7.明日も、また会えるって信じてる
「ミゥ、ありがとね」
無事テイムが終わってフユユさんは宝石獣を仲間にできた模様。抱きかかえながらベンチに座っています。やはり女の子に小動物はよく似合う。どちらもかわいい。
「次からは1人でお願いします」
私は遠くから眺めてるだけで何もしてませんでしたけど。
「孤独は辛い……」
だからそういうガチめな雰囲気出すのやめれー。
「せっかくですし攻略にでも行って来たらどうですか。その子かなり強かったと思いますよ」
上のお方も焦ったのか攻略して欲しさに宝石獣を強めに設定してたのを知ってる。額からビームみたいのを出せてそれで序盤の敵は大体倒せたと思います。
「ねぇ、ミゥ」
「なにか?」
「やっぱり私邪魔だったりする?」
思わずぺちぺちの手が止まります。何がどうなった。
「なにゆえ」
「だって私をここから追い出そうとしてる。本当は邪魔だって内心思ってるでしょ?」
なぜそういう思考になった。
「ただの一般論ですよ。別に強制はしてません」
「ありがとー」
どれだけ私と一緒にいたいのやら。
「よく考えたらこの子いるから私も手伝えるんじゃない?」
フユユさん。急に宝石獣鷲掴みしないで。
「動物愛護団体から苦情がきますのでやめてください」
「えー。ここってゲームだから現実の常識は関係ないんでしょ」
それはそうなんですけどモラルの問題ですよー。というかさっきまで可愛がってたのに情緒どうなってんのよ。
「それにそういう輩がいるとゲームの民度に関わります。プレイヤー人口が減ると我々としても困るんです」
壁に宝石獣投げてるって一種の虐待じゃないですか。そんなの普通の人がみたらドン引きですよ。
「スライムはいいの?」
やけに食いつく。
「ぎりぎり」
セーフなのか?
「でもさ、攻略行ったらこの子をこき使うんでしょ。ボロボロになって瀕死になっても奴隷のように働かせて」
急に倫理観を語るな。そういうゲームなのよ。あと自分は戦わない前提ですか。
「ゲームはそういうものです」
相手するのが疲れてきました。
「ゲームって難しいね」
自分で難易度あげたんじゃないですか。
※翌日※
フユユさんはいつものようにベンチに座っていました。けれど何かおかしい。
「宝石獣は?」
テイムしたモンスターは主人にずっと付いて来る。どんなに離れてもそばに来るようになっています。今のフユユさんの周りには何もいない。宝石獣を撒いたとも思えないし、そもそもウサギ系だから足も速いし難しい。一応モンスターボックスに保管しておけますが昨日の今日でそうなるでしょうか。
「今日ログインして言われたのよ」
「はぁ」
また何か語り始めた。
「お前は帰る所があっていいよな。俺は一生お前のそばを離れられないのによ。お前がこのゲームをしなくなっても俺はずっとお前を待っていないといけないんだ。この地獄のような苦しみ分かるか? って」
完全に病んでる。
「モンスターは喋りませんが」
私の知らない所で機能が追加されてる。
「私には分かるの。あのつぶらな瞳の奥底に眠る涙が」
この子ダメだ。
「やっぱり私はミゥじゃないとダメみたい」
「私は仕事でプレイしてるだけなのでデバッグが終わったらログインしなくなりますよ」
「え……」
そう反応されても仕事は仕事ですし。そもそも他にやるべきことも山積みなんですよ。
「やっぱり私が嫌いになったの……?」
「いやだから仕事」
「お願い……。私を置いていかないで。でないと死んじゃう」
この子色んな意味で危ういんですけど。
「まぁそんなすぐには出て行きませんよ。もしかしたら次の仕事も似たようなものになるかもしれません」
そんなはずはないでしょうけど、咄嗟に思い付いた嘘はこれくらいしかない。
「それにこのゲームが人気になればそれだけ私の仕事も増えますし相当先の話でしょう」
我が社に女性社員でも来ない限りは私の過労が積み重なる。悲しいね。
「でもいつかは別れる……?」
「まぁ」
「辛い……」
まるで今生の別れのような反応です。
「今はSNSも普及してますしここでの別れは一生の別れにはなりませんよ」
「動画撮ろ……」
なぜそうなる。
「ミゥの声聞けなくなる。つらみ……」
「そんなに私と一緒にいたいならうちの会社に来たらいいじゃないですか。それなら嫌でも毎日顔を合わせますよ」
「その手があった……! でもゲーム会社って難しそう……」
「まぁプログラミングの知識は必要になりますけど。フユユさんがいくつかは知りませんが今から勉強しても全然間に合うと思いますよ」
私も本格的に勉強し出したのは大学生になってからでしたし。
「それに私としても来てくれたらすごく嬉しいです。だって男しかいないんだもん!」
その結果この苦労である。1人でも手伝ってくれる人がいたらきっと報われる。
「じゃあ応募したら採用よろしくね」
私は人事じゃないのに何言ってるんですか。やれやれ。