日常と非日常の違いが主観でしかなかった場合
今日は休日
学生生活というのは長い暇との戦いでもある
大人になってから、その怠惰な時間を愛おしく感じる…って近所のおじさんが言ってたのを思い出す
そんなわけで
僕について話をしようかなと思う
この物語は基本的にそういうプロフィールみたいな情報が圧倒的に少ないよね
細かい設定はいっぱいあるんだよ?
作者がドヤ顔で情報を少しずつしか提示しないんだ
多分、僕の苦労や心情の3分の1も伝わってないんだろうな…
そんなメタな発言は置いておくとしよう
僕が住んでいる街は『苗美』と書いて『なえび』と読む
そこそこ大きいけど、あくまでそこそこだ
田舎の人から見れば、それなりに都会ともとれるし
都会の人から見れば田舎に見える
中途半端!!
数年前に駅前にショッピングモールが出来て
そこから徐々に便利な町から街になった感じかな
少し歩けば綺麗な田園風景が広がるし
駅前はそれなりに栄えてるし
健やかな街で僕は育ったなぁ
そして県立苗美高校が物語の舞台だ
春には桜が咲き乱れるとてもキレイな場所だ
駅から歩いて数分の場所にある
緩やかな坂を上っていくと脇に見えてくるのが僕の高校
なんでこの高校に入学したか、って?
そりゃ
――――――女の子といちご100%するために決まっているだろう――――――
こんな綺麗で青春の甘酸っぱいかほりのする舞台が近所にあるのだ
そりゃ入学当初にいちごパンツを履いた女の子に出くわしたり
赤い麦わら帽子かぶった女の子と階段が100段か99段でモメたり
しかし現実は違っていて
僕は世紀末的な人に囲まれて
それを屈強な黒人男性に助けられた
それはそれで違う意味であり得ない話ではあるんだけど
誰しもがそっちの展開は望まないだろう
そっからどう間違ったのか
おにゃのこに生まれ変わった元マフィアのボス
よく分からないうさん臭い悪友
そして僕にまとわりつくようになった
洞爺湖まりも(仮名)
…僕の周りは仮名だらけじゃない!?
コードネームばっかのエージェント漫画でもあるまいし…
まりもは他人には見えない無意味なマスコットキャラクターだ
今も僕の部屋の隅で漫画を読んでいる(ように見える…というか読めるのか?)
ここまでは今まで分かっている高校入学までのおさらいだ
ここから家族構成の話をしよう
幸せな事に僕には妹がいる
僕がドキドキのラブコメを望んでいる事は周知の事実だと思う
妹がいる
この事実だけでご飯が3杯イケる紳士もいるだろう
しかし
現実は甘くないのである
妹は可愛い
そこに恋愛感情は存在しないのである
君は素っ裸のかーちゃんに欲情するであろうか?
つまりはそういうことだ
自分の家族を褒めたりするのは少し恥ずかしいが
よく出来た妹である
僕の妹がこんなに優秀なわけがない!!
ちなみに妹は今は家にはいない
ちょっと出かけているとかそういうレベルじゃない
―――――今はヨーロッパに留学している
これは後々、フラグになってくるに違いない話だと思う
これが血のつながってない幼馴染みならそれは胸がときめく話だと思う
しかし血の繋がった妹だと…ねぇ?
小学生の時からよく出来た妹だったけど
まさか中学で海外留学とは…
僕の妹がこんなに優秀なわけがない!!(2回目)
というわけで、ここ最近は手紙や電話でしか知らない妹な訳だけど
どうやら何かと順調なようだ
専用列車で学校まで向かったり
メガネをかけた冴えない同級生とか
イヤミな別のクラスの男子とか
優しいヒゲの校長先生とか
森に住んでるヒゲの巨躯な中年男性の話とか
そんな話をよく聞いていた
あっちの学校でうまくいってるようで何よりだ
…妹の話はこれくらいにしよう
父の話だ
父は…行方不明
らしい
実際のところよく知らない
母いわく
世界を旅する二ツ星ハンター
だとか
魔物使いで今は石にされているとか
宇宙を支配しようとする帝国軍人
魔界三大妖怪だとか
元巨人の名三塁手だとか
史上最強の生物etc…..
