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73.もうミゥしか見えない……

 GWもあっという間でもう折り返しまでに来ている。世の人は旅行やらイベントやらで楽しんでるだろうに、私といえば自社のゲームにログイン。はは、これ休み明けで周りに言ったらすごい反応されるんでしょうね。どうでもいいけどね。


 広場でフユユさんと合流。今日の私達も教師と生徒といういけない関係を続行。

 段々この役柄もハマってる気がします。


「今回はジュラシックですか?」


 昨日『シューティングスター』を習得したならば恐竜モンスターに対しても戦えるようになったと思います。


「あそこは最後にしようかな。モノクロワールドへ行こう」


 残るは2つなのでどちらからでも問題ないですね。



 ※ワンダーワールド、お茶会広場※



 懐かしき不思議の世界。前に来た時はプレイヤーさんは全くいませんでしたが、休み中で攻略してる人が多いのか今はフレンドらしきプレイヤーさんらがテーブル席について談笑を楽しんでいます。


「せっかくなので私達もお茶していきます?」


 またあーんごっこされそうですけど、前よりはマシになったと思いたい。

 けれどフユユさんは私の袖を掴んで首を振ります。珍しい。喜んで承諾すると思いましたが。


「人に見られるのは恥ずかしい……」


 2人きりの時はヤケに強気なのに集団になると弱くなる。いかにも引きこもりらしいですが……。


「だったら尚更見せましょう」


「え……?」


 休み明けに学校へ行くという話を昨日してくれました。けれどずっと休んでいた所へいざ行くというのはかなりのプレッシャーもあるはず。人の目というのは、言葉がなくても重いものです。ならばそんな羞恥を耐える訓練が必要というもの……!


「学校へ行った時の予行演習です」


「えっと、ミゥ頭大丈夫……?」


 まさかこの子に心配されてしまうとは。まぁ実際学校とは程遠い場所ですが、教室に入れば似たようなものでしょう。席に座ったいくつかのグループが話し合ってるのですから。


「ここを教室と思ってください。そして私達のイチャイチャを見せつけることで羞恥心に耐える訓練になるというわけです」


「ミゥ……朝からお酒飲んだ……?」


 飲んでないです。自分でも言ってて恥ずかしい台詞でしたけど……!


「これはフユユさんの為なんです」


 そうフユユさんのため。私にやましい気持ちなど一切ありません。


「ミゥがそう言うなら……」


 なら早速。


 最初から刺激が強いとフユユさんがオーバーヒートしてしまうので優しいのから攻めます。

 メニュー画面を開いてポーションを出現。そしてストローを2本用意。片方をフユユさんの方に倒して差し出します。


 シェアして飲む。なんか恋人っぽいです。

 フユユさんがそうっとストローを口にしたので私も……。


 目が合うと少し緊張してしまいます……。

 ドキドキする……。

 私が先にダウンするかも……。


 一旦深呼吸して落ち着きましょう。周囲の人はまだこちらを気にしてませんがそれでも普段と違って変な気分です。


 するとフユユさんがささっとストローの位置を入れ替えました。

 またこの子はそういうのする。勝手に飲み始めるから私も……。


 このポーションちょっと甘いね……。


 軽く飲み干したのでお片付け。これくらいなら仲の良い友達程度に見えるはず。


「では本番へ移りましょう」


「えっ……?」

 

 メニュー画面を開いてアイテムを出します。


 その名も『poky』。どう見てもポキーですが見た目はポッキーです。折れてません。

 必要なのは一本だけ。


「ミゥ……やめよ? これ、人いるよ……」


  フユユさんが一歩下がる。視線を泳がせて、耳まで赤い……。


「前はあんなにやりたがっていたのにどうしましたか?」


「人通りの少ない時と同じにしないで……!」


 やはり彼女は恥ずかしがりな所があるようです。これは克服せねばなるまい。

 フユユさんの口にポッキーを突っ込みます。


「んむっ……!」


「大丈夫です。ただポッキーを食べるだけです」


 背中に手を回して優しく言ってあげます。ここまでされて彼女も諦めたのか顔を上げてくれました。それでいいんです。


 ポッキーの端を一口、そしてもう一口……。

 口の中に甘い触感が残ります。


 フユユさんはというと放心してしまったかの如く顔を赤くしたまま身動きできてません。

 それならそれで構いませんよ? 私が食べて攻めるだけです。


 顔が近くなる。もうポッキーの味は感じられない。頭の中がこの子で一杯になる。

 目と目が合う。周りの視線なんて感じられないほどにここには君と私しかいない。


 するとフユユさんが目を瞑って最後の一口を越えた。


「……はっ……ぅん……んん……」


 吸い込まれるような甘くて切ない一時。

 ここがゲームだろうと関係ない。だって私達の心は1つになってるのだから。


「……ぁ……ミゥ……だ……め……」


 ダメと言われたら強くしちゃう……。

 ここにいる誰にも君は渡さない。

 あなたは私だけのもの。だからもっと欲しいの……。


 あと少し……。

 もう少しだけ……。

 唇を離したくない……。

 ただあなただけが欲しい……。


 私の強い思いもあなたは受け取ってくれる。

 あなたのグラスはもう空っぽだね……。

 全部私が飲み干したから……。


 ゆっくりと顔を離す。


「フユユさん……」


「ミゥ……」


 時間が止まったように見つめ合う。唇が触れそうな距離――

 けれど現実に引き戻すようにかすかな声や周囲の視線が刺さる。

 これ以上はさすがに恥ずかしいですね……。


「どうですか。少しは克服できましたか?」


「これ……意味ないよね……」


 それは私も思ってましたけれど。


「でも勇気はもらえたかも」


 フユユさんが私の胸に倒れ込みます。


「あなたの道がどこであっても、私はここにいます。それを忘れないで」


「うん……」


 私の気持ちをお裾分けするつもりで強く抱きしめてあげました。

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