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19/21

不器用な愛の形。いろんな愛し方ができるっていうのは本当?

小さいころはよく知らねぇ

語るような記憶は何一つない


だが一つ言えるのは


俺の人生はロクでもねぇ


まだ自分が何者かも分からないうちに両親は俺を捨てやがった


こんなご時世だ

頼るべきものは何一つない


生きていくことに精いっぱいで何一つ先のことなんて考えられない


今を生き残る方法だけを考えて生きてきた


そうでなければ自分に未来はない


そうするしかなかった


――――


気が付いたら俺はこの街で同じような仲間と一緒に過ごしていた


悪くはない


そう


悪くはねぇんだ


愛情すらろくに受けれなかった同じようなガキが集まってやることなんてロクなもんじゃねぇよ


そういうもんになっちまうんだよな


でも、そんな風にしていかなければ俺は生きていけなかった


それしか方法を知らなかったんだ


―――――


でも、一人の大人がやってきた

全力で俺らをぶん殴る大人だ


所詮はガキ集団だ


大人が本気を出せばあっという間に征服されちまう


初めて大人ってヤツに相手にされたんだ


いや

一人の人間として向き合ってくれるヤツがいてくれた


思いっきりぶん殴って

こんなくそったれな俺たちを叱ってくれるヤツがいた


いい年こいたクソジジイのくせに


全力で俺に向き合ってくれた


全員が見て見ぬふり

遠巻きに眺める


「おめぇ、名前なんていうんだ?」


いきなりぶん殴ったヤツがどの口で言いやがる

手を差しながら気持ちいいくらいの笑顔で


俺らの世界はここで変わった


――――――


クソジジイはロクなヤツじゃなかった


だけど


全力で俺らにぶつかってきてくれた


別に俺らは愛情がほしかったわけでもなく

そもそも愛情がなんなのかすらよく分からなかった

だからここでは愛だなんだを語るのは控えておこう


だがその時くらいからだった


少しだけ…これから先のことを考えれる時間が生まれてきた


まだちいせぇなりに

空っぽの頭で空っぽなりに先のことを考える時間が出来た


チクショウ


こんなクソガキを拾って育ててくれるようなヤツだ


ロクでもねぇヤツだよ


本当に


―――――


拾われても俺は相変わらずロクデナシだった


悪ガキだった


もし自分がちいせぇ頃の自分を育てろと言われたらかなり手を焼くだろう


だがアイツは豪快に俺を笑い飛ばしやがった


そして俺の遥か上を見せつけてきやがる


自分の小ささを知らされる


本当にロクでもねぇし

何より

大人げねぇ


俺みてぇなガキに何本気出してんだよ


本当にロクでもねぇ


――――――


ここでの生活もそろそろ終わりみてぇだ


俺の仲間たちはそれぞれが別の道を歩む


そんな時だ


最初はどうしようもねぇ奴らが


今は立派な顔つきになってやがった


未来や希望


考えもしなかったぜ…


とある仲間は教師


とある仲間は弁護士になるとか

恥ずかしげもなく良い笑顔で言いやがる


一丁前なことを言うやつらになったもんだ


だが、最高のヤツらだぜ


俺かぁ?


俺は―――――


―――――


そっからは無茶苦茶だ

下っ端として


雑用やらなんやら


様々な教養や技術


ありとあらゆるものを叩きこまれた


お前ら、こんなことをするぐらいならもっと真っ当な仕事にも就けるんじゃねぇか?


