この世界はたった今生まれたと言っても私はそれを認識出来ない
夏の匂いがかすかに香り始める
少しずつその日差しが眩しく感じられる太陽
あ…もうすぐ期末テストじゃん
ちょっとした都会と田舎が行き交う
そんな町並みを駆ける
新しい場所にやってきた
まだちょっとだけ見慣れない景色が続く学校
舞台は高校…
―――夏の描写以下略―――
私は他の人と同じでありたい
そんな事を思ってるとかいないとか
人間関係に臆病になりがちで…思春期なら少しは考えちゃうそんな願望を胸に秘めていたりする
思春期ならちょっとくらい…恋愛とかに興味を持っちゃうと思う
もれなく私もそんな一人だ
『BLが嫌いな女子なんていません!!』
あ、違った
なんか名言っぽく聞こえるけど、とんでもない話だよね
訂正するね
『恋愛小説みたいな恋がしたい!!』
女の子なら分かってくれるよね?
素敵な出逢い ドキドキのイベント 甘い誘惑 そんな想いが出来る高校生になりたい
…って言っても何もしてこなかったんだけどね
私の人生の指標は…あんま考えた事ないや
人間関係だけは大事だと思って色々とあくせくしてきたけど
人生の指標って呼べるほどじゃないもんね
小学生のときはひたすら本を読んだ
中学生のときはひたすら本を読んだ
――――以下略
まとめると
本を読んだ
あれ…?
…?
本しか読んでないみたいに思われちゃう
そんなことないんだよ?
それにさ、こう本ばっか読んでるって言うと凄く根暗な図書委員的な女の子を想像するじゃない?
それ間違いだから
本を読む以外にもたくさんしたよ?
でもね、自分の為だけにしてること…って考えたら本を読むくらいしか思い浮かばなかった
学校に行くのも 勉強するのも
ぜんぶ他人のため?っていったら変だけど
他の人に迷惑がかからないようにしてるって感じがする
結局は目立ちすぎないくらいにやってるだけのことで
結局は自分の為っていうことになるのかな?
…まぁ、どっちでもいいかぁ
そういえば、今日は夜遅くまで本を読みすぎて寝坊→遅刻ギリギリになってしまった
少女マンガ的に言えば
『キャ~☆今日も遅刻遅刻ぅ~!!』
と言いながら舌をだしてエヘッとかやっちゃうかんじ
こんなに悠長に考えてはいるけど
実際は心底焦っている
むしろ、そこに少女のかけらも見受けられないほどに焦ってる
女性の朝は戦場って言葉があるくらい
それこそトーストをくわえて走るなんて、自分のことながらベタすぎる…
私は予定調和って言葉が好き
お約束って呼ばれるヤツかな?
『好きな言葉はテンプレート!!』
絶対に戻ってくる…って言葉は最近の流行りだと死につながりそうだけど
愛する彼女が帰りを待っていると、扉が開いて笑顔で生還して抱きしめ合う
そういうハッピーエンドが好きなの
そうやっていけば必ず平凡な日常が戻ってくるでしょ?
終着点は必ずココ
そういうものに凄く安心感を覚える
人生もそうやっていけば必ず幸せになれるよね?
そうこうしている内にすでに曲がり角を何回か通り過ぎている
今日は珍しく遅刻しそうな日なので
普段の寄り道をやめて、最短ルートを選んでるんだ
それももうすぐ終わり
次の曲がり角を曲がれば学校まで一直線!!
良かった…なんとか間に合いそう!!
今日も一日何もなく終わり…
ウワップス!!!!!
「イッテェェェ!!アニキィィィ!!骨が!!骨が折れちまいヤしたァ!!!」
…え?
「オイ!!大丈夫カ!?…こりゃ、ヒデェ骨折だぁ…」
…え?…え?
