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24俺達の冒険はこれからだ


「面白い体験をさせてもらった。次の機会があったら呼んでくれ」


 オータムレイン行きのゲートの前で、ハインラッドと別れる事にした。

 他世界の生物の持ち帰りは出来ないが、ある程度の関係を築いた相手を呼び出す事は可能だ。勿論時間旅行の範囲内で、平行世界から現実世界に連れ出す事は出来ない。


 思えばここ数日間はずっと行動を共にしてきた。私の代わりに不幸を引き受けてくれそうな彼とは、これからも良い関係を築いていきたい。

 私は下心満載の笑顔で握手をした。


「こちらこそ助かりました。ぜひまたお会いしましょう」


「ああ」


 返事を残してハインラッドは姿を消した。彼との関係強化は仕事の達成と同様に大きな収穫といえる。

 転送の様子にライシャさんはいちいち感心している。私としては瞬間移動かと見間違える身体能力の方が驚異だ。


「スドウ、すごかったなケースケの魔法」


「そうですね」


 ライシャさんの攻撃を防いだ魔法といい、短期間であれだけの力を身に付けたのは素晴らしい成長と言える。才能が無いと嘆いていたのが嘘のようだ。


「あたしの所でも帰ったら会えるのかな?」


 帰ったら、という言葉を聞いてドキッとした。

 仕事を終えたなら彼女ともお別れだ。目的であった魔法を見てしまえばライシャさんを引き留める理由は無くなる。

 当たり前の事をすっかり忘れていた。


「どうでしょう。実際の世界では私達は彼に関わっていませんからね。案外あっさり死んでしまっているのかも」


 そうだ、所詮平行世界も時間旅行も一時の出会い。私とライシャさんも本来は出会うはずが無かった存在だ。ゲートの試験運用が終われば、彼女も傭兵業に戻り本来の役目を果たす。


 繰り返す戦争の中、死ぬまで戦い続ける。私とは生き方も考え方も正反対の人間。


 スピカさんやクロノ君とは違い、お使い感覚で気軽に呼び出してはいけない人物だ。常識ある社会人として、引き際を見定めなくてはいけない。


「ライシャさん。約束の報酬です」


 私は彼女に護衛の報酬として、スプリングスノゥまでの移動費用と一泊分の宿代を渡した。


 本当はゲート代だけだったがハインラッドを無料で雇えた事と、彼がちゃっかり持ち帰った百年竜の鱗が高値で売れたためオマケで上乗せしたのだ。千年竜の鱗を持ち帰ったら一体どれだけの値がついたのか。

 シャーベッタにお願いすれば一枚くらい貰えたかもしれない。勿体無い事をした。


「サンキュー」


 袋の中身も見ず受け取るライシャさん。そこはもう少し確認すべきだろうに。ごまかしていたらとか思わないのか。

 全く、相手が私でなければ騙されてタダ働きさせれている所だ。もう少しプロとしての自覚を持って欲しい。


「それじゃあライシャさん、お世話になりました」


 今回の依頼も前回の魔女退治も、彼女がいなければ命を落としていただろう。もうあんな危険な任務を受ける事はあるまい。これからはもっと安全な仕事を選ぶようにしよう。


「今度戦争があっても負けないで下さいね」


 二度とライシャさんを呼び出す事も無いだろう。


「おう、スドウも死ぬなよ」

「縁起でも無い事言わないで下さい!」


 現実になったらどうしてくれるんですか。彼女が言うと冗談に聞こえない。


「じゃあな」


 あっさり爽やかに別れを告げるライシャさん。普通はまたな、とか言う場面だろうに。未練も何も感じさせない所が実に彼女らしい。

 ならば私もあえて言わせて頂こう。


「さようなら」


 気配りも対面も繕わず、一言だけ告げると私は振り返らず二階の自室に戻った。

 ちょっと清々しい気分だ。こういうのも悪くない。


 私は任務のレポートを書き、久しぶりに一人っきりの夜を明かした。



 翌日。窓の外は強い嵐だった。


 誰も周りにいないのをいい事に、私は昼頃に目覚め夕方からようやく活動を始めた。

 前回と前々回の依頼報酬のおかげで貯えに大分余裕が出来た。宿代と移動費に頭を悩ませる事も無く、しばらくはのんびりやっていける。仕事も選り好み出来るという訳だ。


 こんな嵐の日にわざわざ外出しなくてもいいだろう。

 私は椅子に座り携帯端末を眺めて一日を過ごす事にした。


 自堕落な生活もたまにはいいものだ。しかし最低限の身だしなみだけは忘れない。いつも通り髪を整え、ワイシャツに袖を通す。上着と鞄はきちんとクローゼットに収納してある。


「専属契約希望が増えていますね」


 時間旅行で商売を始めた当初は実績も無く、細かな単発の仕事ばかりだった。

 珍しい食べ物や特産品など、誰にでも出来るような簡単なものから、特定の人物の所持品や写真が欲しいなどといった犯罪スレスレのものまで。


 勝手が分からぬうちは報酬より移動費用がかさんだりと、失敗も多かった。経験を重ねるうちに物や人の使い方を覚え、ようやく特定の相手と専属契約を結べるまでになったのだ。


