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99.きっと喜んでくれたよね

 休日



 ログインして広場に到着。周囲を見渡すも見知らぬプレイヤーばかりで顔見知りはいません。フユユさんもいないのが少し珍しいですがとにかく待ちましょう。今の内に服も着替えておこう。色々悩みますが……やはり女Tシャツ。これに限ります。


 そうしてる内に『Mine』という茶髪コートのプレイヤーがログインしてきました。手を振ったら気付いてくれましたがすぐに怪訝な顔をされます。


「えっ、だっさ」


 開口一番の挨拶がこれですよ。


「姉に向かってそれはあんまりでは?」


「姉さんのセンスはあれから進んでないの?」


 本気で心配する口調はやめてくれませんか。逆に悲しくなってきます。


「嫌なら攻略をやめます。私はフユユさんと攻略するだけです」


「はいはい、私が悪かったです」


 心のこもらない謝罪はやはりあの頃と同じで笑いそうになります。それで周囲を見渡してもフユユさんがいないので少し心配になります。もしかして先にログインして探索でもしてるのでしょうか。デバッグメニューでID検索するもフユユさんはログアウト状態。珍しい。とにかく待ちます。


「フユユとはうまくやってるの?」


「それなりに」


「いつから?」


「少し前からです」


「へー」


 やけに食いつきますね。なにか企んでいるのではと思ってしまいます。


「何も、言わないんですね」


「何が?」


「私達、現実で会ったこともなくて、顔も知らないんですよ。それに……同性で恋なんて、あなたなら変に思うと想像しましたが」


 創作でなら娯楽として受け入れられてるかもしれない。でも現実で同性同士でそういう関係だって知ったら普通の人はどう思うでしょうか。それを理解しているつもりでしたが、やはりそのリスクは常に頭をよぎる。


 ミネは遠くを眺めていました。


「本気なら、それもいいんじゃない」


「ミネ?」


「姉さんがそこまで情を燃やすって初めてみたから。あの頃ですら周りに興味なんてなかったのに」


 それはその通りだった。恋とかそういうのに興味なかったし、むしろ浮ついて恰好悪いとすら思ってた。カップルを見て私はそうはならないとすら思ってたくらい。ミネは私を見て微笑んだ。


「フユユと一緒にいる姉さん、すごくいい感じだと思うよ。それが姉さんの幸せなら私は応援するよ」


「ミネ……ありがとうございます」


 少しだけ涙腺が緩んだ。まだ泣くには早いですね。これから攻略するのだから。深呼吸して涙を胸の奥へと閉まった。


 少しすると銀髪制服少女がやってきます。私達に気付いて慌てて駆けつけてきました。


「ごめーん。寝坊したー」


 この能天気な声を聞くだけで癒されます。


「珍しいじゃないですか。いつもは一番乗りなのに」


「今日は一杯遊びたいから遅くまで勉強しててね。本当だよ?」


「フユユさんが嘘を言わないなんて知ってます」


「ミゥ……!」


 フユユさんが胸に飛び込んで来ようとしましたが刹那で足が止まります。すぐにミネに振り返ってお辞儀してしまいました。残念……。


「ミネさん、今日はよろしくお願いします」


「そんな固くならなくていいよ。ゲームなんだから上も下もないし」


「将来身近な人になるかもしれないし……いや、変な意味じゃなくてっ……!」


 何を考えていたかは問うまい。ミネも察して笑うだけです。なんか聞いてる私が恥ずかしくなってくる。


「全員揃ったことですし行きましょう。ミネ、場所は?」


「摩天楼都市」


 また厄介そうなマップですね。



 ※機械の街※



 機械の街に連絡通路と呼ばれる大きな施設がある。大きな歯車が建物に取り付けられてるのが目印。中に入ると地下へと続く階段があって、トンネルのような長い通路へと入る。この先へ行けば摩天楼都市へと繋がる。


