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甘木高校美術部

バレンタインでも杞の国の空は落ちない

作者: 藤桐 稲花

「あ」

 そろそろバレンタインデーだ。


 私がそれに気付いたのは、1月の月末のこと。

「でも別にいいや、渡す当てもないし」

 それより何より、この間のクリスマスの件がトラウマ過ぎて、もうキッチンに行くのも怖かった。


 そういえば、あの後結局どうなったかというと、捨てる場所もないから頑張ってみんなで食べたんだけど、私のは涙でますますしょっぱかった、気がする。



「何か買ってこっと」

 今年の某Vデーは当然のように平日で、しかも部活な訳で。

 そろそろそれ向けのチョコが出てるかなと思って、近所のコンビニに行ったら、

「あれ? ショウどうしたの?」

 何だかいつにもまして面倒そうな顔のショウが。

「ん? ああルリか」

「どうしたの?」

「それがなぁ……」


 詳しく聞いた。

 まとめると、お姉さんがバレンタインに向けてチョコ作るから板チョコ買ってきてって頼まれたらしい。


「てかお姉さんいたんだ」

「いた。地味にハイスペックなせいで俺は肩身が狭い」

「へー」

 何それ自慢? 自慢だよね?

「……何だその顔」

「別に?」

「いいや、その顔は『あれ、家族自慢? 意外に仲良いんじゃないかな、チョコ買いに来てるし』って顔だ」

「いくらなんでも深読み過ぎ! 最初のトコくらいしか思ってないよ!」

 ていうか、何その顔? 目は口ほどにって言うけど、いくらなんでもそこまでは、ねえ?


「おお、意外に当たるもんだな。まあもちろん後半は冗談だし」

「ぇえ? か、からかったの?!」

「無論」

「うう、ひどい」

「分かりやすすぎるお前が悪い」

「むう……」

 だからって遊ぶことないと思うんだけど。


「そういえばさ、お姉さんってどんな人?」

「覚えてたのかよ。……大学2年で、俺が言うのもなんだがそこそこ美人。今年はどうしても手作りしてあげたい相手がいるんだそうだ。普段台所とか立たんくせに」

 いやさ、いくら私でもついさっきの事なんだし忘れるわけ……ある、かな? ないよね?


「そうなんだ。ところでショウの家族ってどんな感じなの?」

 気になったから、ちょっと詰め寄り気味に見上げながら聞いてみた。

「……4人家族、親と姉貴と俺」

「何か淡泊な言い方」

「あまり聞くな。俺は帰る」

「え? ちょっ!」

 に、逃げられた?! どういうことなの?


