表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/145

82.私は弱かった

 夕方


 GWが終わったというのもあってプレイヤー数も目に見えて減りました。とはいえ私は仕事を全うするだけです。ワンダーのデバッグが終わったので次はモンスターパークにでも行きましょうか。丁度、『フェンリルちゃん大爆走』というふざけたイベントも始まっているのでプレイヤーは草原フィールドに集まっています。


 メニュー画面チェック……メールはなし……。


 あの子、大丈夫かな。あれから連絡が来なくなって心配です。無理して倒れてないでしょうか。変な子に絡まれて心が傷付いてないでしょうか。授業には付いていけてるでしょうか。先生には何か言われてないでしょうか。ああ、心配です。


 ♪♪♪


 メール!?


 すぐに開いた。フユユさんからだ!


『ログインした』


 ただ一言。これはモンスターパークに行ってる場合じゃない。すぐに始まりの街へとワープ!



 ※広場※



 転送完了! 周囲を見渡すといつものベンチに銀髪アバターのあの子を発見しました。すぐに駆け付けます。


「フユユさん!」


 私の声にフユユさんは手をあげてくれました。いつものように気だるく。


「学校、大丈夫でしたか?」


 隣に座ります。フユユさんは小さく頷きました。


「うん……皆いい人だった。私の事問い詰める人もいなかったし、寧ろ心配してくれた。隣の席の子はノートも貸してくれたし、先生も私を無理に当てなかった。お昼も一緒に食べてくれたし、本当に……いい人しかいなかったよ……」


 それならよかった。ほっと胸を撫でおろしたいのですが、でもフユユさんの口調はどこか引っかかる。私の方を見ました。その目は少し潤んでいるようでした。


「ミゥ、ごめん……」


 急に頭を下げられたので驚いてしまいます。何か粗相があったでしょうか。いや、私はこの子に粗相してばかりでしたので心当たりしかありません。


「いい人しかいなかったのに……。皆優しかったのに……。私の心はあそこを拒絶しているの……。明日、また行けって言われてもきっと行けない……!」


 アバターの目は潤んでいる。でも現実のフユユさんはこの比ではないくらいに泣いているのでしょう。そっと抱き寄せました。


「よく頑張りました。あなたは大きな一歩を踏み出したんです。明日も同じようにする必要なんてありません。自分自身を労ってください」


 頭を優しく撫でてあげます。それでもフユユさんは震えたままでした。


「ごめん、ミゥ。本当にごめん。あんなに協力してくれたのに。仕事に支障でるくらいに付き合ってくれたのに……。私は弱い……。ゲームのレベルなんて飾りなの……。私はリアルだとレベルが1つも上がってない……」


 その声は嗚咽に似て泣いていた。感情の訴えでした。どんな結果だろうと私を気にする必要なんてないのに。でもあなたがそういうなら、私も伝えよう。


「フユユさんのレベルはちゃんと上がっていますよ。初めて会ったころと今は違う。自分の意思で動いたことや勇気は間違いなく経験値です。私が保証します」


 フユユさんは私に抱き付いたまま、ただ声にならない訴えを吐き出しました。引け目も負い目も感じなくていい。けれど優しさは時に残酷な刃になる。きっとあなたはそれを感じてしまったのでしょう。


 それから少し時間が経ってフユユさんは落ち着いたのか私から離れようとしました。その手を掴みます。離れなくていい。寂しいなら甘えたらいい。私は逃げません。私はいつだってあなたの味方だから。


 フユユさんは驚いた顔をしてましたが何も言わず私の肩に寄りかかります。


「ミゥ、本当に……」


「その先はなしですよ」


「うん……」


 広場は明るく人の通りは少ない。私達を気にするプレイヤーどこにもいません。


「ここがリアルだったらいいのに」


「ここがリアルならフユユさんに会うという楽しみが減ってしまいますね」


「そうかも……」


 VRで会ったから惹かれ合って今がある。きっとそうなんだと思います。リアルの空気感や思いが混ざったら今みたいにはならなかったでしょう。


「私、これからどうしよう……」


 不安を吐き出すように呟きました。


「それなんですが……提案というのがあるんです」


「提案?」


「実は高卒認定試験というのがあるそうで、その試験に受かれば高校卒業程度の学力があると判断されるそうです。またその資格があれば大学受験も受けられるそうですよ」


 フユユさんが万が一こういう選択をするかもと思ってこっそり調べていました。


「今の学生生活が辛いなら大学からやり直すのはどうでしょうか? 大学は義務教育と違って自由ですし、フユユさんに合ってると思いますよ」


 受ける講義なども自由に決められるので昼から講義を受けるなんてのも可能です。過密なスケジュールにすれば休みも多くできます。何より、皆が違ったカリキュラムを組むので講義も知らない人ばかり。フユユさんにとったらそういう他人のような付き合いの方が合ってるかもしれませんね。


「そんなの……考えたこともなかった」


「高認自体も色々免除も可能らしいですよ。フユユさんが少しでも学校に行ってたなら一部科目を免除できるかもしれません。そうでなくても少し勉強すれば大丈夫でしょう。もしやる気があるならお手伝いしますよ」


 VRなら一緒に勉強もできます。リアルの教材は持ち込めませんので事前に写真を撮ったりして画像化する必要はありますが。


「ミゥって本当お人好しだね」


「こんなにお節介するの、フユユさんだけですよ?」


「知ってる。ずっと見てたから」


 少しだけ笑ってくれました。


「ありがとう。自分でも考えてみる」


「はい。どんな選択をしても私はあなたを尊重します」


 考えられるなら、あなたは立ち止まってはいない。確かに前に進んでます。どうか自信を持って。私は応援してますよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