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イチャラブの英雄譚

作者:
掲載日:2026/01/28

 「……?」


 異様な気配にセスタ・バーデンは目を覚ました。

 男にしては長い黒髪に、感情が宿やどってない冷たい黒のひとみ。その目で音がした方向をいちべつした。

 

 「ゴブリンか。メスの匂いに釣られてノコノコと……。まぁいい、巣を探す手間がはぶけた」

 

 薄暗い森の中、セスタの特殊な瞳は正体を見せない相手を即座に見抜く。

 セスタが今いるのはフェイナ王国の三分の一をおおっているだいしんの中。

 少し開けた場所にあるたきあとの前に二人の人物がいた。


 一人はセスタ・バーデン。全身を黒の服装で身を包んだ、齢十六にして六名しかいない超エリート対魔部隊『アンノウン』の隊長。

 もう一人は、寝息を立てている一八歳の少女。白いスカートに白生地にえりもとそでの部分に青線が入った服装のヘレン・エブリッチ。対魔育成学園を首席で卒業し、『アンノウン』へ入団が認められた新人。


 セスタはブロンドの髪をしたヘレンを見て、


 「おい、起きろ」


 「……なんですか?まだ暗いじゃないですか」


 あくをしながら一度起き上がるも、再び体を寝かして、可愛い寝息を立て始める。

 

 「……」


 セスタのこめかみがピクピク震えた。

 入団して一週間。

 初の任務にもかかわらず、ヘレン・エブリッチの緊張感のなさには思わずこぶしが固くなる。

 特にゴブリンから襲撃されている状況ではなおさら。

 セスタは気持ちよさそうに寝ているヘレンの頭上に拳を振り下ろした。

 

 「痛いです」


 「ゴブリンのお出ましだ。起きろ」


 「眠いんでセスタ隊長がやっちゃってください」


 「これは新人教育もねているんだぞ。俺が一人で倒したらお前がいる意味ないだろ」


 「しょうがないですね」


 ヘレンは伸びをしながら起き上がった。

 そして、近くにある杖を取り、赤い宝石が付いたせんたんを暗闇に向け、


 「ファイアーボール」

 

 寝起きの声で軽く呪文を唱えた。

 球体状の炎のかたまりが杖のせんたんに出現し、空気が高温にねっされて周囲の空間がゆがむ。

 そのまま一直線に地面を焼きながら目標へと到達し爆発。

 ヘレンのブロンドの髪が爆風になびき、いったいを明るくらす。

 そこには、無数のゴブリンの死体が炎に包まれており、げた匂いがじゅうまんした。


 「よくゴブリンの位置が分かったな」


 「常に微量の魔力を周囲に放ってたんしてますから」


 「……ってことは最初からゴブリンの存在に気づいていたのか」


 「当然です。せっかくセスタ隊長の実力をはいけんできると期待していたのに残念です」


 ヘレンは舌を出して狸寝入りだったと明かす。


 「それで、何か言い訳はあるか?」


 「言い訳?何に対してでしょうか」


 あごに手をやり、可愛らしく小首をかしげる。


 「ゴブリンの巣を発見するための案内役を残さずにぎゃくさつしたことだ」


 セスタは責めるような口調で言った。


 「そんなこと、別にいいじゃないですか」


 悪びれる様子もなく、口をすぼめて不満をこぼす。


 「はぁ……、実力があるのは分かるがもっと頭を使え。長生きしたければな」


 「それよりも、セスタ隊長。私が寝ている間に、いかがわしいことはしなかったでしょうね?」


 そういって、白のスカートをちらりとまくると、茶色のブーツから生える健康的な足に、本来は布におおわれているはずのむっちりとした太もも部分までもあらわになった。

 少し前かがみな姿勢には、ほどよい大きさの胸が重力にあらがう様にれている。

 その姿を見てセスタは赤面した。

 

 「変態」


 「……どっちがだ!」


 「やはり私の目にくるいはなかった。セスタ隊長はむっつりです!」


 「こいつ……もういい!さっさと任務を終わらして帰るぞ」


 「あっ、ちょっと待ってくださいよセスタ隊長~」

 

 そうして二人はその場を後にした。

 

 

