5.学校行けって言わないの、なんか嬉しい
翌日。
「ミゥってさ、優しいよね」
仕事先に当たり前のようにフユユさんがいます。そしてピンクのマフラーをしたまま。一応装備したら防御アップ効果はあったと思います。
「急になんですか」
とりあえずスライムを投げよう。
「一日中ゲームしてるのに私に学校行けって言わないし」
そればかりは他人の私が口出しできませんよ。責任持てないですし。
「行きたくなったら行く。それでいいんじゃないですか」
「やっぱミゥって癒しかなー」
なぜ? 分かりません。
「それにこんなものまでくれるし。別によかったのに」
「前にポーションくれましたから」
「なんか強そうな効果付与されてるし、私攻略なんて興味ないから意味ないよ?」
「だからあげたんですよ」
バリバリ攻略してる人にあげたら運営からの賄賂になるじゃないですか。チーターも真っ青ですよ。
「あーあー。これ一生外せないかも」
まぁゲームなので暑くはないでしょう。
ともかく私はいつものようにデバッグ作業。
スライムぺちぺち。
「ゲーム会社で働くのも大変そうだね。ずっとそれしてる」
遂にフユユさんもこの苦行を理解してくれたそうです。
「本当に地獄ですよ。ただでさえマップも広いのにこれ全部しないとダメなんですよ」
「私も手伝う?」
「それは労働基準法的にアウトです」
「そっかー。他に人はいないの?」
それは悲しいからやめて。
「どうしたの? 話聞くよ」
「私の会社、女性は私だけなんです。それでこのゲームって女性プレイヤーしかログインできないじゃないですか」
「ああ……」
察したように同情の眼差しを送ってくれました。
「あっ。今のも内緒でお願いします」
「別に言わないよ。引きこもりだから話す相手もいないし」
その自虐ネタは反応に困るからやめて。
「フユユさんは聞き上手なのでつい口走ってしまいます」
これは気を引き締めないと。仕事に身が入ってない証拠。
「そう? でも大変そうだし肩の力抜いていいと思うよ」
「大丈夫です。虚無状態になれば無意識に体が動きます」
「怖い……」
見てください。会話しながらも手は勝手に動いてます。全自動スライム投げ機です。
「本当何度も言いますけど私の作業見て退屈しないんですか?」
「うーん。なんだろう。動物の配信見てる感じ」
あー。
って何納得しそうになってるんだ。私も動物の配信は時々見るけど一日中見れる忍耐力は備わってません。
スライムを投げ続けていましたが不意に数人の女性パーティらしき人達が横を素通りしていきます。途中チラチラと私を見てはひそひそと何か話してました。
「今の見ましたか。あれが普通の反応なんですよ」
認めたくないですが私の行為は異常者でしょう。
「大の意見もあれば、小の意見もある。そんなもんだよ」
フユユさん。あなた本当に子供ですか。達観してません?
「それに私引きこもりだから普通の考えが分からないんだ」
それは反応に困るのでやめてください。
※数時間経過※
すれ違う人は皆私を奇怪な目で見て通り過ぎます。これが現実。悲しい。
「ミゥってさ。メンタル強いよね」
そう見えるのでしょうか。
「虚無状態だとそういう思考がなくなってます。その辺の石ころと同じです」
「自分をそんなに追い詰めたらダメだよ。過労死なんて言葉もあるんだから」
そんな気はないのですが心配だけはしてくれてるそうです。
「将来カウンセラーにでもなったらどうですか」
「私が? 冗談冗談」
「フユユさんが居てくれると私のメンタルも正常になります」
これは本当。というか同僚もいない世界で淡々と仕事するのは想像以上にきつい。しかも周りは遊び暮れてるプレイヤー達。そんな人達を見て自分が虚しくなる。ある意味フユユさんは私の救いです。
「でも私の対象はミゥ限定かなー」
その辺は引きこもりらしいんですか。
「とは言いましたけど別にフユユさんは私に付き合う必要も義理もないので好きなようにしてください。下手に言っては私が束縛してるみたいなので」
「大丈夫。私が好きにしてるだけだから」
それならいいんですけど。最近の子って本当分からない。
♪♪♪
おっと。メールだ。相手は課長か。前に報告した奴の返信かな。
んー。なるほどー。アクティブプレイヤーの平均レベル調べてくれたらしいけど、1.34。これは殆どのプレイヤーがレベル上げてないね。
「言いたくなかったらいいんですけど、フユユさんってレベルいくつですか?」
「んー。2だね」
思わず泣きそう。こんなにやる気なさそうなのにちゃんとレベル上げてくれてる。
「どしたの?」
「この世界のほとんどのプレイヤーがレベル上げてないんです。ですから皆1なんですよ」
「そうなんだー。私はたまたまだけど。何したらいいか分からなくてフィールドに出てスライムちょこっと倒しただけ」
そのちょこっとを誰もしてないんですよー。
「それ聞いたらゲーム運営も大変そうだね。ていうか私に話して大丈夫?」
大丈夫ではありませんね。超極秘内容です。
「そもそも周りから意見を聞ける人もいないんですよ。これは現地プレイヤーからアドバイス貰っても何ら問題ではありません」
全ての原因はちゃんとデバッグをせず、それを確認してなかった上司です。
そうに違いない。
「アドバイスなんて何もしてないけど?」
「聞いてくれるだけでいいんです。それだけで私の心が洗われます」
「そう?」
そう。