今とは一体いつのことなのか?切り取れない風景画
学校に遅刻した
しかも悪目立ちしてしまった
私はそんな事望んでないのに
―――――事の顛末
「カッカッカ!!すまねぇ先生!!この子が悪い輩に絡まれてるのを目撃して、世紀末救世主である俺は見過ごす事が出来ずに助けてきたぜぇ!!」
大きな音を立ててドアを開けた第一声がそれだ
すでに授業が始まっていた教室は呆然とした様子で私たちを見ていた
「…ちょ!!アンタ達!もう少し静かに…!!」
私は必死になるも更なる追撃をかける
「OH!!ボスの勇姿はグレイトフルダッタヨ!!今ナラ殺意の波動ニ目覚メタ格闘家にモ勝てるクライダヨ!!」
なおも呆然としているクラス
先生もこんな事態に巡り会う事はそうそう人生の中で経験していないのであろう
同じように停止したままだ
今まで私が体験していた常識とはなんだったんだろう
「あ…あぁ…流川と田中だな…事情は分かったから、自分のクラスに戻りなさい…」
「先生ィ!!感謝するぜぇ!!自分たちのクラスにも言い訳をしに行かなきゃならねぇ!!詳しい話はまたあとでする!!」
そう言うと、勢いよくドアを閉め廊下を走り出す音が聞こえた
そこでやっと我に返ったのか後を追う形で廊下に飛び出し
「ろ、廊下は走るんじゃないぞ~!!」
…そこ!?
この状況でいう精一杯の先生らしい言動だったのだろう
遠くでわりぃわりぃの声と共に笑い声が聞こえてきた
とんでもない人たちだ
「…それで、いつまでそこにいるんだね?」
先生は私に厳しい視線を投げかける
それに触発されてか
謎の少女A(私の中で勝手に決定)の存在感に目を奪われていた生徒の目が一斉に私に向けられていた
「さっきの事…本当なのかね?」
先生は視線が集中してしどろもどろになる私に立て続けに質問する
これは困った
普段からあまり目立たないようにしてきたのだけれど
こればかりは状況を回避出来ない
「あ~…いや…なんといいますか…大体はそんな感じ…かなぁ~…みたいな?」
我ながら、とても言い繕うのがヘタだ。
「ふむ…理由が理由だ。仕方が無い。席に着きなさい。…それと地域の治安の問題もある…詳しい状況報告も兼ねて後で職員室まで来なさい」
くぅぅ…まさかの呼び出しとは
私は誤摩化しの笑いをしながらコソコソと席に着く
でも
謎の少女Aのお陰(?)で怒られたりはしないようだ
流川…?田中…?
あの二人の名前だろうか
普通に学校に馴染んでいるのが恐ろしい
かたや、ムキムキマッチョのスキンヘッド黒人
かたや、ゆるゆる私服の少女
…おかしいよですよ!!カテジナさん!!
…じゃなかった
でもおかしいのは本当だ
あんなに目立つ二人組に今の今まで気がつかなかった自分も自分だけどね
何かとんでもないことになっちゃったな
あとであの二人とまた話し合わないと…
―――――授業終了
私はクラスの人にあっという間に囲まれた…
「ねぇねぇ!?あの二人と学校に来るなんて…どういうこと!?」
「流川さんって可愛いよね~。田中くんもスポーツ出来るし優しいしすっごく素敵!!」
「あの二人って本当に謎が多くて…ミステリアスっていうかさ!どんな会話したの?」
わんやわんや
次から次に質問やら、可愛いだかっこいいだの
きわどいのだと、罵って欲しいとか抱き枕になってほしいだとか
…変態か!!
でも、おかげさまで二人の情報がだいぶ手に入った
どうやら二人は高校ではかなりの有名人らしい
私が知らないと言ったら、周りに驚かれた…そんなに?
しかも、凄く人気者らしい
上級生はもちろん、噂は他校にまで及んでいるとか
あんまり流行とかに敏感なほうじゃないとは思ってたけど…
他に情報と言えば
二人の過去とか同じ中学校だった人はいない
高校に入ってからしか知らない人ばかりだった
むしろ田中と呼ばれる黒人にいたっては年齢が明らかに…
中学生とかじゃなくて軍隊あがりなんじゃないかと思うくらいに屈強だ
調べれば調べるほどに謎な二人だ
人望は厚いらしいけど
みんな遠巻きに眺める感じになってしまっているらしい
どうも住む世界が違う感じで
羨望のほうが強いらしい
そんな二人と一緒に遅刻の大立ち回りは話題の餌食になってしまうのも無理ないだろう
何より―――
あの強さ
こればかりは身を以て痛いほどに理解している
同世代に敵はいないと思っていた
そんな私があっさり負けちゃったんだもん
二人にしっかりと口止めをしておかなければならない気持ちよりも
純粋に二人に対して興味が湧いてきた
基本的に自分が目立たなくなる為に他人と同調しようとはするけど
個人に対して強く関心を抱く事があまりないのだ
そんな私が珍しく興味をもった対象だ
―――――放課後に会いに行こう…―――――
まずは先生に説明しに行かないと…
――――――以下、放課後
先生への説明はすんなりと通った
ここでは私が不良に絡まれて、偶然に通りかかった二人が助けてくれた
…ってことになってる
ん~、大体あってる?
不良をボッコボコにしたのは私だし
さらに二人までもボッコボコにしようとしてたこと以外はね…
先生が警察やら町の地域課やらに電話をしている
私としては早めの切り上げになってくれて嬉しい
本題はここから
穏やかで平凡な暮らしをこれからも過ごす為にあの二人にしっかりと口止めをしておかなければならない
まだ学校にいるかな?
