79.孤独はもう嫌だ
温泉地を後にして、高い山へとフユユさんと登っています。空に近付いたおかげでプテラノドンはこちらに気付いて襲ってきました。フユユさんは軽やかな動きで回避して、無事テイム完了。
「やった! プテちゃんゲット!」
妹フユユさんがピース。やっぱり空を飛べるって憧れますよね。
フユユさんは早速プテラノドンの足に掴まります。そして、片手を私に差し出してきました。
「行くよ、お姉ちゃん!」
「非常に申し上げにくいのですが……」
「ごちゃごちゃ言わなーい」
無理矢理私の手を掴んで拉致られました。そのまま快適な空の旅……はできません。プテラノドンは確かにプレイヤーを空へと連れてくれる優秀なモンスターです。1人なら。
さすがに重いのか翼を必死にバタバタさせてますが無理です。そのまま地上へと来てしまいました。
「えぇっ!? 前は一緒でも行けたじゃん!」
あの時はサイバーエリアという特殊な環境でしたし、暴風も発生させていたので状況が違いますね。
「今度私も連れて来ますから、その時一緒に飛びましょう」
「やだー。お姉ちゃんの手を持って飛びたいのー」
駄々をこねない。嬉しいですけど!
荒地エリアは一見広い場所ですが高い山も多く、進むべき場所はある程度固定されてます。そしておそらく……。
奥に巨大な恐竜が見えます。あの大きな顎、鋭い歯、二足歩行にして獰猛かつ狂暴な恐竜。恐竜界最強の王者、ティラノサウルスです。黒っぽい体色でその存在感は圧倒的。このマップにはダンジョン部屋というのが存在せず、ティラノサウルスが荒地を徘徊しています。ただプレイヤー毎に出現同期されてるので、パーティを組んでいなければ視認できません。
さて、向こうもこちらに気付いて咆哮を上げて走って来ます。そのスピードはまさに映画の恐怖をリアルで体感する。近くに来ればその巨体は圧巻で大きな口は人を丸のみするのも簡単でしょう。
問答無用で飛びかかって来ました。私とフユユさんは回避するものの、プテラノドンはその場で踏みつぶされてしまいます。HPゲージが一瞬で真っ赤に。
「攻撃たかっ」
暴君に相応しい火力です。そもそもフユユさんのレベルに合わせてプテラノドンのHPも合わせてるのでやや低いかもしれません。そのままティラノサウルスに噛みつかれてプテラノドン消滅。
「プテちゃんの仇!」
私も惑星魔法で応戦!
やはり恐竜なので惑星属性が効きます。ただHPが非常に高い! 減りました、よね?
ティラノサウルスが一回転して尻尾で攻撃します。すかさず『ハイジャンプ』で避けます。フユユさんは根元に走ってしゃがんでました。お上手!
「いいじゃん。燃えてきた」
「バフを使います」
「おっけー。じゃあ私も」
お互いに『ブレイブハート』で火力アップ支援。ただ敵の動きが速いので魔法を使う度に対応に迫られます。私は少し距離を離れよう……。
と思ったらティラノサウルスがこっちを目視します。
忘れてました。こいつ遠くの敵を狙う習性あるんだった。巨大な炎の弾を吐き出してきます。『ハイランナー』で駆け抜けて爆風からも切り抜ける。SPがどんどん消耗する……。
フユユさんが攻撃してくれたのでティラノさんの注意もそちらに。今の内に天候魔法『恵みの雨』を発動。荒野に雨を降らせます。時間は長くありませんがリジェネ状態に。ただこれもSP消費……。
一旦、アイテムでSPを回復しましょうか。村でフユユさんがくれたココナッツジュース。これはSPを回復できます。あの時は全開でしたがもう一度飲もう。
と思ったらまた狙われるー。回復動作もマーキングでしたか……。しかもこれ全部飲まないと効果表れないのー。やめてー。
とりあえずダッシュしてティラノさんのお腹下へと逃げます。ここでジュース飲む……。
「お姉ちゃん、呑気に飲んでないで戦って!」
これ戦術なんですよ! 分かって言ってますよね!?
