エピローグ的な何か
「はい、確かに全額受け取ったよ」
あたしはカリン。今日はウチの客の中でも付き合いが長い男から宿代を徴収した。あの男が他人のために金を払ってやるなんて思いもしなかったよ。
言っちゃなんだが、あのやくざな男に付いていくたぁきっとロクな目に遭わないね。同郷のよしみで預かっていた傭兵女。あいつも物好きなもんだよ。
「さて、今日はそろそろ店じまいかね」
カウンターの片付けを始めようと思った時、そいつはやってきた。
「セーフ!」
入口を閉めようとした旦那の脇をエプロン姿のガキがすり抜けた。
すぐ分かったよ。こいつもあたしと同じ世界の人間だってね。常識がなっちゃいないんだよほんと。抜き身の包丁持ち歩くなんて、どこの強盗だよ。
「まだ終わってないよな!ここって宿屋だろ?」
黄色い髪のちびっこいガキがカウンターに飛びついて来た。やれやれ、せめて足の返り血を拭いてから入っておくれよ。掃除が面倒なんだからさ。
「すいません、まだやってますか」
保護者のご登場だ。何かやたら黒い男だね。
「はいよ、お泊りで?」
「とりあえず一泊でお願いします」
ボサッとした黒髪の男は大荷物を脇に置いた。
「なー圭介、明日は大戦記行こうよ。強い奴いっぱいいるんだろ」
宿帳を記入している男に引っ付いてガキがわめいてる。ぼんやりしてないで注意したらどうだい。あんた絶対書きづらいだろ。
書き終わると男は荷物からボロ布を出してガキの足を拭いた。ガキは気にせず話し続けてる。
「妖精とか見たいなー、妖精!持って帰ったら売れるかな」
「持って帰れないよ」
「えー、エルガイムのおっさんに売ろうと思ったのに」
あたしは二人部屋の鍵を渡した。
「親子かい?仲がいいね」
受け取った男は首を横に振った。
「いいえ、妻です」
驚いたよホント。まさかあたしが何も言えなくなるなんてね。
他の世界に出て長いけど、まだまだ自分の世界でさえ知らない事があるんだね。階段を上がる男を眺めるしか出来なかったよ。
「行くよ、スターシャ」
「分かった!」
エプロンのリボンに包丁を差した黄色いガキは、男の荷物を片手でひょいと持ち上げて後を追った。
「ほんと、世界は広いねぇ」