私は二人のクラスに足を運ぶ
――――以下、放課後の教室
「サァルゥ~~~!!なんで今日は休みなんだぁぁぁ!!」
「OH!!ボス!!モンキーボーイがハイスクールに来ないナンテ異常ダヨ!!トラックに飛び出サナイタツロークライあり得ないヨ!!」
叫んでいた
101回目のプロポーズなんて今の世代じゃ分かりづらいモノがあると思うんだ
窓を開けて校庭に向けて叫んでいる
校庭で部活動をしている人たちは何事かとこちらを見上げている
本当に対極的
私は人の注目を集めるのがとても苦手だ
しかし、この人たちはどうだろう
そもそも自分たちが注目を集めていることに気がついているんだろうか?
期待や畏怖、羨望、嫉妬
様々な感情が周りを取り巻く
それに耐えられるだけの強さ…
っと、こんなこと考えてる場合じゃなかった!!
「アンタたち!そんなとこにいないで私の話を聞きなさいよ!」
私が教室に入ってきてもおかまい無しな二人
「…サル!?サルなのか!?」
私の声に反応し、こちらを振り向き近づいてきた
さっきからサルってなんなのよ?
私を見てサルって失礼じゃない?
「…なんだ、今朝の格闘娘か…サルじゃねぇのかよぉ」
彼女はがっくり肩を落としあまり見せない寂しそうな顔をしていた
「さっきから意味分からないよ…。サルってなに?いきなり失礼だと思わないの?」
「ファイティングガール…ボスはショックなコトがアッタヨ…タイムショックダヨ」
「タイムショックではないと思うけど…」
しかし、落ち込んでいる様子を見ると少し拍子抜けだ
この人たちでもこんな表情をするときがあるんだ…
私の中では常にあっけらかんとしていて人をおちょくるのが好きな人たちかと思っていた
「…それで、そのサルってのはなんなの?私に分かるように説明して欲しいんだけど――――」
「だが、断るぅ!」
「断るのかよっ!!」
いけないいけない、こんなツッコミを私にさせるなんて…
「カッカッカ!!言ってみたかっただけだ!!なんてこたぁない!!普段なら絶対に休む事がなさそうなランキングNO.1のサルが学校を休んだ…これはちょっとした事件だぜぇ?」
前言撤回!!そんなに落ちこんでないぃ!?
「だから、そのサルって単語について説明しなs――――」
ドゴン!!!!
私が言いかけると同時に 教室の後方の掃除用具入れから音がした
結構な音だよ?
普通に考えて、放課後の教室の掃除用具入れからこんな音がするわけがない
「ふむ――――」
私の驚きを前に、二人はいたって冷静なのか物怖じせずに考え込んでいた
「OH…ボス、コレはツマリ――――」
「おぅ。これは…もしかしなくてもあれだな―――――」
「だから!私を抜きにして勝手に話を進めないでよ!」
納得するような顔で二人は確認し合ったあとに続けざまに言う
「――――よぉぉぉし!!イチぃ!!サルの家に行くぞ!!」
「イェッサー!!ボス!!」
…
…
…!?
「…そこ!?明らかなスルーだよね!?なにそのスルースキル!?いま掃除用具入れから音がしたよね!?」
「かっかっか!ぬかしおる」
「ぬかしてないよ!?なにその喋り方?」
「そうでござる!!せっかくの新展開の予感をスルーするなんて、とんでもないフラグブレイカーでござる!!」
「そうよ!!何かイベントが発生しそうじゃない!!さっきからめちゃくちゃよ!」
…あれ?
「カッカッカ!そんなことはどうでもいい!!格闘娘!!サルに会いに行くぞ!!」
「まかせるでござる!!誰かは存ぜぬが、拙者がサル氏のもとに案内するでござるよ!!」
「ソイツはいい!!道案内頼むぜ!!誰か知らねーけど!!」
「うむ!!それではこの転送機の説明を―――――」
…????
ボスは私の肩に手を回してそう言う
何かがおかしい
「OH!!ボス!!急展開ネ!!コレはチョー展開とも言ウネ!!読者が取り残サレル展開ダヨ!!」
「おっと、そこのムキムキ殿は重量制限に引っかかりそうでござるよ」
「オーマイガッ!!」
「残念だったなぁイチぃ!!今日はお留守番だ!!ちょっと格闘娘と二人で行ってくる!!」
「え?ちょっ…私も行くの?っていうか…」
なんだか展開が目まぐるしい
ここらへんでツッコみたい
「なんでござるか!!何か問題点でもあったでござるか?急がねばサル氏が――――」
そう、ここね
これは言わせてもらうしか無い
読者的にも
私の心情的にも
――――――お前は誰だよ!!―――――――
「――――もう一度言うわ…お前は誰だよ!!」
「むむ…?」
頭にバケツを乗っけた女は腕を組み、考え込む
「意味分かんないんだけど?なに?あたかもずっといたかのように自然に会話に混じってるけど、誰よ!」
至極、まっとうなことを言っている
おかしいのは私の目の前の現実だ
ややこしい2人に加わりさらにややこしい人物が紛れ込んでいる
「はっ!!そうであった!!」
バケツ女(仮)は一人で何かを納得して発言する
「…何者でござるか!?」
「だから、それはお前だ!!明らかに不審者でしょ?自分の方が怪しいって事に気がつきなさいよ!」
「はっはっは!ぬかしおるでござる!」
「ぬかしおるのはお前だ!」
いっこうに会話が進まないのはこの物語の仕様なのだろうか?
「とにかく、サル殿の大体の位置は特定出来ているでござる。あとはこれを使えばサル氏に会いに行けるでござる」
そういって片手におまるを持っているバケツ女
うさん臭すぎるし
そもそもサルって何?
何一つ私に情報が回ってこないし
この不親切な仕様はなんだろう
読者が分かってるからそれでいいっていうわけ?
オールドタイプに訓練もなしにガンダムをいきなり操作しろっていうくらいの無茶苦茶よ
アムロとはちがうのだよアムロとは!!
「その戸惑いは若さ故でござるか―――」
「私の心を読まないでっ!!」
それこそニュータイプかっ!!
「かっかっか!!いいんだよぉ格闘娘!!それより俺に用があんだろぉ?どうせだぁ!付いてこい!」
「ちょっ、さっきから凄く自分勝手――――」
「おぉ…!!分かってくれるでござるか!!」
「おぅよ!バケツ娘!詳しく話を教えろ!」
「うむ、実は今朝にかくかくしかじかで――――」
でたっ、かくかくしかじか!!
