52.久しぶりに美味しいって感じた
モンスターパークのダンジョン、サーカス団の迷路。大きな赤いテントの中に入ると中は狭い通路になっていて、道がいくつも別れています。壁や床は暗い緑色の配色でお化け屋敷のような雰囲気があります。
フユユさんと手を繋ぎながら先へと進みます。
早速敵が出現。シンバルを持ち服を着た猿、クレイジーモンキー。
更に『J』の形をしたピンクと白の縞模様の杖、更に宙に浮いたシルクハットに、白い手袋、トリッキーというモンスター。
猿はやかましくシンバルを叩いてますが近付くだけでダメージを受けます。なので遠くから攻撃するのが基本。トリッキーの方は杖でシルクハットを叩くとトランプやら鳩を呼んで遠距離から攻撃してきます。
ですが、私達の敵ではありません。
「フユユさん、戦いにくくないですか?」
ずっと手を繋いでるしそろそろ離した方がいいのかな……。
「このままがいい……」
同じ気持ちでよかった……。
迷路は結構長く、行き止まりに当たっては引き返し、敵が出たら倒す。
時にはダメージを受けますけど手は絶対に離さない。何も知らない人が見たら縛りプレイか何かだと思うのでしょうか。
迷路を進んでまた行き止まり。引き返そうとすると何やら不気味な笑い声が響きます。
そして戻り道の角の方からちょっと不気味なピエロが出現。火の玉でお手玉をして今も笑い声をあげています。レアエネミーのクレイジーピエロ。
フユユさんが先手必勝と言わんばかりに水魔法『バブルガン』で攻撃。
が、すり抜けて当たらない。
「もしかして魔法効かない……?」
そういえばこいつ魔法無効属性あったような。
ピエロは不気味な笑みを見せてこっちに歩いてきます。火の玉を飛ばしてきますが、直線的なので何とか躱せます。
逃げるか、戦うか。素手ならダメージを与えられそうですが……。
フユユさんを見ます。彼女も困った様子。手、離したくないんですよね……。
この子も同じ気持ちなのかな……。
こっちの思惑を見抜いたのかピエロが急に走り出してきた。子供がやってたら腰抜かしますよ。ふぅ、仕方ない。
左手が空いてるので思い切りストレートをぶち込む。ピエロ一撃粉砕。
「私の彼女に手を出したらデータごと削除するぞ」
デバッグモードで最強状態。これならこんな奴は関係ない。
フユユさんはポカンとした様子で見てます。
「あ……もしかしてテイムするつもりでした?」
こんな敵でも一応モンスターなので仲間にできます。或いは私がデバッグの力を使ったので萎えてしまったのでしょうか。なんて言い訳しよう……。
「ううん……ちょっと嬉しかっただけ……」
ポツリと呟いて視線を落とす。
どこで喜んでくれたんだろう。邪魔な敵を倒したから?
そうこうして迷路も終わってサーカス団劇場へとやってきます。当然ボスのお出まし。テントを破って巨大なライオンが出現。たてがみは炎のように荒ぶっており、雄叫びをあげています。ダンジョンボス、ファイアーライオン。
※戦闘シーンスキップ中……※
ボスも撃破してパークへと戻って来ました。時間を見るともうお昼を過ぎています。
「フユユさん、私は少しログアウトをして食事をしてきます」
「ん、分かった」
「ではまた後で」
ログアウトしようとしたら服を引っ張られます。
「そだ。ミゥの連絡先教えてもらっていい……? リアルでもやりとりしたくて……」
「いいですよ。メールに添付して送っておきますね」
メッセージを送ったらログアウト。ずっと握られてた手はようやく離されてしまう……。
現実に戻って来ました。
ゲーミングチェアから立ち上がります。んー、やっぱりログアウトしてからは身体が鈍る……。
VRホログラム機器を停止。青く照らされていた部屋が暗く戻り、耳の中に入り込むような小さな音も聞こえなくなる。
ご飯でも食べよ。冷蔵庫の中身確認……。酒と豆腐と卵のみ。
そっと閉じる。運動ついでにどこかで食べに行こうかな。
♪♪♪
机に放置してあったスマホが鳴ります。確認するとラインにメッセージ。
フユユという名前でアイコンがいつかのツーショットの奴。この子強いな。
私のアイコンはマイナーなアニメに出て来たモブ猫。
『私もご飯食べる』
『私は食べに行く所です』
『金持ちですな』
そう言って変なスタンプまで送ってくる。お返しにスタンプを返す。
『私は偉いから料理する』
『ゲテモノ作ってたのにできるんですか?』
『見てて』
料理経験ないって言ってたので少し心配なので待ってみよう。
暫くすると写真が送られてきました。なんとも不格好なスクランブルエッグが映っています。所々焦げてるし、火加減が強かったのか焼き目が多い。
『失敗した』
同時に悲しそうなスタンプも送られてきます。これでキラキラの半熟が出て来たらとんでもないですが。
『手本を見せてあげます』
丁度卵はある。せっかくなので動画で送ってあげましょう。
ここで華麗にふわふわのだし巻き卵を作って格の違いを見せてあげます。
※料理制作中……※
久しぶりに真面目に料理を作ったせいで見事に失敗しました。焦げる、崩れる、うまくひっくり返せないで自分の失態を見せつけるはめに……。
無論、笑われまくったのは言うまでもありません。