6.限定ウサギより、ミゥの方が光ってる
今日も楽しいデバッグの時間です。こうでも考えないとやってられません。
相も変わらず街を歩きますが今日はいつにもまして人は少ない。
というのも今日から初のイベントが始まるのです。企画班が慎重に検討を重ねた結果、限定のテイムモンスターを出したそう。
確か見た目はウサギっぽくて額に宝石のある可愛めなモンスターだった。運営側としてもこのままお喋りゲームにされるのは困るらしく、フィールドに出て欲しいという気持ちがあったのでしょう。まぁそれだけのツールだったらすぐに廃れるでしょうからね。
しかも今回のイベント期間中は敵を倒すと限定コインをドロップして、それで限定衣装や限定アイテムを買えたりもします。そっち目当ての人も多いと思う。
因みにコインは課金して購入可能。社会人にも親切設計。(課長曰く)
とまぁそんなわけで運営の意図通り、街から人が減ったみたい。
なお、私の横にベンチでだらけてる女がいますが。
「ミゥちゃん今日もがんばるねー」
「フユユさん、お知らせ見てないのですか」
「あーうん。見た」
見たうえで私のそばにいる。この子も徹底してるな。ロールプレイとか好きそう。
「いいんですか? 限定モンスターや限定アイテムが豊富ですよ」
全てを回収する為に走ってるプレイヤーもいるでしょう。それくらいラインナップは豊富でした。
「頑張るって本当疲れる……」
私の気力を半分くらい分けてあげたい……。
別にイベントは強制ではないので好きにしてくれていいんですけどね。
「今日はスライム投げないの?」
私が歩いていくものですから付いて来ます。頑張れないんじゃなかったのか。
「丁度人が出払ってるので普段できない所をしようかと思います」
たとえばお店の中。
この洒落たお店は普段なら賑わってますが今日は朝というのもあって人がいません。
正確にはNPCの女性店主はいますがそれだけです。
なので今日はそっち方面を攻める。
とりあえず店の壁にスライムを投げつけよう。
フユユさんはテーブル席に座って観察モード。
「でもさ、イベント考えるのも大変でしょ」
「大変、なんでしょうか。私の範疇ではないんですよね」
あくまで現行プレイヤーの動向は探ってますが実際どうするかは私には知りえません。案は送ってますが今回のイベントも私の案はほぼ通ってませんし。
「ミゥって運営の人間なんだからこの限定コインも無限に持ってるんだよね?」
「まぁ一応」
あまり大きな声で言って欲しくないんですけど。
そしたらフユユさんが両手を差し出してきます。
「コインちょーだい♪」
「ダメです」
「ケチー!」
さすがにそこまでの不正は認められません。課金してまで買ってる人がいるんですから例外を許してはなりませぬ。
「くっくっく。いいのか? ミゥの秘密をバラしてもいいんだぜ?」
フユユさんが悪い顔をしながら脅してきます。
「はぁ、そうですか。後で報告して垢バンしておきますね」
「調子に乗りました……」
最速の謝罪を見た。
こんな冗談に付き合ってると遊んでると思われるので仕事をこなします。
この角あたりが怪しそうですが……。うーん、ダメか。
ていうかこのゲームそんなにバグがない? そんなはずは。
「店内でそんな奇行するって迷惑じゃないの?」
「ここはゲーム世界です。現実の常識は通用しません」
スライムをとにかくぶん投げろ。
「いやでも店員さん笑ってなくない?」
『いらっしゃいませ(怒)』
うん。確かに怒ってるような気がした。でもこの程度で屈してたらデバッグはできぬ。
「私を止められるのは私しかいない」
そこの店員よ、このスライムを食らえ!
……。
受け止めた、だと?
『店内での迷惑行為は慎んでください(怒)』
これはキレてるな。NPCも怒るんだ。すごーい。
「このゲームに出禁みたいなシステムってあるの?」
「さすがにそこまではありませんね」
そもそも街中で魔法も使えないので迷惑行為なんて余程でなければ判定されないでしょう。
「仮にあったとしても私なら運営権限で全て無効にできます」
「やっぱ運営って悪だなー」
ここの店は特に問題がなさそうなので次へ移りましょう。
街を歩いていると早速限定モンスターの宝石獣を連れてる人がいます。キラキラと光る額の宝石がなんとも魅力的。フユユさんも興味を惹かれたのかジッと見てました。
「欲しいなら捕まえて来たらどうですか。今ならテイム率もアップしてたと思いますよ」
「行ったらミゥを拝めなくなる……」
私を見ていないと死ぬみたいな言い方はなんですか。
「私はいつでも拝めますがあの宝石獣は今だけですよ?」
「嘘よくない。ミゥはいつも18時にいなくなる。いつでもは嘘」
何を言ってるのか分かりません。
「なんでもいいですけど。だったら私がログアウトした後に捕まえたらいいのでは?」
「全部ミゥのせいなんだよ」
急になんなの?
「ミゥが8時からログインするから私も頑張って早起きしてるの。だから早く寝ないと起きれないの」
真面目か。そこまでして私に会ってもスライム投げてるの見てるだけって本当分からない。
「無理強いはしませんけど後でやっぱり欲しかったからって私にお願いしないでくださいね?」
「えーしないよー?」
目が泳いでますよ。
「ミゥが一緒に来てくれたらいいだけなのにー。外で仕事してー」
腕を引っ張るな―。
「私も仕事なんです。諦めてください」
「仕事と私だったら仕事が大事なんだ?」
そんな彼女面されても困る。
「はぁ、分かりましたよ。さっさとテイムして帰りますよ」
「ミゥ大しゅきー!」
変な子に絡まれて散々です。
垢バンとはアカウントBANの略。アカウントの消滅。