ちなみに漢字で書くと『斯々然々』なんだって
「なるほど、かくかくしかじかでサルはかくかくしかじかでどこかへかくかくしかじかだったのか…」
かくかくしかじか多いよ!!
もはや何なのか分からないよ!
ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ
「oh…カクカクシカジカでネギダクニクナシ!ナノデスネー」
牛丼の専門用語になっちゃったよ!!
それは牛丼じゃなくてネギ丼になっちゃうし!!
その場合は『ネギだけ』でOKだよ!!
って、ツッコミにトリビアを入れてる場合じゃない…!!
「つまり…アンタ達は『サル』って人物と全員知り合いで、そのサルっていうのが今朝にそこのバケツ女のせいで行方不明になった…バケツ女は助力を求めて探しまわってた所で、えっと…流川さん…の大声を聞いて掃除用具入れに飛んできた…今から捜索しに行くってことでしょ?」
かくかくしかじかなんて使わなくても短い文章で伝わるじゃない…
「おぉ!見事な要約でござる!!確かに、拙者が至らぬばかりにサル氏がこのような事態に…一人ではとてもたどり着けない…途方に暮れていた所での神の導きでござるよ」
「カッカッカ!!こっちもサルがいなくて退屈していた所だった!サル探しの冒険なんて胸が躍るじゃねぇかぁ!!」
なんという余裕
というか私の本題はすでに忘れ去られていた
「それで、そのお子様用のおまるにしか見えないモノがワープ装置でサルって人はそれに吸い込まれたってわけね?」
「うむ、いかにも!」
「…ふぅ」
私はため息に続いてこの言葉を言わせてもらう
――――――信じられるかっ!!―――――――
なにその得意満面のドヤ顔は!?
おまるを片手にそんな表情する人は見た事無いよ!?
こうさ、流れに負けて今まで聞いてきたけど
荒唐無稽もいいとこだ
現実的に考えよう
魔法とか
超能力とか
ありえないでしょ?
確かに私も人の事言えるような人間ではないと思うけど…
レベルが違いすぎる
UFOにさらわれたので遅刻しましたと言い訳して誰が信じてくれるだろうか
そのぐらいに突拍子の無い事だ
バケツ女はうなだれて発言する
「むぅ…この世界の常識はよく分からないでござるよ…拙者は…私はサル氏を守ると誓った…この世界ではいくぶん世間知らずなのだ…ただ、助けたいだけなのだ…」
シュンとしてしまうバケツ女
少しだけ泣きそうだ
いつまでバケツを頭に乗せているつもりだろう
「な、なによ!何か私が悪いみたいになっちゃうじゃない…!」
あぁ、悪い事言ってる訳じゃないのに
凄く罪悪感を感じてしまった…!!
少し気まずい雰囲気が流れる
あぁ、こんな事が言いたい訳じゃないのに…!
「カッカッカ!!格闘娘ぇ!!」
少しの間のあとにボスが雰囲気を打破する
「青いっ!青いねぇ!!この言い争いが…オレの望んでた青春の1ページだぜぇ!!」
続けて、田中くん(…と呼ぶにはまだ抵抗があるけど)が流れに乗って話しだす
「AHAHAHA!!ボス!!コレが日本ノ青春ネ!!コノ後に河原でボクシングのアトに夕陽に向カッテ走リ出スマデが1セットダヨ!!」
「おぉ!!それだイチ!!よし!殴り合うぞ!」
二人はファイティングポーズを構えて今にも飛びかからん勢いだ
「ちょ、ちょっと!アンタたちなにやってんのよ!いないわよ!今時そんなヤツ!!」
いつの時代だ!
いや
いつの時代でもいないよ!そんな人!!
何の影響を受けたらそんな発想になるんだ!!
…自然とその場から笑いがこぼれた
「…なんか、バカみたい」
そう
バカみたいだ
「カッカッカ!こまけぇこたぁいいんだ。格闘娘ぇ、ちっとジョーシキってのに囚われすぎだ」
「コノ幻想郷デハ、ジョーシキに囚ワレテハイケナイノデスネ!!」
「否定すんのは簡単だけどよぉ…別に切らなくてイイモンまで否定しちまったら味気ない世界になっちまうぜ?魔法?超能力?いいじゃねぇか!歩いて、見て、聞いて、触れて。否定はそっからでも出来るってモンだぜ?何もしらねぇ赤ん坊のときから体験してきてることじゃねぇか。ジョーシキは悪いもんじゃねぇけど、そこにばっか縛られてたらいつまでも大事なモンに気がつけないまんまだ」
ボス…
「アンタたちに今日のことを口止めに来たつもりだったのに…。気がついたら、変な方向に話が進んでさ…」
違う…
「それで…助けに行くんでしょ?その…サルってのを。私も行くわ…ってか、行かなきゃダメなんでしょ?」
まさか、こんな展開になるとは思わなかった
今日は想定外のことだらけだ
こうなることは、私が物語を語っている時点で想像がつくことだ
運命は私を逃してはくれないらしい
「本上ていは…」
「…?」
おっと、何か物語の中で聞き慣れない名称が聞こえたぞ?
「本上ていは…1-C組出席番号18番。男子の間では人気が高く 成績優秀、スポーツ万能 高嶺の花的ポジションに収まっている。それが本人が目立っていないという勘違いに繋がる… 身長161cm 体重は―――――おぷっ!」
私はとっさにバケツ女の口を塞いだ
「わ、私の個人情報をも、漏らすなっ!!」
いきなり何を口走っているんだ!!
脈絡がなさすぎて口を封じるのが遅れてしまったくらいだ
その前になんで知ってるんだ!?
バケツ女は辞書のような分厚い本を片手に何かを調べていた
「アンタ…それ何持ってんの…?」
「うむ、この本は実に便利でな。拙者の秘密道具の一つでござるよ。」
「はい?」
「フフフ…驚いておられるな…これにはありとあらゆる情報が網羅されているでござる!!」
な、なんだってー!!
