共和国の実態
「収容所っていうのは、廃退した文化に触れた者を、ブント共和国の正しい思想に引き戻すための場所じゃないんですか?」
さきほどまで感じていた混乱は消え、心の中には冷たい炎が燃えていた。
「名目上はな。ただ、その実態は、ただの牢獄よ」
調子にのった役人が、べらべらと話す。
「今まで収容所に入れられて、生きて出たものはいない。入れられた奴は、窓も何もない部屋に放り込まれ、そのまま放置されるだけよ。食事も、水すら与えられない部屋の中で、人がどのくらいもつと思う?」
自分の知らなかった共和国の実態に触れる思いがした。
「どんな頑丈な人間でも5日はもたない。ばばあと小娘が生きているわけがない」
役人の声に、冷たい炎がどす黒い影を含んだ。
「国民にそんな仕打ちをして、なんの得が・・・?」
「そんなことも分からないのか? やっぱり兵士は最下級のバカばかりだな。いいか? まず収容所に入れられたものの財産は全て没収だ。それを我々が頂く。そして上納金を上級官庁に収める。上納金が高ければ高いほど、我々は出世できる。出世すればもっと暮らしが良くなる」
「それは、共和国の思想に合わないのでは・・・?」
「お前はバカか? 国の仕事をするものは、良い暮らしをしなければならん。美味いものを食べ、綺麗で大きな家に暮らす。なぜならば共和国のために働いているからだ」
聞かされていることが真実なら、今まで信じていたものが全く嘘だったことになる。
国の富を、等しく国民に分配し、豊かでなくても幸せな世界。
それが共和国じゃなかったのか・・・?
「冥途の土産に、ちょっと色々聞かせ過ぎたな。まあ、良いわ。すぐに家族のところに送ってくれる」
ひゅっという空気の音で、役人が刀を振り上げたのが分かった。
周りで見守る村人から悲鳴があがる。
びゅんと役人が振り下ろした刀は、ザクっという音をたて地面に突き刺さった。
「あれ?」という役人の間抜けな声。
俺はすでに立ち上がっていた。
縄抜けは、戦鬼連隊では必須技能だ。
この程度の結びであれば、ものの数秒で解くことができる。
両肩を押さえていた役人も、いつのまにか拘束から逃れられ、目を白黒している。
「貴様、抵抗する気か?」
役人の怒号が響く。
「抵抗? しますよ」
肩を押さえていたふたりが白刃を抜く。
「我々に逆らうということは、大統領閣下に逆らうということだぞ?」
今までであれば絶対的な権威を持っていた脅し言葉も、今は空虚なだけだった。
国民全てが敬愛する大統領閣下。
父親のように全国民を愛し、幸せを願っている大統領閣下。
生まれた時から、そう教育され、信じてきた。
信じてきたものが、今は疑念の塊に変わっていた。
「|逆らうのか? われわれに逆らうというのであれば、大統領閣下に逆らうのと同じだぞ!! もう国家反逆罪だ!!」
言ってることが無茶苦茶だ。
1度疑念が湧くと、全てが嘘っぽく感じてくる。
「だって、大統領閣下の命令で、我々は戦争に行ったんですよ? それが罪になるんですか? 母と妹が収容所に行かされる理由になるんですか?」
「貴様ぁ・・・」
青筋を立て怒りで震えているようだが、反論はない。
権威を笠に着て脅していのが理論的に反論され、何も言えなくなってしまったようだ。
こんな奴が、国を取り仕切る役人なのか?
一気に虚しくなった。
「お前のような奴は叩き切ってやるわ!!」
権威が通じないと分かると、今度は武器での脅迫か? つくづく情けない。
「丸腰のお前が、我々に勝てると思うのか?」
「勝てますよ」
「なにぃ・・・」
「お役人さま、あなた方の前に立っているのが、誰かお分かりですか?」
言葉の意味を理解したのか、役人たちの表情が変わる。
「共和国最強、戦鬼連隊の隊員です。地方役人が何人束になってかかろうと、絶対に勝つことなんてできないでしょうね」




