88.いつか追い抜かれるのかな
広場にログインしてフユユさんと合流。
「お待ちしておりました、お嬢様」
メイドフユユさんが頭を下げてきます。銀髪メイド様じゃないですか。
だったら私は黒のレースに黒のミニスカートにして髪型をワンサイドアップにします。いわゆる地雷系で行きましょう。
「お嬢様……お気は確かですか?」
なぜか心配されます。リアルでする勇気はありませんがゲームなら問題ない。
「可愛いでしょう?」
「うん……写真撮らせて……」
「どうぞ」
メイドフユユさん、色んな角度で激写。そこまで気に入ってくれるとは感無量です。まぁ今までは大人っぽい(?)衣装が多かったので新鮮だったのでしょうか。
「今日は攻略でしょう?」
「もちー。場所は調べたから。どこにしようかなー。今のレベルで行くには難しい所もちらほらあったんだよね。ディープシーはまだ早いと思う」
この先は高難易度エリアばかり。その中でも更に難易度が高い場所も多い。ディープシーもその中の1つです。
「空中植物庭園がマシ、かな? 行ってみよー」
庭園も見つけたのですか。やりますね。では付いていきましょうか。
※ワンダーワールド・お茶会広場※
お花畑が広がる午後のティータイムが始まりそうな穏やかな場所。いくつものテーブルが並んで時折プレイヤーさんがテイムモンスターと仲良くお茶を楽しんでます。
フユユさんは奥へと進んで巨木とも呼べる大樹の前まで来ました。大樹には大きな穴があってその中に入るとモノクロワールドへと繋がる。フユユさんはハイジャンプを使って大樹の太い枝へと飛び移りました。
空中植物庭園はまさにこの上にあります。私も続きましょう。やや不安定な足場でしたがフユユさんが手を差し出してくれたので受け取ります。こういうさりげない気遣いしてくれるから好きです。
枝を跳んで跳んで、とにかく飛ぶ。次第に枝や葉がなくなり、緑色の木の幹だけが天へと続いています。丁度近くに大きな葉っぱがあって、フユユさんと仲良く乗ります。すると葉っぱは幹の外周を伝うようにして上へと上昇しました。ジャックと豆の木のオマージュですね。
※空中植物庭園・空島エリア※
雲を突き抜けた先には未開の島が広がっています。島、と呼ぶには足場が不安定でその多くは植物の蔦や葉に浸食されています。壁のようにそびえ立つサボテンや、刺の生えた蔦、島の足場は殆どありません。パッと見ただけで今までと別格なのが分かります。
「今の内にテイムモンスターを呼ぼう」
「ですね」
さすがにここからは2人で攻略も厳しい。とりあえずプテラノドンを呼びます。落下死するなら飛べるモンスターがいると安心。フユユさんは草原ダンジョンのレアエネミーのチビ竜と宝石獣を選びました。
さて、攻略開始です。
いきなり狭い蔦の上を歩いて行かないといけません。そして先へ続く乱立した大きな葉っぱ。フユユさんは宝石獣を抱えてぴょんぴょんと先へ行きます。少しして葉っぱは萎んで垂れていました。長く乗っていると落下するという恐ろしい仕様。落ちたら地上へと真っ逆さまで即死です。
私はプテラノドンに掴まって先へ進みます。これなら安心。
「フユユさんはプテラノドンを連れないのですか?」
「ミゥが選ぶと思ったからね。私はPSあるから問題ないのだー」
その圧倒的自信が本当に羨ましい。
そうこうしてる内に敵が出現。
種の形をして頭にタンポポを咲かせた、タンポポシードというモンスターが遠い木の幹に張り付いて綿毛を飛ばしてきます。私の方にも飛んできました。足場が足場だけに回避困難ですがダメージはなく、速度低下のデバフ。
さらに足元にはポイズンフラワーというラフレシアの花が毒の霧を巻いています。
そして、前方からデスビーという鋭い針を持った小型の蜂の群れ。
最早容赦もありません。冷静に一体ずつ対処しましょう。タンポポシードもポイズンフラワーもその場から動かないので狙うべきはデスビーのみ。動きが早いので範囲技が有効でしょうか。
炎上級魔法『レイジング・サン』
頭上に太陽のようなオブジェを設置して広範囲に継続ダメージ。これなら安心。フユユさんは『マジックアロー』を蜂に当てるという神エイムを披露してますが……。
チビ竜と宝石獣もいるおかげで遠くにいるタンポポシードも撃破してくれます。これで葉っぱに飛び移るのも安心。
「フユユさん、もしかして攻略しました?」
妙に慣れてるというか。そんな感じがします。
「なんのことかなー?」
棒読みですよ。別にいいんですけど。
それならプテラノドンを連れてない理由も分かりました。
「この先で死んだんだよねー」