「内容はロクな物がありませんね。ブツの運び屋じゃあるまいし」


 ちょっと評判が良くなるとすぐこれだ。高額な報酬をエサにとんでもない仕事を提示してくる。

 取り締まりが無いうちに稼げそうな事は何でもやっておこうという魂胆だろう。ずらりと並んだ依頼内容はとても少年少女にはお見せ出来ない。


 現役犯罪者の某魔剣士なら引き受けてくれるかもしれないが。


「全て却下ですね」


 新規依頼の項目に並ぶ依頼を片っ端から消去した。

 私には既に専属契約の相手がいる。下手に別口で依頼を受けて信頼関係を崩してしまっては今までの苦労が台無しだ。


 続けて依頼者からの連絡項目を確認する。二つの依頼を出した相手、私が唯一専属契約を交わす人物だ。


 依頼人の名はSHAN。

 私と同じサン・サマー出身という以外は知らず、直接会った事は無い。

 統一性の無い依頼、それも妙なこだわりがあるため、報酬が高くとも仕事を受ける者は少ない。


 だからこそ私は目を付けた。同じ依頼を取り合う相手は少ない方がいい。


「ほう」


 連絡内容には契約更新料の値上げと新しい依頼が記載されていた。文面には依頼達成の功績により更なる活躍を期待するとあり、契約料は三倍に跳ね上がっている。


 これだけ待遇を変えるとなれば、一体どんな無理難題が待っているのか。今は懐に余裕もある。いくら報酬が高くても危険な物なら断ろう。

 私は幾分軽い気持ちで依頼リストを開いた。


「オータムレイン、カドケオス制作依頼」


 内容はシンプルだが不審な点がいくつか見受けられる。


 まず今までの依頼のような細かな指定が無く説明が大雑把だ。時代が明記されていないのはともかく、一番重要な誰に制作を依頼するのかが書かれていない。

 そして報酬額には制作過程に応じ支給あり、要相談とだけだ。


 どういう事だ。完成品を求めている訳ではないのか。


 不明点ばかりが多く、報酬も明確ではない。

 これは、明らかに試されている。


 私は緩慢な気持ちを切り替えた。依頼を受ける受けないに関わらず、試されていると分かれば真剣に取り組まねばならない。連絡項目を閉じ、代わりにオータムレインの歴史情報ソフトを立ち上げる。


 一般向けの無料サービスではなく、商売人向けの有料ソフト。四世界毎に個別販売されている。ハインラッドの教則本出版について調べようと購入しておいたのが役に立った。

 検索用語にカドケオスと入力するとすぐに一件の項目が表示される。


「血人王が持つ癒しの力と破壊力を併せ持つ杖」


 これだけでは良く分からない。続けて血人王という単語で検索した。


「八人の魔王の一人。カドケオスを持つ」


 何だかたらい回しにされている気分だ。せめてどの時代に存在するとかいう情報を載せておくべきではないか。スピカさんにでも聞いた方が早かったかもしれない。

 今度は血人王 関係者と入れてみた。検索結果は三件。


「魔人王ベリル、魔人王ハーレル、ハインラッド」


 魔人王ベリル 関係者と入力。


「魔人王ハーレル、ハインラッド」


 また回されパターンか。

 アプローチを変えて八人の魔王 関係者と入力してみると多くの項目が検出された。


「獣人王リアニー、魚人王セイマー、竜人王ペマ、食人王シャンデラ、血人王シャイン、魔人王ハーレル、機人王チェンマー、大魔王リンバー、・・・ハインラッド一味」


 どんだけ色々関わっているんだろう、あの人は。

 彼か関わっているともう嫌な予感しかしない。血人王とかいう単語もそうだ。絶対に危ない&スプラッター決定ですよコレ。


「ライシャさんがいるならまだしも、あの二人じゃあ」


 スピカさん・クロノ君・ハインラッド。

 どう考えてもトラウマ量産体制が整ってしまっている。


「いや、何言ってんですか私は」


 無意識に口に出してしまった最強傭兵様。彼女とは昨日きれいさっぱり別れてしまったではないか。


 やめておこう、いくら期待されたからといっていきなりこんなデンジャラスな依頼は受けられない。もっと他で人脈や世界についての知識を深めてからでも遅くはないだろう。


 私は情報ソフトを閉じ、一般依頼の情報を呼び出した。こちらには危険の少ない、普通の仕事が並んでいるはずだ。


「えーと、ウィンターナイト後期 宿舎の清掃」


 うん、常識的な仕事だ。募集要項に死体が平気な方、とか生命保険完備とか書いている以外は。

 見なかった事にして次の情報に目を通す。


「サン・サマー前期 無人島サバイバル設営」 


 猛獣注意と書かれている。却下。


「オータムレイン前期 大魔王城清掃」


 いやいや、こういう所に出す募集じゃないだろう。黄色いマスコットが平気な方、とかどういう意味なんだ。


「スプリングスノゥ現期 呪いの塔発掘と攻略」


 おかしい。一体いつから一般依頼は冒険者ギルドになった?

