64.小銭と一緒に心も落ちた
ゲームからログアウトして昼食の準備中。途中でスマホが鳴りました。
フユユさんからラインが来て画像がアップされてます。
大きなどんぶり鉢にうどんが映っています。しかもとり天、温泉卵、ネギ、天かす、鰹節を少々と完璧すぎる……。氷が入ってるので冷やしうどんでしょうか。ちょっぴり暑いですもんね。
しかし……。
「なんだこれは……」
料理できない人が急に本格派になったんですが。
ていうかすごく美味しそう。とり天食べたい。
『料理スキル上がりすぎでは?』
『ドヤ』
『親が作った説』
『ネギ切ったもん! お湯沸騰するのも見てた!』
見事に自爆してくれました。とはいえ一緒に料理する程度には仲も戻ったようなので少し安心ですね。
では私も完成したのでアップしよう。オムライスを作ってみました。見栄えよくするために卵の周りにブロッコリーとミニトマトを詰めまくる。ケチャップで何となくハートを描く。最後にみじん切りしたパセリをパラパラッと……これでよし。
送信……。
『1500円』
何故か格付けされてる。
『払うから家に送って』
このまま配送しろと? 届いた頃には愛憎のオム様になってそう。
『いつか会えたら作ってあげます』
『今から行く』
執念ですか。そこまで言ってくれるのは嬉しいですけれど。
完食……。
料理作ったのも結構久しぶりな気もします。独り身のせいか真面目に作る気が起きないんですよね。やっぱりこうやって見てくれる人がいると頑張れる。
『フユユさんの好きな料理はなんですか?』
『卵かけご飯』
庶民過ぎる……。いや美味しいんですけど……! そうじゃなくて……!
『もっとこう、ないですか?』
『ミゥ』
私は料理じゃなーい。
『真面目に答えてください』
『うーん。お刺身。海鮮丼』
手料理振る舞おうと思ったけど難易度高い……。スーパーで買ったので作ればいいんでしょうけど、どうせなら手作りにしてあげたいというか。
『他には?』
『んー。茶碗蒸し、天津飯、オムレツ』
見事に卵料理が乱立。これなら頑張ったら作れそうかな……?
『卵料理が好きなんですか?』
そしたら好きのスタンプを何度も押してきます。なるほど……。
『因みにミゥは?』
『フユユさん』
さっきのお返しでふざけてみます。
『え……? 女体盛りってこと……?』
この子が変態であるのを忘れてました。
『焼き鳥です』
スルーして流そう。
『それは熱くて無理そう……』
流せてない……。
『焼肉に刺身も好きです』
好きというか普段食べれないから食べたいだけ。
どっちもお酒によく合う。
『最近はアボガドとチーズのサラダにもハマってます』
『頑張って全部乗せる』
いつまで引っ張るのよ。この子の前で下手に冗談言ったらダメですね……。
『お酒好きそう』
『好きですよ』
自分で時々つまみを作る程度には飲む。
『えっと……リアルで……する時は控えてね……?』
そんな酔っ払いになるまで飲みませんよ。でも、やっぱり口臭気になるのかな……。気を付けないと。
『あ……でも酔った勢いでするのも……いいかも……』
また頭がお花畑になってます。このやり取りが両親に見られてないのを願いますよ。
食事を済ませて、洗い物を秒で片付ける。体が鈍ってはいけないので散歩に行きましょう。
パパッと身支度を済ませて、今日は暑そうなので日焼け止めをしっかり塗っておこう。
『フユユさん、運動の時間です』
すると絶望顔のスタンプが返ってきます。
仕方ないので通話。すぐに出てくれました。
「行きますよ」
「死ぬー。暑いー」
「ゲームばかりでは不健康です。さぁ行きましょう」
「うー分かったー」
珍しく渋々動いてくれたようです。或いは近くに両親がいるから悪ふざけができなかったのでしょうか。
外に出るとやはりちょっと暑い……。でも風が吹くと気持ちいいかも。
GWのせいか道路は車が多く走ってます。うるさいので静かな所へ行こう。
住宅街の方へと足を向けて歩いていく。
「あーつーいー」
確かに暑いですがそんなにでしょうか。
「これで暑いと言ってたら夏本番で死にますよ」
「もう死にそう……帰りたい……」
まだ出て数分くらいですよ。
「もう無理……コンビニでアイス買ってくる……」
誘惑に負けるのが早すぎますよ。
コンビニに入ったのか聞き覚えのあるメロディが流れました。
「アイスはやっぱりジャイアントコーンかな……」
「そこはピノでしょう。常識ですよ」
「えー。量少ないじゃん」
私からするとあれくらいが丁度いいんですけどね。
それで電話の奥でガサゴソと物色してる音がしてレジに向かったのか歩いてました。
「214円になります」
店員さんの声が聞こえた。フユユさんは財布を取り出したのか小銭を漁ってる音がする。
そういえば前に邪魔されたな。よし、お返ししてやろう。
「フユユ、好きだ」
ちょっと格好つけて低い声で言ってやりました。
そしたら電話向こうで盛大に小銭をぶちまけてる音がしてます。駄目だ、笑いが……。
それで床に落ちたお金を拾い上げてるのかパチパチとレジに置いてるようです。
「ありがとうございましたー」
相変わらず店員さんは営業モード。マニュアルに絶対笑わない為の思考力みたいなのがあるのでしょうか。
「ミゥ、不意打ちやめて」
フユユさんはまだ恥ずかしいのか声が若干声が震えています。
「これで私の気持ちが分かってくれましたか?」
「うん。ミゥは私が大好きって分かった」
いやそうなんだけど。そうなんですけど……!
そういう意味じゃなくて……もういいや。
「学生らしきのが多い」
「まぁ休みですからね」
するとフユユさんはアイスを食べ出したのか、何も喋らなくなりました。
どうしたのでしょうか。
「別に自分と比べる必要はありませんよ。フユユさんはフユユさんです」
「ミゥってやっぱり私の心が読めるんだね」
勘で言いましたが正解だったようです。
「もし学校に行ってたらあんな風に友達と遊んでたのかなーって考えてた」
軽く零れたそれに言葉を失くす。
この子が真にそれを望んでいたのなら、背中を押してあげたい。
でも、私は……。
「フユユさんが引きこもりだったおかげで私と会えたんですよ?」
本音を隠して甘い言葉を囁いてしまう。やっぱり私は悪い大人だ。
「……そうだね。ありがと、ミゥ。別にそこまで深刻に考えてないから。私にはミゥがいるから」
私にもあなたがいるから。それを口にできなかった。
「よし、アイス食べたし攻略の続きしよ?」
「ダメです。もう少し歩きましょう」
「むー。だったらミゥがここで一曲歌って。さっきの罰」
なんと無理難題を。ていうか私も散歩してるのに恥ずかしすぎる。
「歌ってくれないなら帰る」
「……分かりましたよ」
だったらあなたの脳が焦がれてしまうような恋愛ソングを熱唱してあげます。
この想いがあなたに届くように。