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76.ナツキがガルオンしてるなんて……

 GW5日目



 ログイン完了して広場へ降り立つ。

 フユユさんはすでに待っていてくれて合流しました。


「残るはジュラシック。パパッと攻略しちゃおー」


 8エリアも早いもので残るは1つ。せっかくなので気分を変えて服装チェンジ。

 実家のような安心感の女Tシャツです。下はスカートと黒のハイソックスでどうでしょう。


「ミゥ本当それ好きだね~」


 好きなものを着てこそです。それを否定しないフユユさんも大好きです。


「じゃあ私は前の続きということで」


 フユユさんもお着換えして、青いスモックにスカート、そして何故か頭に黄色い帽子からして園児のような恰好。これは……。


「お姉ちゃんの大好きなフユユちゃんだよ~」


 妹モードですか。もしかして前に失態みせたのを気にしてるのかもしれません。


 早速攻略へ向かおうと思った矢先、何やらプレイヤーさんがこっちへ来てます。黒髪ウルフカットの子。黒パーカーに黒いホットパンツという黒コーデ。名前は……Natsuki_ch。ナツキ?


「おまえっ、フユユ!?」


 開口一番に彼女は驚いた顔をしていました。フユユさんは肩をすくめています。


「お知り合いですか?」


「どうだったかな……」


 フユユさんは興味もなさそうに私の手を引っ張って先へ行こうとしましたが、相手は先回りしていました。


「フユユっ! どうしてギルドを抜けた! 大事なギルイベがあるのはお前も知ってただろ!」


 もしかして彼女は前にフユユさんがしていたゲームの関係者でしょうか。フユユさんは何も答えません。


「お前がギルドを抜けて、追い打ちのように辞めてしまう人もいて、S級ギルドに移籍する人も出て……。おかげでギルイベは惨敗。疲れたからやめるなんて一言メッセージ残されてどうしろって言うんだ!」


 やはり大きな所で活動していたようです。けれどフユユさんは俯いたまま何も語りません。ナツキさんが詰め寄ろうとしていたので前に立つ。


「あの、あまり彼女を詮索しないでください。誰にだってゲームを辞めざるを得ないタイミングがあると思います」


 受験勉強だったり、就職活動だったり、仕事の繁忙期だったり、或いは結婚して時間を取れなくなることだってある。イベントが大事な気持ちは分かりますが、人によってゲームとリアルの価値観は違うと思います。


「ミゥ……」


 私の言葉が効いたのかナツキさんは一歩引いて腕を組みます。


「言えないなら別にいいけど。ただ一番気に入らないのはお前が勝ち逃げしたこと。あのS級ギルドもフユユと戦いたがっていたのは知ってるだろ? でもお前が突然やめて萎えたって人も多かったって聞いた」


 フユユさん、あなた本当に何者ですか。すごい実力者なのは知っていましたが。


「まさかここにいるとは思ってもなかったけど。でもいい機会だし、私と手合わせしてくれよ。今コメントもすごい盛り上がってるんだよな」


 コメント? もしかして彼女は配信者か何かなのでしょうか。そういうのは滅多に見ないので彼女が有名かどうかも知りません。


 けれど白熱してるナツキさんとは裏腹にフユユさんはすっごい嫌そうな顔をしてます。いや、表情にはあまり出てないですけど面倒そうにしてるのが分かります。相手はフユユさんと戦いたいらしいですしどうしたものか。


「僭越ですが私達も攻略してるので、ご遠慮願えないでしょうか」


「今コメントで『フユユの隣の彼女誰?』ってバズってるのにやめろって? ほら視聴者も熱望してんの、ここで一戦やるしかないでしょ。てか、その服……視聴者ウケ狙ってんの? 『ダサかわ』とかタグ付けされるよ?」


