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18はい、M確定しましたー


 圭介は門番の仕事に戻った。と言っても橋の近くでぼんやり立っているだけだ。


 この国の門番が攻撃的でなくて良かったとつくづく思う。一番弱い子供さえ即死級の魔法を使えるなら、一般兵のエルフはどんな凄い魔法を使うのやら。

 確かにライシャさんの言うように、危険さえなければちょっと見てみたい。


「ライシャさん、大戦記の後レイジットはどうなったんですか」


「全滅だって聞いたぞ。魔法使いはみんな死んだからな」


 あの子供モドキも戦線に立って死んだのだろうか。歴史は時に残酷なものだ。

 ライシャさんはエルフの魔法に未練があるのか、まだ圭介を眺めている。あまり見つめると穴でも開きそうなので、程々にしてほしい。


「しかし逃げ出すためとはいえ、よく咄嗟にあんな大嘘を思いつきましたね」


「何だ、ばれてたのか」


 ハインラッドは意外そうな顔をしている。私が騙されると思っていたのか。純情少女じゃあるまいし。


「いくら何でも無理矢理過ぎじゃないですか。名前が同じ人間なんてこの広い世界に何十人と存在しますよ」


 ジークなんて大して珍しくもない名前、どこの世界にでもいるだろう。中には多少外見が似ている者がいてもおかしくない。


 彼は隊長の名前から勇者を連想し、これ幸いと思いついた嘘をテキトーに喋った。

 おかしな言動で場を混乱させ、隙を作るのにまんまと成功したという訳だ。


「俺もあの隊長が勇者だなんて思ってないさ。もっとも、話の大部分は本当だけどな」


 ああ、死体を処分した云々の件ですね。分かります。


 ついでに私は彼に対して感じていた疑問を口にした。


「ところでハインラッドさん、今インレーザーを何匹持っているんですか?魔法も詠唱無しで使っていたようですし」


「うん?そうだな」


 彼は少し考え、こう答えた。


「大体三百六十匹、前後か」


「そんなに契約して大丈夫なんですか?」


 私は驚くと同時に納得した。彼の顔色が以前にも増して悪くなっていたのはこういう理由かと。


 勇者のように不死身ならインレーザーを使用する事が可能だろう。

 ただ一つ問題があるとすれば彼が普通の人間、それも虚弱体質であるという点。


 魔属のアネッサでさえ、一匹のインレーザーを使役するために魂を集め続ける必要があった。


 魂を吸われ続けていれば、いくら不死身とはいえ相当の負荷がかかる。

 三百匹以上となれば肉体と精神にかかる負担は計り知れないだろう。干からびていないのが不思議なくらいだ。


「まぁ確かに肉体が7日くらいしかもたなくなったが、適度に死んでるから大丈夫だ」


「どこが大丈夫ですか」


 やはりMか。Mだからなせる業という訳なのか。


 果たして彼が子供エルフに命の尊さを語る資格があったのだろうか。


「魔法に関しては企業秘密だ。そのうち教則本を出版する予定なんでな」


 スピカさんが言っていた話や彼女の魔法を見るに、ハインラッドの本は後に広く浸透したようだ。専売契約を結んでいたら大きな利益を得られたかもしれない。

 機会があったら調べておこう。


 誰でも魔法が使えるようになるというのは興味深いが、下手に力をつけると戦闘要員と見なされてしまう恐れがある。ならばいっそこのままの方が守られる身としては安全だ。


 私に魔法を習得するという選択肢は一生無いだろう。


「さて、そろそろ行きましょうか」


 ここに長く留まる理由は無い。私は次の目的地へ移動すべく、ゲートを作動させた。

 


