春は出逢いの季節 それは日頃の行いを見ている
――――――オーッ!!今朝のモンキーボーイ!!―――――
ふぅ…
今朝のモンキーボーイ?
僕は猿なのか?
何を言ってるんだ
教室を見渡す
神山君は足早に自分の席に着席
「ナニシテンダヨ!!モンキーボーイ!!コッチダヨ!!ヘイ!!」
明らかに不釣り合いな筋骨隆々の男がいる
「…ォォイ!!」
田中!!
今だけは呼び捨てにする!!
僕は決めた
オイ田中!!
恩人に向かって言うのもあれだが
…なんでここにいる!!
机とボディのサイズが違いすぎるだろ!!
漫画で比率を間違えて人を大きく描きすぎちゃったみたいになってるよ!!
なんで誰もツッコまないの!!
黒スーツから制服にいつ着替えたの!?
似合わないにもほどがあるぞ!!
「ボス!!コイツデス!!ワタシがタスケタモンキーデス!!」
…ボス?
ボスがいるのか?
この際、モンキーはどうでもいいよ
好きに呼んでくれ
ボスってなんだボスって
高校生だぞ!?
日常会話でボスなんて言われているヤツはそうそういないぞ
どこの国だよ。
こんなVIPのボディガードみたいなヤツを従えるなんてどんな男だ
マフィアのボスか!?
それともハリウッドの俳優様でもいるというのか!?
とにかくとんでもない男に違いない
僕の好奇心はそのボスが知りたくてたまらなくなっていた
「…おうイチよ。オメェも人助けをするようになったか…。カッカッカ!立派になったもんだ!!」
「イェス!!ボース!!ボスにホメラレテ光栄デース!!」
僕の位置からちょうど死角
巨大な身体に隠れるように座っている
僕はそっと覗いてみる
「おう。にーちゃん。イチがいて良かったな。入学早々ボコられてちゃ幸先悪いかんな!!」
ふむ…文字では伝わらないだろうが
僕はとても驚いていた
とても貫禄のある想像していたボスとは
似ても似つかない
そして
今日で一番
気だるげに机に足を乗せる
口には…飴?
いや…そんなことはどうでもいい
つまり何が言いたいのかというと
―――――ボスは女の子だった――――――
ここまで僕の気持ちを中心に書き連ねてきたが
やっと女の子が来た
…僕の求めるような可憐な女の子とは違うわけだけど
そうだね
みんなに伝わるように
どんな女の子か説明しよう
金色の髪は腰元くらいまで伸びた
まさにサラサラヘアと呼ぶにふさわしい髪だ
染めてるのか?
いや地毛っぽいぞ
それにしてもキレイな髪だ
僕はいまだに教室前方の入り口から動いていない訳だけど
教室の一番後ろにいる 彼女からイイ匂いが漂ってきそうだ
色白でとても気だるげ
ハーフなのかなんなのか
とても日本人離れした顔立ちをしている
スラリと高身長 モデル体型ってのはこういう人のことをいうんだろうな
なぜか私服
ダルダルのTシャツにスカジャン
ダルダルのジーンズ
スニーカーだった
「安心しろよ。室内用のスニーカーだ!」
また心の中を読まれた!!
「カッカッカ!女に興味がある年頃だもんな!!無理もねぇよ!!」
…なんというか
見た目は可愛いんだけど
いちいち豪気というか
女らしくないんだよな
なんなんだろう
これはこれでアリなんだけどもったいないというか
雰囲気はお嬢様っぽいのに
っていうか制服着てこいよ…
「俺は流川みとる。流川じゃないぞ!流川だ。バスケは得意じゃねぇから!ヨロシクな猿!!」
「えっと…田中…君?に助けていただきました。ありがとうございます。」
「おぅ!礼はイチに言え!困ったことがあったら何でも言えよ!」
う~む
男らしい
ボスと言いたくなる気持ちもなんとなく分かる気がする
猿とは僕のことだろう
田中ェ…
「カッカッカ!学生ってのも悪くはねぇなイチよぅ?」
―――――俺は、もう一度ここからやりなおすぜぇぇぇ!!―――――
「ボース!!ワタシはナニガアッテもボスに一生ツイテイクト決メタよ!!ボース!!」
雄叫びだ…
立ち上がってかと思えば
教室の窓をバーンと開け外に向けて叫んでいる
色々と述べる部分はあったけど
どうやら興味の対象が僕から移ったようだ
田中君のスキンヘッドをベシベシ叩きながら叫んでいる
普通ならあんな屈強な男は絶対に友達になんねぇよ…
なんなんだよ…
さて
気を取り直して自分の席に座ろうじゃないか
えっと座席表座席表…
…
…うっ
凄く嫌な汗をかいた
僕が何に気がついたかというと
クラス中からの視線だ
そりゃそうだ。
いきなり入ってきて誰だという感じだし
むしろ今まで気がつかなかった方が不思議だ
大声で意味不明な黒人に話しかけられ
私服の金髪女に話をかけられているんだ
当たり前だろう
僕は日本人特有の
苦笑いをしながらのペコペコを繰り返していた
なんなんだろうなコレ
場を取り繕おうと必死になっていると
神山君がニヤニヤしながら見つめていた
「こっちやで、ジブンの席は俺の隣や」
神山君に手招きされる
僕はまだ空席だった自分の席に座った
座ったと同時に頭を抱えた!!
…
…恥ずかしいっ!!
僕の第一印象はどうだったんだ!!
「ジブンやるなぁ。いきなりインパクト抜群やで…クックック…」
笑わないで…
間違いなく今日という日は僕の黒歴史確定だ
あまりにも色んなことがありすぎた…
誰か!!僕に時の砂をくれ!!
やり直したいっ!!
「そういえば神山君…」
「稲荷ちゃんって言う~てハァト♪」
「呼ぶかっ!!」
何回やらせる気だこのやりとり…
「じゃぁ…イナリは…」
イナリはギリギリOKにしてくれたらしい
「何か二人の情報もってないの?」
「高いで?」
「金とんのかよっ!!」
「なんやねんジブン。当たり前やないか」
少し間を置いて少し真面目な顔つきで言われた
―――――情報は価値あるもんやで、俺にとっては命綱やねん―――――
…ひょうひょうとした態度の人間のふとしたギャップに気圧されてしまった気がする
あいているのか閉じてるのか分からないくらいに細い目からギョロリと目を出した後に
またいつものニコニコ顔に戻って続けた
「…言うても、謎だらけで何も分かっとらんけどな」
「ふ、ふ~ん…そうか…」
まださっきとのギャップが拭えないので
何とも気の抜けた返事になってしまった
「全校生徒の大半は既に調べがついてるんやけどな~。」
「なんなんだ、お前の情報網…」
こいつ…絶対に漫画の主人公の悪友キャラに向いてると思った
いかんせん思考が読み取れない不気味さもあるんだけれども
「いま、俺のこと主人公の悪友キャラとか思ったやろ?ジブン」
「分かりやすいのか!?僕は分かりやすいのか!?」
くぅぅ…自分の考えてる事をここまで読み取られるとは
高校とは思った以上に恐ろしい所なのかもしれない
そうこうする内に教室前方のドアが開いた
これから相対する相手は
とても大きな壁でヒドく冷たい
――――――北極大陸で寒中水泳をするかの如き人間だった――――