…俺はクソジジイの下で働く


そう決めたっつーの


別に俺はクソジジイに恩義を感じたわけじゃねぇ


だが


俺もロクでもねぇことをすることに決めた


その事をジジイに向かって告げる


ジジイはいつになく真剣な顔つきで俺に再度、確認を取る


へっ


柄にもねぇ顔をしてんじゃねぇよ


俺はお前に拾われたその日からこうなることを決めてたのかもしんねぇな


空っぽの頭なりに考えてよ


――――――


気が付いたら俺にも部下が出来た


カッカッカ


柄じゃねぇっつーの


俺は今まで俺のしたいように生きてきた

ただそれだけだっつーのに


良い顔して俺についてきやがる


そんな奴らが愛おしくてしょうがねぇけどな


悪くねぇな


―――――


ある日に

そう

なんでもねぇ


雨が降り注ぐ中で


俺は道端でどうしようもねぇ顔つきをしたガキを見つけた


あぁ


こんな顔したヤツどっかで見たな


少し考え込む


そうだ


昔の俺もこんな顔してたっけかな


俺は自然にそいつに足を向ける


そいつはビクッっと身体を揺らして

すぐに逃げ出そうとする


まぁまぁ待てよ


そうだな

大人なんてロクなもんじゃねぇからな


売り飛ばそうとするヤツ


嘲りながら暴力をふるうヤツ


そういう意味ではそういう選択肢は正解なのかもしんねぇな


現にそういう非合法なブローカーはこの仕事を始めてからぶっ潰してきたしな


本当にロクでもねぇよ



そいつはすぐに倒れこんだ


食うもんもほとんどねぇ


食い扶持をまともに稼げなかったんだろうな


どっかの誰かが言ってたな


空腹の青年は怒れる青年にはなれない


うろ覚えだけどな


コイツは死にかけだ


怒れる少年にすらなれねぇんだろうな


俺は睨むような視線を無視して傘を差しだした


俺はクソジジイと違うからな


いきなりぶん殴るようなマネはしねぇよ


いや


俺の場合とは状況が違うからな


自分でも何でかわからねぇけど

こうやって口に出しちまった


「お前、名前なんていうんだ?」


あぁ


クソジジイの気持ちが少しだけ分かっちまった


――――――


そいつはすくすくと成長しやがった

いや

成長しすぎじゃねぇか?


あっという間に俺の身長を追い越してみるみる成長しやがった


まぁ


負ける気はしねぇけどな


――――――


―――――イティーロ


こいつの名前だ


俺が名づけた


コイツは自分の名前すらなかった


おいおい


俺より悲惨じゃねぇか


まぁ、俺も自分の名前にこだわりなんてねぇし

ロクな思い出もねぇし


便宜上で不便だからな


拾ったばかりのときは本当に苦労したぜ


俺も若かったしな


口を開かねぇし


ダチの一人や二人も作りやしやがらねぇ


ずっと隅っこで黙って見てるだけだ


コイツが何を考えて生きてるのかよくわかんねぇ


だけど、確かなのは

コイツは俺に似てる


カッカッカ


こういうやつを見てるとついつい構いたくなっちまう


…それから俺は毎日そいつに話しかけた


一方的にだ


内容までは覚えちゃいねぇけどな


どうしようもない話すぎて内容までは覚えてねぇけどな


俺は嫌がらせに関しては自信があるからな

人が困る顔を見るといじめたくなっちまう

そう言ったらすげぇ嫌な奴かもしんねぇな


ソイツ…いや、今はイチでいいか

イチは最初はまったく相手にしなかった


そりゃウゼェクソオヤジに一方的に絡まれてんだ

嫌に決まってんだろう


…だからやるんだけどな


こっちからずっと話しかける毎日


ったく、どこまで頑固なんだよ


だが変化がまったくないわけではなかった


もちろん、メシを食ってから元気をだんだんと取り戻してきたっつーのもあるんだろうけどよ


少ないなりに、感情というものが見え隠れするようになってきた


面白い話をするときはわずかに楽しそうな顔をして

ちょっと悲しい話をするときには、少し悲しそうな顔をすんだよ


もしかしたらずっと一緒にいるうちに俺がコイツの変化に敏感になっただけかもしんねぇけどな


それからも続く日々


そんなある日、また一つ転機があった


「…俺は」


初めてイチの声を聞いた

嬉しかったもんだ


だけど、俺は何を喋るのか

イチが何を言いたいのか


嬉しさを表情に出さないように気を付けて黙って話の続きを聞いた


「…俺は、母親が混血で…差別されてきた…」


初めて見たときから知っていた


「差別され続けて…日々の食うものにも困っていた。だから母親は身体を売って毎日をしのいでたんだ… 母親は、暴力がひどかった。俺の顔を見るたびに俺に暴力をふるった。食うもんもロクにもらえなかった」