 「こんなところにせきがあるなんて」


 「大魔森の八割はかいたくエリアだ。何があっても不思議じゃない」


 二人はゴブリンのアジトと思われる遺跡の中を警戒しながら歩いていた。

 入口には二匹のゴブリンが絶命している。

 いたるところにつたが生え、今にもとうかいしそうな遺跡は迷路のように通路が分かれていた。


 「それにしても静かですね~。ゴブリンの足音一つ聞こえません」


 コツコツと杖をいしだたみに響かせながら進むヘレン。


 「油断はするなよ。ここはアジトの中だ。罠に注意しろ」


 「はいは~い。でも、ゴブリンなんて私の魔法でイチコロですよ?」


 「用心するにしたことはない」


 左右の通路は無視して、ひたすら奥へと歩く。

 

 「ほんとしんちょうですよね、セスタ隊長って。きっと、好きな子ができても告白とかしないタイプでしょ」


 「無駄話はやめてしっかり周囲を警戒しろ」


 セスタの忠告を無視して話を続ける。


 「図星ですか?こう見えて私は学園ではモテたんですよ?告白も何度もされました」


 「そんなことは聞いていない」


 視線は前を向いたまま、投げやりな口調で言う。


 「そんなつれない態度取ってると、セスタ隊長以外の男に私、取られちゃうかもしれませんよ?いいんですか?」


 「勝手に俺がお前のことを好きみたいに言うのはやめろ」


 好き勝手言うヘレンにたまらず突っ込みを入れた。


 「あっ、セスタ隊長!」

 

 「なにか見つけたか?」

 

 「好きです。付き合ってください」


 「なっ……」

 

 突然の告白に、セスタは言葉に詰まった。

 常に命と隣合わせの戦場で生きているセスタは人生で一度も真っ直ぐに好意を伝えられたことがない。

 無視もできずに返事に困っていると、 


 「うふふ、さびれた遺跡に美女と二人きり。ちょっとは意識してくれましたか?」


 「……」


 「あっ、ちょっと待ってくださいよ~」


 ヘレンがあわててセスタを追いかけようと、杖を石畳に強くいた瞬間、ゴゴゴという音と共に地面が沈み、突然足元に出来た急斜面に二人は足をすくわれる。


 「くそっ、だから気をつけろと言っただろ」


 「そんなこと言われてもっ!って、きゃああああ、上見ないでください!エッチ!変態!」

 

 ちょうどセスタの頭をヘレンの両足がはさむ格好のまま二人は滑り落ちていった。


 落ちた先は壁にろうそくの炎がともっただけの薄暗い空間。

 そこには、ゴブリン三十匹ほどの集団が待ち構えていた。


 「ゴブゴブゴブ」


 ヘレンを見て緑色の顔を歪ませて笑っている。

 手にはナイフ。


 「人のように罠を張り獲物を待ち伏せするか。ゴブリンリーダーが出現したらしい」


 「なんですかそれ?」


 「たまに知能が高いゴブリンが生まれることがある。そうすると、単細胞のゴブリンどもがこうやって集団でまとまり、罠を使ったりと面倒なことになる」


 「へ~、でも関係ないです。むしろ、まとまってくれたほうが一気にせんめつできて楽ですけどね」


 ヘレンは杖をゴブリンの集団へと向けてえいしょうを唱える。


 「ファイアーボール」


 だが、若い女性の可愛い声が遺跡に響くだけでなにも起こらない。

 その様子にゴブリン達が手を叩いて笑い出す。


 「え?嘘っ!魔法が出ません!」


 その事実にヘレンの内面に絶望が広がる。

 ただのゴブリンが今や得体のしれない怪物に見えていた。


 「ほう、魔封じのけっかいでも張られているのか」


 対照的にセスタは興味深そうにつぶやく。

 まるで、新しいおもちゃを見つけた子供のように。

 

 「な、なんですかそのぶっそうなものは!」


 「そのままの意味だ。一定の範囲内で魔法を封じる効果がある」


 「そんなものが存在するなんて聞いたことないですよ!」


 「勇者の武具。この対魔部隊『アンノウン』の本当の目的は、二百年前に異世界から召喚された勇者が持ち込んだ強力なアイテムを回収することだ」


 「そ、そんなことより、魔法が使えないと私はただの人ですよ!この数のゴブリン、セスタ隊長だけで倒せるんですか……?」

 

