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運び手達の物語

お仕事成長物語、ちょい恋愛もの?です。

 空港には物語がある。

 例えば、これから一生の思い出になる旅行へ胸躍らせる場所であり、海外へ旅立つ恋人を見送る別れの場所であり、仕事で初めての国へ行く不安と期待を抱える場所でもある。

 出入国する人々に物語があるのなら、出入国する貨物にも、実はちょっとした物語がある。

 運び手達にとって忘れられない思い出になる貨物が、きっと、ある。



(航空会社で働きたかった…)

 成田国際空港で働く夢は叶ったが、残念ながらそれ以外は叶わなかった、夢野叶泰(ゆめのかなた)

 よく男性と間違えられる名前だが、女である。

 私は今、出国搭乗口で優雅にキャリーケースを引いているわけでも、グランドスタッフとして綺麗な制服に身を包んでいるわけでもない。

 成田空港の敷地内にある古い事務所で日々無機質な画面と睨めっこをしている。

 私は、国際航空貨物を手配する物流会社で営業事務として働いているのだった。

「おはようございます…」

「あァ〜ら、おはよう〜夢野ちゃん〜」

 いつもオフィスに一番に来てのんびりと紅茶を飲んでいるお姉様、春野陽菜(はるのひな)さん。ベテランの社員さんで、どんな状況でも焦る事がない。私の指導担当。

 私の次に来るのは、係長の大田太志(おおたふとし)さん。歓迎会の時に「小さくて細い大田太志です!」と自己紹介していた。大柄な私よりだいぶ背が低い、三十代後半の男性。

「…」

「おい、黒田!挨拶くらいしろ!」

「ざます」

 目にクマを携え、黒縁メガネをかけた猫背の三十代前半の男性。黒田主任。今日も陰鬱なオーラを醸し出している。

「その髪!どうにかしろよ」

「今日外出しないんで、いいじゃないすか」

 髪はぼさぼさな事が多く、いつも機嫌が悪い。

「おはようございます」

 多田賢人(ただけんと)

 洒落ではなく、本当に只者ではない私の同期。

 帰国子女で、オックスフォード大学を卒業した、中国語と英語のトリリンガル。TOEICは満点。

 大学院で法律を学んでいたらしい。同期の中でも一目置かれた存在で、なぜこの中堅物流会社にいるのかが最大の謎だ。

 私の完全上位互換の二年目社員である。

 ちなみに顔も良いときていて、同期の女子に狙われまくっているらしい。このオフィスの女性達も飲み会に誘おうと必死だ。

「うんうん、みんなおはよう」

 最後に来たのは武者小路影松(むしゃのこうじかげまつ)。通称、影武者課長。もうそろそろ定年のおじさん。のんびりとしていて、この人だけ違う時間軸で生きている。

 以上、私が所属するスワローエクスプレス成田空港支店営業課のメンバーである。



 私達の仕事は、お客様から預かった貨物を運ぶ手配をする事。

 うちの場合法人のお客様が多いから、半数以上は企業の出荷担当者からメールで依頼が来る。

 依頼が来たらメールの指示通りの場所から指示通りの場所へ貨物を送ればいいのだが、これが案外難しい。

 人で考えてもらいたいのだけど、自分が海外旅行をするとして、何も考えず空港へ行って飛行機に乗って外国に到着するなんて事はないと思う。

 普通、飛行機を手配して、ホテルを手配して、パスポートやお金や、必要な物を用意して、国内の移動はバスや電車で…とそれなりに準備をしなければならない。

 簡単に言えば、貨物も一緒だ。ただし、貨物自身がやってくれないから、それを代わりに私達物流業者がやるのだ。

 午前中、その日の夜の飛行機に乗る分の貨物の手配を終えると、午後から翌日以降の貨物の手配を始める。

 その中の一件がどうなるか、シミュレーションしてみよう。

夢野叶奏、主人公。自信がないが頑張り屋。

基本ポンコツですが、集中すると能力を発揮します。


続きます。

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