60.ミゥの声がいつもと違った
GW2日目
ログインすると相変わらず人が多い。フユユさんは……まだなようです。
ベンチに座って待っていましょう。と思ったのですがそういえば水着のままだった。辱めを受ける前に着替えよう。黒のオフショルダーと黒のスカート。キャスケットを被って、なんか格好いい?
そうこうしてる間に銀髪ビキニが出現。周囲から注目されて本人も焦って着替えてる。
くっ……笑い堪えるの我慢できぬ……。
「ミゥ。今日もかわいいねー」
何事もなかったように挨拶してきます。
「フユユさんもかわいいですよ。とくにさっきの」
「あ、あれはなしの方向で……!」
やせ我慢だったようで顔が赤くなりました。かわいい。
フユユさんが隣に座ります。
「朝ごはんは食べて来ましたか?」
「むふー」
急にニヤニヤして何ですか?
「変な物食べましたか」
「違うよー。今日は久しぶりにお父さんとお母さんと一緒にご飯食べた」
GWなので今は家にいるのでしょうか。
「それで色々話したんだ。デバッグの仕事してるとか、外に出て散歩したのとか。そしたらね、ちょっとだけ嬉しそうにしてくれたの」
それはとても良い報せですね。自分のように嬉しい気持ちになりました。
「ミゥの言った通り、私が変わったら分かってくれるのかな」
「ええ、きっと分かってくれますよ」
可愛い娘が一歩前に進めたならそれはとても喜ばしいことのはずです。
「私のことは話しましたか?」
するとフユユさんは少し顔を赤くして俯きます。
「ちょっとだけ……。でもそういう関係っていうのは、まだ言えなくて……」
そればかりは理解を得るのは難しいかもしれませんね。身近で知ってる親しい人ならともかくゲームで出会った見ず知らずの相手となれば尚更。
いつかは全てを打ち明けないといけないのでしょうが、きっとそれは今ではないと思います。
フユユさんの頭を撫でてあげました。
「フユユさんはよく頑張っています。彼女である私が保証しましょう」
これはお世辞でもなく事実です。背中を少しだけ押してあげたりはしてますがそれでも前を歩こうとしてるのは彼女なのですから。
「ミゥも仕事頑張ってえらいえらいしてあげるー」
がんばって背伸びして頭を撫でてくれます。ふわふわ、心がふわふわ。背中に翼が生えそうです。そのままどこかへ飛んでいけそう。
「今日の私は絶好調。攻略に行くぞー」
「次は……機械の街ですか?」
北以外は攻略したので難易度的には次はそこが順当です。
フユユさんは首を振りました。
「南東のホットアイス山脈へ行こう」
また予想を裏切った斜め上を。どこでもいいんですけどね。
※水の都※
ダンジョンボスを倒したことで白マンタさんによる行先が増え、海を越えて絶海の孤島へとやって来ました。荒地模様で草木は殆どなく大きな火山が中央にデデンと見えています。
マンタさんは私達が降りるとヒラヒラと姿を消しました。
浜辺を越えて真っすぐ進むと登山口のように『HOT!』と描かれたボロボロの看板と長い傾斜。先へ進むと歓迎するように火山が噴火して道端に隕石のようなのが落下してきます。一体クレーターのようになり当たれば当然ダメージ。おまけに石は燃え盛っていて、炎から敵が出てきます。炎に点目と小さな足が生えたような炎精というモンスター。
フユユさんは敵を見つけると真っ先に駆け出して中級水魔法『ギガドロップ』で攻撃。雫が頭上に落ちて破裂。当然大ダメージ。
それからも噴火が続いて敵が現れてはフユユさんが倒す。私は……ついていくので精一杯。VRとはいえまだイメージ通りに体を動かせない。
まただ。なんだろう、この感じ……。
すごく、モヤモヤする。
フユユさんは先へ先へと進んで敵を倒す。本来ならば喜ばしいはずなのに。
どうしてこんなにもモヤモヤするのか。
……きっと彼女の背中を見ているのが嫌なんだ。彼女だから、あの子の隣にいたい。
なのに、体は思うように動かない。
行かないで……。私を置いて行かないで……。
分かってる。フユユさんは気を利かして敵を倒してるだけだって。
なのに、このまま先へ行って姿が見えなくなってしまうのがたまらなく怖い……。
「フユユさん!」
思わず大きな声が出てしまった。フユユさんも驚いた顔して振り返ってる。
それでタタタって走って戻って来てくれました。
「ごめん。ちょっと、早かった……?」
何も考えず彼女を抱きしめてしまう。
こんな自分が情けなくも思う。開発者なのに足並みを揃えられないなんて。
きっと、上手なプレイヤーなら難なく彼女に付いて行くのでしょう。今の私にそれができない。辛い……。
フユユさんが今までプレイしていたゲームでは簡単にできる人ばかりだったのでしょうか。
或いは彼女を褒める人ばかりだったのでしょうか。
私の知らないフユユさんを知っているのだろうか……。
ああ……嫉妬かな……。なんでこんなにも……。
「あなたを1人にしません。だから私を1人にしないでください……」
「ミゥ……」
こんなのいけないって分かってるのに。頭では分かっているのに。
私はなんて酷い彼女なんだろう……。