反撃開始
「き、貴様ぁ~」
戦鬼連隊の名に気圧されながら、役人の1人が切りかかってきた。
遅い、遅過ぎる・・・。
その太刀筋に呆れつつ、最小限の動作で白刃をかわす。
ビュンと空気を切り裂く音が通り過ぎる。
がら空きの右脇腹に、左の拳を叩きこむ。
「はうっ・・・」
脇腹を押さえ悶絶。
その様子を見た、残りのふたりが及び腰になる。
ビビった姿に、俺の狂気が刺激された。
一気に距離を詰め、右肘一閃。
狙い通り、鼻がひん曲がった。
鼻を押さえた両手の隙間から、鮮血が溢れる。
両膝をつきうずくまる。涙目になったこいつも戦意喪失。
残りのひとりを睨みつける。
薙ぎ払うような右の蹴り、被弾した頸部を軸に頭が傾く。
めきっという鈍い音。
操り人形の糸が切れたように、膝から崩れ落ちた。
白目をむいて、口泡を吹いている。
こいつは、ダメかも知れない。
まあ、いいか。残りのふたりから情報は引き出そう。
肝臓をやられた役人は、まだ意識が戻らない。
鼻を折られた役人は、鼻血だけでなく、涙で顔面を濡らしていた。
「さあ、知ってることを全部話してもらおうか」
権威という鎧がなくなった役人は、入隊したばかりの新兵にも満たないかよわい存在だった。
恥も外聞もなく、答えられることには何でも答えた。
役人には、国民から財産を搾取する権利を認められていた。
無制限にではない。
搾取できるのは、罪人の財産だけだ。
全ての人民が平等である共和国では、個人の財産に差はないと思われるかも知れないが、そうではない。
自ら商いを行う商人、軍からの支給がある兵士は、平均的な国民の中でも財産を持つ。
役人は財産を持つものに、何らかの罪を着せ、その財産を搾取するのだ。
搾取した財産で自らを富ませるだけでなく、上級官庁に上納する。
上納する金額が多ければ、昇任につながる。
これが、共和国の政治システムだった。
「俺が派遣中に受け取っていた報酬を狙ったということか・・・?」
共和国の戦鬼連隊は、カイザー帝国に派遣され、帝国のために戦った。
同盟国とは言え、他国の軍隊を無償で使うわけにいかない。
帝国は、共和国に対して金銭による報酬を約束していた。
派遣前の説明では、兵士1名につき、報酬は1ヶ月につき3000マニー。
共和国軍一兵卒の月収が、月100マニーだから30倍だ。
報酬は、共和国政府から、戦鬼連隊の家族に支払われているはずだった。
「いや、お前の家には、金はなかった・・・」
「なに?」
涙と鼻血をたらしながら、役人は言った。
「帝国側から支払われる報酬の話は、役所でも噂になってた。さぞ金があると思って探してみたが、金なんて全然なかった」
どういうことだ。
戦鬼連隊の隊員は、皆、多額の報酬をあてに派遣されていた。
「自分が戦えば家族が裕福になる」
戦鬼連隊の誰もが、そう思っていたはずだ。
「家に金がなかった? じゃあ、金はどこにいったんだ?」
「分からねえ・・・。お前の家には金は無かった。お前たちが派遣され2ヶ月ほどして、俺たちはお前の家に踏み込んだ。いくら使ったとしても、4000マニーは残っているはずだって。だが、その時にはもうなかったんだ・・・。だから、俺たちは、お前の金は取っていない」
派兵された兵に支払われる報酬を搾取するために罪をでっち上げ、支払われた報酬を搾取した。
そう考えたが、そうではなかった。
はなから金はなかったのだ。
「な、俺たちは、お前の金は奪っていない。だから、助けてくれ」
涙ながらに、役人は訴えた。
折れた鼻からは、鼻血が流れ続けている。
「お前、なにか勘違いしているんじゃないか?」
「え・・・?」
「俺が怒っているのは金のことじゃない」
「・・・」
「お前らは、金より大事な俺の家族を奪った」
「あ・・・」
首が曲がった役人と、肝臓を破壊された役人は、もう動かなくなっていた。
折れた鼻を押さえながら、生きている役人は首を横に振った。
「許してくれ、許してくれ・・・、俺にも家族がいるんだ・・・」
「許してくれ? 俺の家族は、お前が奪ったのに?」
「あ・・・」
周りを取り囲んでいた村人から悲鳴があがった。
役人の刀を、腰に巻いた帯にたくし込んだ。
そうそう、これこれ。この感じ。
帯刀すると気持ちが落ち着く。
戦鬼連隊は、剣技に特化した兵士で構成されている。
当然、俺も、それなりに剣技は身に着けているつもりだ。
「シロー、これからどうするつもりだ」
見守っていた村人の中から、村長が近付いてきた。
「収容所に行って、母と妹の安否を確認したいと思います」
「そうか・・・」
村長の表情は硬い。
役人の死を知れば、役所は村を取り調べるだろう。
一部始終を見ていた村人は、ただでは済まない。
「大人しく刑に服すべきでしたか?」
「いや、お主は間違っておらん。お主が軍の任務として派遣されたのは、村の誰もが知っている。役人たちは分かっていながら、お主に罪を着せ財産を奪おうとしたのだ」
「でも、村は取締りを受けるでしょう・・・」
「・・・。昔から同じようなことは行われてきた・・・。もう、限界かも知れん・・・」
平等で貧困のない理想郷。
生まれた時からそう教えられ、信じてきた。
そして現実がこれなのか?
役人だけが腐っているのか、それとも国そのものが腐っているのか・・・?
「わしらのことは心配せず行くが良い」
村長に背中を押され、村を出た。
母と妹が送られた政治犯収容所へ。




