90.私だけだったら今も詰まってたのかな
※空中植物庭園・静寂の湖※
何度目のリスタートか、植物庭園のダンジョン攻略に進んだものの、一筋縄では行かずトライアンドエラーが続いています。フユユさんは植物精霊のはーちゃんからアイテムを購入していました。
「……こんどは、みずいろの、くすり、ためしてみてー?」
死に過ぎてNPCからも気を遣われてますね。あるいはヒント的な存在でもあるのでしょうか。フユユさんは真剣な顔をしてアイテム画面を見ています。
「フユユさんが負けるなんてありえないと思ってました」
「初見殺しに引っかかってあげないとミゥが泣くでしょ?」
そんな開発者に気を遣われても。そもそもここは私の管轄でもありません。
フユユさんは購入が終わったようで画面を閉じました。
「……ふたり、なら、きっと、だいじょうぶ」
はーちゃんと別れてダンジョンへ進みます。
巨大な蔦で覆われ植物の根や草でできた洞窟、新緑の回廊。
3つの通路で構成されたシンプルなダンジョン。けれどなかなか厄介な構成になっています。
1つ目に入ります。天井から毒の胞子が飛び出して如何にも嫌な感じです。毒は奥、真ん中、手前と順にきます。ただ奥へ進んでも蔦の壁が邪魔しており、この壁は一定時間経過しないと開かない仕組み。おまけに中央にはソードマンティスという巨大なカマキリが鎮座しています。無視して走り抜けようものなら両手を広げて行く手を妨害してきます。
「じゃあ行きますかー」
「はい」
ソードマンティスはこちらに接近してきますが、この場では無視。注目すべきは毒の胞子。蔦の壁が開くのは毒が3巡目に入る直前に開く。その間、ソードマンティスを適当に相手します。倒しても即座に復活するので。
無事突破。
「今回は焦らなかったね?」
「何のことですか」
初見で毒の胞子が降りかかって焦った私がハイランナーで奥へとダッシュするも扉が開いていないのでそのまま毒でお陀仏。
続いて2つ目の部屋。ここからが面倒。目の前に大量のチューリップみたいな可愛らしい敵が歩いています。なお見た目に惑わされて火の攻撃すると大変な目に遭います。爆発します。
しかも奥にはファイアーブロッサムという燃え盛る植物がいて見つかると炎の種を飛ばしてきます。それがチューリップさんに当たれば結局ドカンです。
「今度は頼みますよ」
「へーきへーきー」
初見でフユユさんが炎の魔法を使って即死。2度目にフユユさんがファイアーブロッサムを速攻撃破しようとして失敗して即死。3度目にその場で停止して様子見していたら蔦の壁が開くも同時にファイアーブロッサムも起動して結局死亡。
「てかさ、爆発するなら雨降らせたら相殺できない?」
「なるほど。試してみます」
天候魔法『恵みの雨』
植物の内部ですが関係なく雨が降り始めます。リジェネ作用もあるので、これなら……。
すると奥のファイアーブロッサムが何やら照準を定めてます。さぁ、どうなる?
炎の種の弾丸が無数に飛び出す。
炎は……消えない。
ドカーン!