…って思うわけないじゃない
いや、凄いんだけどさ
「フフフ…驚いておられるな…」
え!?二度言うの!?
どうやら反応をあまりしなかったのがいけないらしい
かまってちゃん!?
「これにはありとあらゆる情報が網羅されているでござる…」
「それはもう分かったから!!――――」
「…こうじ君の」
「はい?なにいってんのアンタ?」
なんなの…この人たちの会話…
カオスって呼ばれるヤツだよカオス
「うむ、説明しよう!!世界中のありとあらゆるこうじ君の情報がここに載っている!!」
そして続けざまにポケットを探るような仕草をしてから
聞いた事あるようなガラガラ声で喋りだす
「ちゃらちゃっちゃっちゃちゃ~ん!! KOJI苑~(コージイズディクショナリー)」
「――――ただの語呂あわせかよ!!し・か・も!!そのルビおかしいよね!?それだとあたかもこうじ君が辞書みたいになっちゃうじゃない!!」
無茶苦茶だ!
というより適当だ!
「ハッハッハ!!まぁ、こうじ君が見聞きした情報なんかも含まれているからそれなりに便利なのでござるよ!こうじ君は、本上殿について随分とお詳しいようでござるな」
知らんがな!!
こうじ君ってどのこうじ君なのかさっぱり見当もつかない
むしろ、あんまり人の名前とか覚えないっていうか…
しかも、顔もあまり覚えていない。
「OH!MR.コージカワイソウネ…」
「あ~!もう!話がいっこうに進まないじゃない!!仕切り直しよ!!仕切り直し!!」
―――――仕切り直し――――――
私は目の前でバケツ女
もとい、狭間さんが呪文を唱えているのを目の当たりにしていた
いやいや
呪文って言葉を日常会話で使うとは思わなかったよ
しかし
私がイメージする呪文とは少し違う
よく分からない魔法陣とか
煙とか光が出てくるとか
私はそんな演出があるのが呪文だと思っていた
現実では
目の前のおまるに向かってブツブツと喋っている女子がそこにはいた
…アハハ
嘘みたいだろ?
これ
呪文唱えてるんだぜ…?
無理矢理に納得しそうな雰囲気だったけど
完全なる変質者だ
目の前の非現実的光景を
現実的に見ている私にとってこれ以上ない変質者だ
隣で、田中くんとボスがニヤニヤと笑いながら教室の椅子に腰掛けている
あの二人はなんであんなに余裕でいられるのか
不思議でしょうがない
そうこうしてるうちにバケツ女もとい狭間さんの準備が終わったようだ
準備が終わったっていうのも不思議な感じだけど
だって、おまるに向かってぶつぶつ言うのを辞めただけだからね?
凄く絵的には変な構図だけど
「ふぅ…これで準備は完了でござるよ!!」
一仕事を終えた顔をして、満面の笑みでこちらに向かう
私にはとてもじゃないが一仕事とかそういう事をし終えたようには見えなかった
現実はとても厳しい
やはりファンタジーはファンタジーなのだと思い知らされる
現実は
おまる語りかけることが魔法と呼ばれる事実に…
やっぱりファンタジーはファンタジーのままの方がいいかな…?
そんな事を考えていたらボスが立ち上がりおもむろに発言する
「カッカッカ!!クアァ~!!それじゃあ行くとするかぁ!!」
背伸びをしながら気合いを入れ直すように言う
「おいぃ!!格闘娘ぇ!!オレと一緒に来い!!」
「…分かってる。本当に無関係だけど…私は…少し…ほんの少しだけ…」
変わるような気がする
なんていうか
なんていうか
…よく分かんないや。
「行こう。サルってよく分かんないけど、探しに行こう?」
私は覚悟を決めた
ボスは笑顔で応える
「あぁ、サルは俺の大事なモンだからな…アイツがいねぇとおもしろくねぇよ」
好きな人なのかな?
分かるのは
サルって人が凄く大事だってことだ
「あとはここにある『ヒデ』というボタンを押せば近くまでたどり着けるでござるよ」
ヒデ!?
なにヒデ!?
聞き間違いじゃなくって?
「了承したぜぇ?」
ボスは言い終わるか言い終わらないかのうちに『ヒデ』のボタンを押した
「ちょっ―――!!ちょっとはためらえよ―――!!」
今までの長いフリはなんだったのかという勢いでボタンを押す
「ボス~!!ワタシをツレテイッテ~ホシイヨ~!!ワタシをスキーにツレテッテ~!!」
「つむじ風でも追っかけてなさいよ――――よ?」
そんな古いネタにツッコミを入れる女子高生も女子高生だけど…
と
私の身体から重力が消えて行く
それと同時に何か強い力に引っ張られるような感覚
体験した事がない未知の体験
目の前が反転する
こんなに気持ち悪いのかぁ。
遊園地のジェットコースターでもこんなにはならないよ
ぐるぐるぐるぐる
私は途中で意識を失った
―――――――――――――
こんにちは
僕です
いや
誰だよってツッコミはよくよく分かっているんだけどさ
そこは話の流れから察してもらいたいね
僕は今
知らない外国人に囲まれて64をしています
64?
64って言ったら
あの有名なヒゲ配管工のロクヨン以外に何があるんですか?
いやはや、国際社会でもゲームってのはコミュニケーションとして成立するんだね
というわけで
スマッシュなブラザーズをやってるんだけど…
「オイ!!テメーのドンキウゼェゾ!ゴルァァァ!!」
「ンダト!?イヤラシいカービー使ってるテメェに言ワレル筋合イねぇぞコラァ!!?」
問題はこの外国人たちが異様に怖いということです
良い大人たちが数十人でロクヨンで熱くなってます
…
さすがの僕でもこんな状況は想定外です
さてはて
僕の出番はいつになるのか
この状況はなんなのか
どうなるんだよ!!
ってかどうすりゃいいんだよ!!