 大消失終了直後のスプリングスノゥ中期、多くの死を経て訪れた時代へと私達は降り立った。


 一番危惧していた魔法使いが死ぬという要素。ハインラッドが死んでいないのを見れば危険は去っていると解る。

 部分的に魔法の力を利用しているゲートが存在するのだから、ある程度は予測出来たが確信が持てないままあの二人を連れて来る訳にはいかなかった。


 無論私一人で来るという考えは最初から存在しない。


 私達三人が訪れたのはレイジットの全く同じ場所。

 のはずなのだが、周りの景色が明らかにおかしい。


 普通戦争直後といったら、焼け野原や廃墟など荒廃したイメージを思い浮かべる。


 しかしここはどうだ?枯れ木林の姿は消え失せ、代わりに果実の実った大木が立ち並んでいる。濁っていた沼があった場所には透き通った深い湖。底には色とりどりの水晶が沈み、光を反射している。


 まるで楽園のような姿に全員が歓声を上げた。


「スドウさんよ。これって、同じ場所だよな」


「ええ、間違いありません」


「何だあれ、綺麗だな」


 ライシャさんにも人間らしい感性があったのか。景色よりそちらの方が驚きだ。


 ハインラッドは湖に沈む美しい水晶に目が釘付けだ。書籍出版の目的のため金が必要な彼の事だ。持ち帰って売れないかなどと考えているのだろう。

 私も拾いたいが今はそんな場合ではない。邪魔が入らないうちに本来の目的を果たさなくては。


 大消失で魔法使い達が全滅しても安全という訳ではない。生き残ったライシャさんのような超傭兵がウロウロしているかもしれないのだ。誰かに見つかる前に事を済まさなくてはいけない。


 私は鞄から例の宝玉を取り出した。真珠のような輝きを持つ玉は赤ん坊の頭ぐらいの大きさだ。おかげで私の荷物が圧迫されている。早く済ませて鞄の負担を減らしたい。

 ハインラッドはまだ水晶を見ている。そんなに欲しいのか。


「ハインラッドさん、お願いします」


 私は彼の様子を無視して宝玉を差し出した。依頼を片付ける事が第一の目的。目先の欲に目が眩んでいては大きな成功を逃す破目になる。小金を稼ぐのは全てが済んでからだ。


「ああ、任せろ」


 ハインラッドは宝玉を受け取ると早速準備を始めた。氷の魔法で土台を作り、中央部分に宝玉を設置。懐から小さな瓶を取り出すと、少し離れた位置から地面へ中身を注いだ。


 赤い液体が地面に染み込むと、宝玉の土台を囲むように線が伸びる。円が完成すると更に内側にもう一本赤い線が進んでいく。前の線との間に模様を描きながら一周し、二重円の魔法陣が完成した。


 液体が何なのかは聞かなくても分かる。

 赤い線が走り出した途端に、周りの美しい風景とはかけ離れた生々しい鉄の匂いが漂ってきた。

 ここへ来る以前に彼が大量にぶちまけていたものだ。魔法陣が完成すると不思議な事に匂いは消えたが、赤黒い線の自己主張が目に痛い。


「これだけか?魔法は使わないのか」


 ライシャさんは宝玉を覗き込んだ。いつの間にか普通に魔法陣の中に入っている。

 ハインラッドが止めようともしないので、特に危険は無いようだ。ハイパー傭兵の彼女ともなれば、一瞬見ただけで危険かそうでないかが分かるのだろう。多分。


 でなければただの馬鹿だ。


「こいつは魂を集めるための撒き餌みたいな物だ。誘われて来た所をまとめて玉に封じ込める。魔法はその時見せてやる」


 台座を作った時といい金髪と戦った時といい、ハインラッドは氷の魔法を得意としているようだ。強度は無いが色々と応用が利くため、臨機応変な彼の戦術に合っている。


 一方猪突猛進な体育会系魔法使い、スピカさんがよく使うのが丈夫な鉄の魔法。彼女が振るう武器も鋼鉄のハンマー。

 使用者の性格が魔法に表れているのかもしれない。


 などと他愛の無い事を考えているうちに辺りが急に冷えてきた。まだ日も高く暖かい日差しが降り注いでいるというのに、空気が冷たくなるのが分かる。


「ちょっと寒くないですか」


 氷の台座から冷気が流れている訳でもない。体感温度が下がるというよりも悪寒に近い。

 ライシャさんは何も感じていないようで平然としている。


「魔力の無い奴には見えないかもな。大分集まってきたぜ」


「ほんとか?何も見えないぞ」


 どうやらこの短時間で魔法陣の効果が表れているらしい。魔法使いの彼には引き寄せられた魂が見えているが、私やライシャさんの目には何も映っていない。別に見たくもないので好都合だ。


