57.事故でするのは……さすがに……
フユユさんがログアウトしたので始まりの街の広場のベンチでぼーっとしてます。
色んなモンスターを連れたプレイヤーらが出かけたり、店に入ったり、或いは立ってお喋りしたり、そんな光景を眺めてます。
「まだかな……」
思えばいつもフユユさんが待ってくれていたので、彼女を待つというのは初めてです。
待ち遠しいというか、早く来て欲しいというか。妙にソワソワするし落ち着かない。
あの子はいつもこんな気持ちで待っていたのでしょうか。これは私が残業があるのを期待して待つ気持ちも分かりました。今度から残業がある日もない日も教えてあげよう。
こんな辛い思いをさせ続けるのは可哀想すぎる。
……ん? あの銀髪ツーサイドは……。服は『女』Tシャツ間違いない。
ベンチから立ち上がって駆けつける。その勢いのまま抱きしめた。
「んー。わ! びっくりした。ミゥかー」
どうやらまだ同期されてなかったようです。
「ごめんなさい。我慢できませんでした」
「いいよ。許してあげる」
寛大な心で感謝感激。ちょっとだけ離れます。
「ご飯食べました?」
「食べたー。卵かけご飯を2杯。鰹節大盛」
もう。さっきも卵食べてたのに、卵ばかり食べて仕方ないですね。
「ではジュラシックに戻りますか?」
「んー。やっぱりあそこは早い気がした」
一般の敵であの程度しか削れないならボスとなればもっと大変です。
「決めた。水の都へ行こう」
妥当な選択ですね。では行きますか。
※ウォーターエリア深海都市※
水中にある古代都市、ここから水の都へと分岐する。まっすぐ進んで深海へと進めばダンジョンへ、そして海面へと泳ぐと途中に大きな石段が見えます。そこから水面へと上がるとその先にこれまた大きな橋梁があります。
レインボーブリッジのように海の上を長くどこまでも続いています。遠い向こうで海の上に浮かんだ都市が小さく見えるのでそこが水の都でしょう。
フユユさんと仲良く橋を歩きます。
「ミゥ見て!」
フユユさんが海の向こうへ指を差すと大きな鯨が海面へと飛び出していました。それだけじゃなくバタフライドルフィンがパタパタと顔を出して泳いでる姿もあります。
空には渡り鳥のようなのも飛んでいて本当に海へ来ているよう。
「このゲームって本当にいいよね……」
「リアルでもこういう所へ行けたらいいですね」
どんなに巧妙に再現しても潮の匂いや空気感までは感じられない。
「じゃあ約束しよ? リアルで会ったら海へ行くって」
「いいですね」
また1つ、彼女と会う楽しみが増えました。
さて、橋を歩いていると敵が出て来ました。空の方で鳥が多く飛び回っています。
嘴が鋭くて長い、蒼白い鳥、ドリルバードというモンスター。
敵はこちらに気付くと一直線に突っ込んできます。スピードが速いですが攻撃を避けると地面に嘴が刺さる間抜けっぷり。その隙に攻撃です。
特に問題なく撃破。
更に進むと今度は空飛ぶマンタが橋を覆うように移動しています。スカイマンタというモンスター。プレイヤーを見つけると口から大きな水の輪っかを飛ばしてきます。輪っかは徐々に小さくなっていきますが、輪の中に当たり判定がある謎仕様。動きは遅く魔法で相殺も可能なので対処は楽。一体ならば。
スカイマンタが結構飛び回っていますがフユユさんが前に出ます。そして下級炎魔法『ファイアーボール』で反撃。しかも弱点。慣れてます。
アクアリングも難なく回避してますが四方から飛んで来て邪魔そう。マジックアローで相殺してあげよう。
撃破。
さて。橋を半分くらい進んだ所で異変発生。
ドォォォンッ!!
という重低音と共に、橋全体がぐらりと揺れた。思わずよろける。
「地震……?」
フユユさんが呟いた瞬間、眼前の海面が爆発するように盛り上がった。
水しぶきが空高く吹き上がり、次の瞬間、橋の真下から——
巨大な深海魚が跳ね上がり、牙のようなヒレで橋を粉砕していく。
轟音と共に瓦礫が飛び散り、橋は見事に断絶された。
海面に叩きつけられた水柱が雲のように霧散し、巨大な魚影は海面へと帰っていきます。フユユさんはなぜかその魚影を狙ってマジックアローを放ちます……。
「ちょっと、何してるんですか」
あんな大きな敵なのでギミック系だと分かるでしょう。
「ダメージ判定が出たら倒せる」
思考が脳筋すぎます。仮に倒せたとしても今のフユユさんでは無理でしょう。
「気付いて戻って来たら食べられますよ」
「大丈夫。ここに最強の盾がある」
私の背中に隠れないの。それが彼女に対する仕打ちですか。
「……別れますよ?」
「あー怖かったー。都はまだかなー」
白々しい態度で先へ行かないの。
ただその先はさっきの深海魚が橋を壊したので普通に歩いては渡れなくなってます。
ただ細長く微妙に渡れそうな所があるので、あの深海魚さんはきっと芸術家。
細い道を歩くと途中で崩れているのでそこでジャンプする必要があります。失敗すれば当然ドボン。
私は面倒なのでスキルの『ハイジャンプ』を使って越えます。
フユユさんは少し戸惑う様子。
「スキルは使わないんですか?」
思えば使ってる所を一度も見たことありません。
「持ってない……」
やはり金欠か……。
フユユさんは意を決して助走してからピョーンと飛んできます。でも少しタイミングが早かったのか足が届かなそう。慌てて手を伸ばしました。なんとかキャッチしますがフユユさんは宙ぶらりん状態。
「ごめんねー」
「今引き上げます」
現実だったら筋力がなくて一緒に落ちてますが、ここはガールズオンライン。せーのっ
勢いよく引っ張っるとフユユさんが私の胸に……。
いや、それどころか顔が……。
ていうかこれ唇が触れる……。
でもフユユさんが少し動いてくれたおかげで唇は私の頬に……。
かすかに、柔らかな感触が残った気がした。
「ごめん……」
フユユさんは顔を少し赤らめて、視線を逸らしてます。
「大丈夫です……」
少し残念だったなんて言えません……。