学校に遅刻した
しかも悪目立ちしてしまった
私はそんな事望んでないのに
―――――事の顛末
「カッカッカ!!すまねぇ先生!!この子が悪い輩に絡まれてるのを目撃して、世紀末救世主である俺は見過ごす事が出来ずに助けてきたぜぇ!!」
大きな音を立ててドアを開けた第一声がそれだ
すでに授業が始まっていた教室は呆然とした様子で私たちを見ていた
「…ちょ!!アンタ達!もう少し静かに…!!」
私は必死になるも更なる追撃をかける
「OH!!ボスの勇姿はグレイトフルダッタヨ!!今ナラ殺意の波動ニ目覚メタ格闘家にモ勝てるクライダヨ!!」
なおも呆然としているクラス
先生もこんな事態に巡り会う事はそうそう人生の中で経験していないのであろう
同じように停止したままだ
今まで私が体験していた常識とはなんだったんだろう
「あ…あぁ…流川と田中だな…事情は分かったから、自分のクラスに戻りなさい…」
「先生ィ!!感謝するぜぇ!!自分たちのクラスにも言い訳をしに行かなきゃならねぇ!!詳しい話はまたあとでする!!」
そう言うと、勢いよくドアを閉め廊下を走り出す音が聞こえた
そこでやっと我に返ったのか後を追う形で廊下に飛び出し
「ろ、廊下は走るんじゃないぞ~!!」
…そこ!?
この状況でいう精一杯の先生らしい言動だったのだろう
遠くでわりぃわりぃの声と共に笑い声が聞こえてきた
とんでもない人たちだ
「…それで、いつまでそこにいるんだね?」
先生は私に厳しい視線を投げかける
それに触発されてか
謎の少女A(私の中で勝手に決定)の存在感に目を奪われていた生徒の目が一斉に私に向けられていた
「さっきの事…本当なのかね?」
先生は視線が集中してしどろもどろになる私に立て続けに質問する
これは困った
普段からあまり目立たないようにしてきたのだけれど
こればかりは状況を回避出来ない
「あ~…いや…なんといいますか…大体はそんな感じ…かなぁ~…みたいな?」
我ながら、とても言い繕うのがヘタだ。
「ふむ…理由が理由だ。仕方が無い。席に着きなさい。…それと地域の治安の問題もある…詳しい状況報告も兼ねて後で職員室まで来なさい」
くぅぅ…まさかの呼び出しとは
私は誤摩化しの笑いをしながらコソコソと席に着く
でも
謎の少女Aのお陰(?)で怒られたりはしないようだ
流川…?田中…?
あの二人の名前だろうか
普通に学校に馴染んでいるのが恐ろしい
かたや、ムキムキマッチョのスキンヘッド黒人
かたや、ゆるゆる私服の少女
…おかしいよですよ!!カテジナさん!!
…じゃなかった
でもおかしいのは本当だ
あんなに目立つ二人組に今の今まで気がつかなかった自分も自分だけどね
何かとんでもないことになっちゃったな
あとであの二人とまた話し合わないと…
―――――授業終了
私はクラスの人にあっという間に囲まれた…
「ねぇねぇ!?あの二人と学校に来るなんて…どういうこと!?」
「流川さんって可愛いよね~。田中くんもスポーツ出来るし優しいしすっごく素敵!!」
「あの二人って本当に謎が多くて…ミステリアスっていうかさ!どんな会話したの?」
わんやわんや
次から次に質問やら、可愛いだかっこいいだの
きわどいのだと、罵って欲しいとか抱き枕になってほしいだとか
…変態か!!
でも、おかげさまで二人の情報がだいぶ手に入った
どうやら二人は高校ではかなりの有名人らしい
私が知らないと言ったら、周りに驚かれた…そんなに?
しかも、凄く人気者らしい
上級生はもちろん、噂は他校にまで及んでいるとか
あんまり流行とかに敏感なほうじゃないとは思ってたけど…
他に情報と言えば
二人の過去とか同じ中学校だった人はいない
高校に入ってからしか知らない人ばかりだった
むしろ田中と呼ばれる黒人にいたっては年齢が明らかに…
中学生とかじゃなくて軍隊あがりなんじゃないかと思うくらいに屈強だ
調べれば調べるほどに謎な二人だ
人望は厚いらしいけど
みんな遠巻きに眺める感じになってしまっているらしい
どうも住む世界が違う感じで
羨望のほうが強いらしい
そんな二人と一緒に遅刻の大立ち回りは話題の餌食になってしまうのも無理ないだろう
何より―――
あの強さ
こればかりは身を以て痛いほどに理解している
同世代に敵はいないと思っていた
そんな私があっさり負けちゃったんだもん
二人にしっかりと口止めをしておかなければならない気持ちよりも
純粋に二人に対して興味が湧いてきた
基本的に自分が目立たなくなる為に他人と同調しようとはするけど
個人に対して強く関心を抱く事があまりないのだ
そんな私が珍しく興味をもった対象だ
―――――放課後に会いに行こう…―――――
まずは先生に説明しに行かないと…
――――――以下、放課後
先生への説明はすんなりと通った
ここでは私が不良に絡まれて、偶然に通りかかった二人が助けてくれた
…ってことになってる
ん~、大体あってる?
不良をボッコボコにしたのは私だし
さらに二人までもボッコボコにしようとしてたこと以外はね…
先生が警察やら町の地域課やらに電話をしている
私としては早めの切り上げになってくれて嬉しい
本題はここから
穏やかで平凡な暮らしをこれからも過ごす為にあの二人にしっかりと口止めをしておかなければならない
まだ学校にいるかな?
私は二人のクラスに足を運ぶ
――――以下、放課後の教室
「サァルゥ~~~!!なんで今日は休みなんだぁぁぁ!!」
「OH!!ボス!!モンキーボーイがハイスクールに来ないナンテ異常ダヨ!!トラックに飛び出サナイタツロークライあり得ないヨ!!」
叫んでいた
101回目のプロポーズなんて今の世代じゃ分かりづらいモノがあると思うんだ
窓を開けて校庭に向けて叫んでいる
校庭で部活動をしている人たちは何事かとこちらを見上げている
本当に対極的
私は人の注目を集めるのがとても苦手だ
しかし、この人たちはどうだろう
そもそも自分たちが注目を集めていることに気がついているんだろうか?