 他にも危険を伴う任務がいくつも並んでいる。報酬も見合った額が提示され、依頼者は時空エージェントと表記されていた。

 聞いた事も無い名前だ。新規参入した業者だろうか。


 この依頼者が出しているのがやたら冒険めいた内容で、退治・救出・探索などという単語に溢れていた。

 引っ張られる形でグルメ・旅行ガイドのようだった一般依頼が変貌してしまっているのだろう。


 困った。安全で確実な仕事は一体どこに行ってしまったのか。


「世の中の移り変わりというものですかね」


 血気盛んな若者には嬉しいだろうが、私のような人間には合わない。金は欲しくとも怪我や危険はお断りだ。

 ついていけない世間の流行りにため息が出る。


「まあ、ライシャさんならどれも楽勝でしょうけど」


 超傭兵様なら大魔王城の掃除もダンジョン探索も同じようなもの。彼女と一緒ならどんな場所でも安全に活動出来るだろう。


「今更何を言っているんだか」


 今日はどうかしている。無駄に独り言が多くなってしまうのは良くない兆候だ。

 そういえば朝食も昼食も摂っていないではないか。栄養が足りていないから余計に気持ちが沈んでしまう。


 夕食には少し早いかもしれないが、少しでも気分を変えるために私は部屋を出る事にして扉を開けた。



「よう」


 廊下にモップを持ったライシャさんがいた。


「えっ?」


 今、きっと私は物凄く間抜けな顔をしている自信がある。


「ここで、何をしているんですか」


「掃除」


 見りゃ分かる。まさか掃除用具を持って暗殺に来る訳が、彼女なら無いとも言えないのが怖い。


「そうじゃなくて!どうしてまだこの宿にいるんですか。てっきりもう帰ったとばかり」


「宿代が足りなかったから働いてる」


 何だって?

 私は確かに宿代を含めた報酬を渡したはずだ。金額もきちんと確認済みで間違うはずが無い。


「ライシャさん、いつからここにいるんですか」


 もしかして、彼女がカリンさんの宿に滞在していたのはあの日だけではなかったのか。


「うーん、一年くらい前か?」


「ゲート代合わせても足りる訳ないじゃないですか!」


 多分、今世紀最大のツッコミが炸裂した。


「宿屋の経営を何だと思ってるんですか!宿泊すればお金が掛かるに決まっているでしょう!もっと早く気付いて働くなり何なりして料金を支払いなさい!傭兵でしょう!」


 私の剣幕に超傭兵さまがちょっと、ほんの少しだけ怯んだ。


「お、おう」


「大体一年もここにいて出会わないってどういう事ですか!引きこもりですか!」


「いや、カリンの奴があんまり外に出るなって」


「言い訳無用!恩人を呼び捨てにしない!あなたは強さの前にまず常識を知りなさい!」


「ぉ」

「返事は分かった、もしくはハイ!」


「はい」


 素手で熊を切り裂く歴戦の彼女が素直に頷く姿に、私は少し冷静さを取り戻した。

 働く意識の薄い彼女につい強く当たってしまったが、今のはかなり命知らずな行動だったんじゃなかろうか。


 ちょっと間をおいてライシャさんが生徒がするように手を挙げた。


「何です、ライシャさん」


「えーと、スドウ、さん?」

「別に私は呼び捨てでもいいです」


 彼女にさん付けされるなんて正直気味が悪い。ライシャさんは説教に反発もせず、意外と学習能力もあるようだ。


「どうやって金を稼げばいい?」


 粗暴な彼女にしては物凄く控えめな態度。ヒートアップしていた頭の温度がもう一段階下がった。 


 そうだ、彼女には仲介業者がいる。今までは全ての仕事が管理されていたのだ。傭兵としての強さだけを磨いてきた彼女が他の世界での働き方を知っているはずが無かった。

 少しだけ罪悪感が生まれたが、私はツッコミテンションのまま彼女の質問への答えを出していた。


 私が今すべき選択とこれからの答えを。


「宿代は払いますから、私と一緒に来なさい!」


 何を迷っていたんだ。他人の都合を考えるなんて私らしくない。

 目の前に大金を稼ぐチャンスがあるのだ。乗らなければ商売人の名がすたる。私にはどんな困難も破壊しつくす力を持つ傭兵様がいるではないか。


 危険が何だ。ライシャさんのおかげで超が付く程危険な世界でもかすり傷一つ負わなかった。

 この素晴らしい逸材を逃してなるものか。


 私は右手で彼女の手を取った。今度こそ主導権を握るために。


「こうなったらとことん稼ぎますよ。目一杯働いてもらいますから覚悟して下さい」


「分かった」


 何嬉しそうにしてるんですか。人が世の中の厳しさを教えてやろうとしているのに。

 いいでしょう。私を本気にさせた事を後悔させてやりますよ。


 私はモップを脇に放り、男らしく彼女の手を引いた。


 たまには冒険をしてやろうじゃないか。



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