※10分弱経過※
敵の動きは機敏なものの、なんとか対応出来るようになってきました。私がダメージを受けてもフユユさんが良いタイミングで『ヒール』してくれます。おかげでティラノさんのHPは半分近くまで減りましたが……。
するとティラノさんは身体を赤く黒く変色させて、目も深紅に光らせます。そして怒涛の雄叫び。当然の如くの第二形態。
そこからの回転尻尾攻撃。なんですが早い! さっきまでは目視でスキル発動で回避できたのに動きが格段に上がってます。おかげでダメージ。フユユさんも流石に見切れなかったようでダメージを受けます。お互いに『ヒール』し合うも、その際にティラノさんは次の動作に入って口から灼熱のブレスを吐き出します。
さっきまではわずかに隙があったものの、その隙も極僅かへとなっています。まさにジュラッシクの王に相応しい……。なんて褒めてる場合じゃない。フユユさんも攻撃のタイミングを掴む為に回避に徹していますが、時々ダメージを受けてます。攻撃も上がっており、一撃だけでも致命傷クラス。
「フユユさん。私が支援に徹します。ですから攻撃をお願いします!」
「ミゥ、お願いっ!」
さすがに状況が状況なのかフユユさんもロールプレイする余裕がないようです。
とにかく支援魔法。まずは物理防御をあげる『プロテクター』。とにかくフユユさんを助けよう。
ですがそんな私にティラノさんにマークされます。こいつのAIは通常攻撃する相手より、こういう支援や回復動作する人を優先して狙う。けれどそれは好都合。フユユさんなら効率よく削るはずです。
灼熱のブレスが襲ってくる。
水魔法で相殺もできますが……。ここはあえて『ブレイブハート』をフユユさんに使う!
私が狙われてるならこのまま一気に削れるはず!
実際第二形態のティラノさんは暴走状態になるものの、防御力は下がっています。おかげでフユユさんの魔法だけでも目に見えてHPは減り続けています。
問題は私か……。
レベルを高めに調整してるとはいえ、さすがにボスの攻撃を受け続けたら厳しいですね。
まぁ別にいいか。
「ミゥっ!」
私を心配してフユユさんが叫んでくれます。
「フユユさんはそのまま攻撃してください。後少しで倒せます!」
そもそも私は運営の人間ですし、ここで負けようが別に大したデメリットではありません。フユユさんが勝利すればそれで大丈夫。
HPはもう赤くなってる。このまま炎上した炎に飲まれて消滅するでしょうが、それでもフユユさんをサポートしよう。フユユさんの速度を上げる『スピーダー』で速さアップ。これで彼女の反射神経なら負けないでしょう。私、よくやった。
あとは頼みました。
そんな時、私の頭上に水の雫が落下して飛散しました。これは『ギガドロップ』の魔法? 炎上した炎は鎮静化し、さらに『ヒール』まで。
回復魔法を使ったことでティラノさんの注意がフユユさんへと向きます。
「なにやってるんですか! あのまま攻撃し続けたら倒せたでしょう!」
「私1人で勝っても意味ないもん! 一緒に行くって約束した!」
この世界の果てを見せてくれるって言ったあの言葉ですか。この子は本当に馬鹿ですよ。そんなの合理的じゃない。別に私が死んでも先のエリアには一緒に行けるのに、このまま攻撃した方が効率よく倒せたのに。
……なのに、どうしてこんなにも心は喜んでいるのか。
私、やっぱりこの子が好きだ。
「仕方ないですね。そのまま持ちこたえてください」
「余裕! 私を誰だと思ってるの?」
「天才ゲーマーフユユでしょう?」
「そういうこと。じゃ、よろしく!」
選手交代。私が魔法を使おう。とはいえ大技を使えば万一こっちに注意が向けば魔法硬直の隙で回避できずに負けてしまう。
なら初級魔法『マジックアロー』で削る。
弱点ではないのでダメージの減りは遅い。長引けばあの子がやられるかも。いいや、信じよう。私を生かして信じてくれたなら、私もそれに答えよう。
後少し!
そんな時、ティラノさんの気が変わったのかこちらに目を向けました。そして走り出して飛びかかってきます。ああ、無理。躱せない。詰み、ですか。
黒い影が浮かび上がったと同時に、その影は消滅しました。目の前でティラノさんが悲痛な叫びをあげています。僅かに残った星の輝き。『シューティングスター』が落ちた形跡。
……ありがとう。
遠くでフユユさんが親指を立てていました。
静かにそれにならいました。