期待や畏怖、羨望、嫉妬
様々な感情が周りを取り巻く
それに耐えられるだけの強さ…
っと、こんなこと考えてる場合じゃなかった!!
「アンタたち!そんなとこにいないで私の話を聞きなさいよ!」
私が教室に入ってきてもおかまい無しな二人
「…サル!?サルなのか!?」
私の声に反応し、こちらを振り向き近づいてきた
さっきからサルってなんなのよ?
私を見てサルって失礼じゃない?
「…なんだ、今朝の格闘娘か…サルじゃねぇのかよぉ」
彼女はがっくり肩を落としあまり見せない寂しそうな顔をしていた
「さっきから意味分からないよ…。サルってなに?いきなり失礼だと思わないの?」
「ファイティングガール…ボスはショックなコトがアッタヨ…タイムショックダヨ」
「タイムショックではないと思うけど…」
しかし、落ち込んでいる様子を見ると少し拍子抜けだ
この人たちでもこんな表情をするときがあるんだ…
私の中では常にあっけらかんとしていて人をおちょくるのが好きな人たちかと思っていた
「…それで、そのサルってのはなんなの?私に分かるように説明して欲しいんだけど――――」
「だが、断るぅ!」
「断るのかよっ!!」
いけないいけない、こんなツッコミを私にさせるなんて…
「カッカッカ!!言ってみたかっただけだ!!なんてこたぁない!!普段なら絶対に休む事がなさそうなランキングNO.1のサルが学校を休んだ…これはちょっとした事件だぜぇ?」
前言撤回!!そんなに落ちこんでないぃ!?
「だから、そのサルって単語について説明しなs――――」
ドゴン!!!!
私が言いかけると同時に 教室の後方の掃除用具入れから音がした
結構な音だよ?
普通に考えて、放課後の教室の掃除用具入れからこんな音がするわけがない
「ふむ――――」
私の驚きを前に、二人はいたって冷静なのか物怖じせずに考え込んでいた
「OH…ボス、コレはツマリ――――」
「おぅ。これは…もしかしなくてもあれだな―――――」
「だから!私を抜きにして勝手に話を進めないでよ!」
納得するような顔で二人は確認し合ったあとに続けざまに言う
「――――よぉぉぉし!!イチぃ!!サルの家に行くぞ!!」
「イェッサー!!ボス!!」
…
…
…!?
「…そこ!?明らかなスルーだよね!?なにそのスルースキル!?いま掃除用具入れから音がしたよね!?」
「かっかっか!ぬかしおる」
「ぬかしてないよ!?なにその喋り方?」
「そうでござる!!せっかくの新展開の予感をスルーするなんて、とんでもないフラグブレイカーでござる!!」
「そうよ!!何かイベントが発生しそうじゃない!!さっきからめちゃくちゃよ!」
…あれ?
「カッカッカ!そんなことはどうでもいい!!格闘娘!!サルに会いに行くぞ!!」
「まかせるでござる!!誰かは存ぜぬが、拙者がサル氏のもとに案内するでござるよ!!」
「ソイツはいい!!道案内頼むぜ!!誰か知らねーけど!!」
「うむ!!それではこの転送機の説明を―――――」
…????
ボスは私の肩に手を回してそう言う
何かがおかしい
「OH!!ボス!!急展開ネ!!コレはチョー展開とも言ウネ!!読者が取り残サレル展開ダヨ!!」
「おっと、そこのムキムキ殿は重量制限に引っかかりそうでござるよ」
「オーマイガッ!!」
「残念だったなぁイチぃ!!今日はお留守番だ!!ちょっと格闘娘と二人で行ってくる!!」
「え?ちょっ…私も行くの?っていうか…」
なんだか展開が目まぐるしい
ここらへんでツッコみたい
「なんでござるか!!何か問題点でもあったでござるか?急がねばサル氏が――――」
そう、ここね
これは言わせてもらうしか無い
読者的にも
私の心情的にも
――――――お前は誰だよ!!―――――――
「――――もう一度言うわ…お前は誰だよ!!」
「むむ…?」
頭にバケツを乗っけた女は腕を組み、考え込む
「意味分かんないんだけど?なに?あたかもずっといたかのように自然に会話に混じってるけど、誰よ!」
至極、まっとうなことを言っている
おかしいのは私の目の前の現実だ
ややこしい2人に加わりさらにややこしい人物が紛れ込んでいる
「はっ!!そうであった!!」
バケツ女(仮)は一人で何かを納得して発言する
「…何者でござるか!?」
「だから、それはお前だ!!明らかに不審者でしょ?自分の方が怪しいって事に気がつきなさいよ!」
「はっはっは!ぬかしおるでござる!」
「ぬかしおるのはお前だ!」
いっこうに会話が進まないのはこの物語の仕様なのだろうか?
「とにかく、サル殿の大体の位置は特定出来ているでござる。あとはこれを使えばサル氏に会いに行けるでござる」
そういって片手におまるを持っているバケツ女
うさん臭すぎるし
そもそもサルって何?
何一つ私に情報が回ってこないし
この不親切な仕様はなんだろう
読者が分かってるからそれでいいっていうわけ?
オールドタイプに訓練もなしにガンダムをいきなり操作しろっていうくらいの無茶苦茶よ
アムロとはちがうのだよアムロとは!!
「その戸惑いは若さ故でござるか―――」
「私の心を読まないでっ!!」
それこそニュータイプかっ!!
「かっかっか!!いいんだよぉ格闘娘!!それより俺に用があんだろぉ?どうせだぁ!付いてこい!」
「ちょっ、さっきから凄く自分勝手――――」
「おぉ…!!分かってくれるでござるか!!」
「おぅよ!バケツ娘!詳しく話を教えろ!」
「うむ、実は今朝にかくかくしかじかで――――」
でたっ、かくかくしかじか!!
