が生えているとか、普通の耳も見えて耳が四つあるとかは最早どうでもいい。


 そこはとんがり帽子とかフードでいいだろう。非常に突っ込みたい気持ちだ、

 が、ハインラッドが捕まっているこの状況で、帽子について議論している場合ではない。


 黒い球体の前に立ったウサ耳魔女?は、しばらくそれを眺めていたかと思うと、ニヤニヤ笑いながらこちらに向き直った。



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