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9.

 仕事やだな……。


 月曜の朝の憂鬱感が本当すごい。やる気でない。でもしないといけない。

 今日も楽しいデバッグだー。


 はぁ。空元気すら出ない。


 広場に来たらベンチでボケ―ってしてる子を発見します。アバターの雰囲気に違いはないのに、あの子だけ生気が全く感じられないのよ。


 手をあげて挨拶。フユユさんも手を振ってくれます。


 月曜で気が滅入ってたけど銀髪美少女を見て少し元気がでた。


「頭撫でてもいいですか」


「いいよー」


 では。


 なでなで。


 うん……。

 いい……。


 ここに癒しがあった。仕事頑張ろう……。


「もうやめるの……?」


 そんな悲しい目をしないで。仕事なんだ……。


「一生撫でて欲しい……」


 通報されちゃう……。


 いい加減目を覚まさないと。軽くほっぺをぺちっておこう。適当な仕事して後で注意される方が余程しんどい。がんばれ、私。銀髪美少女が見てくれてるんだ。よし、頑張る。


「今日はどこ行く?」


 当たり前のように私の隣を歩いています。


 しかもその聞き方はまるでデートか何かと思ってませんか。


「お店の方に行こうかな、と」


 街にはいくつか道具屋が点在しています。他にも衣装を売ってる仕立て屋、お喋りできるカフェ、スキルが手に入る図書館などなど。


 今回は道具屋へ。


『いらっしゃいませ♪』


 NPCの店員さんが出迎えてくれます。他に客はいないようです。


 まずは店の商品をチェック。道具屋なので基本的には攻略に役立つアイテムが売ってる。

 ただこのゲーム、意外なことに武器という概念が存在しない。普通のMMOなら剣や弓はメジャーですがこの世界には存在しない。戦い方は魔法かテイムしたモンスター、あと一応素手でも殴れるけどダメージは低い。或いは戦闘用道具もあるからそれも使える。ただ消耗品だから限りはある。


 武器がない理由は色々武器があるとプレイヤーがどれが強いか分からず混乱してすぐにゲームから離脱するかもってらしい。魔法だけだったらそこまで複雑じゃないから、戦いを覚えるのも楽。しかも魔法はレベルがあがると自動習得するお手軽設計。更に魔法を使用するのに必要なのはスタミナだけ。つまり全ての魔法は実質撃ち放題。ただ強い魔法はスタミナの消費も激しいからボス戦は小回りの利く初級魔法の方が強かったりする。


 ……まぁ結局誰も攻略なんてしてないんですけどね。制作班涙目。


 とりあえずポーションを買う。所持金が最大なので買えるだけ買ってみます。


 ……。


 特になにもなし。


 今度は買ったポーションを全て売却。


 ……。


 これも何もなし。


 うーん。バグ起きないなー。いや起きないのはいい事なんですけどね。


「ミゥ、お困りだね」


「こういうのってどうやったらバグが起きると思います?」


 ゲーム好きらしいのでアドバイスを求む。


「まずはポーションを4つ買います」


 ほう?


「次にハイポーションを1つ売ります」


 ふむ?


「ここで黄金の串焼き団子を食べます」


 なるほど。


「最後にポーションを4つ売ります」


 いつまで続くんですか?


「そしたらなんと、何も起こらないんだよね」


「殴りますよ?」


「怒らないでー。前にやってたゲームは似た手順でこれをしたら一番上の道具の所持数が最大になるバグがあったんだよ」


 それは致命的すぎる……。


「アイテム増殖バグですか。界隈だと多いらしいんですよね」


「私の知ってるゲームは大体あったなー」


 このゲームでもありそうですけど。まぁ仮にあった所でそんな手を使ってまで攻略したがる人がいるとは思えませんけどね。


「そうだ。トレード機能を使ったらバグが起きるんじゃない?」


 なるほど。フレンド登録、或いはパーティを組んだ相手にはアイテムを渡せる機能があります。ボスがドロップする素材などは交換することも可能です。

 試す価値はありますか。


「というわけだからフレンドになってね♪」


 絶対バグ探しじゃなくてそっちが目的でしょ。


「別に悪用とかしないから。本当」


 まぁここ数日ダラダラ付き合ってますし、フレンドくらいにはなってあげましょうか。それでどうこうなるわけでもないでしょう。


「本当に何もしないでくださいよ?」


「この目を見て。私悪い子じゃない」


 アバターの目を見てどうしろと。


 そうこうしてる間に登録が完了してる。

 フレンド1か。これ課長にバレたらどうなるんだろう。


 私の杞憂とは裏腹にフユユさんは嬉しそうにニヤニヤしてます。

 ……やっぱり銀髪ってかわいいな。


「じゃあ私がアイテムを渡すので受け取ってもらえますか?」


「いいよ」


 まずはポーションを1つ送ってみます。


 するとフユユさんが盛大に溜息を吐きました。

 なんでじゃ。


「あのね、ミゥ。ゲームのバグ探してるんだよね。こんな1個送ったくらいでバグなんて絶対起きないよ」


「じゃあどうするんですか?」


「そうだねー。エリクサーを99個くらい送ってくれたらバグるかも」


 高価なアイテムは入手数も限られてるのでその裏をかいてですか。ふむふむ。


 ……。


「あの。あとでちゃんと返してくれるんですよね?」


「うん。返すよ」


 なぜ目を逸らした。


「まぁいいですか。返さなかったら垢バンすればいいだけですし」


「ミゥって本当悪魔!」


 悪魔はどっち?


 とまぁ色々試すものの全部失敗。うーむ、うまくいかないなぁ。


「もうさ、このゲームにバグなんてないんじゃない? 諦めて私とお喋りしよー」


 もはや自分の目的すら隠さなくなってますね……。


「たとえバグがなかったとしても仕事をする。それが社会人です」


「ミゥ真面目―。そんなんじゃ誰にも相手されないよ」


 うっ!


「どしたん?」


「どうして私が独身だと分かったんですか……」


「そこまで言ってないが……」


 墓穴を掘ったのだ……。


 月曜日は頭が回らない……。


「でも安心して。私はミゥを見てるから」


 なんか目が怖い。


「ていうか誰にも渡さないし?」


 怖い怖い。


「男しかいない会社って言ってたよね。こんなに可愛いのに相手しないって頭おかしいよね」


 さすがに知りもしない相手を酷評するのはどうでしょうか。


「本当の私を知ったらフユユさんも幻滅すると思いますよ。こんなに綺麗じゃないですし」


 目も死んでますから。


「大丈夫。ミゥの声を聞いてるだけで命が宿るから」


 この子が一番ゲームのバグな気がしてきた。

スタミナは減っても自動で回復するシステムです。敵に見つかっていると回復速度が少し遅くなります。

走ったりするのもスタミナが必要です。

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