97.デバッグって楽しい
平日のデバッグ。今日もフユユさんと仲良くお仕事開始です。ログイン広場に行くとあの子はいつものベンチで待っていたので近くに行きました。
「さ。今日も楽しいお仕事の時間ですよ」
「ふふー」
「急に笑ってなんですか」
何もおかしなことを言ったつもりはないのに。
「ミゥが嬉しそうだったからつい」
意識していたつもりはなかったけど、でもミネと和解したことで心の鎖が解けて無意識に気持ちが表れていたのでしょうか。今回ばかりはフユユさんのおかげなので笑ったのは不問にしてあげます。
「今回は大仕事ですよ。次回イベントのデバッグです」
「やった」
というわけで早速移動します。なるべく誰にも見られたくないので先のマップの方がいいでしょう。フユユさんも行ける所となれば……。
※空中植物庭園・静寂の湖※
「……おー。おかえりー、ふたり、いつも、いっしょ」
静かな庭園の中にある大きな湖。その近くに植物精霊のはーちゃんが出迎えてくれます。後半のマップなのでプレイヤーはいません。
フユユさんがはーちゃんの葉っぱを撫でて癒されてます。その間に私も準備をしよう。デバッグメニューで安置設定の解除。これでモンスターを導入できてかつ、魔法等も使えるようになります。
次回のイベントはフルーツ牧場というイベント。草原フィールドに大きな牧場が設置され、草原フィールドに果物系のモンスターが登場します。モンスターは果物や限定コインをドロップし、牧場で換金が行えるようになります。
さて、まずはモンスターの配置。
プリメロンという名前の通りメロンのモンスター。まん丸な形をしてポップで可愛らしい点目がある。配置するとコロコロ転がり出します。
更にベリーナイトという顔がベリーの人型モンスター。手にはブルーベリーを持っていてそれを投げてくる。
さらにさらにバナナツリーというモンスターもいる。木に実ったバナナ。オブジェと勘違いしたプレイヤーに爆弾バナナを落として来る狡猾なモンスター。
他にもいますがまずはこの辺りで。
「ではフユユさん、デバッグを開始します。このモンスター達の挙動をチェックするので適当に戦ってみてください」
「おけー」
フユユさんはプリメロンという可愛らしいモンスターに近づく。相手も気付いたようで反転し……。
は?
なんかプリメロンが高速回転してフユユさんに突撃しました。しかも弾丸となってフユユさんは避けれず命中。おまけにすごい後方までふっ飛ばされてます。挙句フユユさんは消滅。一応セーブエリアなのですぐに復活して戻ってきましたが……。
「へぇ、やるじゃん。そうやって何人ものプレイヤーを屠ってきたわけか」
何人もなにもまだ実装してませんが。
奥にいたベリーナイトも気付くとブルーベリーをいくつも投げてきます。しかも途中でブルーベリーが弾けて視界を妨害させてくるという異常さ。何が起きてるんだ。
「良い運動になりそうだね。君達を始末してあげるよ」
どうやらスイッチが入ってしまったようです。フユユさんが敵の中に突っ込んでいきました。魔法を放って命中してるものの、HPバーが減ったのかどうか分からない程度しか削れてません。明らかにステータスがおかしい。これ絶対設定をミスってる。
「フユユさん。これはいくらなんでもおかしいです。ステータスを下げます」
イベントはあくまで最序盤の草原フィールドで実装される。そこにこんな化物モンスターが配置されたら阿鼻叫喚待ったなし。
「こいつらに勝ちを譲る気はないよ。分からせる」
ダメだ。完全に戦闘狂になってます。まぁでも、挙動チェックするなら敵のHPは高い方がいいですか。とりあえずデータ収集しよう。
そして激闘モード。絵面はかわいいのに、敵の動きは全然かわいくない。フユユさんもよく対応できてますね。それで時間はかかったものの3体とも撃破してしまいます。
追加投入したモンスターも全ておかしな挙動でしたが全部倒してしまいました。
「少しは楽しめたよ」
満足そうに手を払ってます。こんなバグモンスターを倒すとはやりますね。
「おかげでデータも手に入りました。私はこれらのデータ改善を行うのでその間フユユさんに別の仕事をお願いします」
「なんでもこいー」
「さっき倒したモンスターが素材をドロップしたと思うのでそれで新しい料理が作れたはずです。そのデバッグをお願いします」
「わかったー」
フユユさんにドロップ素材を適当に渡して別れました。
※時間経過※
ベンチに座ってデータチェック。やはり何もかもおかしい。敵のモーションやステータス、全てが間違ってる。残業か何かで急いで作ったのでしょうか。モンスターの種類も多かったのも原因かもしれませんね。ポチポチと変更作業。
はーちゃんは眠そうにウトウトしてます。やっぱりこの子癒される。
「ミゥー。作ってきたよー」
フユユさんが帰って来て隣に座ってきました。そしてメニュー画面を開くと美味しそうなフルーツポンチを出しました。スプーンですくうとこっちに向けて来ます。
「あの。何を?」
「デバッグ。食べないと効果がどう反映するか分からない」
だったらなぜ私に食べさせようとするのか。この子の思考を考えるだけ無駄ですか。さっさと食べてしまいましょう。
何も言わずに口を空けたらフユユさんが嬉しそうにスプーンを運んでくれます。
うん、さっぱりして甘くて美味しい。回復のエフェクトも出てますし効果も問題なさそうですね。
「これはよし。じゃあ次はこっち」
フユユさんがコンポートを出してきます。これまた美味しそうですがスプーンでまた一口サイズ乗せてこっちに持ってきます。
「あの……」
「あーん」
否応なく食べさせられます。もぐ……、悪くないです。ソースが良い味になってます。
「まだまだ行くよ。次はベリータルト」
「ちょっと待ってください。どれだけあるんですか?」
「うーん。20くらいはあったと思う」
つまりあと18回はあーんしろと? いくら誰もいないとはいえそれはさすがに……。
「ミゥ、これはデバッグ。なにもやましい気持ちなんてないよ」
やましい気持ちがないなら自分で食べて確認してください。
勝手にタルトを切り分けてます。
「はい。あーん♪」
……最近まともだったのでこの子がこういう性格だというのをすっかり忘れてました。