 ◇ ◇ ◇


 あの後もう2月に入ったけど、ショウはあれからしばらく部活に来てない。

「ねえルリ、ショウのこと本当に聞いてないの?」

 エミ、その責める視線止めて、結構グッサリくる。

「うん。原因は私なんだと思うんだけど、メールしても返事ないし、電話は出ないしで」

「私も同じ感じですね。これはもう処置なしかなって感じです。当事者相手じゃなきゃ言いやすいかなとも思ったんですけど」

 ユミ、頑張ってくれてたんだ。

「全く、イベント前だってのにあいつは」

 部長、目の前にいなくてももう少し心配してあげましょうよ。


 何となくみんなどうしようもないかなって思い始めたころに、ユズが

「実は今日ショウのクラスの友達に聞いてみたんだけど、別に学校休んでいるわけじゃないみたい」

 って一言。

「ホント?」

「うん、でもその子によると、最近のショウっていつにもまして一日中眠そうにしてるらしいよ」

「ユズ、そこ詳しく」

 そう言ったのはエミだったけど、みんなも(もちろん私も)すっごく聞きたかった。


「うん、この間の話なんだけど、授業中に倒れたらしいわ」

「えっ……?」

 急に不安になってきた。何か危ない病気とかだったらどうしよう。

「本人はただの寝不足って言ってたらしいけど、英語の教科書音読してて倒れるってよっぽどじゃない?」

「それって、さ」

 ルリ以外:「?」

 不安で耐えられなくて、つい

「何か重い病気で、心配かけたくないからって避けてるのかな?」

 そんなことを言っていた。


 でも、

「そんなわけないじゃない! あのショウが急に病気なんてすると思う?」

「冬場も絶対コート着ないあの頑丈なショウに限ってそれはないんじゃないかな」

「賞味期限切れのお菓子も気にしないで食べちゃうショウさんですよ?」

「あいつが重病、なんて事が起こったら、台風くらいじゃ済まないだろうさ」

 みんな即答で笑い飛ばしてくれた。

「そりゃそうだよね! あのショウがそんなわけないよね!」

 おかげで、気分はかなり楽になった。


 ◇ ◇ ◇


 結局そんな感じで時間だけ経って、今は、2月13日の夜。

 今日も来なかったショウ、多分明日も来ない。


 みんなは大丈夫って言ってたけど、やっぱり不安で仕方ない。

 本当なら、もう買ってきたチョコ(もちろんみんなと食べる)の心配もしなくていいんだから、ぐっすり眠れるはずなんだけど、ベッドに入って1時間、まだ私は眠れなかった。


『ショウ、どうしたんだろ。やっぱり私が家族の事聞いたから……』

 思えばもう半月会ってない。そろそろ出てきてもいい頃だと思うけどそんな気配もない。

 一体何をそんなに気にしてるのか分からなかったけど、とにかく私が何か変なスイッチ押しちゃったのは間違いないんだと思うし、そのことは謝りたいけど、肝心のショウが部活に来ないんじゃどうしようもない。


 ヴー、ヴー


「え? ……ショウから?」

 当然開いた。すぐに開いた。

『明日、絶対に部活動出席の事』

「……どういうこと?」

 書いてあったのはそれだけ。なんか部長のメールみたい。

 別に休む予定もないんだけど、普通に明日も部活に行くんだけど。でも、

「ショウが言うなら、ますます行かなきゃだよね」

 何となく、本当に何となくだけど、心のモヤモヤが取れてきた気がした。


 それから私は、最近じゃほとんどないくらいぐっすり寝た。そのせいで学校に遅刻しかけたけど(汗)


 ◇ ◇ ◇


 2月14日、バレンタインデーの部活動。

 大体4時に始まって、今日は特別って何も描かないでみんなでチョコ食べながらしゃべってたんだけど、そろそろ5時。


 やっぱり、来てない。


「それじゃあここでとっておきだ! 超!エキサイティンな3Dアクションゲーム、バ○ルドーム!」

「ちょ、部長何でそんなもの、てかどこから出したんですか?!」

「ふふふ、聞いて驚けエミ、暗黒の部長力を込めた私のカバンは、質量保存の法則を無視してさまざまな物を収納できるのダー!」

「ダウト。部長のそれ、1週間くらい前からパーツ持ち込んで組み立ててましたよね。それは間違いないんですけど、でもあれって解体できましたっけ? 私よく覚えてないんですけど」

「ユズ、それは触れてはいけない世界の禁忌だ」

「そうですよ、言わない約束です」

「な、ユミも気付いていたのか?」

「はい? 何の事でしょう?」

「むぅ、何と言う……」

「…………」


 やっぱり、何か、違う。


「ねえ、ルリ?」

「寂しいのは分かるけど……」

「来ないなら仕方ないじゃないか。折角のイベントなんだ、あいつの分まで楽しんでやろうじゃないか」

「ルリさんが沈んでたら、みんなまで暗くなっちゃいます。ショウさんが来たとき、明るく迎え入れてあげたくないんですか?」


「……メールくれたのに」

「え?」

「昨日、ショウからメールが来て、『明日、絶対に部活動出席の事』って」

「それだけなの?」

「それだけ」

「あいつは、来る気だったのか?」

「分かりません」


 あのメールは何だったんだろう。

 結局ショウは来ないし、私だけここにいたって、どうにもならないのに。


「きっと、きっと来ますよ。だって」

「……だって?」

「だって、いくらショウさんが唐片木でも、ルリさんを泣かs―

「悪い遅れた!」


 え?


「はぁ、ちょっと、紆余曲折あって、しばらく、来れなくて、すいませんって……あれ?」

「うっ、うぅ……」

「る、ルリ?」

「うわぁああああん!」

「ちょ、ええ?!」

 私は無我夢中でショウに飛びついていた。多分、どこにも行かれたくなかったんだと思う。


 ――数分後――

「落ち着いたか?」

「うん」

 みんなが生暖かい目で見てるけど気にしない。もうなんかどうでもいい。

「さて、ルリも落ち着いたようだし、何があったか聞かせてもらおうか、ショウ」

「やっぱそうなりますか」

「当り前じゃないか」

「当然よね」

「どちらかと言うと非はショウにあるしね」

「ルリさんの心をもてあそんだ罪は重いですよ」

 あれ? 1個変なの混ざってない?

「むぅ、仕方ないか」

 そこ納得なの? 納得しちゃうの?!


「いや、原因はコイツなんですよ」

「鞄か?」

「いやそうじゃなくて、この中身です」

「ならもったいぶらずにさっさと開けろ」

「えっと、その……」

 ショウ以外:「じー」

 何か重そうな感じだけど、何だろ?


