72.いつか会えますように
夜
1人寂しく晩酌を楽しんでいた。バルコニーから夜景を眺めつつ、喉にアルコールを流す。燃えるような火照りは冷たい風がどうにかしてくれるが、心の寂しさはどうにもならない。
あの子は大人になったらお酒を飲むようになるのかな……。もし飲むようになったら一緒に飲みたいけど、無理に勧められないし。スマホで時間を確認する。11時を回ってる。ちびちび飲んでいたお酒もようやく底をついたらしい。
明日も早いだろうし、そろそろ寝ようかな。でも全然眠くない。
こういう時はどうしようか。やっぱりあそこになるのかな……。
※ログイン中……※
何の気の迷いか、ここに来た。時間は遅いけれど休み中というのもあってプレイヤーさんはそれなりにいる。けれど私の探してるプレイヤーは見当たらない。いつものベンチにもいません。もう寝たのでしょうか。最近は調子もよさそうですし、早寝早起きしているのかもしれませんね。
でも気になる……。
よろしくないけれど、デバッグモードでプレイヤーIDで検索……。
するとどうでしょうか。私の愛するプレイヤーさんはホットアイス山脈にいるようです。
どうやら起きてるようです。周回しているのかな?
こっそり見に行ってみましょう。
※ホットアイス山脈・氷の都※
大雪に包まれた仄暗い街。建物は全て氷でできていて雪も積もっている。時間が遅く、先のマップというのもあって他のプレイヤーさんは見当たらない。だからあの子を見つけるのは簡単だった。
フユユさんはカーディガンの格好で、九尾さんと炎精を連れています。ですが物凄い速さで消え去りました。スキルの『ハイランナー』でも使ったのでしょうか。とりあえずここで待っています。
それから10分ほどするとフユユさんは戻って来ました。メニュー画面を開いて思案してる様子。ずっとレベルをあげていたのでしょうか。
夜更かししないように言ったはずですが……。
すると画面を閉じてまた走っていくのかなって思いましたが、なんかこちらに振り返ります。慌てて建物の壁に隠れました。が、こっちに来ます。
気付かれてないと思ったのにこの子には千里眼でも持っているのでしょうか……。
仕方ないので顔を出します。
「ミゥだ……!」
走って抱き付くと転びますよー。あー転んじゃうー。
雪の上にドテーン。
仲良く雪塗れになっちゃいました。
「会いに来てくれたの……?」
「眠れなかったものですから。フユユさんも夜更かしはよくないですよ」
「ちょっとレベルあげてた……。あとテイムしてないモンスターもいたから捕まえたり」
そういえばテイムもコンプ目指しているのでしたか。この様子だとそこまで夜更かしもしてなさそうですし、これ以上は何も言わないでおきましょう。
「えっと……そろそろ……」
「うん……」
フユユさんは倒れたまま、ずっと私の上に乗ってます。雪の中に埋もれるのは案外気持ちいいですけれど……。
別にいいや。どうせ誰も見てませんし……。
「レベル上げは順調ですか?」
「30は越えた」
ということは惑星魔法の『シューティングスター』も習得したのでしょうか。
もうそんなにレベルを上げたのが驚きというか。でもよく考えたら前に課金アイテムもいくつか渡しましたし、うまく使ったのでしょうか。
「そだ。ミゥに見せたいのがある……!」
フユユさんが起き上がって手を引いてくれます。それで氷の海まで来て立ち止まりました。周囲は暗く雪が降っている。ここで何かするのでしょうか。
フユユさんは手を掲げた。そして空の向こうで彗星がキラキラと落下していきます。
……そんな風に魔法を使うのもアリですね。
なら、私も。
暗い雪の夜空に流れ星が2つ海へと落ちる。わずかな光は私達を照らすにはあまりに心もとない。だから2人で楽しめる。
「願い事でも言いますか?」
「私の願いは叶ってるから」
「実は私も叶ってるんですよ」
それでまた笑い合って流れ星を落とす。
ゲームってやっぱりいいかもしれない。戦って遊ぶのも、景観を楽しむのも、誰かとこうやって同じ時間を過ごすのも。私達はお互いどこに住んでるか分からない。もしかしたら北海道と九州くらい離れてるかもしれない。それでもここでならいつでも会える。
やっぱり願い事を言おうかな。
1日でも早くあなたに会えますように、って。
口に出すのは恥ずかしいから心の中で願います。