初めて聞くイチの声

自分の何かを振り絞っているようにも見える


「ある日、母親は体調を崩してそのまま死んだ。医者にかかる金さえないんだ…死ぬ間際でさえ俺に恨みつらみをぶつけてきた…悲しかったよ…そして、俺は家を失った。同じような境遇の奴はいっぱいいたけど、俺を見ると混血だなんだと罵って…俺は相手にされなかったよ…」


イチがどうして一人でいたのか


「俺は不器用だし、どんくさいから盗みとか強盗とか…そういうことすら出来なかった。自分一人じゃなに一つ出来なかったんだ…」


今にも泣きだしそうに震える声


「今にも空腹で意識がなくなりそうな時に…アンタが来たんだ…俺はアンタが怖くて仕方がなかった…もちろん今もだ。生きてきて今まで一度もアンタみたいな人間は見たことがない。」


こちらを睨むイチ

そう、その顔だ

俺らはやっぱり似てるな…


…そっくりじゃねぇか


俺はイチの手を取ってこう言ってやる


「カッカッカ!外に出ようぜイチ」


なんでこうしたのかは今でもよくわかんねぇ

だけど

―――コイツの気持ちを精いっぱい受け止めてやる

そう考えたのは確かだ


俺たちは外の広場に出た


いるのは俺ら二人だけ


「よっしゃ!かかってこいよイチ」


イチは俺が何を言ってるのかよく分かっていないようだった

俺は構えを取る


「んだよ~。シラけるじゃねぇか。ほら、ここだここ!思いっきり殴ってこいよぉ!!」


「いきなり、外に連れ出したかと思えば…アンタは何を言ってるんだ…バカじゃないのか!!」


おう


確かにバカかもな


そこは今も昔も変わっちゃいねぇ


いつでも俺は空っぽの頭で

自分に正直に生きてきた


そこだけは誇ってもいいかもしんねぇな


バカだけどよ


「お前が乗り気じゃねぇなら、こっちから行くぜぇ?!」


思い切りイチにオーソトガリとかいう技をかける

なんでも、ジュード―とかいう競技があるらしいな


下っ端時代に教わったぜぇ


一応、手加減はしてるぜ?

全力なりにな


「…クソっ!めちゃくちゃだ!!アンタは俺に何をする気だよ!!もう…もう…俺に…構わないでくれよっ!」


イチは自分が何をされたのか理解したのか

こちらに敵意をむき出しにした


それなりにガタイがいい身体

コイツはいい格闘選手にでもなるんじゃねぇかな


だけど、そんな素人パンチじゃ俺は倒せねぇぜぇ?


