強引さの裏側に潜む臆病
まったく!!ボスはめちゃくちゃだよ!!
私は強く憤った
まるで、どっかの海賊王みたいな横暴さだ
私が気が付いてからずっと黙り込んでると思ったら
いきなり男二人を殴り倒した
ここに海賊王のモブキャラがいたら
えぇ~!?とか言って目を飛び出させていることだろうと思う
そのくらいめちゃくちゃだ
残念だけど、これは小説でそんな漫画的な描写は一切ないけどね!!
「カッカッカ!マスターいつもの!!…じゃなかった、ホットミルクをくれ!!」
「常連かよっ!!」
何年も通い詰めた人が使うようなセリフ言っちゃうの!?
しかもホットミルクに落ち着いちゃうの!?
そりゃ、未成年はお酒飲めないけどさぁ…
―――――経過のまとめ
私たちは良いか悪いかは別として男三人を殴り倒した
もちろん本来ならば完璧にアウトな行為なんだけど
どうやら、最近になってからここらへんを取り仕切るようになったマフィアの下っ端だったらしい
どうにもこうにもここらへん界隈は新しいマフィアとの折り合いが悪いらしく幾度となくトラブルがあったらしい
そんなこんなで、なかなかに鬱憤がたまっていたらしいが相手が相手なだけに泣き寝入りすることが多かったとのこと
「イヤッハッハッハ!!いきなり便所から出てきたときはおったまげたが、あいつらをぶん殴ってくれて感謝するよ!」
「なぁ~に!昔からのなじみだ!気にすんじゃねぇよ!!」
「オウオウ!今日は一杯おごってやるよ!!それにしても面白いこという嬢ちゃんだなぁ。こんなに強いねーちゃんだったら、将来の旦那は孫悟空か!?はっはっはっは!!」
さすがにサイヤ人と結婚は難しいかなぁ…
いまいち笑いのツボがわからない
そしてさっきまでは寡黙そうな印象を受けたマスターだったが思った以上に喋る
ついでに声がデカい
「カッカッカ!!それよりもこの街の今の状況はどうなってんだぁ?前まではあいつらのシマじゃなかったじゃねぇか」
まったく話の様子が呑み込めない私を置いてボスが話を進める
「…おう。そんな話どこで聞いたんだ?」
「ちょっとした事情でなぁ…マスター…ホットミルクお替り」
えぇ?ここで言うタイミング?
あまり牛乳飲んでるとおなか壊しちゃうよ?
「はいよ、ホットミルク―――ん~、どこまで言っていいもんやら…まぁどこで聞いたか分からんが、この件はあまり知らないほうがいい」
デカい声を急に潜めるマスター
「俺も仕事柄いろんな情報が入ってくるし、俺自身も噂は嫌いじゃない。だけど、この件は本当にやばい――――」
「構わねぇよ。それにまんま他人事ってわけでもねぇしよ。」
「お前らには救われた恩もあるしな――――こっから先は独り言だと思って聞いてくれ…」
よく分からないけど
この物語で一回あるかないかの珍しくシリアスな展開になりそうなので私は黙って話を聞いた
「いやな、この街はお世辞にも治安のいい街とは言えねぇ。悪ガキよりもっとタチの悪い奴らが牛耳ってやがる。だけどな、前まではそこまでじゃなかったんだよ。クソにはクソなりの秩序ってもんがあったんだ。」
…なんか、読む小説を間違えたような話みたい
実は違う小説でした~!!パンパカパーン
みたいな話はないよね?
そんな私の戸惑いを無視して、マスターは話を続ける
「前にここらを仕切ってた先代のボスが引退する、さぁ次のボスを幹部から決めようって矢先にとんでもねぇことが起こったんだ」
なんか本当に聞いちゃいけない町事情を聞いてるような気がして、後ろめたさと怖さを感じる
私は不安になってボスのほうに顔を向ける
「ぐおぉ…Zzz」
寝ていらっしゃった
…!?
この状況下で!?
あんたが聞いた話なんじゃないの!?
言いだしっぺが放棄するってどんな状況よ?
