表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/25

14つまり馬鹿ってことです


 我々は城下町へと到着した。


 魔法でも体力までは強化出来ないらしい。

 軽いマラソンの距離を走ったハインラッドは全ての力を出し切り、小突いただけで今にも死にそうな顔をしている。


 いくら不死身だから大丈夫だといっても、これを連れ歩くのは見た目にも宜しくない。仕方が無いので彼にはこの辺りで待っていてもらい、私とライシャさんだけで城へと向かった。

 異を唱える者がいないので実に気楽だ。


 ライシャさんの話によれば城の中でスイセットの通行証を発行しているらしい。

 城門に警備は無い。まだ戦争が始まっていないとはいえ、少し不用心ではなかろうか。


 いや、私の世界の常識を持ち込んでも意味はあるまい。

 ここは最強傭兵ライシャさんの故郷。

 黒焦げや血まみれの人間が担架で運ばれているのもここでは日常的な光景なのだろう。



「やっぱり通行証は値が張りますね」


 城門をくぐってすぐの場所で通行証は販売されていた。手が出ない金額ではないがやはり高い。なるべく余計な出費は抑えたいというのに。


 ハインラッドに頼んでD・Bソードを製作してもらい、対魔法武器として販売してみようか。

 せっかく商売用のリボンがあるのだから利用しない手はない。


 私が資金集めの手段を考えている横で、ライシャさんは門の壁をじっと見つめていた。何か面白い物でもあるのだろうか。


「なあスドウ、これ何て書いてあるんだ?」


 彼女が妙な質問をしてきた。

 確か文字は自動翻訳されていてどの世界の住人でも読めるようになっていたはずだ。

 ましてやここは彼女の出身地。


「どれですか」


 疑問はとりあえず置いておいて、私は彼女が見ている城壁を覗き込んだ。

 壁には大きな字で書かれた張り紙があった。特に難解な表現がある訳でもない、普通の文章だ。


「王国警備隊募集 希望者は中庭まで 隊長ジーク」


「おお、さすがスドウ」


 私の中で疑問が解消された。


 ライシャさんは字が読めない。

 さすが人間殺戮兵器。無駄な知識は必要無いという事ですね。


 だから仲介業者が存在する。きっと彼ら傭兵には契約内容などという細かい概念は無いのだろう。

 目的を破壊し、打ち倒すのみ。何ともシンプルで恐ろしい集団だ。


「兵士を募集してるって事は、試験とかあるんだろ?魔法使いがいたら魔法見れるんじゃないか」


 彼女にしては良いアイディアだ。警備隊の募集試験なら周りを巻き込むような大きな魔法は使わないだろうし、相手を殺すような危険なものも無いはず。私も安全に観戦できるというものだ。

 何より参加費の項目が無いのが嬉しい。


「いいですね。行ってみましょうか」


 この世界での一般的な強さというものが分かるかもしれない。今後のためにもぜひ参考にしたい。

 私達は発行所の兵士に中庭の位置を聞き、試験の現場へと向かった。


 そういえば、先程の張り紙に書いていた名前をどこかで耳にした覚えがある。

 まあ覚えていないのは危険でないという証拠だろう。



 城の中庭はイメージしていた物とは違い、ひどく殺風景な場所だった。

 剥き出しの地面には申し訳程度に草が生えている。所々焦げた場所や抉れた土は、某魔女との決闘の地が思い起こされた。そしてまたもやすれ違う担架。今度は土まみれの泥人形だ。一体どんな入隊試験を行っているのだろう。


 どうやら入隊希望者は今運ばれた者が最後だったらしい。泥人形を生産したと思われる赤い髪の男が、ちょうど剣を治め中庭から退場しようとしていた。

 腕章を付けたこの人物が恐らく隊長だろう。奥には同じような格好をした警備隊が数名と一般の兵士達が控えていた。


「うん?あれはもしや」


 なんと、警備隊の中に羽の生えた小さな妖精の姿があるではないか。

 スイセットとは同盟国。この国に妖精がいてもおかしくない。


 これは通行証を購入しなくても魔法が見れるチャンスだ。


「今日の合格者はいなかったな」


 一仕事を終えた隊長(仮)は用意された簡素な椅子へと腰掛けた。


「お疲れ様です、隊長」


 色の違う腕章を付けた妖精が隊長(確定)の方へ飛び、左肩にちょこんと座った。捕獲して持ち帰ったら高く売れそうだ。


 ところで妖精に性別はあるのだろうか。隊長と共にいる妖精は可愛らしい顔と声から女の子に見えるが、実際はどうなのか分からない。もしも性別が無いのなら、一体どうやって繁殖しているのか。謎だ。