進んだ先は島の端でその対岸に別の島があります。島と島を繋ぐ架け橋の蔦はありませんが、向かいの島に球根に可愛い点目が付いて蔓が生えたモンスター、ガーデンキーパーが鎮座していました。
敵を見つけたことでチビ竜が接近してしまいます。
「戻って!」
フユユさんの呼びかけ虚しく、チビ竜がガーデンキーパーへと向かって行き物凄い蔓捌きで撃破されて消滅してしまいます。かわいい顔してやることエゲつない……。
「あちゃー。これでもダメかー」
飛行対策の敵ですね。飛んで行こうとすると攻撃されて撃ち落とされる。プテラノドンを地上に歩かせて対策します。
フユユさんは魔法で攻撃するもガーデンキーパーは蔦で魔法を撃ち消してしまいます。厄介なフィールドエネミー。
「どうやって進むんだろう?」
『マジックアロー』で適当に攻撃していましたが、左右に雲から伸びていた蔦に魔法が命中してその蔦が垂れて来ました。
「なるほどー。これを足場にしろと」
しかし蔦は時間経過がまた元の位置に戻って行きました。一気に攻撃しても先へは進めない仕様です。難所ですね。
そうして蔦を攻撃して道を造りながらジャンプして前に進みます。対岸までは結構遠く、落下すれば当然死亡扱い。『ハイジャンプ』などを使おうものならガーデンキーパーの餌食。
うーん。隠しエリアとはいえ難易度高い気がしますね。
半分くらい来た所でしょうか。問題が発生します。後ろから綿毛が飛んできました。
どうやら序盤で倒した敵が復活してしまったようです。デスビーの群れが来ていて、おまけにレアエネミーの巨大女王蜂、クイーンキラビーも出現しています。
先へ進むにもまだ長い。でも相手をしていると蔦が元に戻って厳しい。
「ミゥは先に行って」
「1人で相手なんて無茶ですよ」
「大丈夫。ミゥが向こうへ渡ったらすぐに合流するから」
この子ならきっとできるのでしょう。でも本当なら私が残ってあげたい。私はただの運営だから。けれど以前ティラノ戦でこの子は私の犠牲の上での攻略を拒絶した。
私が残ったらきっと戻れない……。
敵が迫ってる。考えてる暇はなさそうです。黙って『レイジング・サン』を唱えた。
「先に進んで待ってます」
「安心して。私はこういうの慣れてるから」
フユユさんが手を握ってきます。私の心の内まで見抜くなんて敵いません。
作戦が決まってプテラノドンと共に蔦を飛び越えていきます。フユユさんは後方の敵を相手していますが、問題はなさそうでした。ただクイーンキラビーはデスビー呼び続ける厄介な敵。急がないと。
何とか対岸までやってきました。後方確認。フユユさんは今も敵と戦っています。器用に蔦を攻撃しつつ足場を移動してますが、それでも厳しそうでした。相棒の宝石獣も遂にダウン。おまけに遠くにいるタンポポシードが何より厄介で速度ダウンはフユユさんにとって何より致命的。
このままではあの子がやられてしまう。ここから援護してクイーンキラビーを倒す?
いや、それよりも救出が先。でもプテラノドンで飛んで行けばガーデンキーパーが……。
待てよ。目の前にガーデンキーパーがいるのでここで倒せるのでは?
魔法に対して反応して相殺する敵ですが、それなら範囲魔法はどうでしょうか。
炎魔法『溶岩の海』
敵の目の前でマグマを生み出しました。案の定、抵抗してますが相殺できず本体の球根にダメージが入ってます。そして消滅。よし!
ですが振り返った先でフユユさんが落下!
プテラノドンの足に掴まって飛ぶ!
雲の中へと落ちていくフユユさんの手を掴みました。
「ごめん。失敗した」
「構いませんよ。あなたとどこまでも先へ進むと誓ったのですから」
「うん……」
その手を強く握り締めると、優しく返してくれました。
「問題はここからどうするの?」
プテラノドンさんは徐々に降下中。2人乗りはやはり厳しくこのままですと仲良く死亡です。
「フユユさん、ハイジャンプ持ってますよね?」
「あーなるー。把握した」
理解してくれたようなので何も説明せずそのまま上へと投げます。同時にフユユさんがハイジャンプで更に高く飛びました。
それで何とか島へと戻ってくれてようやく一息。危機一髪……。
「ミゥ。ゲームうまくなったね」
その一言が何より嬉しい。
「あのまま落ちて再攻略でもよかったですけれど。あなたとなら、どこまでも行ける。どこだって楽しいと、そう思います」
「今日のミゥ格好いいね。惚れちゃうよ?」
「惚れてもいいですよ?」
「もう惚れてるんだよね」
自然と笑みが零れる。そっと手を差し出したら優しく握り返してくれる。先へ進みましょう。