 どうやら彼女にはこのセンスが分からないようです。フユユさんも不服そうに頬を若干膨らませてます。


「はぁ、分か……」


「フユユさん、いいですよ。ここは私が相手します」


「ミゥ?」


「あなたの心境を知ってるからこそ土足で踏み込ませはしません。あなたの心は私が守ります」


「それは嬉しいけど……本当に強いよ?」


 話を聞いた限りそうでしょうね。おそらくこのゲームのトップ層に違いない。けれどフユユさんの彼女としてこれ以上黙っていられません。


「大丈夫です。ですから応援していてください」


「分かった。もし負けても慰めのチューしてあげるね」


 それはうれしい……。わざと負けようかな……。


「わざと負けたらしないよ……?」


 心読まれた。


「私が先に相手します。もし私に勝てたらフユユさんと戦う権利をあげます」


「ふーん。別にいいよ。このゲーム対人要素なくて退屈だったし、いい前座になってくれよ」


 余程自分の実力に自信があるのでしょうか。正直自信はありませんけど頑張りましょうか。


 戦う為に草原フィールドへとやってきました。そしてナツキさんからPVPの申請が来ます。その前に確認しないと。


「テイムモンスターは何匹までにしますか?」


 対人になるとお互いのHPは1で必ず止まるようになる。それで先に1になった方が敗北。けれどテイムモンスターはレベルなどによって同行数が変化する。だからそこに違いがあれば明確に不利が生じる。


 ナツキさんは指を2本上げた。つまり2匹。何を呼ぼうかな。なんて、もう決まってますけど。


 テイムモンスターも決めて申請も許可。すると数字が出てカウントダウンが始まる。

 ゼロになったと同時にお互いのモンスターが公開されます。


 ナツキさんのモンスターは空飛ぶ竜、サラマンダーとジュラシックに生息する小型恐竜ヴェロキラプトル。どちらもスピードが高く攻撃力もある強力なモンスター。


 対する私は……。


「は?」


 ナツキさんから呆れの声が出ます。私が呼んだのは最初のダンジョンで仲間にできるトカゲのモンスター、リザードマンとマッドナイトエリアで仲間にできるお化けのモンスター、バケバケの2匹です。


「本気で言ってる? もしかして初心者?」


 ナツキさんに馬鹿にされますが、フユユさんも若干困惑しています。

 この様子だとやはり知らないようですね。だったら見せてあげましょう。


「まぁいいや。さっさと終わらせてやる! サラマンダー、やれ!」


 赤い飛竜が私に向かって火炎放射を放ってきます。速度も早く今の私では回避も難しいですが……。


 そんな私を庇うようにしてリザードマンが前に立って、さらに魔法の障壁を生み出しています。そんな光景を見てナツキさんは驚いた顔をしていました。


「な……!?」


 このゲームのテイムモンスターはプレイヤーのレベルと同じに設定されます。それでも序盤のモンスターと後半で仲間になるモンスターとではやはり差がついてしまう。


 好きなモンスターで攻略したい人にとっては辛い。だから最初のモンスターも最後まで戦えるようにレベルによって新たな特技を習得していきます。


 リザードマンは『魔法の盾』という特技で攻撃から身を守るようになり、さらにレベルがあがると『クイックガード』という特技でプレイヤーも守ってくれます。PSがない人にとってはこの上なく頼もしい存在になります。


