74.ミゥは悪い大人
お茶会広場にある大樹。その根元には大きな穴がありそこへと飛び込みました。その先は不思議の世界の続きではなく、真っ白の世界。モノクロワールド。
文字通り一面が絵具の白で満たされたようで何も見当たりません。壁という概念も遠いどこかで、どちらかというと白い宇宙空間とも言えます。
一面が絵具の白で塗りつぶされたような空間。壁も天井もなく、ただ白が広がっているだけ。
「アイテム落ちてきた。白と黒を切り替えられるモノクロブックだって」
私は既に持っているので入手イベントはスキップ。フユユさんが本を開くと、白い世界は一瞬で暗黒に変わった。
一瞬で周囲が闇に沈みました。足元の感覚はあるのに、上下左右の境目が曖昧で、自分がどこにいるのか分からなくなる。まるで深い井戸に落ちたみたい。
よく目を凝らすと、黒いはずの天井がかすかに見える。白の世界では見えなかったのに。つまり、白では消える物が黒では浮かぶということですね。
……でもこの黒い世界、道がさっぱり分からない。進む方向も、出口も、感覚が狂っていきそうです。こまめに白と黒を切り替えた方がよさそう。
「そういう仕掛けか~」
まぁフユユさんなら問題はないでしょうけれど。
「ねー、ミゥ」
「なんですか?」
「ここでならさっきの続きできそうだけど……」
急にポーション取り出して何を考えてるんですか……。
確かに真っ黒な場所ですけどプレイヤーははっきりと見えてるんですが。
「ふざけてないで行きますよ」
この子はいつもマップギミックをそっち方面に使いたがる。
というかさっきまであんなに恥じらってたのに、2人きりになった瞬間と本当に違い過ぎるというか。確かに誰も見ていないし、攻略に来てる人はいないだろうけど……。
キスしたい……? いやいやさっきしたから……!
ダメだ、最近本当に理性が甘くなってる。
こんなに頻繁にしてたらその内絶対に依存症になってしまう。この子という存在は魔性なのよ。
「それは最後のお楽しみです。行きますよ」
無理矢理手を引っ張って連れていきましょう。フユユさんは動く気配もなく引きずられていきます。
少し歩くと敵が出現。巨大な黒い芋虫、闇芋虫というモンスター。さらに黒い人型の謎の物体、シェイドという影の敵。黒の世界なのでそういう雰囲気の敵が出てきます。
シェイドは闇に隠れ、闇芋虫は魔法耐性の高い面倒な敵。とはいえ闇という名の通り光が弱点。光魔法『スターライト』
シェイドも接近してきますが足元の影が濃くなるので回避は容易。私も強くなってるんです。フユユさんも魔法を使ってくれたことで難なく突破。
「そろそろ白に戻してくれませんか?」
適当に歩いてますけど方向感覚なくなってきました。私もブックを持ってますが協力者なので色変更はできません。あくまでホストプレイヤーに追随する。
フユユさんはポーション片手に未だに私に引きずられてます。
運びにくいのでお姫様抱っこに変更します。フユユさんは抵抗する気配なし。
「今日はどうしたんですか。攻略するんでしょう?」
「朝からあんなのしたら気が乗らない……」
提案した私にも責任はありますけど。
「じゃあこのままでいいですから、せめて白に変えてください」
「愛の告白してくれたら変える」
この子はいつもこう。こんなの私以外の人がパーティを組んでいたら即解散されてますよ。
仕方ないので顔を耳元に近付けます。
「……好き……」
小声で囁いてあげました。
フユユさんはブックを抱えて安らかにお眠りになってしまいました。結局効果なしですか。
デバッグモードで無理矢理変更したい所ですが両手塞がってるしどうしようもない。
「フユユさん、そろそろ真面目にしてください」
「これはミゥへの試練なんだ。強くなりたまえ」
目を瞑ったまま喋るな。
手が塞がっていては敵とも戦えないのに何を言うか。
だったら私にも考えがあります。
「フユユさん、私とゲームをしましょうか」
「もうしてるよ……?」
そういう真面目な返しはやめてください。
「今から愛の告白ゲームを開始します。相手に告白して先に照れさせた方の勝ち。勝った方は負けた方に1つ命令権を与えられる。どうですか?」
「よし、乗った」
「では私はさっき言ったので先手を差し上げます」
するとフユユさんも本気になったのか目を開けて、それで私の胸にしがみついてきます。
「ミゥ……愛してる……」
っ……!
いきなりなんていうパワーを……。
抱きしめ告白は心臓がやばい……。でもよかった。勝敗は照れさせる。心臓がいくらフルスロットルになろうと関係ありません。ドッ、ドキドキはしますけど……。
目を合わせて言われてたら危なかった。フユユさんは確認するように私の顔を見ますが少し頬を膨らせます。次は私です。
フユユさんと目を見つめ合います。けれど目を逸らされて目を瞑ってしまいました。
逃げるなんて許しませんよ?
「フユユ。告白するんだから私を見て」
「むっ、無理……」
すでに紅潮し始めてるのが見えます。
「それはつまり負けを認めると?」
「違う……!」
「じゃあ目を開けて?」
フユユさんが恐る恐る目を開けます。敗北寸前というか既に茹で上がりかかってます。
自分で蒔いた種なのに本当かわいい。
そしてまた見つめ合います。
「ミゥ……告白して……」
だって告白したら順番変わるじゃないですか。私は悪い大人ですから言いませんよ?
何秒以内に告白するなんてルールはありません。確認しなかったフユユさんが悪いんです。
「お願い……早く……」
そんな求めるようにしないで……。
でもね、私は言いませんよ。もうこうしてるだけで満足してますし、何ならこのまま見つめ合ってるだけでいい。
「あぅぅぅ……私の負け……」
フユユさんが敗北宣言したのでその場におろしました。
「ミゥずるいよ」
「私は悪い大人ですから」
「もぅ。じゃあここからは真面目にする」
フユユさんがブックを広げますがそれを奪いました。
「何を勘違いしてるんですか? ルールは勝った方が負けた方に命令できるというものですよ。私が勝ったらフユユさんが真面目に攻略するなんて一言も言ってませんが?」
驚いた顔をしてます。あの場面での提案なので勘違いしたんでしょうね。でも残念。私は悪い大人なので。
「うっ……。何を命令するの……?」
緊張した面持ちをしてます。何を言おうかな……。
「では、このマップをクリアするまでフユユさんが喋る度に最後に好きと言ってもらいます」
今まで散々されてきたのでこれくらい軽いものでしょう。
「そんなのっ、聞いてないっ……!」
「好きは?」
「……好き」
やば……。思わず口角あがっちゃう……。これいいな……。
それに半分冗談で言っただけで断ってもいいのにしてくれるの、私も好き……。