しかし、寝顔だけ見るとやっぱり女の私から見ても可愛い…
いかんせん豪快な寝方ではあるけれども
「イヤッハッハ!!こんな時に寝るなんて肝の据わった嬢ちゃんだ!!」
えぇ…まったくその通りだと思います
「んで、話の続きをしようか…」
続けるんだ…
いや、確かにここまで聞いてしまったからには最後まで聞くのも義務みたいなもんだと思う
「ん~、どこまで話したっけか…そうそう、先代の引退だな。ボスの後継者候補は三人いた。いや、その中の一人は候補のもう一人にべったりだから実質上は二人だろうな。
だけど、本来なら一番の有力候補にほぼ決まるもんだと思ってたさ。人望も実力も誰しもが認める存在だったからな。残りの候補二人も信頼してたしな。だけどよ…」
ここらへんでマスターの喋りが濁りだす
やっぱ、あまり言いたくないのだろうか
「いやな…そのまますんなり決まってくれれば良かったんだけどよ。その候補の幹部が旅先で行方不明になっちまったんだよ…。一体、何があったのか誰もわからねぇ。残されたのは取引先の組の死体だけだった。
それから組はめちゃくちゃだ。そりゃそうだろうよ。明らかな裏切りに取引ももちろんご破綻。それから組はガタガタだ。昔からの同盟相手や部下の連中も今回の不義に反旗を翻しシマすら奪われちまった。残った先代はそのまま身体を壊しちまって入院中だ。残りの候補幹部二人も突然の行方不明に対応しきれなかったんだろうな。それから、ここらを取り仕切るようになった組の横暴に限界を超える寸前だったったつーわけだ」
…明らかに一般的な女子高生の範囲を超えた話だった
仁義なき戦い的な何かであろうか?
私にはどうもこうもスケールが違いすぎてピンとくるような話ではなかった
もう少しギャグよりであってほしかった
サル君を探しに来て(連れてこられた)飛ばされた先はとんでもない世界であった
「グォォ…Zzz もう食べられないよパトラッシュ…」
ボス…明らかにそんな空気じゃないよ。
「まぁ、観光客のねーちゃんにはあんまり関係のない話をしちまったな。すまねぇ。なにぶん普通に観光するぶんにはそこまで表面化した問題じゃねぇからよ!!今の話は独り言だ!!存分に楽しんでくれや!!」
いつもの調子に戻って話し出すマスター
そうだね…世の中にはこんなこともあるし…
いちいち問題に首をつっこんで解決なんて痛快な冒険でもないんだ…
さっさとサル君とかを探して帰ろう
それが一番いいはずだよね。
私は少し大人になったつもりでことなかれを貫き通そうとしていたら、隣から声が聞こえた
「話は聞かせてもらったぜぇ!!よし、行くか!!!」
いやいや、アンタ寝てたじゃん
思いっきりフランダースしてたじゃん
「いきなり何を言い出すのよ!行くってどこへ?あてなんかないじゃない」
まさに何もない
ここの街の事情を聞いただけで、何一つ手がかりがなかった
「いやなぁ、大体のことは分かった。今からある人に会いに行くぜぇ!!」
「今の話から何一つ情報なんてないじゃない。無謀にもほどがあるよボス!!」
「なんでぇ!嬢ちゃん!ボスなんて言われてんのか!イヤッハッハ!そういえばアイツにどことなく雰囲気が似てるような気がしねぇでもねぇなぁ!!」
あの話のあとにここまで切り替えられるマスターはさすがだろう。
すると酒場の入り口から声がする
「いやぁ~。話は全部聞かせてもらったよぉ。あんまりそういうことは部外者に口にしちゃダメだぜマスター?☆ビシッ」
…誰?
いまどきないだろってレベルの眩しい白いスーツに
いまどきないだろっていうレベルの入念に整えられたであろうリーゼントヘアをした
いまどきないだろっていうレベルのぎらぎらした男が立っていた
「あ…あぁ、お前来たのか…。」
「いやぁね☆ここで誰かが暴れまわってるって情報を仕入れたからぶっ飛んできたわけ!いやぁ、最近はあいつらデカイ顔しすぎだよねぇ」
「おめぇ、いっつももめごとが終わった後にくんじゃねぇかよ…」
マスターはものすごく嫌な顔をしていた
「いやだな~!そんなことないよぉ~☆たまたま、情報が入る時間がこうなって。たまたま、ここまで駆けつける時間がこの時間になっちゃっただけだよぉ~」
…う~ん
「おい…アイツはウザいから関わらないほうがいいぞ。あいつの存在自体がウザいからな。」
「ハハハ~☆聞こえてる聞こえてるぅ~~!マスターひどいなぁぁ~」
そんな会話のやりとりのあと
こちらに目を向けるウザい男
「あっれぇ~?こんなとこに可愛い子が!しかも二人!!こんなしょぼくれたバーにいるなんてぇ~!今日は超ラッキーじゃね~?」
…本当にウザかった!