 そして更にバケバケも攻撃に入ります。魔法を唱えて放つのは『マジックアロー』ではなく、『彷徨う魂』という闇魔法。ゆっくりと追尾する怨霊を相手に放ちます。


「くっ。だったら……!」


 ナツキさんは天候魔法『恵みの雨』で雨を降らしました。味方全体にリジェネ付与。なるほど、攻撃の高いモンスターと回復によって攻略を進めていたのでしょうね。


 けれど雨を降らすというのは弱点もあります。


 雷鳴は葬送の調べを奏でる──


 雷最上級魔法『レクイエム』


 空が一瞬青白く輝いたと思うと天を裂く光がサラマンダーを貫き、耳を裂く轟音がフィールドを揺らす。雨による感電も発生するがその前にサラマンダーはダウン。


「嘘、一撃!?」


 レクイエムはわずかに即死効果もあります。今回はたまたまそれを引いたようですね。けれどこの魔法を知らないなら彼女のレベルは推定40~50程度でしょうか。


「でも上級魔法は硬直もある!」


 ナツキさんは私に向かって魔法を放ちますが全てリザードマンが庇ってくれます。


「邪魔なトカゲ!」


 序盤で簡単に倒せるモンスターだから、こんなに強くなるなんて誰も知らないでしょうね。だってそんなのしなくても攻略できますし。


 ヴェロキラプトルが突っ込んで来るのでリザードマンに相手を任せます。これでバケバケと含めて私が有利でしょうか。


 魔法を詠唱する指が少し震える。次の瞬間、轟音とともに光弾が頬をかすめ、HPバーが一気に削られる。くっ、やはり純粋なPSでは相手が上のようです。焦るな、ここで崩れたら全部終わり!


「ミゥ、頑張って……!」


 フユユさんが祈るように両手を胸に押し当てて、潤んだ瞳でじっとこっちを見てる。そんな顔をされたらこれ以上無様な恰好は見せられません。


 けれど相手に隙はない。バケバケの『彷徨う魂』もうまく避けられます。私のHPが残り半分ほどになった。相手のHPはまだ全開。


「これで終わり!」


 空から巨大な闇の隕石が落下してきます。闇の上級魔法『デスメテオ』

 着弾すると周囲に大爆発を起こして大ダメージを受ける。ハイランナーを使って逃げれば致命傷を避けられますがそうなるとテイムモンスターがいなくなって負けが確定。


 なら。


 逃げの為ではなく攻めに使う。スキル『ハイランナー』


 強力な魔法だから硬直も激しい。そして具現化魔法『魔法の剣』


 蒼く輝く剣を手に持って迫ります。これで一気に削ります。走りながら『ブレイブハート』でバフもかける。


「そんなの計算済み! あれが落ちるのが先!」


 確かに体力最大ならここから削るのは不可能。


 闇の隕石が直撃して黒い爆風を発生させました。HPが一気に減る。諦めるな、攻撃を続けろ!


 そして爆風が収まった。


 密着する私達のHPバーはどちらかが赤くなっている。HPが1になったのは……。


「嘘……」


 ナツキさんの方でした。私のHPはまだ半分近く残っています。


「勝負は私の勝ちですね」


「チ、チートだ! 爆風を受けたのにHPが減ってないなんておかしいだろ!」


 確かに広範囲攻撃なのでリザードマンでは庇うのは不可能です。答えを教えるために指を差しました。その先ではバケバケが目をバッテンにして倒れています。すぐに消滅してしまいましたが。


「バケバケの特技『いたみわけ』です。プレイヤーが1度の攻撃で一定以上のダメージを受けるとそのダメージを肩代わりしてくれます」


 即死なども存在するのでそうした対策も含めてのモンスター。こうした能力を持っているから序盤のモンスターも馬鹿にはできません。

 フユユさんも知らなかったようで驚いた顔をしていました。


「私が負けた……? 無名のプレイヤーに?」


 おそらく他のゲームであれば私は負けていたでしょう。けれどこのゲームにはPVP要素がない。だから彼女も対人で強いモンスターも知らなかったでしょう。私もその理解を得たのはつい最近ですけどね。だって隣にはいつも最強のプレイヤーがいたのですから、何となくこういうのが強いんじゃないかって思っただけです。


「ミゥすごい!」


 フユユさんが走って来たので軽くハイタッチ。


「フユユが認めたならお前も強者だったわけか。今の配信、同接二万だぞ。次は本気で……」


「ミゥー、勝ったご褒美にキスしてあげるー」


「どっちにしてもしたいだけじゃないですか」


「えへへー」


 そんなに抱き付いてかわいいですね。


「私を無視してイチャついて! 覚えてろ!」


 ナツキさんは何やら言って走って行きましたが、放っておきましょうか。

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