59.月が綺麗ですね、なーんて
結局ウォータースライダーを4回滑って、ようやくダンジョンへ。
白マンタさんに導かれて海の方へと飛んでいきます。海には不思議にも空から滝のように水が流れています。それもナイアガラ滝のように遥か彼方までずっと。
白マンタさんはその滝に沿うようにして浮上していきます。
ある程度浮上すると目の前に虹が出来ていました。そしてジャンプの文字と矢印。
フユユさんと仲良く虹の上へと乗りました。私達が着地すると白マンタさんはフラフラと帰っていきます。
水の都のダンジョン、レインボーロード。
虹の道はほぼ一本道。まっすぐ歩いて行きます。道も狭いのでフユユさんと手を繋ぎます。
敵の登場。雲に乗った緑色の鬼のような奴。風神というモンスター。名前の通り風を操る敵で強力な風魔法を使ってきます。風に煽られて今にも飛ばされそう。落ちたら当然即死です。
「ようやく楽しくなってきたね」
フユユさんから笑みが零れます。忘れてました。この子は生粋の変態ゲーマーであるのを。
フユユさんがマジックアローで攻撃しますが風が強く別方向へと飛ばされます。
「なら、これはどう……!」
フユユさんが中級雷魔法『プラズマボール』を発動。雷の弾を発射するもやはり風で煽られて飛ばされる。けれどその方向は背後の滝へと飛んで行く。電気は水に触れて感電。近くにいた敵にも被弾する。これはお見事と言わざるを得ない。
風神撃破。
「フユユさんは本当にこういうの慣れてますね」
ある種初見殺しとも言える要素も難なく突破してしまいます。彼女も関係者で答えを知っていると言われても驚きません。
「伊達にゲーマーではないのだ」
えっへんと誇らしげに胸を張ってます。
長くゲームしてたら慣れるものなのでしょうか。うーむ。
これ、下手したらGW中にこの8マップもクリアしてしまうのでは?
それはそれで嬉しいですけどね。ともかく進みましょう。
すると今度はさっきと色違いの黄色の鬼、雷神が出てきます。雷を落としてさっきフユユさんがしたように広範囲の感電狙いでしょう。
ならここは私が。
中級風魔法『トルネード』
目の前につむじ風を起こして相手の落雷を分散させます。そしてさっき風神がしたように雷を滝へと流せば……。
はい、撃破。
フユユさんとハイタッチ。
「やっぱりミゥがいてくれると心強いなぁ」
「そうですか?」
特に何かした覚えもありませんが。
「なんかさ、私が何も言わなくてもして欲しいことしてくれるでしょ。野良でパーティ組んだ時って大抵グダグダになるんだよね。それが楽しくもあるんだけど」
個々でやりたいように動くので敵への対処も分散されがちですもんね。
「やっぱり私とミゥって以心伝心……? ねぇ、私が今して欲しいこと分かる?」
「ハグしてキスして欲しい、ですか?」
「う……最高……」
さっきしたのでもうしませんよ。
こんな所でしてたら仲良くお陀仏でしょうし。
そのまま歩いていましたがフユユさんが足を踏み外しそうになります。慌てて手を引いて抱き寄せました。
「足元注意ですよ」
この虹は滝のある所で架かっているので今度は反対側へ上っていく感じですね。
「やっぱりミゥ……好きかも……」
もう……胸に寄りかからないで……。これでは攻略になりません……。
イチャついてると風神雷神がやってきます。風と雷で妨害してきますが……。
「今良い所なのに邪魔すんな」
「激しく同意です」
怒涛の魔法連打で速攻撃破。一昨日来なさい。
それからも敵を倒しながら虹のアーチを越えて行きます。
往復するように上へ上へ進んでいくと、滝が割れて中が円形の闘技場のような場所へと繋がります。周囲はやはり滝で囲まれています。そこへ足を踏み入れると割れていた滝が扉のように閉じてしまう。そして空が曇天へと変わり雨が降り注ぐ。
闘技場に水溜まりが出来てその中から大きな水色の蝶が出てきます。人の身体の数倍はありそうな大きさ。宝石のような美しい羽。ゆっくりと空へと飛んで行きます。
水の都のダンジョンボス、クリスタルバタフライ。
※……loading……※
勝負は私達の勝ち。何故負けたか明日までに考えておくように。
時間をチェック。思ったよりいい時間ですね……。
こんなに長くゲームをしたのは久しぶりかもしれません。やはりデバッグでプレイするのと純粋にプレイするのとでは全然違いますね。
「今日はこれくらいにしておきます」
「えー。もう終わり―?」
頬を膨らませてもダメです。
「フユユさんもご飯食べて、お風呂入って、早く寝るように。明日も付き合ってあげますから、いいですね?」
「はーい」
というわけで名残惜しくもログアウト。
人にああ言ったものの自分が不摂生してはダメなのでちゃんとしないと。とりあえず買い出しに行って来よう。
※時間経過※
用事も身支度も終わってようやく一段落。時間は11時過ぎ。ラインを見るもあの子からのメッセージなし。いつか来るかなぁってずっとソワソワして待ってたけど結局何も来なかった。がっくり。
この時間だともう寝たのかなぁ。
本当最近あの子のことばかり考えてる気がする。こっちから連絡してみようかな。いやでも寝てたら起こして悪いし……。
そしたら急にスマホが鳴り響く。フユユさんからの通話だ。迷わず出た。
「はや」
確かに今のは秒を切る早さでした。
「何も連絡がなかったので少し心配して……」
「どうやら私の作戦は効いたようだねー」
この子、分かってて連絡送らなかったのか。むーなんて小癪な。
「そろそろ私の声聞きたくなるかなーって思って電話してみた」
「その通りです。私の負けです」
「ふふー。私の勝ちー」
「あれ。でもその理屈ならフユユさんからかけて来るのはおかしくないですか?」
完全に私が負けたならこっちから電話するはずです。
「な、なんのことかなー?」
どうやら本当に負けたのはそっちだったようですね。私は大人なのでそこまで追求しませんよ。
何となくベランダの方に出てみる。夜風が当たって気持ちいい。ぽつぽつと小さな灯りが照らして、時々車が走る音が聞こえる。
「ミゥが今どこにいるか当ててあげよう。ズバリベランダ!」
「歩道を歩いてるかもしれませんよ?」
「いいや違う。だって私もベランダにいるから。だからミゥも同じ所にいて欲しいなって」
本当にこの子には敵いません。
「正解です。ベランダです」
「やったぁ」
そして間抜けな声。本当、どこまでも子供なんですから。
空を見上げる。雲はなく星が綺麗だ。ぽつぽつと輝く星に何となく見惚れる。
「ミゥは今星を見ていた」
心を読まれた。
「見ていたのはあの星だ」
「どれですか」
「あれだよ、あーれ」
あれってどれなのか。でも何となく分かりそう。
私が見てる景色と、あの子が見てる景色はきっと同じだから。