 そんな重そうな鞄から出てきたのは

「……これです」

「あれ? これって」

「チョコケーキだな」

「いやそれはそうなんですけど、何か引っかかるんですが」

「何がだ?」

「これってもしかしなくても、この間買ってたチョコだよね? ってあれ?」

 ショウ消えてる。


「ショウならほら、隅っこで現実逃避してるけど」

「~~♪」

「つまりあれですか、今日持って来ようと思って買ったチョコをルリさんに見られて気恥ずかしかったんですね?」

「やかましい」

「図星みたいだね」

「うるさい」

「最近来てなかったのはこれ作ってたからですか」

「そうだよ」

「だ、そうだよ。ルリ」

 ん? 何でそこで私に振るの?


「あんなに心配してたじゃないか」

「はい? 何ですか急に、と言うかナチュラルに私の心読みましたよね?」

「暗黒の部長力には読心術も当然含まれているからな」

「まだそれ引きずりますか」

「ふふふ、人間は本来自分に備わっている力のほんの一部しか使えていない。だが暗黒の部c―

 部長以外:「もういいです」

「何だ。このまま腕相撲大会に持っていこうと思ったのに」

 部長以外:「そんな展開はお呼びでないです」

 って、みんなかぶった?!

「な、何もそこまで、しかも全員で言わなくてもいいじゃないか!」

 あ、部長珍しく凹んだ。



「……みんなで、私のこと、馬鹿にして」

「悪かったですって。ほら、とりあえずケーキ食べましょうケーキ!」

「そういえばそんなのもあったっけ」

「立ち直り早いですねー」

「そういえばクリスマスにフラr……っ、いやなんでもないよ!」

 ユズ、部長の前でその話をするのは止めようねー。

「ようし、皆の物! 誰が最初に味見するか決めるぞ!」

 部長、さっきの聞こえてなかったのかな?


 それはそうと、最初の味見ってそんなに大事かな? と言うか私的にはショウがもう味見してるけど黙ってるに1票なんだけどなあ。別にいっか、気にしなくて。


 ――また数分後――

「私ですかー」

 何でかさっき部長が出したゲームで順番決めることになったんだけど、あんなのやったことないよ、っていうかみんな上手すぎない?

「ほらほら、早く食べちゃいなよ」

「私も早く食べたいです」

「誰かと違って失敗はなさそうだしね。みんな楽しみなんだから」

「そこまで言うならみんなで一斉に食べればいいんじゃ……」

「つべこべ言わない、さっさと食べる!」

「は、はい!」

 こういう時の部長って、なんかこうお母さんみたいな、反抗しづらい雰囲気あるよね……。

「……俺の意見は?」


 で、食べた。

「…………」

「ねえ、どうなの?」

「あ、なんかわかった気がする」

「うーん、この反応は、あれですかね?」

「ふむ、どうやら心配ないみたいだな」

「え? 何でですか?」

「見てわからないか、エミ? おーい、ルリ、味はどうだ?」

「……おいしいです、けど」

「けど?」

「なんか納得いかない!」

「やっぱりか」


 なんで? なんでこんな普通においしいの? この差は一体何?!

「ねえショウどういうこと?!」

「おい待て落ち着けってか何の話だ?!」

「こんなの作れるなんて聞いてないよ!」

「いや言ってないし」

「騙したなー!」

「だから落ち着けっての! そして人の話を聞けー!」

「ゆるさーん!」


 ――またまた数分後――

「ルリー、さすがに許してあげたら?」

「うーん、まあエミが言うならしょうがないか。 あれ? そういえば……ケーキは?」

「あ、ごめん全部食べちゃった」

 え?

「甘い物には目がないから、ついね」

「すみませんー」

「まあ仕方ない、諦めろ」

 そんなぁ。まあ……仕方ないか。1個は食べたし。


「お、俺まだ味見もしてなかったのに!」

「え? してなかったの?」

「1個も、1欠片も食ってねえよ……」


 それはまあ、うん、お疲れ様。

 基本はじめましての方が多いかと思います、作者こと藤桐です。


 さて、バレンタインですが、皆さんチョコ食べてますか?

クリスマスも似たようなこと言ってた気がしますが、私は基本甘党なので、バレンタインとかとりあえずお菓子がおいしければ何でもいいかななんて思ってる次第です(笑)


 話は変わって、このキャラ編成で書くのはこれが2本目になりますが、なかなか一人称の文がぴったりはまってきません。結局台詞の割合過多になってしまう傾向が今回も顕著に出てしまいました。でも、キャラクターたちは結構気に入っているので、これからも練習がてら書いていこうと思い、シリーズ設定することにしました。そんなわけで、これからも彼女たち『甘木高校美術部』をよろしくお願いします。


 あ、忘れてました。前回はタイトルに英語の参考書の例文使いましたが、今回は中国の故事成語『杞憂』からです。まあ意味は皆さんご存知の事と思うので省きますが、何で空? と思った方は一度調べてみることをお勧めします。結構面白いと思いますよ。


 というわけで以上藤桐でした。ではではまたいずれ。


追記:裏編書きました!→ http://ncode.syosetu.com/n4411bn/

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