 おっと、こんな事を考えている場合ではない。今は魔法を見せてもらうのが第一だ。


「なあ、魔法見せてくれないか?」


 そうそう、魔法を。

 いつの間に移動したんですかライシャさん。


「何だ、入隊希望者か」


 いきなり目の前に不審人物が現れたのにも関わらず、隊長は冷静だ。妖精の方はちょっとびっくりした顔をしている。

 まさかただ魔法が見たいだけだと言う訳にもいかない。

 ライシャさんがおかしな言動を取る前に、何とか取り繕わなければ。


「すみません、入隊試験はもう終了ですか」


「何だお前達は!」

「この女、どこから現れた!?」


 後から来た私を見て、一般兵はようやく気付いたようだ。ライシャさんの超人的な身体能力はこの世界から見ても規格外らしい。


 さて、どうやって警戒する兵士達をごまかそう。

 一応商人用のリボンがあるのでセールスにでも来たと説明すれば納得してくれるだろうか。


「どうした、騒々しいな」


 騒ぎを聞きつけ、城の中から重装備の兵士と褐色の肌に金髪の、いかにも軽そうな男が出てきた。

 兵士に槍を向けられて平然としているライシャさんと、どう見ても弱そうな商人の私を見て男は首を傾げた。経過を見ていなければ状況が全く分からないだろう。


「何かあったんスか、隊長」


 うろたえている兵士に聞いても駄目だと判断した男は、赤毛の隊長に事情の説明を求めた。


「入隊希望者だ。最後の最後で随分骨のありそうな奴が来たな」


 隊長には襲撃でないと判ってもらえたようだ。

 実際にライシャさんは話しかけただけで誰にも危害は加えていない。当然といえば当然だ。


 この場はどうにか収まったが、この流れでは入隊試験を受けない訳にはいかない。

 幸い魔法を見たいという彼女の発言は忘れ去られたようだ。


 とにかく試験とやらを受けて後は交渉で何とかしよう。私はアイコンタクトを彼女に送った。今の状況で内緒話はできない。


「おう試験か、どんなのだ」


 私の意図はしっかりと傭兵様に伝わった。危険が無いと分かるとようやく兵士達は武器を下ろした。


「そうだな。本来なら俺が相手をしてやりたい所だが、休憩の時間だ」


「じゃあオレがやりましょうか?丁度退屈してたんスよ」


 金髪男は細身の剣を取り出した。刃の周りには何かキラキラとした物が見える。あれがこの世界の魔法剣というヤツか。

 しかし無敵傭兵様にとても通用するとは思えない。爪楊枝のようにぽっきり折れてしまう様子が目に浮かんだ。


「カロル王子、お止めになった方が宜しいかと。失礼ですが貴方の実力では命を落とします」


 意気揚々と前に出ようとした金髪男をフードを被った人物が止めた。

 隊長の奥に控えていた者のようだ。一人だけ明らかに格好や雰囲気が違う。


 しかも今、金髪男を王子と呼ばなかったか。重装備の兵士を従えている所を見れば一般兵とは違うようだが、格好はそこの警備隊と同じだ。


「王子ってのはやめろって言ってるだろ。今はただの一兵士だっつーの。あと何か聞き捨てならねー事言わなかったか?」


 うん、どう見てもただの無礼な若者だ。先程の発言は聞き違いだったようだ。


「お前は何者だ。どこの出身だ」


 フードの人物は随分とライシャさんを警戒している。下手な嘘をつけば面倒な事になりそうだ。この場は口を出さず彼女に任せよう。

 私の指示が無いのを気配で察した彼女は、その人物に向き直った。


「ロゼッタだ。お前ササギの奴だから知ってんだろ」


「!」


「聞いた事がない所だな。ギムネット、知っているか?」


 ライシャさんの出身地を聞いたフード男、名はギムネットというらしい。

 彼女の発言を聞いた瞬間、明らかに動揺した。隊長の質問に男は渋々といった感じで答える。


「最近出来た傭兵集団です。いずれ戦力として引き込み、戦列に加えようと思っていたのですが」


「ああ、うちの警備をしてもらっている人達ですね。すごく強いんですよ」


 まだルノ王国ではロゼッタの知名度があまり無いようだ。スイセットの妖精とは既に契約を結んでいるらしく、好印象を持たれている。

 フード男はササギの者と判明した。どこを見て判断したのか分からないが、ライシャさんが言うなら間違い無いだろう。

 恐らくこれからロゼッタに接触し、交渉役を買って出ようとしていたに違いない。


「そりゃ面白い。実力を見るいい機会だな。おい、誓約書を持って来い」


 金髪男が近くの兵士に命令する。程無くして一枚の紙とペンが彼に渡された。


 ヤな予感がする。


「それじゃあ試験の前にこれを書いてもらおうか」


「何だこれ?」


 紙を渡されたライシャさんは首を傾げる。


「試験による負傷・死亡に我が隊は責任を負わない。入隊後の行動は全てこちらで決定し、逆らう事は許されない。その同意書だ」


 彼女の疑問に隊長が内容を簡潔に答えた。


「?普通だろ、同意が必要なのか」


 何をいまさら、といった感じの彼女に横の金髪男はえっ、そうなの?と素で驚いていた。

 彼女は最強傭兵集団の一員だ。誓いを立てるまでもない暗黙の了解なのだろう。そもそも兵隊ならそれぐらいは当然だというのに、まだ軍隊というものが無い時代だからか。先程の兵達の反応といい、この国は随分頼りない印象だ。