起き上がりざまに俺に殴りかかってくる


「クソっ!クソっ!!見透かしたような顔しやがって…!!ふざけんなよぉぉぉぉぉぉ!!!」


そうそう

俺も

こんなヤツだった


自分がクソジジイみたいになってるのは癪だが


確かに俺はクソジジイの息子だ…


血はつながってねぇけど


そしてこいつは俺の…息子みてぇなのかもしんねぇな


誰一人として相手にしてくれなかった

ぶつかってくれなかった


人間として


やり場のない感情は次第に人の心に闇を生んでいくもんだ


大人はそれを受け止めてやらねぇとな


いや


大人だからどうのこうのってもんじゃねぇな


人間として


俺は立派なヤツじゃねぇけど


今まで自分なりにまっすぐに生きてきたつもりだ


そうだな


こうやって今があって

楽しめてるのもクソジジイのお蔭なのかもしんねぇな


…ぜってー感謝なんてしてやんねぇけどよ


こうやって考えてるけど

絶賛戦闘中ってなぁ


まぁ、俺ほどの人間が

コイツにやられるほど弱くはねぇよ


だけど


俺は様子を見ながら


そろそろ限界だな…


そんな事を感じていた


適当にいなしていたイチの拳を


避けずに


――――真正面から受け止めた


疲れ切った顔だ

そりゃそうだろう

それを見計らって殴られてやったんだから


「なんで…避けなかった…?」


自分の拳が俺に当たるなんて考えもしなかったんだろうな

驚いた顔でこっち見やがる


バカヤロー


当てさせてやったんだよ


いて―じゃねぇかチクショウ


だけど


そんな事はどうでもよかった


「カッカッカ!いいパンチしてんじゃねぇかぁ?イチよぅ!?お前はいいボクサーになれるかもしんねぇぜ?」


俺はイチの辛さや痛みを全部受け止めてやる

俺にはこういうやり方しか出来ねぇんだけどさ…バカだから


「…うぅ、ウワァァァァァ!!」


少しの間の後に

イチは

全力で


泣いた


本当に全力でな


恐らくだけどな

全力で泣くなんてことはそうそう出来ねぇんだよ


辛い状況や苦しい状況でも自分の気持ちを取り繕うとしちまうんだ


自分がそんな状況に置かれてるなんてことを考えたくねぇんだ


そうやって誤魔化し誤魔化し生きていくと、いつか壊れちまう


俺はそんな強い強い

隠れた本当の想いを育ててやるのが必要なんじゃねぇかって勝手に思ってる



俺は全力でイチを優しく抱きしめてやった


「やっと、いい顔になりやがったなぁ?今のその気持ちを忘れんじゃねぇぞ。お前は絶対に強く生きていけるからなぁ?」



カッカッカ!

こっちまで気分が良くなってくるぜ


―――――


それからイチは変わりやがった

今までが嘘のように明るく

そして全力で物事に打ち込むようになった


自分の血とか関係ねぇ


俺らは家族だぜイチ?


――――


いつしか俺の下で働くようになって

俺の右腕として頼もしい男になったもんだ


「イチよぅ?お前も立派になったもんだなぁ。カッカッカ!」


俺は思い立ったようにイチに向かって話をかける

イチは突然の発言でも優しい笑顔で応える


「ボス…私も貴方に会わなければ今頃死んでいたかもしれません。私は、アナタに一生ついていきます」


少し昔を思い出して目頭が熱くなったのか

上を向いて涙が出そうになるのを堪えている


「カッカッカ!俺はボスじゃねーつーの!!それよりも今回の仕事はデカくなりそうだなぁ!」


「ええ…それにしても、なぜ日本で取引を行うんでしょうか?少し謎が多すぎます」


「まぁ、いいじゃねーか。クソジジイの期待に全力で応えるだけだ!!それにこの仕事が終わったら、何か話があるみてーだしな。さっさと終わらせて帰ろうぜイチ」


「えぇ、家族が待っていますからね」


今のイチはとてもいい顔つきだ









―――――以下、格闘娘


『…っていう話だったんだヨ~!!ボスとワタシのシークレット感動話はどうだっタ?ファイティングガール?』


「…いや、嘘でしょ!!」


途中まで真剣に聞いてたけどバカバカしくなっていた

いきなり通信がきたかと思ったらいきなり過去編突入!?


「女子高生のボスにオッサンのアンタ!!矛盾がありすぎて話にならないわよ!!」


『OH…事実は時として小説よりクレイジーなり。ってスクールで習わなかったカ?ファイティングガール?』


「バカにしないでって!!この小説よりクレイジーな事実があってたまるかっていうの!!」


本当にそうだった


「そ・れ・に!!なにアンタ、その妄想の過去話で普通に喋ってんのよ!!いつもみたいに『OH!アイアムチャンピオン~!』とか言いなさいよ!妄想だから美化されてんの?なんなの?」


『ワタシはそんなコト言ワナイよ~!それこそモーソーよ!!』


こんなくだらないことを言い争っていてもしょうがない


「カッカッカ!!懐かしい話じゃねぇか!!あれは今から…36万、いや1万4000年前だったか?」


「人類史以前の話!?とんでもない!!」


悪ふざけもこれまでにしてほしい



――――作戦決行に向けての準備中の話であった

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