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53.空ってこんなにも綺麗だったんだ

 失敗しただし巻き様を食べ終えて休憩中。うーん、まだお腹空くな……。散歩ついでにコンビニでも行こうかな……。


 パパッと服を着替えて、髪を整えて、化粧してるとスマホが鳴る。


『いつログインする?』


 フユユさんから。


『運動不足なので少し散歩に行ってきます』

『大人は大変だねぇ』


 煽って来るので怒りのスタンプを返しておく。さてと、出かけよう。

 外はいい天気です。春先でちょっと暑い程度。マンションを出て住宅街を適当に歩く。


 するとまたメッセージが届きました。


『ミゥ、電話していい?』


 なんて来ます。返そうか迷ってる間に通話がきます。とりあえず出ますか。


「なんですか?」


「えへへぇ」


 出た瞬間間抜けな声を聞かされます。


「生のミゥの声だぁ」


 ほぼ毎日聞いてるのにこんな反応できるなんてあなたが羨ましいですよ。


「早くゲームしよー」


 まるで子供ですね。いや、子供なんですけど。


「フユユさんも少しは運動した方がいいですよ。ずっと家でいるのは不健康です」


「無理ぃ」


 なんて情けない声出してるんですか。


「ミゥが来てくれたら行くー」


「今会うのは……無理ですよ……」


「今の間はなーに?」


「こんな街中で言わせないでください」


「ミゥ好き。大好き」


 この子はどこまでも大人をからかうのが好きなようです。


「通話しててあげますから少しは動きましょう。ほら、動いて」


「むー。疲れるー」


「だったら切りますよ」


「それはやだぁ。仕方ない。行くか」


 電話の向こうでもぞもぞと何かが蠢いてる音がします。

 それからガタゴトと物音を立てつつ、扉がガタンと閉まるのが分かりました。


「出た」


「頑張りましたね。褒めてあげます」


「もっと褒めて。ご褒美欲しい」


「次ログインした時に頭撫でてあげます」


「そんなのじゃ満足できない。キスがいい」


「それは特別な時じゃないとしません」


 というか外出てるのにそんなこと言わないでください。


「家を出たの数カ月振りになるんだよ? これは特別と言わざるを得ない」


「ダメです。それに……そんなにしてたらドキドキできなくなるじゃないですか」


 あの高揚感は恥ずかしくもあるけれど、あの瞬間でしか味わえない。だからあの気持ちを何となくで安くしたくない。


「結構してるのに……。最初なんてミゥが寝ぼけて迫って私のはじめてを奪ったのに……」


 もう本当言わないで。ていうか何で通話しながらこんな話しないといけないのよ。


 おっと。コンビニ発見。ここで買おう。


「私は今からコンビニに入ります。余計なことは喋らないでください」


「おけー」


 本当は切ってかけ直したい所ですがそれをネタに変な事要求されそうなので。


 適当に食べたいのを買い物かごにぶち込む。レジに行った。


「お支払いは?」


「ペイペイで」


 画面を開いて……。


「ミゥ、だーいすき!」


 スマホから鳴り響く謎の雄叫び。店内は騒然……いや、静寂。


「……すみません」


 店員さんは何も言わずに私を見つめてる。後ろに並んでる人も無言で見て来る。

 やばい、死にたい。穴があるなら入りたい……。


 フユユさん、絶対狙ってたでしょ。


 なんとか支払いを済ませます。


「ありがとうございましたー」


 ここのコンビニ、二度と使えないな……。

 結構お世話になってたのに、しょんぼり……。


「フユユさん、黙ってって言ったじゃないですか」


「愛を叫びたくなったのだ」


 そんな恋愛ソングみたいに言って。これは後で罰が必要ですね。


 それから適当に会話しながら歩き続けます。丁度ちょっと広めの公園を見つけたのでそこのベンチに座りました。お腹も空いてきたのでご飯でも食べよう。


「私もお腹空いたー」


「悪い子にあげるご飯はありません」


「いいんだー。家から持ってきたじゃがりこ様があるのだ」


 せっかく運動したのにお菓子なんて食べて、もう。


「フユユさんは今どこに?」


「んー。川が見える所のベンチで休んでる」


「奇遇ですね。私も公園のベンチで休んでます」


 そして流れる微妙な沈黙。なんだか私達ってどこか似てるのかもしれない。

 或いはあの世界であの子がよく座ってたから無意識にここを選んだのだろうか。


 空を見上げてみる。遠いどこかで、あの子も同じ景色を見ているのでしょうか。


 なんて詩人でもないのにらしくないな。おにぎりでも食べよ。


「ミゥ、今空見てたでしょ」


「よく分かりましたね?」


「私も見てた」


 やっぱり私達って似てるのかも。不意に笑いがこみ上げる。釣られてフユユさんも向こうで笑ってた。こんなくだらないことで笑ったのもいつ振りでしょう。


 それからポツポツと会話しながら咀嚼音だけが響く。


 次会うのはまたゲームの世界。恋人なのに、顔は知らない。声は知ってるのに、直接話したことはない。名前は知ってるのに、本当の名前を知らない。


 もし実際に会ったら私達はどんな会話をするんだろう。

 遠い空を眺めながらそんな思いにふけっていた。

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