※空中植物庭園・静寂の湖※
またまたここに戻って来ました。もう何度目でしょう。
「フユユさんのせいですね、今のは」
「ミゥは何も言わなかったじゃん」
「ていうか死ぬ直前スキル使って逃げようとしてましたよね?」
ハイジャンプしてたの見ましたよ。
「バグかなー?」
「それは困りますねー」
「そもそも炎の種を相殺すればいいんだよ。雨なんか降らしてる場合じゃない」
「それを先に言ってください。私にそこまでのPSはありません」
「……けんか、だめ。えがお、たいせつ」
口論してたつもりはありませんが、はーちゃんに仲裁されました。頭の葉っぱにポーションを持っていて、私とフユユさんに渡してきます。ポーションを一口。少し冷静ではありませんでしたね。
「……すみません。これは突破できなくても仕方なかったです」
「……ううん。私こそ軽率だったかも」
自然と笑い合って手を取り合った。何度負けても挑戦すればいい。1度切りという規定もないのだから。
「……えがお、もどった。とっても、うれしい」
はーちゃんに見送られて再びダンジョンへと行きます。
1つ目の回廊は難なく突破。問題は2つ目。
「うーん。この花を倒せばいいんだろうけど、下手に魔法使ったら奥のが気付くし」
「いっそあの爆風に耐えられたら問題ないのでは?」
「どうだろう。ミゥはともかく私はレベル低いから難しいかも?」
何もしていない状態だと私ですら即死ですからね。今のフユユさんと私はレベル差は10以上あると思います。
「さっきはーちゃんが水色の薬を勧めてたでしょう? あれは炎耐性をあげるアイテムですね」
仲良くお薬を飲んで、そこに更に『マジックガード』の支援魔法も重ねます。
最後にもう一度『恵みの雨』で雨状態にします。炎は打ち消せないですが炎の威力は弱まるはず。
ファイアーブロッサムが気付いた。そして炎の種が飛んできます。
「これで死んだらミゥのせいだね」
ちょっとー、保険かけないのー。
ドカーン
黒い煙が立ち込めてますが、どうやら視界は暗転していない。私は生きてますが問題は……。
隣には誰もいません。そんな……。
黒い煙が消えた時、奥から何やらドンパチ騒がしい魔法の音が。フユユさんが手を振っていました。もう、行動に迷いがなさすぎです。耐えれる保証もないのに、耐えれる前提で動けるなんて、そんなの……ちょっと嬉しいって思う。
さて、3つ目の回廊。
ここに来たのはまだ1度だけ。地面には大根の葉のようなのがいくつも飛び出しています。地面にはシャウトマンドレイクというモンスターが隠れています。近づかないと出て来ない上に、地中にいる間はどんな魔法も無効にしてきます。おまけに出て来ると叫んで周囲のマンドレイク全員を起動させるので速攻撃破が必須。
初見ではフユユさんの火力が足りずに敵が起動して無事死亡。今回はどうしましょうか。
「私がバフをかけて突破を試みてみますか?」
近付かないと出て来ないなら事前準備は可能。火力をあげれば突破できるかもしれない。
「うーん。ブレハは持続時間短いからなー。それに私のレベル低いから高火力技少ないし、処理できるか怪しいかも」
仲良く唸ります。困りましたね。
「よし決めた。ミゥが全処理して。私がこいつら起こすから」
「えぇ? 正気ですか?」
「私ならギリギリの距離で起こせるし、離れてたらあの叫びのダメージも受けないでしょ?」
それはそうですけど責任重大な役目です。失敗したらフユユさんが死亡してしまう。
「私はミゥを信じてるよ。……今のミゥなら、絶対成功させるってわかってるから」
私の返答も聞かずにバフをかけてきます。そう言われたら何も言い返せないじゃないですか。だったら私はそれに応えるだけです。心が少しだけ高鳴ってしまったから。
地面からシャウトマンドレイクが出現。
中級炎魔法『フレイムランス』
上級以上の魔法はスタミナの消費も激しく魔法硬直もある。なら火力とスタミナ消費のバランスを考えれば中級が一番いい。炎の槍がマンドレイクに命中。目がバッテンになって消滅。よし、厄介な敵ですがHPは少ない。
以前の私だったらこんな的確なゲーム脳な考えはできなかったでしょうね。私も、あの子に感化されてきたのでしょう。だから強くなった所を見せるだけです。
そのままうまく処理を重ねてましたが、残り一体の所でバフが切れてしまいました。まずいな、火力足りるでしょうか? でもスタミナもないし、上級魔法も撃てない。
「フユユさん、すみません。バフ切れました」
ぴょんぴょん移動してるフユユさんはマンドレイクが出現すると風魔法『トルネード』を使用。なるほど、近くにいなければ叫びは受けない。やはりお上手!
なんですが、マンドレイクがこっちに飛んできます。え、ちょっ、これ私がやばいパターン?
「なんでこっちに飛ばすんですか!」
「ごめーん。反射的にやっちゃったー」
こうなっては仕方ありません。私も『トルネード』で飛ばします。フユユさんの方に飛んで行きます。フユユさんはまた返してきます。
それからマンドレイクさんはバレーボールみたいにされて消滅しました。なんかごめんなさい……。