夢か幻か… 一人の観測者しかいない真実
「というわけで――――第32回放課後定例会議を始めるぜぇ」
…
「OH!まさに放課後にティータイムネ!!」
……
「なんや、この会議もだいぶ板についてきた感じがするなぁ」
………
「―――マゾッホ…」
…………!!
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
色々とツッコみたい!!
「第32回ってなんですか!!いつ、そんなに、僕抜きで怪しげなメンツで集まって何をしてたんですか!?」
「…というわけで今回の議題は『サルのキャラ立ちの仕方』についてだぜ!!」
スルーかよ!!
僕の事について議題をだしておきながらの華麗なスルー!!
「だから僕のキャラはそんなに立ってないのか!というか勝手に僕を議題にするな!!」
「…というわけで、ついに人には見えないモノが見える設定でキャラ立ちを目論むサルだが…」
スルーかよ!!
設定とか言うな!!それじゃ滅茶苦茶イタイヤツみたいじゃないか!!
いや…
確かにコイツは他の人には見えないんだよなぁ…
なんとかしてコイツの存在をみんなに認識してもらう方法はないものだろうか
人の気も知らないでポッキー食べてるし…
つうか、モノ食べれんのかよ
知れば知るほど謎の生命体だ
人間とは違う
感覚というか直感でそれは分かる
しかし、見た目は髪がボサボサだが人間と大差はないようには感じる
そんな生き物になつかれる僕はいったいなんなんだろう
――――僕の目にしか写らない…認識出来ない事に何か意味があるのだろうか――――
「…じゃあ、荒木先生は吸血鬼の末裔ということで異論はないな?」
「…なんでそんな話になった!?」
僕のキャラ立ちの話からなんで吸血鬼説になってんの!?
確かに若いけれども!!
「OH!!ジョジョ先生ハ!!ヴァンパイアダッタノカヨ!」
ジョジョ先生とか言うな!!
出来うる限り直接的な表現は避けているというのに!!(これでも)
「いや~、今日も有意義な会議だったぜぇ!!」
ちょ、ちょ待ってくれ!
ここで終わっちゃ駄目だよ!
な…なんとかしてコイツを認識してもらう必要がある
というか僕の膝の上にお菓子をこぼすな!!
「ちょっと待って!!」
僕は精一杯の引き止めをしてみた
「おっ!サルぅ~やっと発言したか~。お前がクラスに一人はいる休み時間に突っ伏しちゃうヤツになるんじゃないかと心配してたとこだぜ!!言ってみろサル!!」
余計なお世話だよ!!
なんでそこまで心配されなきゃいけないんだ!!
イカンイカン…
ここは抗議ではなく、せっかくの説明の場じゃないか
存分に説明をしようじゃないか
「実はかくかくしかじか…」
うん、文章の妙技を使い説明した
昨晩の出来事
そして今に至るまでを
この説明をするまでにどれだけ回り道をしたんだよ…
さすがにみんな耳を傾けてくれている
そしてしばしの
「なるほどな~。ジブン、そんなことがあったんか。」
さすがイナリ!理解力がある!!
「SHIT!!モンキーハニューヨークの幻ネ!!」
その表現だとまるで僕が幽霊みたいじゃないか!!
「おおよその事情は分かったぜぇ。サルよぉ…」
ようやく話は本題に入ろうとしていた
「そうなんです!それで…」
「それで?…カッカッカ!仮にその話が本当だとしてよぉ。」
ボスは続けて次のように言う
「俺らに見えないヤツがいたとしてどうすりゃいいんだ?サル、お前はどうしてほしいっていうんだ?掃除機でそいつを退治すりゃいいのか?それとも仲良しこよしを
しろっていうのか?」
…
ふ~む、確かに正論だ
というかどうしてそこまで考えが及ばなかったんだろう。
昨日の恐怖におののいていた僕はいち早くコイツを退治したいと考えていただろう
しかし僕の膝の上で黙々とお菓子をほおばり続けているコイツはとてもじゃないが退治したいとは思わない
どんな理由で僕にしか見えないで
どんな理由で僕の元にいるのだろうか
そして僕はボス達に何を求めてたんだろう
理解してほしかった
ボス達なら何か今の現状を打破してくれそうな気がした
多分、だから…話したかったんだろうな。
「カッカッカ!!サルよぉ!!お前はカワイイヤツだなぁ!!」
いやいや、可愛い顔したボスに言われたくはありませんよ
「その顔だと、何も考えてないで頼ったんだよなぁ?」
…見抜かれてるなぁ。
「困った時に頼られるのも悪い気分じゃないぜぇ?学校生活はこのくらい刺激がねぇとなぁ!」
こんな刺激は学校生活という場所ではなかなかないと思うけど…
「やっぱ、ジブンといると何やらオモロイ話が転がってくるなぁ」
僕もそう思うよ…
自分の事ながら、こんな面白人間たちに囲まれるなんてそうそうないよ…
「んで、そいつはどんなヤツだ?どんな見た目とか分かる範囲でいいから説明してみろよ」
「身長は僕のお腹くらいで、見た目は黒髪が腰の辺りまで伸びてて、でパッと見人間と変わらない…」
僕はコイツの容姿を説明した
そんな情報で何が分かるというのか
「それよりなにより…言葉が伝わらなくてコミュニケーションがとれません…」
そうなんだよな。
何よりも原因の大本であるコイツが何も情報を発さないのが問題である。
「んで、そいつはいまどこにいるんだぁ?」
「僕のここらへんです」
僕は自分の膝を指差す(正確には僕の膝に座っているコイツを指差しているのだが、周りから見たらそう見えるだろう)
「カッカッカ!そうか!!」
この人は本当に動じない人だ
おもむろに僕に近づいてきた
「よぉ!チビ!名前はなんて言うんだチビ?」
「……洞爺湖まりも」
「洞爺湖まりも…と言ってます。」
僕は間髪入れずにコイツが言ったセリフをボスに伝えた
……
絶対にそんな名前じゃないよ!!