 そんな通路を歩いていると珍しくもプレイヤーが歩いていました。黒髪ウルフの黒パーカー少女、ナツキさんでした。


「なっ、おまえらは」


 向こうも気付いたみたいで振り返ってきます。


「ナツキさんも攻略中でしたか」


「まぁな。ここ結構難しい」


 トップ層が苦戦するとなればかなりの難易度でしょうか。これは気を引き締めないと。


「だったらナツキも一緒にどう?」


 まさかのミネの提案です。


「2人は知り合いだったのですか?」


「知り合いっていうか、この辺攻略してる人誰もいないからよく顔合わせするだけ。それで馴染みになってるだけだよ」


 確かにここまで攻略してる人は極少数ですから納得です。


「えー。お前らと組むのはなー。あー、くそ。またコメント盛り上がってる。はいはい、組めばいいんだろ。組めば」


 配信者というのも大変そうですね。


「フユユさんも構いませんか?」


 コクリと頷いてくれます。それで全員でパーティを組んでトンネルを進みます。まさか4人で攻略なんて随分大所帯になったものです。


「テイムモンスターの編成どうすんの?」


 ナツキさんが言います。これだけ仲間がいればいくらでも工夫ができそうですが。


「私はモンスター連れない方がいいと考えるけどね。テイムモンスター連れてたら敵に感知されやすいし」


「さすがに私らだけではあの数捌くの無理だろ」


「わざわざ一緒に攻略する必要もない。二手に分かれて行動すれば注意も分散する」


「なるほど。悪くないな」


 なにやら真面目な会話をしてますが攻略したことのない私は会話に入れません。フユユさんは私に引っ付いて手を握っています。


「姉さんとフユユもそれでいい? テイムモンスターなしで二手に分かれる。この面子だったらその方がやりやすいと思う」


「構いませんよ。二手に分かれるなら私はフユユさんと行きます」


「そう言うと思った。ナツキもいい?」


 ナツキさんも異論がなさそうで頷きます。けどフユユさんは私の手を離して前を歩きました。


「私、ナツキと行くよ」


 驚きました。私だけでなくその場にいた全員がそんな顔をしていたでしょう。


「ミネさんとナツキがマップを把握してるなら私とミゥは離れた方がいいと思う」


 それはその通りなんですけど、この子らしからぬ発言に思えてしまいます。

 フユユさんは私をジッと見てコクリと頷いています。何か意図が?


 ……。


 もしかして、私の為?


 前にミネとゲームしようって話して、それで気遣ってくれたのでしょうか。


 本当にどこまでも……。


 ありがとう、フユユさん。



 ※摩天楼都市※



 そこはガラス張りの高層ビルと無数のタワマンが空を突き刺すように並び、空中にはネオンの軌跡やホログラム広告が浮かんでいる。ビル壁面を走るパノラマ映像、都市全体を照らすようなドローンライト、足元を流れる青い導光ライン。全てが制御された光の演出で、人工の星空の中に迷い込んだような錯覚に陥る。


 見上げれば空の一角には仮想衛星がゆっくりと軌道を描き、遠くでホログラムの都市模型が空中投影されていた。

 歩くだけでも、ここがゲームの街であることを忘れそうになる。


「フユユさん。またあとで」


「ミゥがピンチになったらすぐ駆けつけるから」


 離れてるのにどうやって確認するのやら。この子なら変なセンサー持ってそうですけど。

 手を振って別れるとミネと攻略開始です。


 ハイライトで照らされた道路を歩き、周囲を警戒します。


「一緒にゲームするのは久しぶりですね」


「あとでフユユにお礼言わないとね」


「ですね」


 歩いていると遠くのビルの高層がキラリと輝く。そして物凄い速さで弾丸が飛んで胸元を貫いてきました。思い出してきました。摩天楼都市は狙撃モンスターが配置されて遠くから攻撃してくる嫌らしいマップでした。敵の位置が遠く、おまけにマンションのベランダや建物内に隠れるので魔法の反撃するのも難しい。これはミネやナツキさんが苦戦するはずです。


 また遠くで光った。軽くステップを踏みます。が、弾丸がホーミングしてこちらに軌道修正してきました。うわー、これはひどい。またまたダメージ。


 するとミネは具現化魔法『マジックバレット』で遠くを狙います。まさかここから狙撃を?


 いや、ミネならやる。だったら支援魔法『ブレイブハート』


 そして囮になる為に前に出る。建物が光って同時にミネも射撃する。


 交差する弾丸。ミネが撃った魔法は暫くして見えなくなりました。命中したかどうかは見えませんが、再び狙撃されることはなかったので倒せたのでしょう。


「この感じ懐かしいですね」


 昔はミネが前で戦って、私が回復に回ることが多かったです。


「じゃ私がいつもみたいに殲滅しちゃうから姉さんよろしく」


 そう言って走って行きましたけど、その十字路に伏兵が隠れていたと思います。ライフル構えた迷彩服姿のウサギがいたので魔法で倒してあげます。

 ミネは気付いてなかったみたいで驚いていました。


「調子に乗ると油断するのは、あの頃のままですね」


「姉さんも腕上げたんだ。やるね」


 拳を当て合って先へ進みました。

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