聞くたびにその内容が変わっている
僕はもう慣れっこなので聞き流している
とにかく僕は顔も知らないし
どんな人だったかもよく覚えていない
別に嫌いとかそういうわけじゃないんだ
いなくて当たり前だった
どうもピンとこない存在とだけ言っておこう
最後に母親か…
いま僕は母親と二人暮らしになっている
生活は不自由してないし
実は父から毎月生活費等が振り込まれているんじゃないかと思う
母親に関しても謎が多い
なにを話しても濁されるというか丸め込まれるというか…
でも良い母親であることに間違いは無い
やっぱり僕に取って母は偉大な存在だと思う
でも…あまり褒めすぎると調子に…
ふと後ろから気配がした
「…アラアラ。あらあらあらあらあら!!」
母親だ…
「ごめんなさいね!!男の子のティッシュタイムにお母さんが邪魔しちゃ悪いわよね~。発情期の猿みたいなお年頃ですもの…お母さんは何も気にしてないのよ。ただ…息子の成長が嬉しいというか。あっ、もちろん息子の成長っていやらしい意味じゃないわよ!!もちろんそっちの方も元気だな。とか少しは思っちゃったりしなくもないけど、お母さんは健全な気持ちで言ったのよ!まさかあんなに小さかったのに、今は馬並とか思ったりもしたけど…やだ!!お母さんったら馬並だなんてはしたない!ごめんなさいね。まだまだ触れられたくないお年頃よね。思春期の息子に向かって何を言ってるのかしら私。あぁ…お父さんが若い頃は七つの海を駆け抜ける大海賊で、ひとつなぎの財宝とか見つけちゃったりしてね…呪いの財宝を解放してあげたりもしたわ。お母さんもあの頃は女海賊として名を馳せてたのよ…。お父さんったら、この世のすべてをそこにおいてきたけど、お前だけは手放せなかった…なんて言ってくれちゃって…も~~!!あなたもお父さんによく似てきたわね~。あの人は本当に素敵だったわ。…ごめんなさいね!お母さんったらいきなり感傷に浸っちゃった!もう年かしらね~。やだやだ!年だなんて言っちゃったわ!!まだまだお母さんだってイケル年齢なのよ?この前、商店街の八百屋さんの斉藤さんに『奥さんはまだまだ若いです。旦那さんのことはもう忘れて僕と一緒になりませんか』なんて言われちゃって!!でもねお母さんしっかりと断ったわよ!!偉いでしょ?やっぱり離れていてもあの人が一番だもの…。あらやだ!お母さんったら息子になんて話をしてるのかしら!そういえばね…」
「長いよ!!この作品が始まって以来の長セリフだよ!!ドラマだったら役者さんが大変すぎるよ!!」
息子の性事情から
母親の女の顔まで
どれも聞きたくないし関わりたくない部分だよ!!
この通りの母親だ。
「この通りの母親で~す☆みなさんよろしくね~」
「駄目!読者に語りかけちゃ駄目!世界観もへったくれもないから!!」
本当に何を言い出すか分からない。
少し抜けていて、とてもデンジャラスだ
「お母さんね~、暗黒の力が働いちゃって力が暴走しそうなのよ。お母さんほどの能力者だと魔王アルデゴラスにまで影響を及ぼすほどなのよね~。こんな日に出かけたら、この人間界にどんな悪影響があるか分からないわ。私の代わりに今宵の晩餐の調達の任をお願い出来ないかしら?」
「今晩のご飯の買い出しね。…分かったよ」
…たまに少しだけ厨二が入る
小さい頃はお母さんの発言を真に受けてきた。
段々と社会的な活動範囲が広がるにつれて
僕にも分別がつくようになってくると段々と母親の対処の仕方も分かってくる。
「これがミッションのリストよぉ~。私は波動の疼きを抑えるのでいっぱいいっぱいだからヨロシク頼むわね~」
そういって、材料のリストを渡される
「…これは、何の料理?」
「あらぁ~?分からないの?」
「いや、そんなに料理とか詳しい訳じゃないけど…カレーとか?」
「今日はチュニジア風のクスクスよ」
わかんねぇよ!!
どこの日本の家庭でいきなりそんなエスニック料理が出てくると思うんだよ!!
もう少し分かりやすい料理をこういう時は出して欲しいものだね!!
「…分かった。とにかく買ってくるよ」
「うふふ。よろしくね~。それと…」
おもむろに母がまりもに目を向ける
「ちょっ、母さん!まさか、まりもが見え…」
「あらあら…まぁ」
まりもに近づく母親
やっぱり母さんは侮れな…
「駄目よぅ。こんなとこにこんなもの置いてちゃ…あらやだ、こんなにハードなのが趣味だなんて!」
違う!
違わないけど違う!!
そこは青少年の一番触れちゃいけない部分だ!!
まりものすぐ側に落ちていた口に出すのすらはばかられるようないかがわしい雑誌だ
おそらく
まりもが僕の秘密の隠し場所から見つけ出して読んだ後に放置したに違いない
「前はベッドの下と押し入れの天井裏に隠してたのに、いつの間にこんな大胆になっちゃったのかしら~。こういうのは恥ずかしいから隠すものだって思ってたけど、最近の若い子は違うのかしら…」
バレてらっしゃる!!
