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85.どこかで切らないとずっと話したくなる

 平日・朝5時


 ♪♪♪


 ねむ。なんかスマホ鳴ってる……? こんな早くから一体誰ですか。社会人にして非常識すぎます。スマホを手に取る。相手、我が恋人。すぐに出た。


「おはよ、ミーゥ」


 囁くような甘い声が脳の神経を巡っていきます。


「おはよ、ございます……随分……早起きですね……」


 まだ若干眠い……。欠伸出そうだったけど心の中で噛み締める。


「ミゥにおはようしてあげたかっただけ」


 その為にわざわざ早起きまでして頑張りすぎです。せっかく起こしてくれたので起きよう。

 軽く伸びをする。まだ若干頭が動いてませんがその内覚めるでしょう。


「嬉しかったでしょ?」


「はい。とても嬉しかったです。今日はいつもよりいい日になりそうですね」


「うっ……真面目に返されると照れる……」


 頭が働いてないので思ったのがそのまま口に出てしまいます。


「お礼に今度私が起こしてあげましょうか?」


「じゃあおはようのキス付きで」


 家に行けというのか。というかそれ……やめよう。私の恥ずかしい失態だ、あれは。


 身支度をパパッと済ませていきます。早起きできた分、余裕をもって行動できるのはいいですね。睡眠欲に抗えないので普段はもう少し寝ています。これくらいに起きるのが理想なんでしょうけど、まぁ無理です。


「フユユさんが毎日起こしてくれたらな……」


 それなら絶対起きれる自信があります。スヌーズなし一発起床。最高の目覚ましです。


「起こしてあげるよ……?」


 やば、口に出てましたか。やはり朝故に緊張感が足りてない。油断している。


「大丈夫です。年下の学生に起こされてるなんて恥ずかしくて通勤できません」


「えー。それより恥ずかしいこと一杯してるのに」


 そういう問題じゃないんです。私のプライドの問題です。


「だったら勝負しよう。私が毎日モーニングコールしてあげるから、ミゥはその前に起きる。それだけのゲーム」


 コールする側が有利すぎませんか。ほぼほぼ負け確定なんですけど。


「だったらもう負けでいいです。毎日起こしてください」


 私のプライドなんてこの程度。フユユさんの声を朝一番に聞けるならそれでいいや……。


「えっ、ちょっ、本気? 私早起きしないといけない系?」


 自分で言ったんじゃないですか。


「ダメだ。朝にミゥの相手をするべきじゃなかった。いつものクールさが足りてない」


「フユユさんの声を聞いて糖分増しです」


「もー、ミゥのばかぁ」


 その囁きすらも甘くて美味しい……。


 はっ、だめだめ。惚気てると時間ばかり過ぎる。朝食を食べないと。


「フユユさんはまだ食べてないですよね?」


「これで食べてあったら貫徹してるでしょ」


 徹夜ばかりしてた人に正論言われる日が来るなんて……。





 適当に会話しながら朝食の準備を済ませました。今日は少し時間があったので目玉焼きを作って、ウィンナーも焼いて、トマトとレタスのサラダも用意して、あと冷奴も欲しいな。ネギと鰹節とワサビに醤油。完璧。


 うむ、朝から頑張った。洗い物が面倒なので朝は大抵楽できる物になりがちですが、やはり時間があるとちょっとだけご馳走になります。


 フユユさんは写真を送ってきて朝食を自慢してきます。TKGに鯖缶にカット野菜。悪くないですね。いいねスタンプを返しておこう。


「いただきます」


「いただきまーす」


 1人で寂しかった朝食も今日はちょっとだけ賑やか。こういう日も悪くない。むしろ毎日あって欲しいくらい。それを心で願っても現実的にはまだ難しいけれど。


 今はこの子が笑ってくれるだけでいい。いつかそういう日が来ると信じてるから。


「うへー。鯖缶まずー」


 穏やかだった空気を一瞬でおかしくするのは最早この子の才能。ちょっとだけ笑ってしまう。


「ミゥ。私が鯖缶も食べれないの、って笑ったでしょ?」


「さぁどうでしょう?」


「鯖缶勧めたのミゥなんだから責任とってよ。こんなの食べれないよ」


 鯖缶美味しいと思いますけど。


「フユユさん、鯖を一口摘まんでください」


「うん」


「口を空けて」


「あー」


「はい、あーん」


「……っ!」


 電話越しなので直接はできませんが気分くらいなら味わえるかも。

 これで味が変わるわけではありませんので意味ないかもしれません。


「どうでしょう?」


「すごく、甘かった」


 鯖缶って甘かった? 変な味のを買ったのでしょうか。


「食べきるまでしてあげましょうか?」


「……お願いします」


 急に素直になりましたね。

 とはいえあーんばかりでは味気がない。少し変化を加えましょう。

 スマホを持ってスピーカーに口元を近づけます。


「フユユさん……私の鯖を……食べてください……」


「鯖……おいしい……」


「もっとおいしくしてあげましょうか……?」


「うん……」


「好き……ですよ」


 すっごい小声で呟きます。フユユさんが箸を置いて何やらバタバタと音がしてます。

 鯖が美味しくて仕方なかったのでしょうか。なんて。


 こんな甘い時間を過ごしてる間も時間は待ってくれません。なんて無慈悲なのでしょう。


「そろそろ支度もしないとなので通話切りますね」


「待って。1つだけ」


「はい」


「私もミゥがすーき。行ってらっしゃい」


 言い返す前に通話を切られちゃいます。本当ズルいですよ。せめて行ってきますくらい言わせてくださいよ。もう。


 でも今日の通勤はいつもより明るく顔をあげられてそう。さ、準備しないと。

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