「おいぃぃ!!ネーチャン!!このオトシマエどうやってツケテクレンダァァン!?」
…少し待って欲しいかな
この現代社会において、こんなにベタなことがあっていいんでしょうか
遅刻の間際に
走って
曲がり角でぶつかる
この場合はヒャッハーとバギーに乗り回すような輩ではなくて―――
「…えしてよ」
「あ?お前―――ナに言って―――サクセション!!」
―――――あぁ…もう!!!―――――
一瞬
ほんの一瞬だった
「兄貴ィ!!…あぁ、兄貴のアニキがアネキになっちまいやしたぁァ!!」
私に絡んできた不良はその場でうずくまり悶絶していた…
「テメェ!!なにしヤがんだ!!…ァゥフタクト!!」
掴みかかろうとした瞬間に空中に投げ出される世紀末的不良
「あぁ…またやっちゃった…」
勢い良く地面に叩き付けられる不良
強く憤る私
「…えして」
私は弱く呟いた
不良は自分に何が起こったのか
そしてあまりの衝撃に目を白黒させていた
「ア…が…」
不良たちは言葉にならない声をあげ空を見上げていた
その不良たちに更なる追い打ちをかけてしまう…
「返してよ!!私の出逢いフラグ!!」
大声あげちゃった…
「おかしいでしょ?ねぇ?おかしいでしょ?ここは『イッタタタ…どこに目をつけてるのよ!!このオタンコナス!!』って私が謎のイケメンにぶつかるシーンのはずでしょ!?お互いに罵声をあびせあう。今朝からヒドい目にあったわ~!って言いながら授業が始まったら、転校生を紹介されて『あ~!あのときの!!』って言いながら渋々隣の席になっちゃう展開になるべきじゃない!?」
自分で言いながら、実に論理的じゃないと心では思ってしまった
オタンコナスなんて久しぶりに聞いたよ…
倒れている不良を踏みつけ更に続ける
「それがなに!?どういうこと!?あんた達!!出る話間違えてんじゃないの!?アタシが一子相伝の暗殺拳の使い手じゃなくて本当に良かったわね!!本来なら『ひでぶ』とか『あべし』とか言いながら炸裂してる所よ!?」
そんな『本来』はいっさい存在しないけど
「アンタたちいくつよ!?もういい大人になる年齢でしょ!?いつまでもバギーにまたがってヒャッハーするようなことしてんじゃないわよ!!あまつさえ、こんな可憐な女子高生にイチャモンつけるなんて!!マンガのやられ役もいいとこじゃない!!」
お前はこいつらのかーちゃんか!!ってね…
「分かったら早く行きなさい!!次にこんなことしたら分かってるでしょうね?」
私はありったけの不満を全てぶつけた
しかし、時はすでにお寿司…じゃなくて遅し
うずくまった不良たちはモノの見事に気絶していた
「…ったく、せっかく冒頭で可愛い女子高生してたのに…散々じゃない…」
少し動いたので乱れた制服を直しながら呟く
うん
実はね
――――私が全員倒したの――――
いや、全然そんな気はなかったんだよ?
でも小さいときからの条件反射と言いますか…
ここで少しだけ自己紹介
私は本が大好きな普通の女子高生
だけど、父親に小さい頃からちょっとした格闘術を習わされてて…
気がついた時には『史上最強空前絶後の女子高生(父命名)』っていうありがたくない称号を頂いてしまった
周りが勝手に言ってるだけで私は微塵も思ってないよ?
だからこそ…普通でありたいかな…
こんなの絶対に人に見せられない
私は普通じゃないもの…
今まで一度だってボロを出した事はないと思う
面倒ごとに絡まれたらバレないように――――瞬殺してきたし――――
ちゃんとどこにでもいる可愛い女子高生を演じてきた…つもり
「…って、今ので時間がさらに大変なことに!?ヤバい!!急がなきゃ怖い怖い先生に怒られちゃう!!」
私はビシッっと切り替えて走り出そうと――――した…けど…――――
「…OH。クレージージャパニーズガール…」
「カッカッカ!!日本の女子高生ってのはこんなにツエーのか!!オラ、ワクワクすっぞ!!」
そんな戦闘民族みたいな発言を聞いた
―――聞いてしまった
「OH!!ボス!!カカロット!!オシッコすると強くなるって本当!?」
それはターちゃんだよ!!
じゃなくって!!
「―――ええっ!!―――イヤッ!?な…なんで?そんなとこに!?」
私は気が動転していた
今まで
今の今まで
一度も気づかれた事はなかった
周りの気配は常に気を配ってたし
ヘマなんて一度もしなかった
「カッカッカ!お前はあいつらのかーちゃんか!!説教よかったぜぇ?」
ハイィ!!全部聞かれてました!!見られてました!!
…
「――――そう――――全部見ちゃったのね――――」
気が動転してた私は相手のペースに飲まれかけていた
こういう時に日頃の鍛錬(強制)が役に立つ
呼吸を整えて
自分の気を落ち着かせる
「ジャパニーズガール!!タンデンコキューホー!!ファイティングガールネ!!」
…うるさい、周りの音をシャットアウト
徐々に冷静さを取り戻す
「――――よし!!――――一瞬で決める!!―――」
私はこいつらを全力で倒す
都合良く記憶を消す!!