たまに整理してあると思ってたけど、そういうことだったの!!
何だろう、全国のお母さんに共通するよねコレ
なんなのコレ。
「分かった!!もういいから!!もう行くよ母さん!!」
これ以上いたら僕の傷口がさらに開きかねない
僕は自分の部屋から足早に出た
「あらあら…反抗期かしら…お土産ヨロシクね~」
アンタのお使いだよ!!
なんで、張本人がお土産頼んでるんだよ!!
――――――以下、外出後
これで落ち着いた…
「…はたはた」
「うおっ!!いつ間に付いてきた!!いや、憑いてきたか…」
まりもが僕の服の裾をつかんで横にいた
まりもと共生してから、少しずつ分かってきたことがある
コイツは俺らの喋っている言葉が分からないし、俺らにも伝わらない
でも喜怒哀楽といった感情はある程度は持ち合わせているようだ
何というか感情同士での会話というか
会話とは言えないけど、ほんのわずかだけれどコミュニケーションの糸口はあるようなのだ
そして片時も僕から離れようとはしない
もしかしたら離れられないのかもしれない
あと、お菓子とか甘いモノが好きなのは分かった
コイツは幼女キャラの基本を分かっている
幼女とお菓子の親和性についての講釈はまた今度にしよう
「おぅ!!いらっしゃい!!今日はお母さんじゃないのか?残念だわ~」
「お母さんじゃなくてスイマセンね…」
八百屋の斉藤さんだ…
人の母親を口説いておいてよくもまぁこんな風に接することができるもんだ
「それより食材を買ってこいといわれたんですが…ここにありますか?」
僕は母さんに頼まれたリストを見せた
「そんなことより、お母さんは元気か!?いつも会うたびにシャンプーの匂いがするんだけど、どこのシャンプー使ってんのかな!?オジサンあの残り香にクラクラなんだわ!!自分も同じ香りになってみたいな~なんてな!!ガハガハガハ!!」
…いつも通りゲスいなぁ
そんな話を息子の前でするスピリットは尊敬に値するよ
自分の母親がこんな風に見られてるなんて青少年にしたらもの凄いトラウマだぞ!
「はぁ…」
「ガハガハガハ!!ちゃんと頼まれてたものは用意しておいた!きにするこたぁねぇ!!その代わりお母さんのシャンプーのメーカー…」
「どうもありがとうございました!母親が待っているので!!それじゃ!!」
これ以上は僕が不快な思いをするだけなので、品物を受け取りうまく逃げる事にした
「…獣神さんだーらいがー…」
まりもは僕に憑いてきながらつぶやく
「そうだね…リヴァプールの風になったんだね…」
我ながら適当な返しだ
この時の適当は
ベストな返しという意味合いと
いい加減な返しという二つの意味合いがある
―――――買い物、中略―――――
途中でまりもにアイスを買ってやった
こんなに疲れるなんて…
買い物に行く先で必ず出る母親の話題
どんだけ有名人なんだよ母さん…
まぁ、これで必要なモノは全部買ったし…
あとは帰るだけだよな
「だ…だれか…だれかおらぬでござるか…」
ふむ、どこからか声が聞こえるぞ
「おい、そこの猿…そう、お主だ。ちょっとこっちへ来てはくれぬか…」
どうやら僕のご指名のようだ
というかまた僕は猿なのか。
自分でも認識してしまうのが悲しい
声の主は、細い路地裏から聞こえるらしい
夕方のちょい前くらいだけどなかなか暗い…
「たぶん…僕が呼ばれたんですよね…?」
「おぉ…やっと呼びかけに応えてくれる人がいたでござる…」
「どこにいるんですか?」
「ここにおるでござるよ…」
ゴミ捨て場…?
…?
…!!
ゴミ捨て場に人が捨てられていた
「大丈夫ですか!?どうしたんですか!?…ってえぇ!?」
僕は捨てられている人を抱き上げて気がついた
この人…
女性だ
しかも生ゴミくさい…
「うぅ…すまぬが…某に食糧を…空腹にやられた…でござる」
「わ、分かりました!!とりあえず僕の家まで…!!」
僕は女性を抱えたまま家に向かおうとした
「それとすまぬが…」
「ん?」
女性は続けざまにこう言った
―――――――ご飯はチュニジア風のクスクスで頼む――――――
あぁ…なんか厄介な者を拾ってしまった
このとき僕は直感でそんなことを確かに感じ取ってしまったのだ