 こんな城ライシャさんなら一人で制圧出来そうだ。逆に最強傭兵の存在に目をつけ、いち早く味方に引き込んだ妖精の国などは一筋縄ではいかない相手だろう。

 既に見張りを置いているとは、強行突破など考えずにこの国に来たのは正解だったようだ。


 ライシャさんは手の中の紙をじっと見つめている。ペンを片手に穴が開くほど見つめている。


「形式上必要なんだ。名前だけ書いてくれればいい」


 黙っている彼女を見て、隊長はライシャさんが名前を書くのに抵抗があると思ったのだろう。

 実際は違う。きっと私の予想通りもっと単純な理由だ。


 10秒経ち、彼女が私の方を振り向いた。


「スドウ、名前書いてくれ」


 思った通り、彼女は字が書けなかった。

 字が読めないと聞いた時から分かっていた事なので、むしろ当然といえる。もしかしたらペンの使い方さえ知らないかもしれない。


 余計な部分を一切省き、戦いのためだけに生きる傭兵集団。執念のようなものまで感じられる。

 こんなの相手に戦う敵国に私は敬意を表する。卑怯な手を取らざるを得ないのも納得だ。


 彼女の言葉を聞いた金髪男ことカロルは間抜け面を晒していた。


「えっ、まさか字が書けないとか?」


 半信半疑の男に向かって最強傭兵はこう答えた。


「傭兵なら普通だろ?」


「いやいやいや!普通じゃないよ。兵士はみんな字ぐらい書けるって。まさか傭兵全部がそうじゃないよね?」


「一人ならいるぞ、計算もできる奴が」


「それでどうやって生活してんの?本当にお姉さん傭兵?」


 兵士達の間に失笑が漏れる。質問している金髪も笑いを堪えているのが分かる。

 私も予備知識無しでこの話を聞いたら、そんな馬鹿なと笑うしかないだろう。


 金髪男の態度にライシャさんが怒らないかと内心ヒヤヒヤしたが、彼女は不思議そうに首を傾げているだけだ。何がおかしいのかさっぱり分からないのだろう。


 やりとりを見ていた隊長は横の妖精と何やら話をしている。実際に傭兵を雇っている者に情報を聞くのが一番手っ取り早い。


「なるほど、随分変わった連中のようだな。腕は立つらしいが、自分の名も書けないような奴は警備隊として不採用だ。残念だが他をあたってくれ」


 王国警備隊などと銘打つ位だ。きっと身分の宜しいエリート集団なのだろう。読み書きの出来ない人間は必要無いという事だ。

 つまらない理由で優秀な人材を見逃すとは、この国が滅びるのも時間の問題かもしれない。


「そっちの奴も入隊希望者、じゃないよな?」


 とんでもないと私は首を横に振った。

 しかし困った。これでは無料で魔法を見るという計画が台無しだ。


 妖精の国に傭兵がいるとなると入国には当然身元の確認が必要だ。ロゼッタから来たと言っても、当時ライシャさんはまだ生まれていないため証明ができない。怪しい奴だと攻撃されるのが目に見えている。


 じゃあ試験はいいから魔法だけ見せてくれ、などと言う訳にもいかないだろう。


「じゃあ試験はいいから魔」

「本当に言わないで下さい!」


 私は超反応でツッコミを入れた。今の動きならインレーザーをかわせたかもしれない。

 予想通り過ぎる彼女の言葉は清々しいくらいだ。予想外の行動ばかり取る誰かさんよりは扱いやすい気もするが、こういうのは疲れる。

 常識人の少年の存在が懐かしい。


「何だ、随分楽しそうだな」


 聞き覚えのある声に振り返ると、いつの間にかハインラッドが中庭に現れていた。

 女子二人に比べれば、彼は常識人の部類に入るだろう。不死身体質が非常識全開なのは置いておいて、とりあえず会話がかみ合うだけでもましな方だ。


 城下町で別れてから大して時間が経っていないのにも関わらず、彼は体調を回復している様子だった。

 通行証の発行所でこの場所を聞いてやってきたらしい。


 もう大丈夫なのかと聞くと、一度死んでおいたから体力は全快だという。

 精神力さえ十分なら復活と同時に体力だけでなく、怪我や病気なども完全に治す事ができるらしい。なんて便利な能力だ。


 昔と違い、精神を鍛えたから100回くらい死んでも復活できると自慢している。

 100回死ぬ状況なんて考えたくないのでちっとも羨ましくない。


 が、話を聞いて私は閃いた。彼ならいくら斬られても魔法で燃やされようと平気だ。


「ハインラッドさん、ちょっとこれに名前を書いてくれませんか」


 私はライシャさんから受け取った誓約書を彼に差し出した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