洞爺湖まりもってなんだよ!!
お前は北海道のキャラクターか?
ポスト銀さんでも狙ってるとでも言うのか!?
脊髄反射的に通訳したけど、おかしいだろ!
「そんな青々しい名前かぁ!!良い名前じゃネェか!!カッカッカ!!よろしくなチビ!!」
名前で呼んでやれよ!!
結局はチビって呼んじゃってんじゃないか!!
僕も名前とか認めちゃってるし!!
「イェス!!マリモッコリ!!マリモンロー!!ヨロシクナ!スモール!!」
まりもっこりは百歩譲っていいけどマリモンローは知名度低いよ!!
「くっくっく、名前決定やな…よろしくな~まりもちゃ~ん」
「…いや、イナリ…そっちにはいない。こっちにいるから…」
あらぬ方向に手を振ってるイナリを指摘する僕
ベタな間違いって本当にあるんだな…
「…ごるばちょふ」
当の本人はあまり分かってないようだった。
何?出てくる単語は寒い地方限定なの?
ゴルバチョフが寒い人って言ってる訳じゃないよ
「カッカッカ!名前も聞いたし、俺らの当面のチビに対しての対応なんだが…正直、手が付けられねぇ。俺らに見えないモノだし、判断材料が少なすぎるぜ」
「えぇぇ…確かに唐突に言った僕も悪いし、頼ってる身でこんな事を言うのもあれなんですが…対応策とか…ないんですか?」
「そんなものはねぇ!!」
言われた!!
きっぱりと否定された!!
「それによぉサルぅ。今のとこお前に危害はねぇじゃねぇか!そのまま飼っててやれよ!」
飼うって…
ペットじゃないんだから
それに幼女を飼うって凄く背徳感に溢れていて犯罪的なんですけど…
あぁ…!!僕はロリ属性はないぞ!!
そんなこと言われたら少し意識しちゃう気がしないでもないじゃないか!!
「OH!!モンキー!!モンキーハイワユル『マスコット的存在』ヲテニイレタネ!!」
あれか!?
モンスターをボールで捕獲するような冒険活劇に出てくる電気ネズミとか
契約して無垢な女の子を魔法少女にさせるような憎たらしいヤツか!?
「ちょうどキャラ立ちの議題やったし、ええんちゃう?新しい属性手に入れて良かったなぁジブン」
その僕のオプションみたいな感じはどうなんだ!?
っていうか、その議題が今になってまだ続いてたことにも驚きだよ!!
「カッカッカ!少しずつ少しずつチビを理解していってやれ!なんであれチビはサルにしか見えない。サルが俺たちを頼ったみたいに、チビだってサルを頼るしかねぇんだ!俺たちはああだこうだは言ってるが、親愛なるサルに精一杯協力するつもりだぜぇ?」
「ボス…」
たまに恥ずかしくなるような事言ってくれるよな…
本当に心強いよボス…
僕はコイツ…もとい『まりも』に話をしてみることにした
「あ~、まりも…ちゃん?」
まりもは自分に話をかけているのが分かったのか僕の方に顔を向けた
「昨日と今日と悪い事しちゃったね…それは謝るよ。ごめん。」
「…かざふすたん」
その言葉からは何も読み取れないが
なんとなくながら気持ちは伝わってくるような気がした
大事なのは言葉じゃないんだな…
「それで…よければ、君が抱えてる問題を僕たちが解決しようと思うんだ。今は何も分からないけど、これから少しずつ分かり合えれば…と思う…。」
…なに、このセリフ!!
恥ずかしい!!
何かプロポーズするときに言うみたいなセリフになってる!!
「…きんぴらごぼう」
僕の首元に腕を絡めて、抱きしめるような形でまりもはそうつぶやいた。
これは…感謝…なのか?
きんぴらごぼうは僕の好物ではだけれども…って違う!!
「かっかっか!万事解決っぽそうだな!!大事なマスコットだ!!可愛がってやれよぉサルぅ!!」
…
ここにきて僕はマスコットという言葉にほだされて大事な事を失念していた
――――――他の人に見えないマスコットって意味がないんじゃ…――――――