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92.ミゥ……?

 平日


 機械の街をデバッグ中。フユユさんも来ていて、ベンチに座って画面を開いてポチポチとして試験勉強を頑張っているようです。休みとのメリハリをつけられて素直に感心します。私も見習わないと。さぁ頑張るぞ。


 街の大通りにいますがNPCや警備ロボやドローンが沢山います。スライムを投げる必要もありますが、まずはこのマップの特徴である信頼度システムに注目しましょう。デバッグメニュー、信頼度数値の上昇。


 適当に数値を弄っているとNPCが味方になろうとこっちに来たり、逆に下げると警備ロボの目が光ります。一旦マイナスにしてみます。するとドローンが警告音を鳴らして即座に敵対状態。ロボットもブラスターを発射してきます。


 適当に魔法を撃って消滅。


「ミゥー、勉強してるから静かにしてー」


 至極真っ当な注意なんですけど、前にこれを開幕にしたの忘れてませんよね?

 ともかく私もうるさいのは御免なので信頼度を調整して回復させます。敵対行動が解除され、街に平穏が戻りました。


「勉強は順調ですか?」


「微妙。ミゥとの二次方程式が解けない」


 一体どんな問題を解いているのか。今更すぎるので気にもしませんが。


「点Miuが止まってくれないの。どうして私から逃げるの?」


 そんなこと言われてもどうしろと。


「止まったら常に一定になるじゃないですか」


「ほうほう。つまり……ミゥと私をかけちゃう、と。えへ、えへへ……」


 勉強しながらそんな想像できるあなたは変態を通り越してます。それで覚えられるなら最早何も言いません。


 そうこうして仕事をしていると、数人のプレイヤーさんが近寄ってきます。


「ミゥさんだー。こんにちは~」

「ナツキの配信みたよ~」

「かわいい~」


 そういえば前にナツキさんの配信でPVPに勝ってしまって目立ったのを忘れていました。適当に愛想笑いをしてごまかすも中々離れてくれません。


「私も忙しいのでまた今度にお願いできませんか?」


 こんなことをしてたらまたあの子の目が光ってしまいます。


「またね~」

「ばいばーい」

「がんばってー」


 そんな感じで立ち去っていきます。ふぅ、目立つのも考え物ですね。そうっとフユユさんの方を見ます。絶対怒ってるだろうな……。と思ったのですが彼女は普通に勉強をしていました。表情も特に変わっていません。おや?


「フユユさん?」


「呼んだ?」


「いえ。特に用だったわけではありませんが……」


 前ならプレイヤーと接触するとすごくジェラシーになっていたので今回もそうなると思っていましたが……。


「別にどうも思ってないよ。だってミゥは私は裏切らないって知ってるから。あれくらい全然余裕」


 何ですか、この胸のドキドキは。前はあんなだった子がここまで私を信じてくれるなんて……。嬉しすぎてハグしてあげたい……。ていうかしたい。だめだめ。今は仕事中。

 いやでも、せめて頭を撫でてあげたい。よし、そうしよう。


 ポンポンと軽く撫でました。


「べっ、勉強してるから……また今度に……」


 フユユさん、照れてる可愛すぎる……。

 もう本当この子大好き。


「試験に受かったらやはり進学する感じですか?」


「多分ね。親にもそっち方面で話してる」


「行く大学は決めてますか?」


「さすがにそこまで気が早くないよー」


 それもそうでしたね。今は試験に受かるのが先決ですか。


「でも、プログラマーを目指そうかなーとは思ってるよ」


「誰かの影響ですか?」


「多分ね」


 思わず笑みが出てフユユさんも微笑んでくれます。もし、私の会社に来てくれたら本当に嬉しい。


「ミゥはどうして今の仕事しようと思ったの?」


 その言葉にどう答えるべきか迷った。

 私はあなたのように綺麗な気持ちで前を歩いていなかったから。


「ゲーム会社で働くのが夢だったとか?」


 その言葉に一瞬思考が止まる。スライムを投げた手も止まる。

 まるで心の奥底を覗かれたみたいで意識が消える。


 ──ここは、ジャンプして魔法!


 ふと、思い出してしまった。


 私の横で笑っていた、あの子の声。忘れたと思ったのに。今更私の頭に現れてなんの真似だ。


 長い沈黙が起きた。


 いや、私がそう思っただけでまだ数秒しか経ってなかったかもしれない。

 辛うじてフユユさんの目を見れた。彼女は放心したみたいに私をジッと見てる。


 思わず口元を手で隠した。もしかして顔に出ていた?

 そんなはずはない。だってもう、心の奥底に閉じ込めたのだから。


「そうですよ。ゲームするのが好きだった、ものですから」


 すぐに取り繕う言葉が思いつかない。


 フユユさんは私を見たままでしたが、すぐに笑ってくれました。


「真面目そうに見えてミゥも単純だね~」


 いつもの口調で返してくれて、少しホッとする。


 なのに心がチクリとした。この子になら話してもいいのじゃないかって、思ってしまったから。一瞬、口が開きそうになった。でも、無理矢理閉じた。


 ダメだ、この子には関係ない。今の関係に傷を入れたくないから、古い記憶を胸の奥に沈めよう。スライムを壁に投げつけて何もかも忘れてしまえばいい。

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