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68.人生って自由でもいいのかな

 GW3日目



 朝食を食べているとスマホが鳴っている。電話?

 相手はフユユさんだ。


「にゃほー」


 朝から馬鹿みたいな声を聞かされます。


「にゃふー」


 とりあえずそれっぽく返してみる。


「ミゥはノリがいいね」


「朝から電話とは珍しいですね」


 どうせガールズオンラインにログインするのでそこで話もできるので通話する意味も特にないように思います。


「うん。実は今日の午前中はログインできないかなーって」


 あのゲーム廃人のフユユさんがログインできないだと?


「あなたは誰ですか?」


「フユユなんだよね」


 軽い冗談っぽく言ってきます。何か用事でもあるのでしょうか。


「ミゥだから教えるんだけどGW明けたら学校に行ってみようかなって思ってるんだ」


 なんと。ずっと引きこもっていたそうですがまさかそこまでに至ったなんて、朝から感動させるのやめてください。


「でも休み明けでいきなり行くのは難しいかもって思って今から学校へ偵察行ってくる」


 なるほど、それでログインできない感じですか。わざわざ私に教えてくれるなんて嬉しい限りです。


「大丈夫そうですか?」


「制服には着替えてみた。でもミゥには通話して欲しくて……」


 散歩行くのも通話しながらなら大丈夫になったから学校へもそれで行けるかもしれないという理屈ですかね。そんなの喜んで引き受けるに決まってるじゃないですか。


「分かりました。私にはお気遣いなく、ゆるりと気を付けて行ってください」


「じゃあ行って来る」


 パタパタと部屋を出て行く音が聞こえます。スマホをポケットに入れたのか少し音が聞こえづらくなる。でもご両親と何か話してるように感じます。

 それからバタンとドアが閉じられました。


「よーし、行くぞー」


「親御さんは何か言ってましたか?」


「うん。気を付けてねって言ってくれた」


「そうですか」


 きっとご両親もこの子の変化に純粋に喜んでくれてるはずです。たとえ休み明けに学校へ行けるかどうか分からなくともこうやって前へ進もうとしてる子を応援してるのでしょう。

 それは私も同じですけどね。


「ふっふっふ。GWなのに制服着てるのはきっと私だけ。これぞオンリーワン」


 リアル制服姿のフユユさんですか。ゲーム世界の制服姿は毎日見てますが、リアルでもきっとかわいいんでしょうね。


 さてと。フユユさんがゲームにログインしないなら私も出かけようかな。身支度しよう。


「学校へ行くのなんて久しぶりだなー」


「無理してませんか?」


「ん、大丈夫。無理そうになったら帰る」


「それでいいと思います」


 歩く速度も、前に進む勇気も、心の中の自分も、そんなの皆違う。だったらそれを尊重してあげたい。


 洗い物を済ませて、化粧をする。髪を整えて、服を着替えよう。

 家を出たら、朝というのに車が多い。旅行に来てる人でしょうか。

 私には関係のない話ですが。


「ミゥ、聞いて欲しいの」


「はい」


「私って昔からゲームが好きだったんだ。でもね、周りの女子で私くらいゲームが好きな人っていなかったんだ」


 昔話でしょうか。でも言いたい気持ちは分かるかもしれません。私もそこまでゲームに熱心ではないですし、周りの友達でしてる人も大抵はソシャゲや携帯ゲームが殆ど。それもライトユーザーな感じで軽くプレイするのが多かったです。実際プロゲーマーも殆どが男性です。


「周りの女子は流行りの曲はとか、SNSの話題とか、美味しいお店はとか、クラスで気になってる人はとか、そういう話題ばっかりで私は全然ついていけなかったんだ」


 若い子なら大抵はそんな感じでしょうか。


「男子はゲームしてる人もいて、私がやり込んだゲームの話題を出してる人もいたけどその輪の中に入る勇気もなかったんだよね」


 同性でも話題の中に入るのは勇気が必要ですが異性となれば尚更ですか。


「それで段々と孤立していってね、気付いたら学校に行かなくなってた」


 そんな理由でって思う人もいるのかもしれない。でも集団社会になってる今では孤立するというのは何よりも重い罰でもあると思います。会社の中でも孤立すればそれは辛いですが、最悪は転職という道もある。けれど学校はそう簡単にはいかない。


 でも私は少し内心安堵もしています。フユユさんが引きこもった理由がいじめやそういった出来事ではなかったのだと。もしそうだったら彼女の心のケアができる自信もなかったです。


「ならどうして行きたくなったんですか?」


 それが事実なら今もその感情はあると思います。


「なんでだろうね。でもミゥと会って分かったのかも。大事なのは先入観じゃなくて、相手を理解する気持ちなんじゃないかって。ミゥってさ、ゲーム全然しないのに私と一緒に協力してくれるし、私が廃人並にやり込んでるのに引かないし、むしろ自分もって思ってくれるでしょ? 多分、そういう気持ちが大事なんじゃないかって思って。私は勝手に周りの人に理解されないだろうって決めつけて諦めてた。でもきっとそうじゃないんだと思う」


 好きや趣味って人によって違う。同じ好きでも微妙にニュアンスが違うこともある。

 相容れない趣味だってある。世の中分かり合えない事の方が多い。でもだからこそ、理解しようとする気持ちが大事なんだと思います。


「それに気付けたならフユユさんは他の人よりも一足先に大人になったと言っても過言ではないですね」


「えへへ。そうだったらいいな……」


 そんな感じで話していると駅を発見。駅内では家族連れが多く見受けられます。やっぱり皆旅行で出かけてるんだろうな。1人で旅立ってる私は哀れ哀れ。でも今は1人じゃないですね。


「電車に乗るから一旦通話切るね」


「奇遇ですね。私も駅に来ましたよ」


 自然と笑いが零れる。好きが違っても似た者同士。それが私達。


 電車内でラインでやり取りしながら目的地へとたどり着く。別に目的なんてないけれど、ただ何となく。


 フユユさんも降りたのか通話が来ました。


「もうすぐ学校に着く」


「私ももうすぐ着きます」


「どこに?」


「ゲームセンターですね」


 特に意味はなく。何となく来たくなっただけ。いいや、或いはこの子だったらこういう所が好きなんじゃないかって勝手に思っただけです。別に他意はありません。


「えーいいなー。私の地元にはないんだなー」


「私も来たのは久しぶりです」


 中に入るとやかましい音楽が流れてきます。通話が遮られるのでAirPodsを装着する。

 とりあえずUFOキャッチャーの所をぐるりと観察。そしたら目が飛び出したニワトリの小さなぬいがあったので試しにプレイ。小さなアームで案外簡単に……取れませんか。


 何度かプレイしてようやくゲット。これはいつかフユユさんに会えたらプレゼントしよう。


「やっぱりミゥって人間できてると思うなー」


「私からしたらフユユさんもそう思いますよ?」


 そしたらまた笑い合ってしまう。まるで隣に恋人がいるみたいに。

 いつか本当に隣に立ってくれる日を夢見て。

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