ちなみに漢字で書くと『斯々然々』なんだって
「なるほど、かくかくしかじかでサルはかくかくしかじかでどこかへかくかくしかじかだったのか…」
かくかくしかじか多いよ!!
もはや何なのか分からないよ!
ゲシュタルト崩壊を起こしそうだ
「oh…カクカクシカジカでネギダクニクナシ!ナノデスネー」
牛丼の専門用語になっちゃったよ!!
それは牛丼じゃなくてネギ丼になっちゃうし!!
その場合は『ネギだけ』でOKだよ!!
って、ツッコミにトリビアを入れてる場合じゃない…!!
「つまり…アンタ達は『サル』って人物と全員知り合いで、そのサルっていうのが今朝にそこのバケツ女のせいで行方不明になった…バケツ女は助力を求めて探しまわってた所で、えっと…流川さん…の大声を聞いて掃除用具入れに飛んできた…今から捜索しに行くってことでしょ?」
かくかくしかじかなんて使わなくても短い文章で伝わるじゃない…
「おぉ!見事な要約でござる!!確かに、拙者が至らぬばかりにサル氏がこのような事態に…一人ではとてもたどり着けない…途方に暮れていた所での神の導きでござるよ」
「カッカッカ!!こっちもサルがいなくて退屈していた所だった!サル探しの冒険なんて胸が躍るじゃねぇかぁ!!」
なんという余裕
というか私の本題はすでに忘れ去られていた
「それで、そのお子様用のおまるにしか見えないモノがワープ装置でサルって人はそれに吸い込まれたってわけね?」
「うむ、いかにも!」
「…ふぅ」
私はため息に続いてこの言葉を言わせてもらう
――――――信じられるかっ!!―――――――
なにその得意満面のドヤ顔は!?
おまるを片手にそんな表情する人は見た事無いよ!?
こうさ、流れに負けて今まで聞いてきたけど
荒唐無稽もいいとこだ
現実的に考えよう
魔法とか
超能力とか
ありえないでしょ?
確かに私も人の事言えるような人間ではないと思うけど…
レベルが違いすぎる
UFOにさらわれたので遅刻しましたと言い訳して誰が信じてくれるだろうか
そのぐらいに突拍子の無い事だ
バケツ女はうなだれて発言する
「むぅ…この世界の常識はよく分からないでござるよ…拙者は…私はサル氏を守ると誓った…この世界ではいくぶん世間知らずなのだ…ただ、助けたいだけなのだ…」
シュンとしてしまうバケツ女
少しだけ泣きそうだ
いつまでバケツを頭に乗せているつもりだろう
「な、なによ!何か私が悪いみたいになっちゃうじゃない…!」
あぁ、悪い事言ってる訳じゃないのに
凄く罪悪感を感じてしまった…!!
少し気まずい雰囲気が流れる
あぁ、こんな事が言いたい訳じゃないのに…!
「カッカッカ!!格闘娘ぇ!!」
少しの間のあとにボスが雰囲気を打破する
「青いっ!青いねぇ!!この言い争いが…オレの望んでた青春の1ページだぜぇ!!」
続けて、田中くん(…と呼ぶにはまだ抵抗があるけど)が流れに乗って話しだす
「AHAHAHA!!ボス!!コレが日本ノ青春ネ!!コノ後に河原でボクシングのアトに夕陽に向カッテ走リ出スマデが1セットダヨ!!」
「おぉ!!それだイチ!!よし!殴り合うぞ!」
二人はファイティングポーズを構えて今にも飛びかからん勢いだ
「ちょ、ちょっと!アンタたちなにやってんのよ!いないわよ!今時そんなヤツ!!」
いつの時代だ!
いや
いつの時代でもいないよ!そんな人!!
何の影響を受けたらそんな発想になるんだ!!
…自然とその場から笑いがこぼれた
「…なんか、バカみたい」
そう
バカみたいだ
「カッカッカ!こまけぇこたぁいいんだ。格闘娘ぇ、ちっとジョーシキってのに囚われすぎだ」
「コノ幻想郷デハ、ジョーシキに囚ワレテハイケナイノデスネ!!」
「否定すんのは簡単だけどよぉ…別に切らなくてイイモンまで否定しちまったら味気ない世界になっちまうぜ?魔法?超能力?いいじゃねぇか!歩いて、見て、聞いて、触れて。否定はそっからでも出来るってモンだぜ?何もしらねぇ赤ん坊のときから体験してきてることじゃねぇか。ジョーシキは悪いもんじゃねぇけど、そこにばっか縛られてたらいつまでも大事なモンに気がつけないまんまだ」
ボス…
「アンタたちに今日のことを口止めに来たつもりだったのに…。気がついたら、変な方向に話が進んでさ…」
違う…
「それで…助けに行くんでしょ?その…サルってのを。私も行くわ…ってか、行かなきゃダメなんでしょ?」
まさか、こんな展開になるとは思わなかった
今日は想定外のことだらけだ
こうなることは、私が物語を語っている時点で想像がつくことだ
運命は私を逃してはくれないらしい
「本上ていは…」
「…?」
おっと、何か物語の中で聞き慣れない名称が聞こえたぞ?
「本上ていは…1-C組出席番号18番。男子の間では人気が高く 成績優秀、スポーツ万能 高嶺の花的ポジションに収まっている。それが本人が目立っていないという勘違いに繋がる… 身長161cm 体重は―――――おぷっ!」
私はとっさにバケツ女の口を塞いだ
「わ、私の個人情報をも、漏らすなっ!!」
いきなり何を口走っているんだ!!
脈絡がなさすぎて口を封じるのが遅れてしまったくらいだ
その前になんで知ってるんだ!?
バケツ女は辞書のような分厚い本を片手に何かを調べていた
「アンタ…それ何持ってんの…?」
「うむ、この本は実に便利でな。拙者の秘密道具の一つでござるよ。」
「はい?」
「フフフ…驚いておられるな…これにはありとあらゆる情報が網羅されているでござる!!」
な、なんだってー!!