この態度といい、この接し方といい…
しかも気が付いたら私の横に座ってるし…
「ねぇねぇ~どっから来たの?その顔、アジアンビューティーだねぇ!それにすっごく綺麗な目をしてるね~。うわぁ~、この白い手もすごく素敵だぁ」
なにかにつけて私に触ろうとしてきた
イカン、なんかこのまま拳を振り上げてしまいそうな位にうざかった
「あ!そっちの子もすごく綺麗だねぇ~!すごく髪の毛サラサラでシルクみたいだ!ちょっと触っていい?」
ボスにターゲットが向いた
ボスがどんな反応をするのか少しだけ好奇心が湧いた
「かっかっか!本上ぅ!!良かったな!探す手間が省けたぞぉ!」
?
そんな事を言うといきなり男の股の…ソレを乱暴に握った
いやいや、ダメだって!どんな反応をするのか期待してたけどそれはダメだって!!
ここを成人向け小説にする気!?
「おおおぅふ!!い…いきなり、そんなとこを…だ、大胆じゃないかぁキミぃ…」
さすがの男もうろたえていた
「久しぶりだなぁ~?お前、ちいせぇ頃からずっとチビでどうしようもない卑屈な男だったのに成長したじゃねぇかぁ~?」
「ええっと、どこかでお会いしたかなぁ…?ハハハ…こんなに大胆に女性に迫られたことないけど、君ほどの美しい人に声をかけられたら忘れるわけないんだけどなぁ~…」
いまだに軽口を言い続ける男
それを聞いてんのかどうか分からないが
ボスの手はさらに男の…
イヤイヤイヤ!!これ以上は言えない!!
とにかく力を強めた
「アァァァ!!それ以上はダメだよぉ!!男のソレは真綿のように繊細なんだぁ!」
女の私にもなんとなく分かる
痛いのは想像に容易かった
マスターも突然の出来事に呆然としていた
「カッカッカ!立派にはなったが、潰された玉はもどってこねぇよなぁ?もいっこの玉も潰してやろうかぁ?スラムで一番のチビだった片玉の――――マルコよぉ?」
その話を聞いたら、男の顔はみるみると血の気がひいて青ざめていった
「ど、どうひて!?その話を知ってる人なんひぇぇ―――!?」
男は最初のキザでナンパな姿からは想像もつかないほどにみっともない姿を晒していた
「お前に会いに行こうとしてたとこだ!ちょっと色々と…清算をしにな…」
ボスはいつになく真剣な顔つきをしていた
「やっぱよ。人間ってのは完全に生まれ変わりはできねぇんだよ。ケジメはしっかりつけにいかねぇとな…」
「ちょっと!!嬢ちゃん!!やりすぎだ!!マルコが泡吹いちまってる!!」
マスターはなんとか正気を取り戻しボスを止めていた
きつく握りしめすぎていたらしい
これが
スラム街のチビマルコとの最初の出会いであった
―――――以下、サル
前略、おふくろ様
春も過ぎ去り
夏の影がちらりちらりと顔を見せる季節になりました
私もとい僕、なぜか知らない場所で64な大乱闘をガタイの良い屈強な男たちとプレイしておりましたが
気が付いたら、なにやらピンク色の少し大人の香りがする部屋のベッドの上におります
聞こえてくるのはシャワーの音
大人の階段を上ろうとしてる僕はまだシンデレラなんでしょうか?
このまま甘酸っぱいさくらんぼからクラスチェンジをするのでしょうか?
まさか、高校に入学した当初は予想もしておりませんでした
しかし、これは甘酸っぱいラブコメや様々な出会いの過程をすっ飛ばして
いきなり濃厚な成人向け小説になりさがろうとしております
そんなことが許されていいのでしょうか?
…僕は構いません
確かに純潔をこのような過程で失うことになる怖さはありますが
青春時代の中高生の性欲を侮ってはいけないと思います
むしろ
そんなの関係ねぇ
そんなの関係ねぇ!!!
ムラムラは時として物語を破たんさせるものであります
現実はそういうものなんです
うっひょぉぉ
僕はアルセーヌな三世のようにベッドに飛び込む自信があります
そうこうしていると
シャワーの音が止まりました
『次、入っていいよ?』
うっひょぉぉぉ!!
僕はどうなってしまうのでしょうか?
どうにもならないんでしょうか?
どうにでもなってしまえばいいと思います