私は構えと同時に相手に向かって行った
「カッカッカ!!威勢が良い異性…なんてな!!カッカッカ!!」
「アナタ―――同性じゃないっ!!――――」
くだらないオヤジギャグをいう女子高生ね!!(私も女子高生だけど
目の前の女子に向かってグングンと距離を詰める
それなのにその表情はヘラヘラと笑っていた
なんなわけ?アレを目の当たりにしてその表情とかふざけてるの?
自分の力を過信してるわけじゃないけど
余裕の表情に少しだけ苛立ちを覚えた
私は相手が痛がる間もなく一瞬で―――一瞬で―――?
「さっきの技…確かこうだったかぁ?よっと―――」
私の視界がぐるんと回った
と、同時に背中に少しだけ痛みが走る
?
…?
――――わけがわからないよ――――
あ…ありのまま 今 起こった事を話すね
私は確かに彼女に向かっていき一撃で沈めようとした
…と思ったら いつのまにか私が地面に倒れていた
な…何を言ってるのか分からないと思うけど
私も何をされたのか分からなかった
頭がどうにかなっちゃったの?
魔法とか超スピードだとか
そんなちゃちなもんじゃ
断じてないわ
もっと恐ろしいものの片鱗を味わった気がする…
「カッカッカ!!時を止められたフランス人みてぇな顔してるぜぇ?大丈夫かよ?」
女子は私の顔を覗き込む
その顔はとても端正でいつまでも見ていたくなるような顔だった
あぁ…なんて可愛い女の子だろう
「って!!違う!!よくも私を―――ッ!!」
私は起き上がりに彼女に掴みかかろうとした―――――
…無理だった
「威勢のいい異性だな!!カッカッカ!!」
「そのギャグ二度目よっ!!」
その後に何度か抵抗しようとしたが
その全てを華麗に返されてしまった
私は諦めて力を抜いた
そしてため息を一つついたトコロで会話を始める
「―――なんなのアンタたち―――?」
「おいおい!そりゃ、こっちのセリフだろうよぉ!いきなり襲いかかってくるなんてとんでもねぇ嬢ちゃんだ!!」
「クレイジーガール!!マサニ映画で観たマンマダッタヨ!!次は鉄球を振リ回シテホシイヨー!」
…うん、端から見ておかしいのは明らかに私だ
いきなり襲いかかる私がおかしい。
鉄球てなんだ鉄球て
っていうか制服を着た黒人と、かなりゆるゆるな私服の女の子…っていうかウチの学校の制服じゃない?なんでアンタが着てんの?
外見的なおかしさで言ったら圧倒的にそっちのほうがおかしいけど。
「―――いや、その…なんかゴメンナサイ。どうしても見られたくない現場を見られちゃって…」
私は素直に謝罪をした
まさかここまで自分が成す術もなくやられるとは思わなかった
圧倒的な敗北
確かに私は父の無理矢理な格闘技の修行が嫌で嫌でしょうがなかったけど
それでも積み重ねてきた経験とかにはそれなりに自信はもっていた
小さい頃は体格差で負けていた相手もそりゃいたけど
近頃はそれすらも覆せるくらいの実力はあったつもりだ
それなのに
それなのに
まさか、女子に負けるなんて…
「カッカッカ!!気にすんな!!言われなくても誰にもいわねぇよ!!朝から良いもんを見せてもらったしな!!」
さっきからスカっとするなぁ
悔しいけど
豪快な笑いが不思議と心地いいくらいだ
なんていうか、凄く可愛いのに
凄くかっこいい
「…って!!遅刻しちゃう!!」
ただでさえギリギリなのにまさかの2連戦をしてしまった!!
だけれど
時すでに遅し
「あ~あ、チャイムが鳴っちまったなぁ~」
女子はめんどくさそうに頭を掻きながら学校のほうへ足を向けた
「え…?アンタたち…もしかして…同じ学校なの?おかしいでしょ?」
「OH!廊下に立タサレテ!バケツモタサレルヨー!!」
「いないわよ!今時!!」
「カッカッカ!!そんなことより走るぞ~!!遅刻を体験するのもわるかぁねぇなぁ!!」
「えっ―――ちょ!引っ張らないでって―――!!」
私は女子に手を引っ張られて起き上がりそのまま駆け出した
もうなにがなんだか!
―――――――――こうして、私は 私が初めて完敗した相手 謎の少女と謎の黒人男性のことを知るのであった