 クロノ君は霊感があるらしいので、この場にいたら親切丁寧に形状や質感までも説明してくれただろう。彼を連れて来なくて良かった。


 断っておくが、別に怖いわけではない。

 ただ幽霊というものが存在したとして、見ただけで起こるという理不尽な災いを被りたくないだけだ。


「変わった魂が多いな。世界が違うとこういうものなのか?」


 具体的に何がどう変わっているのか聞いてみたいが、普通の魂自体見た事が無いので何とも言えない。じゃあ見せてやろうかなどと言われても困るので私は黙っていた。

 傭兵殿は魔法に興味はあっても魂には無いようだ。見てみたいなどと余計な発言をしないので助かる。


「そろそろやるか」


 ハインラッドは穴開き手袋の上に白い手袋をはめた。無地の布には小さな黒い王冠が印されている。


「魔法の手袋か?」


「似たような物だ。俺が触ると魂を吸収しちまうからな」


 インレーザーは契約しているだけで生命力を消費し続ける。命を凝縮した魂が餌となるため、契約者が触れただけで魂を吸収出来るのだそうだ。

 生きている者に対しては効果が無いらしいので安心した。

 だからと言って彼にベタベタ触る必要が無いので関係無い話だ。触るなら男より綺麗なお姉さんの方がいいに決まっている。


「テレポートパラソル」


 ハインラッドは何も無い所から魔法の傘を出現させた。スピカさんが使っていたフリル付きのファンシーな傘ではなく、持ち手部分が長い真っ黒な物だ。


 彼は魔法陣の中に入り、宝玉の上に傘をさす。影が宝玉をすっぽり覆い隠すのを確認すると、彼は左足のつま先で魔法陣の二重線を叩いた。途端に赤線がうねうねと生き物のように動き出し、形を円から渦巻きへと変えていく。


 土台を中心とした渦巻き模様が完成すると宝玉がぼんやり光り出した。目には見えないが螺旋の渦に引き寄せられ、魂が宝玉に集まっているのだろう。


 しばらくすると渦巻きの描かれた辺りにも変化が起きる。宝玉の光が地面を照らすと草の間から次々と小さな芽が出てきた。芽は伸び葉を付け様々な花が顔を見せる。

 薔薇や百合、ヒヤシンスなどまるで統一性の無い多種多様の花が、渦巻きに沿って咲いていく。しまいにはススキや桜の枝まで生えてきて、土台を中心とした一風変わったオブジェが完成した。


「シャドウ・ボックス」


 傘を漆黒の箱に変えて宝玉を包み込み、中から取り出すと魂の封印は完了した。


 ウサ耳魔女が似たような魔法を使っていたが、そちらはボックス魔法とは全く違う太古の魔術、ボール魔法なのだそうだ。

 何とも単純なネーミングだ。


 ボックス魔法が力を凝縮して制御するのに対し、ボール魔法は力を爆発させる要素がある。

 あの時ハインラッドに使われたシャドウ・ボウルは、肉体を破壊し魂を無理矢理取り出す魔法なのだそうだ。


 完成した宝玉の見た目は全く変わっていない。ハインラッドは宝玉を手にしたまま何やら考え込んでいる。


「どうしたんですか?」


 まさか失敗したのではないだろうか。


「いや、どっかで見た事あるような気がするんだよな。この感じ」


 どうやら失敗ではなかったようだ。無駄に心配して損をした。


「似たような品くらいあるでしょう。とにかく終わったなら渡して下さい」


 のんびりしているといつどんな邪魔が入るか分からない。

 私はハインラッドから宝玉を受け取ると素早く鞄にしまい込んだ。



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