70.鏡の中で目が合っちゃった……
※クリスタル迷宮、中間ポイント※
天井近くまで来ると、小さなキャンプ場のようにテントが点在している。焚火がパチパチと音を立て、クリスタルの光と焔の揺らめきが混ざって、薄暗い洞窟にほのかな温もりを与えている。ここが安置ポイントでもありテントには道具屋も完備。
回復ポイントでもあるので先程落下死してしまった宝石獣さんも復活しますが……。
「お前、さっきはよくもやってくれたな?」
フユユさんが睨んでます。心なしか宝石獣さんの目もつりあがってるような気もしなくもない。完全に犬猿状態。そのまま収納すると思いましたが放置してます。
「お前に最後のチャンスをくれてやる。精々足を引っ張らないでね」
宝石獣さんは聞いてなさそうに額の宝石を手で拭いてます。フユユさんはモンスターに嫌われやすい体質でもあるのでしょうか?
「もういいもん。ミゥせんせー、行こー」
腕に絡みつくのやめてー。しかもなぜか宝石獣さんが睨んでくる始末。私なにもしてないのになぜ?
キャンプ場を後にして洞窟になっている階段があるのでその先へ。
クリスタル迷宮のダンジョン、鏡の迷路。
階段を上った先は通路になっていて、一歩進むたびに、無数のフユユさんと自分の姿が壁の鏡に映り、誰かに見られているような気配がする。いわゆるミラーハウスに近い。歩くたびに方向感覚を失いそうなダンジョンです。
そして当然モンスターも出現します。白くて尻尾が9つある狐の妖怪さん、九尾。九尾は尻尾をくねらせ、炎の弾を巧みに放ってきます。その動きは予測困難で、ミラーハウスの無数の鏡に反射し、どこから攻撃されるか全く読めない。
フユユさんが前方に『バブルガン』を放ちますが鏡に命中。そこに映っているモンスターもまた鏡。
「これは手強い……」
敵がどこにいるのか、どこから攻撃されているのか。それを把握しづらいのがこのマップダンジョンの特徴です。
するとフユユさんの宝石獣が額のビームで九尾さんを攻撃。どうやらテイムモンスターはプレイヤーと違って敵の位置を把握できるようです。
「おまえ、やるじゃん」
位置が分かったのでフユユさんは九尾さんに攻撃します。それでテイム発動して、捕獲!
「仲間増えたー」
狐のもふもふさんが増えました。
それからフユユさんはミラーハウスを探索していましたが出口が見つからない様子。
「ミゥせんせー、助けてー」
実際同じ所をぐるぐる回っているのは明白です。
「見えてる物だけが真実とは限りませんよ?」
「あー。そういうことか」
察しましたか。鏡をよく観察しています。
「あった」
鏡の中に仕掛けを起動させる紋章があるんですよね。鏡の中の自分をその紋章に触れさせるように動いたら……。
ゴゴゴゴと音が響いてどこかで通路が開きました。
「うーむ。よく出来た謎解きだ」
VRだからこそ現実ではありえない要素もまた一興でしょう。
「待てよ……」
フユユさんが何か閃いたように動きます。それで鏡の中の自分を調整して背伸びして……。
何やってるの?
「鏡の中でミゥとキスしたらそれもまた真……」
相変わらず発想が変態のそれです。
「キスしたいなら直接言えばいいのに。いくらでもしてあげますよ?」
「きょ、教師と生徒でそれはダメでしょ……」
「フユユさんだってしたいでしょう?」
「ミゥ先生……」
なんか良い雰囲気……。でも何か視線を感じます。宝石獣さんと九尾さんがめっちゃこちらを凝視してます。気が散る……。
「お前達はあっち行ってて」
フユユさんがシッシと手を振りますが言う事聞きません。これは止む無し……残念。
「フユユさん、終わったらまた……」
「うん……」
宝石獣だけがやたら睨んでますが、この子感情ありませんよね?
攻略に戻って仕掛けを理解したフユユさんはミラーハウスで苦戦することもなくなります。
先に進むと新たな敵が登場。鏡の中に潜む白い和服を着た麗人、雪女という敵です。鏡の中にいるのにこちらへと粉雪を飛ばして攻撃してきます。中々に厄介な敵です。人型ですがテイム可能。
フユユさんはその雪女をジッと睨んでます。はて?
「フユユさん?」
「銀髪……」
ああ。確かに雪女さんは銀髪です。というか白髪?
「フユユさんより素敵な銀髪はいないですよ」
「ミゥ……!」
フユユさんが抱き付いて来たので代わりに倒してあげましょう。炎上級魔法『溶岩の海』
鏡の中は炎に飲まれる。本来なら範囲はそこまで広くないですがこういうマップなら効果は大きいですね。
「倒して、よかったの?」
「私とフユユさんの間に割り込むなら誰であろうと容赦できませんね」
「また好きになる……」
フユユさんの愛なら無限に欲しい……。