…って思うわけないじゃない
いや、凄いんだけどさ
「フフフ…驚いておられるな…」
え!?二度言うの!?
どうやら反応をあまりしなかったのがいけないらしい
かまってちゃん!?
「これにはありとあらゆる情報が網羅されているでござる…」
「それはもう分かったから!!――――」
「…こうじ君の」
「はい?なにいってんのアンタ?」
なんなの…この人たちの会話…
カオスって呼ばれるヤツだよカオス
「うむ、説明しよう!!世界中のありとあらゆるこうじ君の情報がここに載っている!!」
そして続けざまにポケットを探るような仕草をしてから
聞いた事あるようなガラガラ声で喋りだす
「ちゃらちゃっちゃっちゃちゃ~ん!! KOJI苑~(コージイズディクショナリー)」
「――――ただの語呂あわせかよ!!し・か・も!!そのルビおかしいよね!?それだとあたかもこうじ君が辞書みたいになっちゃうじゃない!!」
無茶苦茶だ!
というより適当だ!
「ハッハッハ!!まぁ、こうじ君が見聞きした情報なんかも含まれているからそれなりに便利なのでござるよ!こうじ君は、本上殿について随分とお詳しいようでござるな」
知らんがな!!
こうじ君ってどのこうじ君なのかさっぱり見当もつかない
むしろ、あんまり人の名前とか覚えないっていうか…
しかも、顔もあまり覚えていない。
「OH!MR.コージカワイソウネ…」
「あ~!もう!話がいっこうに進まないじゃない!!仕切り直しよ!!仕切り直し!!」
―――――仕切り直し――――――
私は目の前でバケツ女
もとい、狭間さんが呪文を唱えているのを目の当たりにしていた
いやいや
呪文って言葉を日常会話で使うとは思わなかったよ
しかし
私がイメージする呪文とは少し違う
よく分からない魔法陣とか
煙とか光が出てくるとか
私はそんな演出があるのが呪文だと思っていた
現実では
目の前のおまるに向かってブツブツと喋っている女子がそこにはいた
…アハハ
嘘みたいだろ?
これ
呪文唱えてるんだぜ…?
無理矢理に納得しそうな雰囲気だったけど
完全なる変質者だ
目の前の非現実的光景を
現実的に見ている私にとってこれ以上ない変質者だ
隣で、田中くんとボスがニヤニヤと笑いながら教室の椅子に腰掛けている
あの二人はなんであんなに余裕でいられるのか
不思議でしょうがない
そうこうしてるうちにバケツ女もとい狭間さんの準備が終わったようだ
準備が終わったっていうのも不思議な感じだけど
だって、おまるに向かってぶつぶつ言うのを辞めただけだからね?
凄く絵的には変な構図だけど
「ふぅ…これで準備は完了でござるよ!!」
一仕事を終えた顔をして、満面の笑みでこちらに向かう
私にはとてもじゃないが一仕事とかそういう事をし終えたようには見えなかった
現実はとても厳しい
やはりファンタジーはファンタジーなのだと思い知らされる
現実は
おまる語りかけることが魔法と呼ばれる事実に…
やっぱりファンタジーはファンタジーのままの方がいいかな…?
そんな事を考えていたらボスが立ち上がりおもむろに発言する
「カッカッカ!!クアァ~!!それじゃあ行くとするかぁ!!」
背伸びをしながら気合いを入れ直すように言う
「おいぃ!!格闘娘ぇ!!オレと一緒に来い!!」
「…分かってる。本当に無関係だけど…私は…少し…ほんの少しだけ…」
変わるような気がする
なんていうか
なんていうか
…よく分かんないや。
「行こう。サルってよく分かんないけど、探しに行こう?」
私は覚悟を決めた
ボスは笑顔で応える
「あぁ、サルは俺の大事なモンだからな…アイツがいねぇとおもしろくねぇよ」
好きな人なのかな?
分かるのは
サルって人が凄く大事だってことだ
「あとはここにある『ヒデ』というボタンを押せば近くまでたどり着けるでござるよ」
ヒデ!?
なにヒデ!?
聞き間違いじゃなくって?
「了承したぜぇ?」
ボスは言い終わるか言い終わらないかのうちに『ヒデ』のボタンを押した
「ちょっ―――!!ちょっとはためらえよ―――!!」
今までの長いフリはなんだったのかという勢いでボタンを押す
「ボス~!!ワタシをツレテイッテ~ホシイヨ~!!ワタシをスキーにツレテッテ~!!」
「つむじ風でも追っかけてなさいよ――――よ?」
そんな古いネタにツッコミを入れる女子高生も女子高生だけど…
と
私の身体から重力が消えて行く
それと同時に何か強い力に引っ張られるような感覚
体験した事がない未知の体験
目の前が反転する
こんなに気持ち悪いのかぁ。
遊園地のジェットコースターでもこんなにはならないよ
ぐるぐるぐるぐる
私は途中で意識を失った
―――――――――――――
こんにちは
僕です
いや
誰だよってツッコミはよくよく分かっているんだけどさ
そこは話の流れから察してもらいたいね
僕は今
知らない外国人に囲まれて64をしています
64?
64って言ったら
あの有名なヒゲ配管工のロクヨン以外に何があるんですか?
いやはや、国際社会でもゲームってのはコミュニケーションとして成立するんだね
というわけで
スマッシュなブラザーズをやってるんだけど…
「オイ!!テメーのドンキウゼェゾ!ゴルァァァ!!」
「ンダト!?イヤラシいカービー使ってるテメェに言ワレル筋合イねぇぞコラァ!!?」
問題はこの外国人たちが異様に怖いということです
良い大人たちが数十人でロクヨンで熱くなってます
…
さすがの僕でもこんな状況は想定外です
さてはて
僕の出番はいつになるのか
この状況はなんなのか
どうなるんだよ!!
ってかどうすりゃいいんだよ!!