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16ハンティングin城下町


 結局ハインラッドは試験に合格してしまった。

 先程まで余裕だった表情から一変、今度はどうやって断ろうかと頭を悩ませている。


 適当な所で負けておけばいいものを。深く考えずに行動する点は変わっていないらしい。


「すごいですー!見た事の無い魔法ばっかりでしたよ」


 ぷりちー妖精はきゃぴきゃぴとはしゃいでいる。肩の上で騒がれている隊長はいい迷惑だ。

 私は妖精の姿を携帯端末に記録しておいた。個人的な趣味ではなく、あくまで商売のためだ。誤解の無いようお願いしたい。


 金髪男は隅の方で落ち込んでいる。あれだけ自信満々で負けたのはかなり恥ずかしい。


 油断してはならないという教訓を身をもって知ったのだから、彼にとってはいい経験だろう。

 立ち直れなかったらそれまでの男というだけだ。


「では合格の証として警備隊の証を渡しましょう。と言っても、あなたにはあまり意味の無い物かもしれませんが」


 ギムネットの手には装飾の付いた小箱があった。箱の中には銀色のボタンが四つ。

 魔法剣が纏っていたような光がきらきらと反射している。


「百年竜の鱗でできたボタンです。魔法を僅かに弱める効果があります」


 確かにハインラッドには必要無さそうな品だ。後で私が貰っておこう。見れば警備隊の制服には同じボタンが光っている。


「では隊長」


 ギムネットは小箱を隊長に渡した。隊長が直々に渡すとなればますます入隊を断りにくい。ハインラッドの顔色が再び悪くなっているような気がする。


「魔法使いハインラッド。王国警備隊イージア隊長、ジークの名の下にお前を隊員として任命する」


 隊長の言葉と共に周りから拍手が巻き起こる。中にはやる気の無い顔や不満げな顔もちらほら見える。

 散々自分達の国を馬鹿にした男だ。共に戦うなどすぐに納得できるものではない。


 ハインラッドは苦笑いでもしているだろうと思いきや、隊長の顔を見つめたまま驚いた表情をしている。手に力が入っていなかったのか、受け取った小箱はそのままぽとりと地面に落ちた。

 彼の反応に隊長も怪訝な顔をしている。


「おい、どうした?」


「具合でも悪いんですか?」


 ハインラッドの顔色は悪いが、それは元からだ。彼は驚きの表情のまま、隊長を頭から爪先までじろじろと見ている。上下を三回ほど往復した辺りで気が済んだのか、視線を真正面に戻した。


「ジークだと?」


 隊長はだからどうしたと言いたげだ。呼び捨てにされた事については特に気にしていないらしい。


 負け犬の金髪が隊長に向かってその口の利き方は何だ!と喚いているがハインラッドの耳には入っていないようだ。

 彼は考え込みながらブツブツと独り言を言っていた。


「確かに赤毛で無愛想な態度は史実通りだが、もっと人相が悪かったはずだ。他人の空似か?そもそも死体ももう残っていないし、復活も不可能だ。俺が処分したんだから間違いない」


 何かすごく犯罪の匂いがする事を喋っている。元々人身売買の業者の手先なのだから、今更驚きはしない。

 純粋少女もこの場にはいないので、私は冷静に彼の自白を聞いていた。


 ライシャさんは魔法観戦も終え退屈なのか、他の魔法使いらしき隊員や妖精を見ている。まさか試験を受けられないので、喧嘩を売ろうなどと考えているなんて事はあるまい。


 いや、やっぱりあるかもしれない。彼女が一歩踏み出そうとしたのを目で制した。

 一体どんな文句で喧嘩を売ろうと考えていたのか。興味深いが危険度マックスな状況に陥りそうなので、彼女には大人しくしてもらう事にした。


 ライシャさんは私に止められて若干残念そうな表情をしている。

 スピカさんの代わりに騒ぎを起こさなくてもいいですから!本当に。


「俺を覚えているか、勇者ジーク」


 再び隊長に目線を戻したハインラッドの第一声。


 私は記憶を呼び覚ました。あの隊員募集の張り紙を見た時、隊長の名をどこかで聞いた覚えがあったのだ。

 あれは以前の魔女退治の際にインレーザーの話をしていた時に彼が言った一言だ。


 勇者ジークが使った光の魔法。


 伝説の男が語った伝説の物語。インレーザーを操り、光の魔王と戦う不死身の勇者。


 まさか、オータムレインの勇者がこの地にいるはずがない。ハインラッドが言うように、きっと同名で赤の他人だ。向こうの反応も鈍くギムネットがお知り合いでしたか、などと隊長に聞くも首を横に振る。

 どう考えてもありえない話だ。金髪は勇者ですか、さすが隊長!とほざいている。


「俺に復讐するためにわざわざ罠を張っていたって訳か。逆恨みにも程があるぜ」


「何を言っているんだ?」


 隊長はその場に居た全ての者の思いを代弁した。殺気さえ感じられるハインラッドの言動に、妖精は怯え隊長の後ろに逃げるように隠れた。不穏な空気を察した他の隊員達も身構える。