 先ほどまでのせいはどこへいったのか、恐怖で声が震えている。

 セスタはこしにあるさやから剣を抜いて構えた。


 「俺を誰だと思っている。ゴブリン程度で苦戦するようなら、超少数精鋭のエリート部隊『アンノウン』の隊長などつとまらん」


 「セスタ隊長……初めてカッコいいと思いました」


 「……お前は俺をどういう風に見ていたんだよ」


 「か、可愛い男の子だと」


 ヘレンは両手を自分のほおに当て、おとのように顔を赤らめる。

 

 「ふっ、やはりお前はそっちのほうが似合っている」


 「へっ?」

 

 「なんでもない。レッスンだ。魔法以外にも戦闘手段は用意しとけ」

 

 セスタはゴブリンの群れに向かって飛び込んだ。

 

 「ゴブッ!」


 あわてた様子で三匹のゴブリンが前に出てナイフをるうが、身をひねってかわし、すれ違いざまに胴体を両断する。


 「すごっ……」

 

 セスタの特殊な瞳は、短時間の未来予知を可能にする。

 未来眼フューチャーアイ

 すでにこの戦場はセスタによってゴブリンの一挙手一投足までもが筒抜けになっていた。


 「ゴブゴブゴブ」


 後方のゴブリン十匹がクロスボウを構えて発射。

 十の弓矢がセスタに向かって水平にり注ぐ。


 「セスタ隊長!」


 が、直前で身をかがめてやり過ごす。

 そのまま勢いを殺さずに前転から体勢を立て直ししっそう


 「ゴブッ!?」


 前衛のゴブリンを飛び越えて、矢の補充をしている最中の無防備になったクロスボウ部隊に剣を振り下ろす。


 「これで飛び道具はつぶした」


 さいこうで逃げようと背を向けている、とんがり帽子を被ったゴブリンに短剣を取り出してとうてき

 いっすんたがわず喉元を貫通した。

 ゴブリンをひきいていたボスが倒れ、ゴブリンの動きがにぶる。


 「ふんっ、まさにごうしゅうだな」

 

 その後は危なげなく、残りのゴブリンを全滅させた。

 セスタは剣に付いた緑色の液体を一振りで払い落し、さやに収める。


 「これが、魔封じの杖か」


 ゴブリンリーダーが落とした黒い宝石がついた小さな杖を拾い、上着の内ポケットに収納した。


 「す、すごい。あの数のゴブリンを数分で片付けちゃいました……」


 ぱちぱちとかわいた拍手が遺跡に響く。


 「この程度、『アンノウン』のメンバーなら誰でもこなせる」


 「わ、私一人だったら、今頃ゴブリンのじきになってますよ……」


 ゴブリンは他種族の女をさらって子孫を残す種族。

 ヘレンの顔は青ざめていた。


 「お前はまだ弱い。魔法の威力はメンバーの中でもトップクラスだろうが、わら人形を相手にするわけじゃないんだ。実戦の泥臭い戦い方も学べ」


 「は、はい。セスタ隊長……」


 すっかり自信をそうしつし、地べたに座り込んでいるヘレンにセスタは手を出した。


 「心配するな、一人前になるまで俺が教育してやる」


 「た、隊長……」


 「どうした?」


 「ト、トイレっ!」


 そう言って、ぶるぶると震えだすヘレン。


 「たく、適当なところで済ませろ」


 「こっち見ないでくださいね?」


 「見るかっ!」


 こうしてゴブリン退治の任務は無事完了したのだった。

 セスタとヘレン。この二人が後に世界を救う英雄に、そしてはんりょになる話は、また別の物語である。

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― 新着の感想 ―
この後の展開が気になりますね。 妄想が捗るような。 これは短編で終わりですか? まだ明かされてない要素もありますよね。 セスタはほんとうにむっつりなのか、とか。
メスガキ系姐さん女房…。なかなか新しい2人ですね。 回収した魔封じの杖を使えば、いつでもどこでも彼女を無力化可能。 むっつり隊長の妄想が捗る捗る…。 まあ、現物は普通に保管されるんだろうけど、ガワ…
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