 私はハインラッドの意図が何となく読めた。

 皆が彼のおかしな言動に集中しているうちに、私はライシャさんにアイコンタクトを送りそろそろと後ろへ下がった。


「だがインレーザーの所有権はほぼ全て俺にある!今更何をしようともう遅い」


 ハインラッドの立つ地面がひび割れ、隙間から幾筋もの光が溢れ出す。光は彼の周りを旋回しつつ右腕へと集まっていく。

 光の筋は十本とも二十本とも見える。あれら全てがインレーザーだとしたら、一体どれ程の威力となるのか見当もつかない。



「近くで見たかったな、あれ」


「後で好きなだけ見せてもらえばいいですよ」


 既に城門近くまで走ってきた私達は、中庭からまばゆい光が炸裂するのを見た。

 中からは轟音と悲鳴が聞こえる。騒ぎに他の兵士も何事かと現場へ向かっていく。隅で待機していた私達は、辺りに人影が無くなるのを確認してから門をくぐった。


 後はこのまま外へ出るだけだ。城下町へと向かおうと思った私はある事を思いつき、発行所をこっそり覗いた。案の定中にいた者は中庭へ向かった後だ。追っ手が来るまでにまだ少しは時間がある。


「ライシャさん、こちらに向かってくる者はいませんか」


 傭兵様の視力なら中庭の様子もすぐ分かるだろう。

 だったらわざわざ近くに行かなくても様子は分かるはずだが、戦士として実際に見ておきたいという事か。彼女なら飛んでくるインレーザーを全て叩き落として、逆に投げ返してしまいそうだ。


 私は自分の技で蜂の巣にされるハインラッドを思い浮かべた。彼なら不死身なので死んでも大丈夫か。むしろ死んだ彼が起き上がってくるのを見た方が、精神的なダメージを受けそうだ。


「何かやるなら早めにしといた方がいいぞ。ササギの奴にやられてる」


 殺られてるという意味ですね。分かります。

 

 のんびりしている暇は無い。私は素早く発行所の中に潜り込むと、書類の引き出しを開けた。目的の物はすぐに見つかった。妖精のシルエットが印刷されたカード。これが妖精の国スイセットの通行証に違いない。


 この騒ぎなら一枚くらい持ち出しても気付かれないだろう。私は通行証を内ポケットに入れ、発行所を飛び出した。

 後は全速力で脱出だ。



 城下町も足早に移動する。何せこの世界で戦えない人間はいないのだ。普通に町をを歩いている者達も号令一つで戦士へと早代わりするのだろう。いくらこちらに最強傭兵がいても、町全体を相手にするのは分が悪い。

 復活したハインラッドが時間を稼いでくれていればいいが、あまり期待は出来ない。


「ライシャさん、向こうの様子はどうですか」


 彼女は追っ手の確認のため、後ろ向きで走っている。器用に障害物やすれ違う町の人の間を抜けていく。恐らく前を走る私の動きを気配で察し、同時に周囲の物の位置を特定しているのだろう。超音波を出していない事だけは確かだ。


「ハインラッドに槍が刺さってる」


 復活した早々にまたやられているのか、あの人は。どこに刺さっているのかは聞かないようにしよう。


「んで、後ろから走ってくる」


 私は振り向きませんよ。ええ、決して。


「集合場所を聞いてなかった。どこで落ち合う?」


 背後から聞こえるのは普段と全く変わらない落ち着いた声だ。

 カシャカシャと何かが地面に擦れているような音も仲良く近付いてきた。こっちに来るなとか、せめて槍を何とかしてから来いとか色々言いたかったが、無駄なお喋りで時間を消費している場合ではない。


 奴らが追ってこない場所はどこだ?


 敵国のブリュンヒルテ公国かレイジットだ。どの勢力にも属していない私達なら入国は可能かもしれない。まだ戦争が起こっていないので警備もそれほど厳しくはないだろう。


 私は走ったまま鞄から携帯端末を取り出すと、地図を展開した。ここから近いのはエルフの国レイジットだ。


 最も強い魔法を使う種族というのは脅威だが、こちらに敵意を持っていなければ問題無い。ブリュンヒルテ公国はその戦法から疑い深い人間が集まっているに違いない。どちらかを選ぶとしたら迷わず前者だ。


「レイジットへ向かいましょう。迂回して城を超えれば大きな沼地が見えるはずです。そこを目指して下さい」


「じゃあ俺はこのまま突っ走って囮になる。二人は先に行っててくれ」


 槍の刺さったまま走るハインラッドはさぞ目立っている事だろう。私達二人は一旦走るのをやめて人の流れに紛れ込む。後から来た追っ手はすぐに彼を見つけると、通り全体に聞こえるような声で叫んだ。


「槍の刺さった男を捕まえろ!」


 兵士の一声で付近にいたカップルが仲良くハインラッドに足払いをかけた。


 予想外の角度からの攻撃に、彼は見事にすっ転んだ。まさか通りすがりの男女がいきなり仕掛けてくるとは思いもしなかっただろう。見事な連携を決めたカップルがハイタッチする。


 受身も取れずに派手に転んだハインラッドは、民家の壁へと激突した。


 すると今度は家の窓から若い女性が顔を出し、二階から鉢植えを投下した。中に植物は無く、代わりに石が詰められている。

 まるでこういう事態を予想していたかのような準備の良さだ。凶器と化した鉢植えは、体勢を立て直そうとしていたハインラッドの右足へ見事に命中。

 鉢植え以外の何かが砕ける音と彼の短い悲鳴が聞こえた。


「生け捕りですかー?」


 女性は笑顔で次の鉢植えを準備している。兵士が否定すればすぐに止めを刺すつもりだ。


 恐ろしい。実は兵士より町の人間の方が強いのではないだろうか。


 絶体絶命の状況だが、不死身の彼なら何とかなるだろう。

 私はハインラッドの犠牲を惜しみつつ、獲物を追い詰める狩場へと変貌した町を後にした。



 特に大きな障害も無く、我々はルノ王国を脱出する事に成功した。



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